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潮騒ダンジョン⑩

「や、やったわ」

「――だと、いいんだけどな」


 無意識のうちに吐いたセリフ。このセリフ自体に何かの意図をもって発したわけじゃない。ただ、自然に出てきただけだ。

 しかし、その中に感覚的ではあるものの確信的考えがあることを否めやしない。――つまり“実は攻撃のダメージを負っていないんじゃないか?”、そんな考えが、頭のどこかにあったのかもしれない。

 そして、そういったセリフのほとんどは現実のものとして現れるのが常で、今回とて例外ではなかった。


 いきなりの俺の反撃に一瞬驚きを見せていたヌシも残った片方の目で俺を強く睨みつけてくる。


「ギュルルル」


 勝者として圧倒的なポジションにいたものが、俺という劣ったものにいきなり噛みつかれたのが気に食わなかったのか、はたまた、モンスターのくせに悔しいという思いがあるのか俺たちに知る術はない。が、激しくそのうちなる感情を声に、行動にはっきりと示した。

 

「やっぱり……、効いてないか」

「な、なんで?」


 モンスターによっては、いる場所、つまりダンジョンの環境によってバフが付くこともあると何かで見たことがある。確証はないけど今回はそれにあたるのだろう。というか、そうあってほしい。

 明らかにこのダンジョンの、この空間はヌシのためだけに作られた環境と言っても差し支えないくらいに、洗練されすぎている。


「この環境下だと、あいつが有利になるようになってるんだよ」


 至極当然だ。なんで好き好んで自分に不利な場所に暮らすやつがいるのだろうか? もちろんそんな奴はいるはずがない。


「じゃぁ、どうすんのよ?」

「ダメージを与えられる場所をあともう一つだけ思いついた。けど、うまくいくかどうかはわからない」


 今のところ、そのチャンスは何回かあった。ただ、注意しなくちゃいけないのはチャンスがある、というだけで何も100%勝てるということを意味してはいない。


「あとは、焼け石に水なのかもしれないけど、さっきの攻撃の時に【回復阻害】を使っておいた」


 意味はないかもしれないけれども、ないよりかはある方がいいだろの精神にのっとり、さりげなく先ほどの攻撃に付与しておいた。


 ――ズズズズズズ。


 地鳴りにも似たような音が聞こえてくる。

 そしてすぐにその音の発信源を知ることになる。

 もちろん、その発生源はヌシなのだが。


「なんだ? いきなり」

「何をしようとしているの?」


 かなりのスピードで、あの巨体を動かすから実際に地面がぐらぐらと揺れる。


「ヌシがうしろに……、戻ってる?」


 だんだんと遠のいていくヌシの頭。しまいには、湖の中へと戻ってしまった。

 戻った瞬間にはその巨体は大きなエネルギーを生み、それは湖で波となって顕現し、湖の岸にまで到達する。そしてその波は水しぶきを生み、俺らにかかる。


 そして、ヌシは、俺たちから程よく距離をとったところに鎮座して、【水魔法】で攻撃を仕掛けてくる。


「くっそ。あいつ、ヌシのくせにセコイ戦い方するんだな」


 正直、ヌシが湖に逃げたのであれば、俺たちも一旦ダンジョンから逃げ出して態勢を整えるという手もあった。


――逃げるか? 誰もおまえを責めたりやしない。探索者として基本的なリスク回避をするんだ。誰もおまえを責めやしない。


 ここにきて逃げるという選択肢が提示されると途端に悪魔が囁く。甘い言葉で俺をどうにか堕落させようと試みる。


――でも、逃げたらそこで終わりなんだ。今日、ここで、こいつを倒さなかったら、今後ずっと俺にこの劣等感が付きまとって俺を逃しやしない。だったら、いまやるしかないだろ?


 俺の心はもうぶれない。決めたんだ。こいつと戦うと。


 そう心に誓ったときには脳内で俺を唆したやつはもう、俺の中にはいなかった。


「俺はもう、逃げない。なんとしてでもお前を倒してやるっ」

 

 短剣の切っ先をヌシに向けながら。




 ちょっとくどいかもしれないので手直しするかもしれないです。

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