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剣士の卵

 枯れた大地の上で、二人の男が対峙していた。巨大な男は巨斧を、小柄な男は剣を持ち、どちらの攻撃も届かない距離で睨みあう。

「ちっ、久しぶりの王国との戦争で出会えたのが、スキルも使えない雑魚とは、俺も運がねえなあ」

 心底残念そうに、巨躯を震わせながら男は言った。それに対する小柄な男の反応はない。

「どうした?おちびちゃん。死ぬのが怖くなった、か!」

 問い掛けと同時に男は斧を天に掲げ、振り下ろした。

 斧が黄色に光り、地面と衝突。莫大な威力に耐えられなかった地面が割れ、地割れが小柄な男の方へと走る。

「俺は、ちびじゃない!」

 迫る地割れと煌めく光に、彼は剣の腹にその体を隠す。

「斧撃防護▪|空顎(くうがく)

 小柄な男の目に思い出したかのように驚愕が表れる。

「バカめ!!スキルの使えないお前が!初歩の攻撃防護の応用、空顎を使えるか!!」

 衝突の瞬間、二人の視界は黄色に染められた。






「ある特定の動きによって指定された技を起動する。それがこの世界におけるスキルと呼ばれるものだ。」

 砂埃が時に舞う訓練所で黒髪を上向きにセットした男が、60人近い子供の前で紫に光る剣を縦横に二回づつ振った。

 それだけで子供達から歓声が湧く。

「これがスキルだ」

「トルン先生、僕もそれやりたーい!」「あ、ずるい!私も、私も!」

 それを見せた直後に子供達が男の下へ駆けていく。

 トルンと呼ばれた男は子供の騒がしく高い声に負けない声量で

「ようし、物置小屋にダッシュだ!あそこから最初に剣を持ってきた奴から教えてやるぞー」

「「「「うおおお!!物置小屋だぁ!みんな行けぇ!」」」」

 嵐の如き勢いで攻め寄せ、嵐のように去っていく子供達を見ながら、トルンは葉巻に火をつける。

「さて、今年は剣聖の素質を持ったやつはいるかなぁ」

 (何としてでも今年中に剣聖を出さなきゃ俺は解雇だろうな)


 国立剣術学園アストロ。聖魔大戦によって乱れた世界の治安を再び元に戻す、という考えの元建設されたこの学園は、一般兵士の増加という建前の裏で、一人で世界を改変する力を持つとされる剣聖を生み出すという一面も持っている。そのため、6学年全てに二人の剣聖の素質を見極める目を持った者が配属されている。トルンはその内の一人であった。


「先生、ただいまー」

「あー、クルトがまた先に着いてる!」

「クルトめー、奴の足の速さはじんじょーじゃなかった!」


「俺の足の速さには、誰も追い付けないみたいだな!」

 クルトはそう言って胸を張り、トルンの前へ歩いていく。

「先生!俺から教えてくれるんだよね!」

 距離にして二キロ近くある物置小屋との往復が10分で終わると思っていなかったトルンは葉巻を地面に落としかけるが、なんとか落とさず咥え直す。

「さっきのはみんなのやる気を上げる為に言った台詞だ。全員平等に教える」

「えー」

 不満顔で見上げてくるクルトの頭をごめんなと言いながら撫で、トルンは全員に声をかけた。

「それじゃあみんな距離を開けてーそうそうそんくらいでいいぞー。じゃあまずは、直剣の基本技の構えからやろうか!」

「「「「「はーい!!!」」」」」

「いい返事だ!先生の真似をするんだぞ!」

 そう言ってトルンは肩に直剣を乗せ、腰を深く落とす。

 一緒に子供達も真似をする。

「ここから、剣に意識を集中すると......」

「剣が紫ー!」

「すごー!先生すごー!」

 そんな声が聞こえたタイミングでトルンはスキルを発動させる。強烈な踏み込みと同時、紫閃が大気を切り裂き、鈍い音が鳴る。

「っと、これが直剣の基本技、波斬。波を斬るって書いてなみぎり。自分が想像した波を斬るようなイメージでやるのがコツだ。よし、やってみろー」

 (まあ、今日は発動できるやつなんかいないだろ)

 各々が剣を振る様子を眺めながらトルンはそう思っていた。だが、一つの声が彼の耳を打つ。

「カオル君すごーい!」

 褒める言葉。それは今この場においてスキル発動を意味する。トルンはカオルと呼ばれた子供の方を向く。そこには、紫の剣を肩にのせた少年がいた。

「お、カオルやるじゃないか。いいぞ、そのまま撃っちまえ」

 まぐれでも初めて発動させたのだ、撃たせてやろうと彼は思った。


 カオルの白く長い髪の前髪が上を向き、額に汗が浮かぶ。

「たあっ」

 可愛らしい声と共に放たれたスキルは風が斬れる音さえ鳴らさず地面に突き刺さった。

「──」

 トルンは目を見開いた。剣聖の卵が、早々に見つかったことに感動して、というよりもただただ目の前で起きた出来事に驚きを隠せないというだけだ。

「カオル、今日の授業が終わったら俺の所に来てくれ」

「は、はい」

 そう言ったカオルの顔は酷く疲弊し、トルンは未だ驚きを隠せないという表情だった。


「俺も、あんことしたいな。こう、だったかな?」

 クルトは肩に直剣を置き、腰を落とす。だが、紫の光を剣が発することはない。何度も、何度も、繰り返しても、スキルが発動する感覚は来なかった。

「よし、今日はこれで終わりだ。各自解散!」

 その言葉を皮切りに、怒涛の勢いで子供が帰り始める。

 だが、クルトだけは、カオルとトルンの話が気になり、帰ったふりをして木の影に隠れた。


「さて、カオル。お前には剣聖の資質がある」

「ほ、ほんと!?」

 (け、剣聖!?カオルが、剣聖だって!?)


「あくまで資質があるというだけだけどな。剣聖になりたいという思いがあるなら、俺はお前と周囲とを少し区別しなきゃならない」

「先生、剣術学園に入って、剣聖になりたくない人なんていませんよ!」

「それもそうだな」

 二人は大きく笑い合い、一転して無言になる。


「じゃあ、これから毎日放課後に残ってもらう。訓練と知識を叩き込むからな」

「はい。じゃあ今日から始めましょう」

 (特別な訓練か......俺も受けたいな......)


「おし、んじゃそこに立って素振りだ。形を意識して、な」

「はい!」

 カオルは訓練用の木剣を持ち、ついさっき授業でやったスキルが発動する前に振るという素振りを始めた。

「よし、じゃあ知識を教えてくぞ」

「え?同時進行なんですか?」

「運動しながらの方が、記憶力はよくなるからな。ほら、手を止めるな。さてと、まずは剣聖というものについて、だな」

 トルンは近くにあった木を手刀で切り倒しその幹に座る。

 支えを失った木が幹から滑り、ゆっくりと傾いて周囲の木々に支えられて静止する。

「手、止めんなよ。まず、剣聖ってのは世界を大きく変える力を持つ者のことだ。あ、当然だが力ってのは剣の腕のことな?これがもし槍の腕前で世界を変える力を持っているなら槍聖。拳なら拳聖。魔法なら法聖ってまあたくさんある。

 さて、ここで質問だ。彼ら、剣聖達はなんの為にいると思う?」

 唐突な質問に、カオルは素振りをしながら首を捻る。10回、20回と素振りが行われた後、

「世界を守る為、ですか?」

 そうカオルは答えた。

「そうだ、とも言えるし違うとも言える。が、概ねその理解でいいだろう。よし、んじゃあ次だ。次は剣聖の条件だ」


 (え?いや、待って?剣聖について教えるっていって全然教えてないよね?)

 木に隠れて話を聞いていたクルトは内容の浅さに落胆した。あまりにも常識的なことをさも極秘秘密のように話すトルンの話は、今ここで聞いてる意味が無いとクルトは判断した。


「行ったか」

 剣聖の条件を話すと言った直後から一方向を見て動かないトルンは、ようやく口を開いた。その目に映るのは大量の木々だけだが、彼の耳はしっかりと草を踏みつけ、木を蹴る音を拾っていた。

「せ、先生」

「ごめんな、先生さっき剣聖のことについていい忘れてた事があったんだ、悪いけど剣聖の条件は少し後回しにさせてくれ」

「はい!」



「今日残った意味無かったなー」

 森から下ってすぐの場所にある剣術学園の寮に入り、汚れた体を洗ってクルトは布団へダイブした。

 彼の頭の中では、カオルとトルンが起動したスキルの形が何度も再生されていた。

「明日、俺も使えるようになりたいな」

 そんな事を呟きながら、クルトは意識を落としていった。

のんびり投稿していこうかと思っています(思っているだけ)

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