雨の日の静かな叫び
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無機質な音楽がノイズ混じりに聞こえてくる。もうこのラジカセも寿命か。
まあ、スマートフォンであらゆる音楽が聴けるこの時代にラジカセなんてものを使ってる人なんてよっぽど熱心な物好きか、或いは時代の波に乗ることを辞退し、懐旧の情が強い人か、そのどっちかだよなぁ……。と、全く世代ではない音楽を聴きながら、ふとそんなことを思った。
何の気なしに、窓の外に視線を移す。
「止まないなあ」
自然がもたらす雑音。ザーザーと音を立てて、そして網戸で弾けていく雨。今日のように少し激しめの雨の日は窓を開け、網戸にし、少し体を濡らしながらラジカセで音楽を聴くようにしている。いつ、どうしてこんなことをするようになったのかはよく覚えていない。でも、雨に濡れると落ち着くから、というふわっとした理由でやっている。
人にこの事を話すと「変な人」という印象を与えるのが常だ。まあ自分でもそれは当然だと思う。と言うのも、私自身が不思議に思うことがあるくらいなのだから。
でも、私がこのよく分からない習慣を話をしてきた中で、あの人だけは反応が違った。ゴツゴツとした大きな体の割に小心者で、でも優しくて、カレーが大好きだった彼だけは、この奇妙とも思える習慣を「面白そう」だと言ってくれた。軽蔑的な「面白そう」ではなく純然な興味と感心から出た「面白そう」だったから初めは驚いたが、これをきっかけに色々と話すようになって、その理由が何となく分かった。
彼は幼くして両親を亡くし、大学を卒業するまで祖父母に育てられたというのだが、その彼の祖父が大のラジカセマニアであったというのだ。そこまで詳しい事は聞けていないが、小さいときからきっとラジカセで色々なものを聞かされてきたから、私の習慣に異を感じることがなかったのだろう。
「次は……これにしよう」
カセットテープが一巡したため、別のものと取り替える。新たに挿入したのは、彼にもらったもの。中身は確か、彼が面白半分で録音した音声。
カチリ、と再生ボタンが音を鳴らし、テープが再生される。
『えーっと、上手く録音できてるかな』
「……っ!」
小さく入った彼の声。あぁ、ダメだ。これはやっぱりダメだ。何回聞いても慣れない。背筋が冷たくなって、次第に涙が溢れ出してしまう。
『今度美弥子の家に行ったら特製カレーを作るから、楽しみにしてて』
今日もダメだった。やっぱりダメだった。涙が止まらない。
「早くカレー作りに来てよぉ……裕也ぁ……」
共通の知人からこのカセットテープを渡された時、静かに告げられた裕也の死。今日のような雨の日に車に撥ねられたという。
もうあれから二年。雨の日が来るたびに、私はカセットテープの中の裕也に会って、網戸越しの雨に打たれながら近況を報告する。彼が死の直前私へ向けて残したという「愛してる」の言葉を噛みしめながら。
読了感謝ですm(__)m