ふとした瞬間に。
あーもう、むしゃくしゃするな..............
道端の小石を蹴っ飛ばしながら自分の寮までの道を歩いていると、立木のそばでなにやらぴょこぴょこと動く影が見えた。..............あれ、なんだろう、あの動きに既視感があるぞ.......?
なんだか気になってしょうがないのでそっちに歩いていくと、
「..............あれ、なんだろう、既視感しかない」
立木の前でぴょんぴょんと飛び跳ねる影。背の高さは..............うん、僕よかちょっとだけ大きいぐらいだな!!
それにしても..............こんなとこで一体何をしてるんだろう? はっ、まさか身長を伸ばす新しいトレーニング!?
「よっ、ほっ、ととっ、..............うーん、ダメだ、届かないや..............うん? 」
ふと振り向いた視線がぼくとぶつかる。.......あ、こっちに歩いてくる。
「ねぇ、ちょっとこっち来てくれない? 手伝って欲しいことがあるんだっ」
ちょっ、いきなり人の手を掴んで引っ張ってかないでくれるかな!?
「な、なんですかいきなりっ」
ぐいぐいと引っ張ってかれたその先に見えてきたのは、やっぱり立ち木。
「違うよ、こっちこっち」
と、指さしたのはその下。その先を見れば、下草の中で弱々しそうに鳥の雛が鳴いていた。.............おっとっと、いつも上ばっかり見てるから分からなかったよ..............
「この雛を、そこの巣に返してあげたいんだっ。でも、私じゃちっちゃいから届かなくて.......」
「あ゛? 」
思わず凄む。『ちっちゃい』、だって?
「わっ、そ、そんな怖い顔しなくたって..............」
「ちっちゃいって卑下するのは相手を見てからの方がいいですよ? 」
下からずいっと歩み寄ると、向こうも一歩下がった。
「わ、わかった、わかったからっ..............とりあえず、どうしたらいいかな、考えよ」
「むぅ..............」
少しだけ不満は残るものの、こういう考察は好きだからすぐに頭を切り替える。
「まず第一として..............用務員を呼ぶという手は? 」
一度ちらっと見ただけだけど、それなりに身長があるし、こういうのは用務員の職務だと思うが?
「私もそう考えたんだけど..............尋ねた時には用務員室、鍵がかかってて。今日はすぐに帰っちゃったみたい」
「なんだよ使えないな..............」
なら第二の策は.......
「そうだな.......無難に脚立とかないか? 」
「そう思って探したんだけど..............普段用務員さんがどこに仕舞ってるのかわかんなくて..............」
これもダメか..............ならあとはどんな手段が..............
「.......あ、そうだ」
向こうがポンと手を打つ。お、何か閃いたのか。
「肩車したら届くかなって」
「肩車か..............確かに妙案だけど..............この二人で果たして届くのか? 」
「あっ」
慌てて自分と僕のことを見比べる。そう、チビがチビを肩車した所で、でかいヤツが手を伸ばしたぐらいの高さにしかならないってことに。
「で、でもとりあえずやってみようよ、もしかしたらできるかも」
「..............ふむ、それには確かに同意だな。何事もやってみなければ分からない」
やらずに答えを出せる実験なんてものは、ありはしないしな。カバンをその辺に置くと、鳥の雛を手に包んで相手を待つ。..............ん?
「どうした? 早く持ち上げないのか?」
「い、いや、今気づいたんだけど..............これってさ、すっごく恥ずかしいんじゃ..............」
「は? 何を言うんだ? 」
足の間に頭を通して持ち上げるだけのことなのに?
「いや、だって、あなたのスカートのなかに頭を入れて..............あわわ..............」
「何を心配してんだ? そんぐらい別にかまわ」
「構うよっ!? 」
あーもううっさいな..............なら自分でやれよ..............と、カバンを手に立ち去ろうとすると、
「あ、待って待ってぇっ! ..............なら、私が上に乗るからっ」
「それでもいいですけど..............」
距離稼ぐなら、少しでも大きい方が小さい方を担ぐのが妥当なんだけど。
雛をその手のひらに包んだ相手が、顔を赤らめながら少し足を開く。
「う、上覗かないでねっ!?」
「何を今更..............」
軽く頭をくぐらせると、両足を持って少しずつ足に力を入れる。慌ててスカートを整える相手をよそに、踏ん張ってなんとか持ち上げようとする。
「ぐっ..............お、おもっ、」
「お、重くなんかっ、あ、ひゃんっ!?」
上から抗議の声が聞こえてきたかと思えば、次にはなんだか腑抜けた声。しかも足を動かしてきてやりにくいったらありゃしない。
「どうだ、届いたか?」
「あ、もうちょっと右.......そこ、もう少し上..............ん、あとちょっとっ、」
「もう、ちょいっ、」
そう言いつつ、実は僕も足に限界が来はじめてて、
「あっ、やったとといたぁっ!?」
喜びの声が一転して悲鳴になる。耐えきれずに僕が先に崩れ落ちてしまった。
い、イテテテ..............酷い目にあった..............
「いたたた..............でもヒナは返せたから、成功っ♪」
と、向こうは地面に寝転びながら一人で喜んでる。..............のは、いいんだけど。
「..............足、閉じたら?」
さりげなくそう言うと、ハっとした様子で上半身を起こす。そして膝を立てて寝転がってた自分の状況を見ると、一気に顔が赤くなっていって、
「い、いやぁぁぁぁぁっ!?」
そのまま奇声を上げて走り去って行った。
..............なんだったんだ、あいつ..............
ちなみにスカートの中は、レモンイエローだった。