ちびっこその1
僕の世界は、いつだって知らないことばかり。だからこそ常に新しい知識を取り入れようと頑張る、のだけれど..............
(と、届かない..............)
つま先立ちに両手バンザイのポーズで、棚の上段へと手を伸ばす。しかしその指先は、本にちっともカスリもしない。
(くっ..............このっ、)
今現在何をしてるのかと聞かれたら、僕は図書館の、誰も来なさそうなコーナーで必死に背伸びを..............いや、本を取ろうと手を.......むしろ、全身を伸ばしていた。
「そんなことをするぐらいなら、その辺にある踏み台を使えばいいじゃない。」 そんな声が聞こえてきそうなものだけど、これでも踏み台は使ってる。それでも届かないのだよ..............
よっ、ほっ、とジャンプをしたところで、棚の最上段には届くはずもなく、むしろ足元がグラついて危なっかしいったらありゃしない。
(くっそー、なんで図書館はこんなに不便なんだ? )
そんなことを何回も繰り返していると、流石に誰かが気づいたのか、棚の向こうからひょこりと頭が出てくる。
「あっ、またリンネちゃんだ〜」
げっ、またこの人か..............図書館に来るといっつも捕まってる気がする.......この矢倉って職員さん.......
「よしよーし、今度はどの本が欲しいのかな?」
「..............そこの左端の。背表紙が切れかかってるやつ」
「はぁい」
踏み台に軽く足をかけると、ひと伸びで目的の本へと手を伸ばして取ってくれる。あー、羨ましい..............
「はいどうぞっ、それにしても難しいのばっかり読むんだねぇ」
「別に..............」
と答えると、取ってもらった本をひったくるようにして受け取ると、さっさと帯出手続きをしようとカウンターに向かう。
..............ちぇっ、また手を貸された.......一人でやろうとしたのに..............
そんな不平を言いつつ、カウンターへと本を差し出す。無事に帯出手続きを済ますと、図書館の外に出ようと出口に足を向ける。ドアに手をかけようとした途端に向こうからドアが開いて、入ってきた人と正面衝突。柔らかいものにモフっと抱きとめられて鈍い音が..............え?
「あぅぅ..............」
急に頭をおさえる人。おでこが微かに赤くなっていて、
「..............いたい.......」
「は?」
見上げたその背はぼくよりも遥かに大きく見えて、
「なんか不愉快」
「ひゃっ!?」
ちょっとムカッとして軽くつま先蹴りを一つ。デカいやつは粛清だっ。
そのまま意気揚々と引き上げる途中、ふとトイレに寄って鏡に身体を映してみる。..............うん、益々不愉快だ。しかも顔しか映らないし。
そう、なんで僕がこんなに不機嫌かと言うと。
.....................身長が、140センチも無いからだ。