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新卒小学生  作者: 小海闇
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どこから人生やり直す?

自分は何か大きなことを成し遂げると思っていた。大勢の一般人にはできない特別なことを成し遂げるのだと。いつからだろう、この考えと真逆の人生を歩み始めたのは。周りと違うことを恐れ、目立ちすぎず、平穏だけを追い求めることに執着し始めたのは...。


*************************************



東京に来てちょうど一か月が経過した。それは同時に、社会人として一か月生き延びたことを意味していた。

東京の喧噪にもようやく慣れてきていたが、満員電車だけは未だに耐えがたい苦痛を感じる。汗のにおいが充満するボックスの中にこれでもかというほどに押し込められる人々。あの空間にいるときは人間としての尊厳を失った気分になる。スマートフォンを悠々と眺める空間的余裕もないので、他人と目が合わないように目を瞑りながら私は考える。


(どこで間違えたんだろう。)


少なくとも小学生の頃は違った。父親を含め、平凡なサラリーマン(スーツを身にまとって歩いている人は例外なくそうだと思っていた)には絶対に自分はならないと、根拠のない自信をもっていた。半ばサラリーマンをばかにしていた。加えて、夢をもっていた。プロのバスケットボール選手になるという夢。これは本気でそうなれると信じていたわけではなかったが、誰かに聞かれたら間違いなくそう答えていたし、本気で努力さえすればなれないこともない程度に考えていた。いずれにせよ、毎朝忙しなく道を歩き、満員電車に揺られるサラリーマンにだけはなることはないだろうと思っていた。


それがこのざまである。もっとも自分から遠い存在だと思っていた満員電車に揺られるサラリーマンになってしまったのである。23歳、小学校卒業からたった11年しか経っていない。その11年の間に私は小学生のころの私が最も嫌悪していた人間になる道を自ら選んでしまっていたのである。

人生のどこかで大きく失敗したというタイミングは特に思い当たらなかった。中学の時は成績は上から十数番目を常に維持していたし、運動も人並みにはできていたからそれなりにモテた。人並みに恋愛も経験したし、決して悪い中学生活ではなかったように思う。

高校も地元で二番目に偏差値の高い高校に進学した。私の知る限りいじめなどは一切なかったから、高校生活も平穏で楽しいものであった。中学まで続けていたバスケを辞め、高校では弓道部に入った。特段強い理由があったわけではない。部活動見学のときに何となく袴姿に憧れたというのと、適度に楽そうに見えたのである。ハードな運動部は中学までで懲り懲りだった。この頃にはプロのバスケットボール選手など全く目指していなかった。実際中学のときには既に夢ですらなかったように思う。そんなこんなでバスケを続ける気は一切なく、それでも運動部という肩書は捨てきれなかったため弓道部に入部することにしたのである。

入部してみると想像通り、身体的にそれほどきつくはなかった。それなりにゆるく、気楽に楽しもうという感じの部活だったので予定通りであった。

適当に部活と学業とをこなしているうちにあっという間に高校生活は幕を閉じた。受験期は人並みに勉強していたし、もともと成績は良かったので、一般には一流といわれる大学に進学することもできた。両親は自慢の息子として誇ってくれたし、友人からも褒め称えられた。周囲が自分のことをエリートとして見てくれていることは明らかであったし、自分でもエリート街道を歩んでいると疑わなかった。


大学四年間はそのほとんどをバイトに費やした。バイト代は飲み会費用や生活費であっという間になくなったため、貯金というものは一切なかったが、毎日それなりに充実していて楽しかった。後先なんてどうでもよかった。今が楽しければそれでいい。むしろ大学生なのだから、そうあるべきとさえ思っていた。

大学の四年間は高校の三年間よりも早く過ぎ去ったように思う。普通に就職活動を終え、目指していたコンサルタント業への内定をもらい満足していた。あとは卒業まで遊ぶだけ。卒業したら、中学から高校へあがったように、高校から大学へ上がったように、大学から会社へと、ステージが変わるだけだと思っていた。

これが大きな落とし穴だった。

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