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気絶系女子

おひさ〜〜〜〜(連勤で死にかけマン)




 東京都の端、地下深くの外郭放水路。

 そこには設計の段階から魔術師の息が掛かっており、血税で作られた調圧水槽でありながら一部区画は隠匿され、一般人が絶対に立ち入ることのできない領域と化している。


 その秘匿施設にて本日行われていた魔術師同士の能力を図る大会──練技大会にて、先ほど優勝者が確定した。


「練技大会本年度の優勝は土御門聖、”木”陣営である。優勝おめでとう、我々も久方ぶりに見る大物喰らいに興奮してしまった」


「ええ、ありがとうございます」


 綺麗に微笑んだ勝者──土御門聖は気品を感じさせる動作で、差し出された包紙を受け取り小脇に挟む。


 優勝者に贈られる物は労いの言葉と金一封の入った包紙のみであるが、しかしそれによる副次的効果こそ勝者の、そして陣営として最も強い効力を発揮する。


 各陣営が1人選出した代表同士のトーナメントマッチ、それはつまり陣営による代理戦争と言って差し支えない。勝者、ひいては陣営は次の大会までの間発言権が強くなるというのは言わずもがなだろう。


 しかも今回の勝者は”木”陣営、ある時期を境に急激に没落し、あと一歩で別陣営に取り込まれる寸前であった、良く言えばダークホース、悪く言えば落ち目の陣営。


 この勝利は過去の栄華を取り戻すための確実な第一歩となる。


(──そう、でもそんなことはどうでも良い)


 そうだ。

 彼女にとって最早そんなことは些事だった。


 彼女にとっては、自身の隣に堂々と立つ青年──浅田真、自称シンがどういう状態なのか調べることこと今最もしなければならないことである。


 金一封を手にした聖は優雅に一礼をすると、すぐさま陣営のテントへと足を運ぶ。その動きにピタリとついていく影があった。

 歩き方一つとっても、どう考えても彼と同じだった。


(どうなっているんだろう、どうして彼は、真は動いているんだろう)


 最終戦の最中、心に踏ん切りをつけるために聖は真の死体を見た、触れた。

 ほのかに暖かさが残る体は、しかし脈はなく完全に筋肉は弛緩していた。


 そうだ、浅田真はあの場において間違いなく死んでいたのだ。



 ではなんなのだ。

 真隣に立つ()()()は。



 真と同じ顔、真と同じ声、真と同じ話し方。まるで真が生きているのではないかと錯覚してしまう。


「ほんとに生きているの…?戻ってきてくれたの…?」


 ポツリとそう呟いた聖が隣に立つ男を見つめる。その視線に気が付いた男は少し恥ずかしそうに狐の面をズラして頬をかくと、聖へと言葉をかける。


「…ん?どうした、アルジさま。俺の顔に何かついているのか?」


 ”アルジさま”。

 過去に一度だけそう呼んだ方が良いかと問われた名前。あの時は気持ちが悪いからやめてくれと、そう否定した呼称に、いつまでも拭いきれない違和感が更に増していく。


 しかし聞かずにはいられない。


「……ねえ、真。アンタはなぜ生きているの?

サラマンダーを倒してくれた後、魂接(バス)すら断ち切れて私はアンタの魂を感じなくなった。アンタの奇策はいまに始まった事じゃないけど、今回ばかりは心臓に悪いわ。そろそろネタバラシをしなさい」


 聖は昔からまどろっこしいことは嫌いだった。しかし、今この瞬間だけは核心に触れるのが心底恐ろしい。

 


 呼吸が浅くなり。


 心音が高鳴る。


 視野が次第に狭まっていき。


 嫌な汗が背中を濡らす。



 そして、体感時間として永劫とも感じられるような数秒が過ぎ、目の前の男が問いに対してゆっくりと口を開いた。


()()()?それはヒトの名前だろうか。アルジさまはそのヒトを探しているのか?」


「──あ。」


 答えを聴くや否や、掠れた視界が暗転し、一瞬にして意識が遠のいて消えた。





 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 くらがりの底で、誰かがこちらを睨んでいる。

 ゆるさない、許さない、赦さない、と声がする。


 ゆっくりとこちらへ近づく()()は、私の首へと腕を伸ばす。

 憎悪の籠った視線とともに力強く首を締め付ける。


 それもそうだ、綺麗な別れは嘘なんだ、あれこそ都合のいい夢だったんだ。


 血涙を流しながら私を殺さんとする真に、謝罪の言葉なんて今さら───




「ぉ…よ…さ…!おじょ…さま!お嬢さま!!」


「……ッ!?ここは……自宅?」


 聞き馴染みのある声に意識を引き戻された瞬間に聖の視線が開けた。涙で霞んだ視界を裾で拭き取り、無意識に首をさすりながら辺りを見渡せば、そこは見知った自室。

 そして布団に寝かされた自身の横には、使用人であり護衛でもある木下緑が涙ぐみながら座っていた。


 なるほど、おおよその状況は理解できた。


「…ああ、なるほど。本当にすいません。ご心配をおかけしました」


「はい、大変心配しました。なにせ丸一日眠っていた上に、急に酷く魘されていたので」


 緑は涙をぬぐいながら茶目っ気のある返答を返す。聖は丸一日という時間に驚きつつも、その返答に思わず笑みをこぼした。

 

 「では改めて、現在の状況をお聞かせください」


 「はい、お嬢さまは肉体的にも精神的にも限界がきてしまったようで、閉会とほぼ同時に倒れてしまわれました。

そして──」


 緑が言葉を続けようとした時、自室の襖が勢いよく開かれた。


「あ、アルジさま!よかった、お目覚めになったんだな!いや〜、全く心配したぜ」


 襖の向こうから現れたのはシンであった。よく見れば大きいタオルと湯気の立つ桶を抱えており、顔につけていた狐の面も外している。


「っ!?あ、ああ、そうね。心配をかけたわ」


 先程までの悪夢と同じ顔に思わず心臓が握られたような感覚に襲われるが、聖はすぐに動揺を隠して言葉を返した。

 しかし、長い期間連れ添ってきた緑がそのわずかな動揺を見逃すわけもなかった。にこやかな笑顔とともに緑はシンへと指示を出す。


「シンくん、お湯とタオルを持ってきてくれてありがとうございます。今からお嬢さまのお身体を拭きます…男であるあなたがどうすればいいかは……わかりますね?」


「おうさ!……とはいえ俺はアルジさまの式神だからな、不届きものが部屋に入らぬように外で見張らせてもらう。じゃあまたな、アルジさま!」


 近くの机へ丁寧にお湯とタオルを置くと、シンは()()()()()()で聖へ笑いかけ外へと出て行く。


「っ、うっ…ぷッ!?」


 彼であれば絶対にしない表情。

 好意を寄せていた彼の死と、救いきれなかった自分の状況に聖は、思わず嘔吐(えず)いてしまった。


「…お嬢様」


 不安げな緑から差し出された温かいお茶を急いで飲み干すと、聖はどこか焦点の合わない瞳で緑を見つめ返し謝罪する。


「はあ、はあ、緑さん、また気を使わせてしまいましたね。すいません」


 緑はその謝罪を素直に受け止めることができなかった。

 なぜなら聖があまりにも憔悴しきった表情だったからだ。


 恋人いない歴=XX年の人間でも、なんとなく聖と真がお互い惹かれあっていたことに察しはついていた。しかし、この状況は聖にとってあまりにも酷すぎる。


「謝らないでください。お嬢様は充分すぎることを成しています」


「……ありがとうございます。

ところで緑さん、私が倒れていた間にシンについて色々と調べて下さっていますよね、教えていただけますか?」


「よろしいので?」


「──無論、ここで向き合うことから逃げるほど、私は駄目になって無いです」


  緑を射抜いたのは、先程までの憔悴した彼女とは思えない強い瞳。

 しかし、その強さを支えているのは、心の強さとかそういったもの()()()()、恐らくもっと”よろしくない”ものであるというのも察しがつく。


 しかし。話さないという選択肢は緑には、ない。


「承知しました。───ではまず、()()()()()()()()


「はい……ゑっ?」


 ”えっ、脱ぐの?”と困惑の声を洩らす。とんでもなく話が飛躍したため、思わず聖は緑を二度見してしまった。


「いや、言ったじゃないですか。身体を拭くんですよ」


「えっ、あーー。いや、それはシンを外に出すための方便とかではなく…?」


「そんなわけないじゃないですか。

 お嬢様は丸1日倒れていたんですよ?練技大会で汗と砂に塗れていたというのに、華の女子高生とは思えないような不清潔をいつまで維持されるおつもりで?」


「う゛っ」


 あまりの言われように思わず眉を顰めるが、言われてみれば確かに汗臭い。


 少なくとも人前に出ていけるような状態ではないだろう。風呂場へ行こうにも屋敷に勤める女中や陣営の魔術師とすれ違うこともあるだろうし、一旦汗を拭っておく必要はありそうだ。


 16にもなって小っ恥ずかしいが、少し頬を赤らめながら聖は服を脱ぎ始めたのだった。







 


 

今後はマジの不定期投稿になります。でもとりあえず新章の構想は7割くらい固まってるので、私が死なない限りエタりはしないです。


もしもエタってたら、続きは目の前の貴方が書いて下さい。

連絡くれれば残りの構想と伏線と最終回までのフロー諸々をお渡しします。


ブックマーク登録、いいね、評価の方をしていただけると大変励みになります。

よろしくお願い致します。

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