郷愁系女子
就職したら月1〜2投稿かな。
まあ仕事慣れるまで月一すら怪しいと思うんでおまいらすまんな。
【SIDE:土御門聖】
頬を伝う涙の感触でゆっくりと目が覚めた。意識の浮上と共に身体中を駆け回る痛みが、どこまでが現実だったのかを朧と思い出させる。
(……芦屋に蹴られて空から落ちた所までは現実…よね。腹に残る鈍痛と体に残る無数の傷がその証拠)
せり上がった岩石や、冷え固まった溶岩によって鋭利に変貌した床が、私の肌をピーラーの如く斬り裂いている。
でも傷口から血が滴る様子から、少なくとも気絶していたのはごく一瞬だったことを理解した。
「ありがとう、真」
目覚めるキッカケを作ってくれた。そして勝利を誰よりも願ってくれた相棒への感謝を告げる。当然、”魂接”からの返答はない。あれほど煩わしかった”魂接”も、今や空虚な孔のようだ。
正直に言えば、心地よい夢の中で現実逃避を続けることもできただろう。でもそれをしたら私の今までの努力も……そして、何よりも真の犠牲が、それら全て意味がなくなってしまう。
「そんなこと……ッ、赦してたまるか。絶対に赦されてたまるものかッ……!」
襤褸の体に力を込めてゆっくりと立ち上がる。傷口が開いて血が垂れて私の服を赤く染めていく。筋肉が軋んで、今にもちぎれ飛びそうだ。
「……それがどうした」
真の体の方がもっとボロボロだった。骨も折れて血も噴いて、それでも私を勝たせるために立ち上がって……そして命を賭して勝利までの道筋を示してくれた。
悲しみで冷え切っていた心に熱が灯った。
いつもの私のように不敵に笑おう。敵を前にしても何も悟られぬように。
そうだ。私はこの場に勝つためにやってきた。
「――だから、悲しむのは後でいい」
しばらくお休み、私の恋心。
今だけは、闘志こそ私に相応しい。
――――――――――――――――――――――――――――
同刻。
「ッ、ぐう〜〜ッッ!?」
芦屋蘭丸は魂が軋む痛みに苦しみ喘いでいた。
蘭丸も聖と同様、”魂接”で繋がっていた存在とのリンクが断ち切られた。故に聖と同様の痛みが発生する。
そして、それこそが妖精魔術の明確な弱点である。
しかし蘭丸は常勝無敗を誇っていたが故に、弱点を真の意味で理解していなかった。出来ていなかった。
(これ、が妖精魔術におけ、るフィードバックッッ!?こんな痛み…味わったことが無い!文字通り魂が引き裂かれるような…ぐ、ううッッ!?)
蘭丸は歯肉から出血するほど噛み縛り蹲っていた。のたうち回ることもせず気絶もしなかったのは、単に彼のプライドが高かったからだろう。
ここで気絶しようものならば勝利が遠のく。
それは彼も、そして”火”陣営も許すことはないのだ。
「はあ〜…はあっ〜…………っ、うあ……大分、痛みは退いたか……」
数十秒、しかし蘭丸の体感では永遠ほどの時間が流れた後。自分の根幹が引きちぎれるような痛みはゆっくりと退いていった。
しかし、その直後。
「――そう。じゃあさっさと負けてもらおうかしら」
神社の鈴のように凛とした声が蘭丸の鼓膜を震わせる。反射的に蘭丸が前方へと大きく前転した直後、その位置に赤雷が降り注いだ。
「ッ!?」
「……躱されるとは。流石最強を名乗ることだけはあるわね」
背後へと勢いよく振り返れば、そこに立つのは土御門聖であった。
「土御門…お前、その表情はなんだ!?」
しかし、彼女の表情を見 蘭丸は困惑を隠せなくなった。
「笑ってるのよ、いつも通り。私、笑えているでしょう?」
土御門聖は確かに笑っていた。口元だけは、確かに笑みが浮かんでいた。
目元からは絶えず涙がこぼれ落ち、しかし口元だけが歪に吊り上っている。
”哀”と”楽”。
相反する感情を無理やり一つにまとめたような表情は、あまりにも奇妙であり、そして何よりも恐ろしかった。その涙の奥には、さらに底知れぬ”怒り”すら感じるのだから、恐ろしいことこの上ないだろう。
(……いや、待てよ?)
なぜ、聖が泣く必要があるのか。どうしてあれほどまでに鬼気迫る表情なのか。飛来する符を術式で迎撃しながら、蘭丸は思考を巡らせる。
”魂接”のリンクが切れてから既に3分以上が経過している。しかし、目下一番厄介であった筈の聖の式神は姿さえ見せない。
そして明らかに狼狽した聖の様子、それらの要素を踏まえた結果、蘭丸は一つの事実にたどり着いた。
「そうか、そういうことか。土御門聖…さてはお前の式神、サラマンダーと共倒れたな?」
つまり、”式神は命を賭けてサラマンダーを打ち倒した”。
そう判断するには十分だった。符を引き抜いた聖が一瞬だけ固まったが、その反応こそ蘭丸にとっては既に答えのようなものだった。
(義体を用いる妖精魔術とは異なり、あくまで式神はナマモノ。あの式神は既に生き絶えているだろうが…とはいえ、サラマンダーを再召喚するには魔力が足らない…か)
腰に備えた杖を引き抜き地面を数度叩くと、叩いた場所は水面のように赤く波打ち、そして波は魔法陣へと形を変えた。
指揮杖を振るうように聖へと杖を向けると、生成された複数の炎弾が敵を焼き焦がさんと聖へと迫る。
「…防御結界」
迫る炎弾に対して聖は符を地面へと叩きつけると、薄緑の結界が瞬時に展開し炎弾を全て散らした。
「ならば!」
炎が結界にぶつかることにより聖の視界が完全に封じられたと判断した蘭丸は、そのまま装燭の魔鎧を展開。焔の鎧を纏うと聖へ向かって猪突猛進する。
「……ああ。そう」
聖は空虚に呟く。
「笑えてないのね」
迫りくる蘭丸の瞳に映る自身の顔は歪に歪んでいた。これを見て、一体誰が笑っていると思うのだろうか。
「いつも偽っていたのに、肝心な時には偽れないか…踏ん切りをつけるなら今、なのかな」
ぼそりと呟いた言葉は炎の轟音に掻き消される。
後方へと吹き出す炎によって加速を受けた拳が結界を紙切れのようにブチ破るが、しかし聖は既にそこにはいない。
「ッ、探索術式起動!」
気配を消す術式による不意打ちを警戒した蘭丸は即座に探索術式を発動し、魔力のソナーを周囲の空間上へと放つ。
「…なるほど、そこか」
すぐ先に反応が一つあった。そして最早この戦場に残るのは己ともう一つ、土御門聖に他ならない。
しかし、蘭丸はその反応を見ずして聖が何処にいるのかを理解した。
何故ならば、サラマンダーとの合流を防ぐために展開されていた結界が崩れ落ちたからである。
緑がかった結界はまるでスパンコールでも散らすかのようにキラキラと反射しながら散り落ちて、そして空気に溶けて消えていく。
この光景を見たのであれば向かう先など容易に想像がつくだろう。
蘭丸は残り少ない魔力の消費を最小限に抑えるために、隆起した地面を遮蔽物として利用しながら予想した場所へと向かう。
崩れた結界のシャワーを潜り抜け少し進むと、蘭丸は目を丸く見開き驚愕から声を上げた。
「……一体何をしたらこうなるのだ」
視線の先にあるのは黒曜火竜の成れの果て。
新たに身にまとった黒曜石の装甲は未だ健在であるが、しかしその隙間から見える表皮は燻った炭のようにボロボロとなり、今にも崩れそうだった。
冷や汗がたらり、と蘭丸の頬を伝って落ちる。
装甲のほとんどが無傷であることからも、おおよそ普通の方法で倒されたのではないと推測が立てられる。だとしてもどうやって倒されたのかを蘭丸は想像することができなかった。
(まるで内部だけを蝕む呪いでも受けたかのような……っ、違う、それは今考えることではない。今は土御門聖の所在を確認することこそ最優先ッ!)
衝撃の光景に思わず立ち止まってしまった蘭丸はしかし即座に当初の目的を思い出し再度探索魔術のソナーを放つ。
(探索魔術の反応もこちらに出た、となれば!)
聖の反応は蘭丸の現在地から黒曜火竜を挟んでその先にあった。ちょうど火竜の亡骸が視界を遮り視線が通らない位置だ。
思わぬ奇襲を避けるために蘭丸は不得意な結界術を発動させた後、ゆっくりと亡骸の周囲を回るように移動する。
「……なるほど」
土御門聖はへたりと座り込んでいた。蘭丸からは背中しか見えないが、よく見れば何かを抱き抱えている。
彼女の腕には男が抱かれていた。
まだほのかに暖かいが、しかし既に鼓動を止めたその肉体には全身に酷い裂傷が何箇所も見られる。左足首は歪な方向へ曲がっていて、服は”赤い雨に打たれた”と言われた方が信じられるほど血に滲んでいた。
「ぇぇ…ぅ……………ね…………わ…っ……ょ」
耳を澄ませば微かに声が聞こえた。
何を言っているのかは蘭丸にはわからなかったが、贖罪の言葉を後悔と共に吐き出しているのだと蘭丸は判断した。
だからと言って、死者を弔うこの女を後ろから奇襲してやろうとは蘭丸は欠片も思わなかった。ある種の憐れみを胸に抱きながら蘭丸は蹲る聖へと声をかける。
「土御門聖。死人を弔うのは俺が勝った後にしてもらおうか」
「ええ。貴方に言われたように、もう一歩を踏み越えてみせるわ……だからそこで見ていてね」
「…聞いているのか?」
「じゃあ…サヨナラ」
少しだけ亡骸を抱きしめた聖は、ゆらりと立ち上がり振り向く。
その顔に浮かぶのは、先ほどの感情を強引に混ぜ合われたような歪なものではなく、”普段の土御門聖”を体現するかのような綺麗な笑みだった。
「――人の別れに水を差すなんてアンタとんでもない悪人よ?そこのところわかってる?」
挑発に余計は一言が混ざっているのは誰かへのリスペクトなのだろうか。
だとすれば、少なくともその”誰か”が生きた証はここに示されていた。
「待ってやっただけ有難いと思え。決着を早くつけたいのは何も俺だけではないのだろう?」
やれやれと言わんばかりに肩を竦めてみせる聖に対して、蘭丸は多少苛立ちながら言葉を返した。暗に”お前も早く勝負を付けたいだろう”と言われた聖は無言で頷き返す。
両者の肌を突き刺さるお互いのプレッシャーの中で視線が交わされた。
片や焔の様に深紅、しかし宿るのは絶対的自信に裏付けられた冷静さ。
片や雷のように翠、しかし宿るのは厚く隠された憤怒と恋情。
「で、あれば」
「じゃあ」
杖を構える。符を抜く。
「「死合おうか」」
直後、炎と雷が衝突した。
郷愁、またをサウダージとも
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