女魔術師は魂魄の夢を見るか?
終わり とは 唐突 に
話を終えた真はゆっくりと振り返り、聖を見つめる。その表情はとても優しく、しかしどこか悲しそうなものだった。
「お前はいつ目覚めるんだ?」
「……えっ」
意味がわからなかった。聖は理解が追いつかず、思わず困惑の声を上げる。
「私が…目覚める?目覚めるも何も」
(違う)
「俺は倒したよ。ちゃんとね。俺は自分の役割を果たしたさ」
聖の言葉に被せるように真は言葉を続ける。聖は自分の心のうちのどこか感じる焦燥感に気付いた。
厳密に言うならば、気付かないようにしていた”それ”を真に気付くよう促された、と言うのが正しい。
しかし、認めるわけにはいかない。これが現実ではないと認めることなど聖にできるはずがない。
だからこそ、聖は否定を口にする。
都合のいい現実だけに目を向けるために口早に、そして乱暴に言葉を振りかざす。
「……違う。違う、違う!私はちゃんと起きてる!変なこと言わないでッ!」
(違う。そんなはずはない)
まるで幼い子どもが駄々を捏ねるかのような態度に、目の前の真は呆れたようにため息をつくと、真剣な眼差しで聖の眼を見つめる。
気迫すら感じるその視線に聖がたじろぐと、真は次々と言葉を吐き出した。
「なんで目の前の俺は狐の面をしている?」「観客がこんなに馬鹿なことがあるか?」「俺はなぜ演技をしていない?」「なんで芦屋蘭丸が何もせずに、俺の話に聞き入っている?」「なんで俺は動けている?」「なぜ俺の傷口は開いていない?」
「や、やめて…それ以上は」
(違う。違う!現実だ、これが現実だッッ!!だって…だってそんなことがあっていい筈がないんだから…ッッ!!)
「――なんで俺は生きている?」
全て、理解した。
「あ。」
「ああ、あ」
「ああっ、ぁ…ああああああッ!!!!!」
気絶する数瞬前の記憶が雪崩れ込む。
(そうだ。変な音がしたと思ったら”魂接”が断ち切れて。ダメージのフィードバックがきて。魂が削れるような痛みで、私は…いや、真が……ッッ!!)
それは慟哭だった。
”魂接”が繋がりを絶ったとすれば。
それは言うまでもなく、繋がっていたはずの”魂”が行方不明になったことに他ならず。
であれば。言うまでもなく。でも、あえて言葉にするのならば。
浅田真は、死んだということだ。
最初から書いてあったでしょ?
この物語は、『彼が彼女から離れるまでの話』ですよ?
冷静に考えて見てくださいよ、内臓に深刻なダメージを負っていて、かつ外傷が酷かった浅田真がジョーク混じりに話ができると思いますか?




