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度胸試し系男子

修正版です、やっぱ見返してみると整合性取れてない部分多いね。

 

 真が腕時計で時間を確認するとデジタル表記に午後7時41分を表記していた。


 外はすでに夜の帳が下りている。しかし、夏場とはいえ校内の空気はやけに冷え混んでいる。

 これは心霊的な、悪寒的なナニカな気もするが、そこらへんの温度感覚は恐怖や興奮で確実にぶっ壊れているだろう。


 真の推定では既に校舎内に鎌鼬がいる、だからこそ迂闊な行動はできない。教室の出入り口から頭を半分だけだし、廊下をクリアリングする。


 光の乏しい廊下は消失点に向かって暗黒に染まり、それはまるで無限に伸びているかのようだった。


(…まあ、誰もいない、か)


 唯一廊下を照らすのは非常口用のビビットな緑の明かり、そして時折雲間からさす月光。

 木造と鉄筋コンクリートの新旧入り混じった継接ぎである校舎が不気味さに拍車をかけているようにすら思えた。


「っふう〜…さて、と」


 真は外を歩き回ったせいで汚れた上履きを教室の隅へと隠して裸足になった。

 

 履き替える間も無く妖怪退治に巻き込まれたため、仕方がなく上履きで外を歩いていたが案の定、靴裏が泥だらけである。


 上履きを脱いだ理由は単純、廊下は音がよく響くからである。

 気配は消せても音が消せる確証はない。それで万一バレようものなら全てが破綻する。真にとっての最低限のリスクヘッジである


「…進むか」


 月光と目に悪そうなグリーンの蛍光灯。それのみの照らされた気味の悪い廊下へと第一歩を踏み出す。

 真はふと、この状況こそ“ポイントオブノーリターン”ってヤツなんだなと思った。こんな切羽詰まった時にも思い出すとは、なんとも鍵作品とは偉大である。


 壁を伝うように、そして何よりも音を立てないように移動する真、当然手鏡などは手元にないため、曲がり角にさしかかる度にクリアリングを欠かさない。


 (…“食パンくわえた女子高生“ならまだしも、ぶつかってくる可能性があるのは殺意増し増しのバケモンだ、リスクは極力排除しないとな)


 真としても“女子高生と衝突”とは全く別の意味でのハラハラドキドキは一切望んでいなかった、そりゃそうである。


 (…まあ鎌鼬がどこにいるかなんて大方予想できるけどな)

 

 何故教室の電気を付けたのか、そこから推測した理由。鎌鼬の目論見が予想通り挑発であるならば、奴が居るのは外から見たときに電気がついていた教室しかないだろう。


 (大方教室で待ち構えてんだろ?俺が助けに現れなければ電波女を殺すし、逆に俺が現れれば俺を殺してから電波女を殺す…この状況における鎌鼬にとっての優位なポジションは、電気を付けた『北校舎の図画工作室』しか考えられない)

 

 北校舎の図画工作室、通称美術室。


 教室は比較的広い上に、美術教師が几帳面な性格のため比較的片付いている。何よりも、中央に模写用の石膏像を置くための小ステージがある。まさにお誂え向きの間取りと言えるだろう。

 

(…加えて一点だけ。早急に確実に対処しないといけない事がある)


 そして何よりも真には急ぎ対処しなければならない問題があった。


それは、『どこかのタイミングで自分が学校に残っていることを鎌鼬に知られなければならない』ということである。

 当然自殺志願というわけではなく、単純に図画工作室から鎌鼬を引き剥がすためにはそのくらいのリスクを負う必要があると判断したためである。


 (この状況で詰みにならないためには…

①俺がまだ学校に残っているとバラした後

②鎌鼬を図画工作室から引き離し、人間おぶって逃げないといけないわけか…何そのクソゲー。はっきし言って馬鹿みたいにハード、○ょぼんの○クションかなにか?)


 心底ゲンナリしつつも足音を立てないように、細心の注意を払いながら北校舎3階へと確実に迫る。

 既に立案は済んでいる。あとは全てを実行するのみ。


 (教室に鎌鼬が構えているなら釣り出すための仕掛けを先に作る。いなかったらお姫様の健康チェックしてから仕掛け作りを始める)

 

 階を登るごとに五月蝿く高鳴る心音、しかし賽は投げられた。ここから先は全てが設計された道順を辿るのみである。





——————————————————————



 真の目線の先、図画工作室からは、夜の学校に似つかわしくない眩いLED光が溢れ、薄暗い廊下を眩く照らす。

 ようやく暗がりに慣れ始めた真の眼は強烈な光に痛みを覚えるが、それすら感じないほどに心臓は恐ろしく速く、痛いほど脈を刻んでいた。


 (下手したら影でバレるんじゃねえか…?)


 吹き出る冷や汗が背中を濡らし、初夏の火照った体とは正反対に、真の肝は下限なく冷えていく。

 さらに慎重に教室側の壁を伝い、身を屈めながら工作室の入り口手前まで移動する。扉付近は絶妙に光が遮られちょうど影ができていた。


 (あそこなら扉の影が俺の身体を隠してくれるな)


 目測で残り5m、そこまで教室に近づいた真の両耳に、確かに聞こえる音があった。


 短いスパンの荒い呼吸だ。

 教室から犬の呼吸音のような、それでいて鼓膜に粘り着くような不快な音がだ。


 “いる”。すぐそこにあれが存在しているのだ。


 見えなくとも伝わるプレッシャーに、真の心臓が締め付けられるかのように高鳴り、視界がどんどんと狭まって行く。

 

 口臭でバレたらどうする。呼吸音でバレたらどうする。頭をよぎる最悪は意思と行動を阻害し、深呼吸すら恐ろしくてできない。


 逃げられない。


 (仮にあいつを見捨てて俺一人で逃げても、俺が学生である以上バケモノの根城の化した学校からは逃れられない。少なくとも俺は多少なりとも青春を謳歌したいと思う人間だ)


 真に逃げ場はない、逃げない。

 

(もう引き返せないと、廊下に出た時に思いながらも踏み出したんだ。落ち着け。外では目と鼻の先まで近づかれても匂いでバレてなかった。ならちょっと教室を覗く程度……なんともない)


 真はもう何回目かもわからない覚悟を決めた。深呼吸とは言い難いようなレベルに息を吸い込み、吐き出す。もはや空気の反芻だった。


 (—————ほらバレなかった)


 文字通り命懸けの度胸試しは終わった。確かな確証だけが真に残った。


 ゆっくりと。


 音を出さないように。


 限りなく四つん這いに近いような低姿勢。


 真は顔半分を教室外から中が見えるように位置まで突き出す。


 (…ッッ!!!)


 見た。見えた。確かに網膜へと1人と一匹の姿は焼き付けられた。


 すぐさま顔を引っ込めれば、緊張で滲み出た嫌な汗がツツと頬からあご先へ伝っていき、20センチも距離がない床へ落ちていく。

 

 随分長く感じたが、でもきっと2、3秒程度だったろう。しかしそれで十分である。

 真は記憶にしっかりと定着させた景色を入念に想起する。


(…拘束に使われてたのは金属チェーン。なんかしらを使わないと拘束すら解けないな)



 僅かな時間で見ることができたのは、案の定教室の中央付近に陣取った鎌鼬。

 そして、そのすぐ後ろに()()()()()でグルグル巻きにされた電波女が地面に転がされていた光景である。


(金属チェーンを切断できるようなでっかいカッターが学校にあんのか…?)


 目下悩みのタネが増えてしまった、とはいえやることは決まった。


 真は最優先で金属チェーンを切れるカッターを探す必要がある。なかったとしても、何が何でも破壊する以外に真が生き残る術はない。

 




——————————————————————————





 3階の教室から脱兎のごとく移動した真は、すでに校庭端の防災倉庫前に立っていた。

 真が腕時計を確認すると、時計はデジタル表記で7時50分を表示していた。

  

(えぇ…嘘だろ……。時の流れのなんたる遅いことか…)


 校舎に入ったのが40分過ぎ、つまるところ10分しか経過していないが、真からすると既に1時間は経っているような気分だった。


 思わず逸れてしまった思考を戻すために軽く顔を叩くと、真は“計画”を脳内で精査する。


(何パターンか考えたけど、どれができるかは倉庫の中身次第…とりあえず中を見ないと始まらないか)


 勿論、勝手に物資を漁る以上これは立派な犯罪行為ではあるが、人命がかかってるから…と真は心の中で言い訳しつつ倉庫の重い引き戸を引く。


 外にあるからか沓摺りには大量の砂や石が溜まっていた。加えて金属扉はその重量により真の乏しい筋力では開けるのに精一杯である。


 砂と小石が磨り潰される音と共に、下のレーンが引っかかりながら扉が少しずつ開いて行く。


「っふ……っはぁ……っ!」


 冷や汗の次は運動による発汗で真はびしょ濡れだった。ようやく人一人通れるくらいの隙間ができたが、真は息も絶え絶えである。もっと運動した方がいいんと違いますか。


「防災用なんだから整備くらいしとけよ…ッ!」


 流石の真も御冠である。しかしド正論。最もな意見である。

 

 真は想定外のいら立ちを抑え、息を整えて中に入る。


 倉庫は防災用とは銘打っているが、半分以上は防災に関係ないような雑多なものが放り込まれていた。

 使われていないであろう多くの物資には当然のように埃が積もっている。実際10年以上大した災害も起こってない為、物資が埃を被っているのも頷けるが、だとしても鍵がかかっていないなど防犯意識とか諸々が緩い。


 先ほどの鍵のかかっていなかった窓といい、真は田舎の防犯意識の低さに少し心配を覚えた。


「…まあ、それはさておきまして。切断用カッター、カッターは…っと、あるじゃん!?」


 正直あると思っていなかった真は若干テンションがバグってしまった。とはいえ、幸先が良いのは確かだろう。


 「とはいえ…ちょっとデカすぎるな?」


 携帯するにはあまりにも大きい裁断用カッターに真は頭を悩ませる。


 真は“ぺしゃん公”をやってのけた悪魔の名を冠する兵器が持っていたクソデカペンチをイメージするが、これを武器にするには鎌鼬は素早すぎるだろう。

 悲しいかな、早々に武器として使う案は却下である。


 「これ持ち運ぶの無理だろ…って、登山用のリュックサック!?なんでこんなものが…まあいっか、これで持ち運ぶ分には問題なしっと」


 埃を被っていたものを漁ると、ボロボロだが登山用のリュックサックが掘り起こすことに成功した。

 そして大掃除で使う用だろうか、床用ワックスがダンボールにダースで入ってるのを発見する。


「…家庭科室から()()()を盗…もとい借りて行く予定だったけど、これなら予定短縮できるのでかなりラッキーだな」


 早速リュックサックにワックスを数本とカッターを詰め込むが、カッターが流石に大きすぎる為、持ち手の部分が少しはみだしていてチャックが閉まらない。

 とはいえ、作戦の第一フェーズは終わりを迎えたと言ってもいいだろう。


 「じゃあ第二フェーズ、開始しますか」


 真は教室に灯る光を睨みつけるように一瞥すると、リュックサックを背負って校舎へと走った。


 ちなみにやたら重い扉を閉まらなかった。申し訳なさを感じつつも扉は半開きのままである。ちょっと格好つけたのに締まらなかった真は、羞恥心で少しだけ赤くなっていたらしい。




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