表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/101

模倣系男子

日間ランキングに乗れたのがすごい嬉しかったんですけど、だとしても投稿頻度は上がらないんですよねえ。(クソ忙しい)

でも今回は結構頑張って急いだので、今後ともこの作品をよろしくお願いいたします。



「さて、と」


 聖を分断した結界の向こう側で、満身創痍一歩手前の真は凶悪な笑みを浮かべた。其の加虐性たっぷりの笑みは主人に似たのだろうか。


 真の視線の先、多頭火竜サラマンデル・ヒュドラは見事に片頭を吹き飛ばされていた。

 あまりの一瞬の出来事に状況判断はついていないが、おそらく()()()()()()()()()()()である真へ殺意の篭った瞳で睨みつける。

 

 交差する視線。

 ぶつかり合う殺意。


 この膠着状態はそれほど長くは続かないだろう。


「式神魔術…READY」


 肺に深く呼吸を入れた真は、無意識に薄らとつぶやく。

 

 これは”式神魔術”の用意が整ったという意味ともう一つ。自身に対して覚悟を問う質問。もしも倒しきれなければ、10分後には確実な死が待っているという凄惨な事実の確認行為。

 しかし、言うまでもなく答えなどとっくに決まっていた。

 

(――――考えるまでもない)


 何度も何度も、絶体絶命の時にこそ聞かされていた。記憶に根付いたあの言葉を、真は自分の覚悟の表れとして口に出す。

 

「俺だって…()()()()()()()()()()()()()ッ!」

 

 それは聖の口癖。


 時に自信を示すかのように、時には自信を奮い立たせるかのように口にされるその言葉を口にした瞬間、真の灰色がかった虹彩は聖と同じ翠色に淡く輝いた。


 直後、魂にナニカが流れ込むような異物感。

 


 否。事実として真の身体には現在、彼に()()()()()()()()の流れが生まれていた。


 

(ッ、こンの気持ちわるい感覚ッ…そうそう慣れるもんじゃねえなッ!)

 

 本来持ち得ない魔力の感覚に多大なる不快感を覚えながらも、真は多頭火竜から距離を取りながら、片足をひきづるように戦闘行動へと移行する。

 

 左脚を負傷している以上、走って移動することは不可能。しかし足を止めれば確実に多頭火竜の火炎に焼かれる。加えて多頭火竜の周辺温度が跳ね上がっている以上、近接など以ての外。


 では、真はどのように攻撃を仕掛けるのか。答えは非常にシンプルだ。


「術式再現『ヒガンバナ』」

 

 真の声に反応するかのように雷上動に淡い光のラインが走ると同時、真の手のひらに()()()()()が出現する。

 薄緑のそれは、色以外の要素がまさに聖が日頃から使用しているものと寸分違わず同じであった。

 

(ぐッ、う…)


 魔力が身体を蝕び体内を破壊していく。その鈍い痛みをこらえながら、真は生成した符を多頭火竜へ向け投擲した。

 

 それはさながら流れ星のように、符から発せられる緑のパーティクルが空中に線を描き飛翔する。

 高速で飛来する物体に対して、多頭火竜は警戒しながらも先ほどと同様の対処として口から炎を吐き、撃墜せんとする。

 

 確かに先ほどまでならばそれでもよかっただろう。しかし今回は勝手が違うのだ。


「バカトカゲがよ。残念ながらそれは紙製じゃねえんだぜ?――――再現術式『ヒガンバナ』、食らっとけ!」


 呼吸を整えながら真はしたり顔でそう言った直後、火炎を突き抜けた符が多頭火竜へとヒット。緑雷を走らせると同時に刻まれていた術式を起動させる。


 聖の紅とは正反対、緑色に瞬く夥しい数の雷の槍が生成され多頭火竜の身体を滅多刺しにした。けたたましい雷撃の音とともに絶叫が響く。

 

「ギャオオオォォッッ!!?」


 火炎によって防いだと思われた一撃、そして襲いくる痛みに思わず啼く多頭火竜。先ほどまで一定であった体表の焔は乱れて狂い、本体の動揺を表しているかのようだった。


 ダメージが通ったことに安堵しつつも、自身が起動した術式を改めて見た真がぼそりと呟く。

 

「雷が紅色じゃないからお世辞にも彼岸花に見えねえな…」

 

 この男、ボロボロの癖に案外余裕そうである。


 「っと、そんなこと考えてる暇はねえな」

 

 我に返った真は、感電し動きが鈍っているらしい多頭火竜から更に距離を取るように後退する。怪我により移動が制限されている真にとって、足を止めるという行為は死に直結するだろう。

 遠距離を攻撃する手段を豊富に持つ多頭火竜が相手であっても、物理的距離を稼ぐこと自体は有用であると真は考えていた。


(俺の反応速度は土御門よりも劣ってる。だからたとえコンマ数秒であっても直撃までの時間を稼ぐッ)


 10m以上距離をとった真は体内で暴れる魔力へ、そして自身の記憶へと意識を向けた。掘り起こす記憶は無論、土御門聖と共に戦った時の記憶である。

 

 もはや思い出深い鎌鼬、百目鬼、鵺。そして津守雫。魑魅魍魎含め彼ら彼女らと対峙した土御門聖が、あの綺麗で綺麗に笑いながら、どのような術式を使っていたのか。それを全て思い出す。


(土御門が使用していた術式を思い起こせ。それがまるっとそのまま俺の手数に変わる)


 聖が使用するのは”雷”と”風”。そしてそれに形を持たせるなどバリエーションが豊か。

 攻撃に限ればそれが全てだが、防音や物理的障壁を生成する”結界術”や、才能がなくとも行使できるような単純な西洋魔術も行使していた。


 視線の先でこちらを睨みつける多頭火竜を横目に、この状況において最適解の術式、そして勝つための筋道を模索する。

 

 深く、深く。体内を暴れまわる魔力も、それに伴う痛みすらも感じないほどに深遠にまで思考を沈める。


(検証により”雷”によるダメージを確認できた。それによる討伐の可能性――――否定。式神魔術による負荷と制限時間を考えるとダメージレースによる勝利が不可能と断言できる)

 

 視線の先、痺れが薄れた多頭火竜の目に明確な殺意が宿った。

 乱れていた体表の火炎はその憤怒を受けてさらに荒れ狂い、周辺温度は静かに上昇を始め多頭火竜の足元のコンクリートがジリジリと煤け始める。


 しかし、なおも思考が止まることはない。怒った蜥蜴風情を視界の端に映しつつ、真の思考は加速する。

 

(であれば、先ほど頭を吹き飛ばした方法を組み入れてプランを再構築――――可能性アリ。問題点は式神魔術の負荷と、それにともなう(つちみかど)へのダメージだけど…一切犠牲なく勝利を得ることの難しさはもう学んだ。使えるものはなんでも使わせてもらうぞ)


 魔力が絶え間なく流れ込んでいる状態の”魂接”では、魔力の奔流に遮られ思考を送ることができない。

 しかし、この状況であれば少なくとも聖はこの作戦を了承してくれるだろう。そういった確信が確かに真の中にあった。

 

(――――構築完了。ここから完膚なきまでの勝利を魅せてやるよ)


 徐に、真の意識が浮上した。視線の先には文字通り真っ赤になって怒っている大きな蜥蜴。あれならば()()()()()()()()()()だと、真は口角を吊り上げて大仰に声を張り上げる。

 

 「宣言するぜ木偶の坊!」


 ある程度治療されたとはいえ大量失血と大火傷に加えて左脚は骨折。常時流れ込む魔力によって徐々に内臓が破壊され始めている。それはあまりにも満身創痍だった。


 しかし。だとしても。

 その青白い顔を感じさせないほどに、真は倣って綺麗に笑う。


「――――俺から三発食らった後、お前は俺に負けるよ」

 

「……っ、ッッッッッッ!!!!!」

 

 そのあまりにも堂々とした勝利宣言に惚けた後、血に染まった(まなこ)で多頭火竜は真を睨みつけ、声にならない憤怒を吼えた。


 口に炎を蓄えた多頭火竜はそのまま顎裏が見えるほど天上へと首を向けると、そのまま空へと火炎弾を放った。空中へと打ち出された炎弾は天井付近で破裂し、火炎のシャワーが降り注ぐ。


(無差別範囲攻撃か…でも、その程度ならッ)


 真が思い起こすは障壁。どのような状況、場面においても聖が多用していたステンドグラスの如き盾。


「術式再現『ブツリケッカイ』」

 

 術式が起動され、雷上動が再び脈打つように煌めいた。

 

 体の何処かで血管がちぎれる音を真は確かに聞いた。しかし、直接的な痛みではないだけマシだ。脳が痺れるような違和感を無視しつつ、手に出現した薄緑の符を自分の足元へと投擲する。

 

 符は地面に衝突した瞬間に砕け、破片はパーティクルとなって真の周囲へと霧散。直後光の粒子が弾け、薄らとした緑色の半球状結界を形成した。


 空から降り注ぐ炎の雨は結界によって弾かれるが、結界内部にて真は汗を垂れ流していた。それもそのはず、炎によって温められた結界内部の温度はサウナに迫っていたのだから。

 

(炎による物理的な干渉は防げるけど、熱までは防げないのかよ!?)

 

 思わぬ誤算である。足場がコンクリートであったから助かったものの、仮に延焼性の高い物質が周囲にあったのなら真は蒸されて死んでいただろう。

 急いで結界へと追加の魔力を込め結界の範囲を拡大する。


(温める空気の体積が増えりゃ温度の急上昇も抑えられるだろ、このくらいの知識ならあるんだよ!)


 内心こう毒づく辺り、現役女子中学生(つもりしずく)に”純水に電気が通らない”のを知らない事を煽られたのを未だ引き摺っているらしい。

 

 しかし、今だに空から降り注ぐ炎は止まない。制限時間を考えると真は若干焦らずにはいられなかった。記憶の底から再度、土御門聖が行使した術式を思い起こす。

 

「術式再現『ヒガンバナ』…ッ、ぐ」


 うめき声とともにつつ、と真の口元から血が垂れた。服の裾で強引に拭いながら投擲のタイミングを見計らう。

 

 不意に、炎の雨が止んだ。しかし、視線の先には爛々と輝く熱量の輝き。


 多頭火竜の口元に高熱量の火炎が蓄えられていた。これは明らかに一撃必殺級の()()()()()の予備動作。これが放たれ、掠りでもした瞬間に真は灰と化すことが容易に想像できる。


「ッ、させるかよ!」


 タイミングを図るなど悠長な事ができる状況ではなくなった事を理解した真は即座に符を投げ放つ。狙うはブレスを溜めている頭、光の尾を引きながら一直線に突き進む。

 

(…ん?)

 

 その瞬間、多頭火竜がニタリと笑った。そんな気がした。

 直後なんとなしの胸騒ぎと違和感が事実だったと真は悟った。


 口に溜めていた熱量をそのまま飲み込み、勢いよく体を回転する。その勢いを受け鞭のように撓った竜の尾が飛来する符へと振り抜かれた。

 

(ブレスの予備動作を()()()()使()()()()()()!!?)


 見れば、先ほど飲み込んだはずの光球をすでに多頭火竜は口元に戻していた。つまり、仮に尾と符が衝突し術式が発動したとしても、お返しのブレスを回避する必要が出てくる。


(…それは、()()()

 

 しかし、真のボロボロの体で緊急回避など不可能。既に外傷に由来しない身体の不調が広がりつつある真にとって、そんな性急な動きができるはずはない。

 

 絶望の淵に立った真を映す、多頭火竜の目は歪んでいた。

 こちらを嘲るかのように歪んだそれは、唖然と符を見つめる真を焼き付けるかのように凝視する。


 

 だからこそ気付く事が出来たのだろう。

 唖然とした()()を辞め、憎たらしい笑顔を浮かべる真に。

 

 

「…………んふ、なぁんてな!」

 

 直撃しそうになった符が不自然な軌道を描き直角に()()()

 尾をすり抜けた符はそのまま高熱を帯びた光球へと突き刺さり多頭火竜の口の中で大量の雷槍を生成し、さながら針山の如く頭を焼き貫いた。

 

「再現術式『ヒガンバナ』。――――だから言ってるだろ。それ、紙じゃねえって」

 

 不完全に形成された光球が爆発するのを背景に、真はぼそりとそう呟いた。




ブックマーク登録、いいね、評価の方をしていただけると大変励みになります。

よろしくお願い致します。


レビューとかいただけるとめっちゃ嬉しくなって爆発四散します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ