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ライダー系男子

就職決まりました。対戦よろしくお願いします。


「……女狐め」

 

「ふふふ、どうやらお母様に似ちゃったみたい。ダミーに関しては多少心得があるのよ」


 ひらひらと右の手を蘭丸へと振り、肉親への皮肉と共に目の前の芦屋蘭丸を煽る聖。

 彼女が無傷であるのは当然、タネも仕掛けもあるギミックだ。

 

 聖の服の下では藁人形の右腕が塵と化していた。これは嘗て百目鬼戦で使用した藁人形のダミーの改良版である。

 あの時使用したものは本来の用途とは異なる使い方をした為本人へのフィードバックがあったが、今回は完全にダミーとして用いることを想定して作成されている。


 そのため肉体的ダメージは皆無。つまるところ、聖は今回の戦いにおいて1回分残機があるのと同義である。

 

(術者のダメージを肩代わりするアイテムか…厄介だな)


 自身の攻撃を受けても傷ひとつない聖の柔肌を見、蘭丸は眉を顰めながら毒を吐く。

 

 実のところ、妖精魔術抜きにした場合蘭丸には範囲攻撃の手段が乏しく、あるにしても魔力消費の観点から今野蘭丸では使えないのだ。

 雷同との戦いで見せたような広範囲の爆撃がその最たる例だろう。最も、これほどの近距離で使えば爆発の余波で自身がダメージを負ってしまうリスクがある。ある程度の接近戦が要求される現状では使えない術式であった。

 

 この状況において生来の動体視力を生かした回避や、ある程度の練度のある体術を用いた移動。それらを十全に使いこなせる聖に何度も致命傷となり得る攻撃を当てるのは()()()()には難しい。

 

  蘭丸自身魔術師としての練度は相当高いが、彼本来の立ち回りは妖精を用いた低コスト高パフォーマンスな術式の連射。妖精抜きの蘭丸ではどうしても普段とは異なり瞬間火力に欠ける。


「ほらほら、10分以内に私を叩きのめすのでしょう?もう5分は経つと思うのだけれど…急がなくていいのかしら?」

 

 聖は顔に汗を浮かべながら蘭丸を煽り立てる。

 

「━━違う。5分”も”あるから焦る必要がないのだ」

 

 しかし、蘭丸は再び笑った。笑いながら聖の言葉を訂正した。

 暫く思考の海に潜っていた蘭丸は”攻めあぐねているわけではない”と認識を改め、杖で地面を数回叩き用意していた術式を起動した。


「『 primitiv《 原始》。Die Erde brennt《大地は燃ゆる》。das Leben ist 《生命とは》ein Kind aus Licht und Wärme《熱と光より産まれし仔》。

Daher《故に》Allen Dingen zu Grunde 《万象の根元に》liegt eine Feuersbrunst《座するは大火》。

 Geh zurück《帰れ》、geh zurück《還れ》、Rückkehr《返れ》、 Staub und Rauch《塵と煙よ》segnen dich《汝を祝福せん》』」


 その一節一節に蘭丸の魔力が練り込まれていく。

 人工物でしかないコンクリートで作られたリングは脈動し、次第に()()は熱を持ち、その()を吐き出そうと亀裂を走らせる。


 地震と見まごうほどの大地の振動に聖は驚愕の声を漏らした。

 

()()()()()()()!?残り三割の魔力でこれだけの影響範囲の魔術を行使するなんてッ」

 

 裂けたコンクリートの隙間から地球の血液であり大地の原始の姿――溶岩が噴き上がる。粘性の少ない溶岩はたちまちコンクリートを侵食し聖の足場を狭めていく。

 

「芦屋の血縁上俺は炎との適性が高い……しかしだ、そもそも炎とはなんなのか。人類を人類たらしめる知恵の象徴とも考えることもできる…が、それでは視点が狭すぎる」

 

 一度杖を振るえば大地が揺れ、再び振るって亀裂が走り、三度振るえば溶岩がシャワーのように飛沫をあげる。

 

 蘭丸がオーケストラの指揮者の如き立ち振る舞いにより杖を振るう度、聖の足場は次々と原始地球の如き溶岩流れる小川へと変貌していく。

 

 淡々と言葉を続けながら次第に聖の行動範囲を狭め、さながら水攻めのように動きを阻害していく。

 

「視点を広くしようか。

例えばだが、太陽は別に燃えているわけではない。ガスによる核融合によって凄まじい熱量を帯びているだけであり、アレ自体は酸素を消費し燃焼をしているわけではない」


「ッ、足場が!!?」


 赤熱する溶岩はまるで意思を持つかのように聖へと迫り足場を次々と潰していく。足先から伝わる熱量に聖は全身がチリチリと焦げる感覚を覚えた。

 

「そして気付いた。()()()()()()()宿()()のだ。酸素が豊富に生成される”奇跡の星(ちきゅう)”だからこそ、俺はこの力を万全に行使できる。よって逆説的にいえば『万全に炎を使えるならば地球』なのだ。この理論を用いて天体魔術や自然魔術のエッセンスを用いた独自の術式を構築した」


 コンクリートだけで構成されたフィールドは僅か数十秒の間に様をガラリと変えた。


 まるで原始地球の現し身であるかと錯覚するような溶岩と、それが冷えて固まった大地。数秒毎に地殻が揺れ動き、その度に大地は裂けてマグマのシャワーを吹き付ける。

 

 

「”地球が最も熱と炎に包まれていた時代を現代に写し出す魔術”。これが俺のもう一つの切り札――『|lobe die Erde《大地礼賛》』」


 

「話がクッッソ長いし理論的にもわかるかボケえッ!!!理論の飛躍もいい加減にしなさいよ!!」

 

 汗をダラッダラにかきながら聖がキレた。


 マグマの平均温度は1000度前後。炎より暑くないとはいえ持続時間と影響範囲が莫大すぎる。

 加えて既に周辺の気温は50度を遥かに上回っていた。

 

 嫌な予感がした聖が、先んじて遮熱性のある結界を張っていなければ既にお陀仏になっていただろう。とはいえ熱を全てカットするなどできるはずもなく、聖の脳みそは術式解説の難解さと熱によってオーバーフロー寸前である。


 余談だが、蘭丸のこの『|lobe die Erde《大地礼賛》』」、本当に理論の飛躍が激しい。


 そもそも魔術とはその魔術に適性があれば用いることができるのだが、この魔術に関しては地球上に使用できるものが片手の数ほどしか存在せず、加えてこの魔術を扱えたのは化け物のようなトンデモ魔術師達のみである。

 

 つまり実質的にはワンオフ。

 芦屋蘭丸という人間が才能だけでごり押して発動している欠陥魔術だ。加えてこれだけの大魔術、当然魔力の消費量は馬鹿にならない。

 

 (魔力消費が厳しすぎる、術式の継続使用許容時間は…あと3分かッ!)

 

 冷静な者が考えれば、蘭丸はここにきて大博打を仕掛けたようにも見えるだろう。

 しかし、これは彼の矜持である。

 

 彼は現状において日本国内の若い魔術師の中で最も強い魔術師である。だからこそ、その称号を確固たるものとし、”火”陣営は強いものと知らしめるためには蘭丸は限りなく強い力を誇示し、他を圧倒しなければならない。

 

 圧倒的勝利によってもたらされるのは、”()()()()()()。そしてそれによって副次的に自分の輝かしい未来をも得ることができる。

 そのためであるならば、血の一滴すらも搾り切って魔術を行使することも厭わない。

 

「地上全てが影響範囲のこの術式、逃れられると思うなよ。…最も、既に逃げ場はないがなァ!」


 泰然と構える蘭丸に対し、しかし聖は冷静に周囲の状況を俯瞰する。刻一刻と迫る溶岩の波に心を焦燥させることもなく、静かに自身の勝機を探る。

 

(…蘭丸は溶岩の操作こそしてるけど、固まって岩石になった溶岩は操作していない。であれば!)

 

 聖はポーチからありったけの量の符を取り出すとそれらを全て上空へと放り投げた。このまま数秒も経てば全ての符は熱に耐えきれずに炭と化してしまう。

 だからこそ聖はノータイムで全ての術式を発動させた。

 

 役割を終えた符が塵と消えた空中では、蘭丸と聖の頭の上には無数の結界が板状に出力されていた。迫る溶岩を横目に聖は隆起したコンクリートを足場に上空へとジャンプし、大量に出現させた結界を足場に空へと退避する。

 

「なっ!?」


「地上全てが影響範囲?上等ッ!!だったら私は()()()()()!」

 

 溶岩溢れる地上から遠ざかったことで熱からのダメージも軽減される。その上これだけの術式が長く持つはずはないと聖も悟っていた。であれば、この状況ですべきことは”逃げの一手”だ。

 

 ”アンタが飛び回ってたのを参考にさせてもらったわ!”とイイ笑顔を作り空中から見下す聖に対し、蘭丸は苦い顔を作りながらもすぐさま好戦的な笑顔を作り直した。


「それでこそ土御門聖ッ、どこまでも楽しませてくれるッ!」

 

「別にアンタを楽しませようとは思ってないわよ!さっさと魔力切らしてブッ倒れろ!」

 

 どこまでも一方通行な蘭丸からの想いに、聖は熱で理性が緩んだのか口汚い言葉で返答する。


 無数に張り巡らされた結界を足場に空中を文字通り縦横無尽に駆け回る聖に対し、蘭丸も手足から炎を噴き出して空中へと移動する。そして再び装燭の魔鎧(フレイムエンチャント)によって焔の鎧を纏い直すと、聖を飛び越え、さらに上空へと飛翔する。


(位置エネルギーと炎による加速で確実に仕留める気か…でもっ!)


 先ほども見せた位置エネルギーと純粋な加速による攻撃は、確かに聖の結界を簡単に破壊するほどの威力を誇る。

 攻撃性の一部を物理現象によって補完しているため魔力消費も少ない。魔力の大半を消費した今、自身が使うことができる攻撃の中で、最もダメージを与えられる手段はこれしか残されていないとの自己判断だろうと聖は推測する。

 

 しかし、なおも聖は余裕綽々といった態度を崩しはしない。その理由は単純だろう。

 

「そんなピンポイントな攻撃、今更当たると思わないことね!」

 

 そう、この蘭丸の攻撃は超ピンポイントな一撃となる。なにせ攻撃範囲が蘭丸が蹴りを放てる範囲に依存しているのだ。

 移動可能な足場が無数に用意されている今の状況において、聖に当たる可能性は皆無に等しい。


 聖の態度に見える余裕、止まらない足。この攻撃さえ凌げば、確実に蘭丸の残魔力は空になるだろう。

 しかし、”どうして蘭丸がこのような博打を打ったのか”まで考えるに至らなかったのが聖最大の失敗である。

 

 

「━━━いや、()()()()


 

 まるで先の聖に倣うかのように。芦屋蘭丸が()()()()()()

 

 直後マグマ溜まりと化していた地面が爆ぜ、無数の溶岩弾が空中へと放たれる。大量の溶岩弾はさながら散弾銃かのように聖が展開した結界の足場を次々と粉砕していった。


「ッ!?だけどまだッ!!」


 聖は足場が崩れたことで自由落下を開始する。

 運よく溶岩弾を掻い潜った聖は、しかし周囲を見渡すと自分が飛び移れる足場が残されていないことに気付き驚愕に目を丸く見開いた。


「嘘でしょ!?」


 無論、蘭丸が無策で賭けに出るはずがなかったのだ。

 自身に残された少量の魔力を限界まで使用し、冷え固まった火山岩の下にある溶岩を調整、操作。


 それを一気に爆ぜさせることにより空中の足場を一気に破壊して見せた。

 

「既に固まった溶岩を操作することはできなくとも、冷えて固まった溶岩の下にある溶岩自体は操作できる…()()()()()による攻撃までは予見できないだろう!」

 

 聖が空を仰げばその遥か彼方に火の鳥が見えた。

 周囲に飛び移れる足場はない。勿論地面へと降ることもできない。


「魔力供給解除!墜ちろ、土御門聖ィィッッ!!」

 

 魂からの叫びを上げながら火の鳥(らんまる)が降りてくる。

 

 なおも加速を続けるその一撃は、火炎と大気の熱量差によって白い尾を引く。バランスを崩さぬようにまるでスラスターを吹かすかのように空中で軌道を制御。

 右脚をピンと伸ばし左足はしっかりと曲げる。さながらヒーローのような姿勢での空中キックは、逃げ場を失った聖へと一直線で突き進む。

 

 魔力の供給が絶たれた大地は急激にその熱量を失い、黒く冷え固まった火山岩だけのステージへと姿を変える。しかし、既に降りるには遅すぎた。あと零点数秒もすれば、聖が今立つ場所へ蘭丸の魂の蹴りが突き刺さるだろう。

 

「…万策尽きちゃったかな」


 苦しげな表情と共に悔しそうに顔歪めた聖は、直後凄まじい勢いで突き刺さった蹴りにより、冷え固まった地面へと叩きつけられた。

 



個人的な話ですが、一番好きなライダーキックは天才科学者ライダーのボルテックフィニッシュです。最初見たときゲラゲラ笑ってたんですけど、最後の激ヤバ宇宙生物戦で一気に好きになりました。


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