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反撃系男子

時系列がクッソわかりにくかったので、全部直してきました。

3万字の修正作業は流石に死ぬかと思いました。



 夜の校舎の端、園芸部が手掛ける果樹園と畑の中間にて。木陰で丸まって動かない男子生徒が一人。

 心臓の高鳴りが収まったことを確認しつつ、真はコソコソと移動を開始した。


 もちろん園芸部への感謝も忘れない。しっかりと土に向かい深々と礼を垂れる姿は、誰かに見られれば奇行と呼ぶ他ないだろう。


(ふかふかな土を有難うございました。あと、荒らしたみたいになってごめんなさい…これも全部、鎌鼬ってやつの仕業なんだ…!)


 心の中で謝罪ついでに鎌鼬へと罪をなすりつけつつ、真は突風のせいで悲惨なことになってしまった園芸部自慢の畑を後にする。


 (さてと…とりあえず方針は決まった。『電波女の救出』、それが俺に課せられたミッションだ)


 脳内で方針を固めた真はそのまま校舎へと向かわず、校庭の方へと歩みを進める。

 目指すは緊急時に使用される物資が貯蔵されている倉庫である。


(鎌鼬を倒す必要こそないけど、流石に紙っ切れ一枚で挑めるほど俺も肝が据わってねえよッ!)


 この男、恐怖のせいかテンションが狂っている。若干逆ギレ気味に独り言ちつつ、素早くそしてなによりも隠密に気を使いながら校庭へと急いだ。


 真の脳裏では未だに鎌鼬の姿がよぎる。数センチ先に自分の命を容易に刈ることのできる生き物の息遣い、そして獣特有の野生と血の混じった匂い。

 

 震える両足を叩き、震えを抑えようとする…が、覚悟が決まったとはいえ“殺されるかもしれない“という恐怖に打ち勝っている訳ではない。


 一介の学生が抗うにはあまりにも厳しい恐怖に、真は足がすくむような思いだった。


「…流石にあいつ、殺されてないよな?」


 マイナス思考に陥った真の頭を過るのは最悪のシナリオ。


 ゴミのように転がる電波女、その血濡れの()()()()、その様子を想起した真は吐き気を抑えるのに必死だった。


 顔から血の気が引いていくのがわかる。体がひどく冷えていく気持ちが悪い感覚。

 ただ、『そうはならないだろう』と、こんな凄惨は妄想にすぎないと確信には至らないにしても思える理由が真にはあった。


 その証拠とは、いつの間にやら尻ポケットに入っていた()()()()()()()()()()()()()()()()である。


 

そしてそのキューブを凝視すれば、その中で眠ったように丸まっている異形の獣に気付くだろう。



 (これは…多分教室で俺らを襲ってきた鎌鼬だ。多分、きっと、メイビー)


 キューブの中には小さくなっているとはいえ先ほど真たちを教室にて襲撃した鎌鼬と瓜二つ。少なくともこの状況から判断すれば、これは“封印された1匹目の鎌鼬”であると真は考えた。

 

 そして、これこそが真が“電波女は生かされている”と考えるに至った重要な証拠でもある。


(現れた2匹目の鎌鼬は、電波女に『兄弟の封印を解除させる』と言っていた。おそらく封印ってのはこのキューブのこと…つまり、封印状態が維持されている以上、封印を解除できる電波女は殺されないッ!!)


 それをわかっていたからあの女は俺のポケットにこれをねじ込んだのだろう、と真は簡単に推測を立てた。


 思考をフル回転させながら、真は校舎から死角になるような場所を通り移動する。気分は蛇の傭兵である。


 倉庫は校庭の端に設置されており、校庭は西校舎側。真は東校舎の窓から脱出(?)したため、学校の外周を半周する必要がある。

 最も、校舎を横断して校庭へと出ることができるのだが、そんな大胆なことをする余裕が真にある筈もない。


 しかし、この状況で焦らずゆっくりというわけにもいかない。


 何せ推定身を隠すための札は()()()()()……で半分ちぎれてお陀仏寸前。いつ効力が切れて居場所がバレてもおかしくない。

 

 バレれば“死”。その事実が真へと凄まじいプレッシャーをかける。


 血の気がこれ以上引くことはないだろう。息を殺し、気配を殺し、校舎の外周を右回りに、急ぎながらもゆっくりと。


 しかし、その隠密は突如として終わりを迎える。

 木陰や石碑の影を背に移動する真の視界が一瞬で明るくなったからだった。


「…は?」


 困惑から漏れてしまった声と数秒の混乱の後、校舎を見上げると3階の一教室に()()()()()()()()


 (……なんだ、何がどうなってんだ、考えろ)


 急ぎ適当な木陰に身を潜め、真は思考の海へと沈む。


 (電波女はさっき“人祓い”と言っていた。校舎の中に人の気配が全くなかった以上、俺とあいつ以外に他の人間がいるとは考えられない)


 事実として、真が目覚めたときにはすでに校舎に人間“は”自分を含め2人しかいない。つまり、この電気を付けた可能性があるのは…真の思考はフル回転を始めた。


(気絶する瞬間、一瞬だけ見えたけど電波女は少なくとも背中をバッサリ切り裂かれている筈…仮に、仮にだ。あの後に電波女が逃げられていたとして、少なくともこの状況で電気をつけるなんて下策に走る筈がない)


 真の中で答えが出た。消去法で、電気をつけたのは鎌鼬で間違いないだろう。

 しかし、わずか一点だけ。真にとっては解せない点があった。


(……野生動物は一般的に夜目が利くはずだ。普通の鼬だって夜目は利いたっておかしくない…妖怪である鎌鼬が夜目が利かないなんてこと、あるのか?)


 そんなはずはないだろうと真は頭を横に振る。


 と、すれば。


 明らかに“自分はここにいる”という強烈な主張。これをする理由など、鎌鼬にとっては一つしかないだろう。


「あのクソ害獣野郎…ッ!人質を救出しにくるようなバカは簡単に殺せるってか!?」


 まだ学校にいるかもしれない真に対する挑発行為。ここに儂は人質と共にいるぞという強烈なアピールである。

 激昂を抑え静かに怒りを口にする真、コケにされてムカつかないほど真もヘタレていなかった。


 「…冷静に考えればこれは情報アドバンテージでもある」


 自分の居場所を告げるということは真を誘っているということに過ぎない。つまり、封印のキューブを真が所持していることは相手にはバレている可能性が高いが、同時に人質が生きている可能性が格段に跳ね上がったことも意味していた。


 人質が生きていることが()()()()()()()()安堵感とともに、しかし真のなかで沸々と怒りが湧き上がる。


 簡単な理由である。『抵抗する術のない人間程度、人質の生存と居場所程度の情報アドバンテージは無きに等しい』と判断されたとしか思えないからである。


 「…よろしい、ならば戦争だ」


 心の底に巣食っていた恐怖はこの瞬間を以って怒りに塗りつぶされた。

 現在の真の脳裏に浮かぶのは、いかにして鎌鼬に一泡、二泡を吹かせてやろうかという計画のみである。


 浅田真、想像の50倍は負けず嫌いな男であり、逆境には割と強いタイプでもある。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 (一泡吹かせるにしても、準備は必須だ。一旦落ち着かねえと…)


 真は一旦頭を冷やしつつ、この状況は実は好機であると勘付いた。


 しかし、真の足は倉庫へとは向いていなかった。むしろその逆、先ほど脱出した窓へと蜻蛉返りしていたのである。


 現状、真の気配は隔離世の符によってかき消されている。符自体はズタボロとはいえ手で触れると多少痺れる辺り、少なくとも多少の効果は残っていると判断した。


 そのため今ならば鎌鼬に気づかれず、人質になっているであろう電波女の状況を把握することができる可能性が高いと判断したための蜻蛉返り。


 (助け出すにしても、どのように助け出すかを決めるには、どんな風に捕まっているかを判別しないとダメだ……最悪の場合、四肢欠損なんてことも考えられる。倉庫で回収する物を減らすためにも先んじて下見しないと駄目だ)


 真は良くも悪くも中肉中背、筋力も高校一年生の男子の平均と遜色ない。だからこそ、人間一人を担いで逃げる必要があるならば、それ相応の準備をしなければならない。


 そして、それらの作業の時間に追われる必要があると真は確信した。


「……鎌鼬がいつまで電波女を生かしておくのか、それだけは全くわからない」


 このミッションにおいて最も優先されるのは間違いなく“電波女の身柄”である。


 だからこそ彼女の傷の様子や、拘束されているのならばどのように拘束されているか、逃げやすいルートと逃走時のブラフ等等。

 それらの全てをなるべく早く、かつ気づかれずに準備遂行する。


 (シビアなんてレベルじゃねえよ、って……ん?なんだ、これ…?)


 若干言い訳めいた主張を心の中で反芻しながら、先ほど脱出を試み、見事に失敗した窓へと向かう真は、その道中でとある違和感を覚えた。


 ちょうど園芸部の畑に差し掛かる少し手前あたり、剥き出しの地面が()()()()()()()()()()


 深さにして2センチは抉れているだろうか、少なくとも人為的にしか作れないであろう深さの窪み。

 ここはちょうど、先ほど鎌鼬が立っていた位置に近い。


 この痕跡を見た真は、その正体に口角を歪め、不敵に笑った。


「…なるほど、ね」



 それは諦観からくるものでは決してない。心底意地の悪そうな笑顔とも、そしてゲームに攻略法を見出したような無邪気な笑顔とも見てとれる素敵な笑顔。



 (━━━弱点じゃないけど、突破口を1つ見っけたかもしれない)


 先ほどの痕跡によって、真の中では連鎖的にプランが組み上がる。

 “散々に舐めてくれやがった獣様をどういたぶってやるか”を考えながら、真は校舎の窓に足をかけ、勢いよく飛び込んだ。


 飛び込む先は人を殺戮する魑魅魍魎が徘徊する伏魔殿(ふくまでん)

 捕まってるのは、悲しいことにクソほど口の悪いお姫様。

 

 ただ逃げたってどうにもならないなら、こっちも魔王に挑む騎士のように、世界一有名な配管工のように。


 勇猛、そして何よりも果敢に乗り込むしかない。真にそれ以外を選ぶことはできない。




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