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近接系女子




「両者構え……決勝戦、試合開始いィッッ!!」


 けたたましい銅羅の音と、それに負けず劣らずな雄叫びのような合図と共に”極東魔術練技大会”決勝戦の火蓋が落とされた。

 決勝戦に臨む両者の初動は全くの対局であった。

 

(浅田、作戦通りアンタは後退してなさい)

(一切承知……いいんだな?タイミングが確定するまで俺は何が起ころうとも動かないぞ?)

(そういう手筈でいいって言ったでしょ?さっさと戦線離脱しなさいっ!)

 

 試合開始直後、魂接を通して念話が飛ばされ早々に真が戦闘から離脱しようとした、()()()()()()

 

「させない」

「ッ!?」


 早期にチームとして分散しようとする”木”陣営に対して、”火”陣営は対極的に”攻め”の一手。真のすぐ横から聞こえるその声の主は芦屋蘭丸。ここまで試合開始からわずか3()()()()の強襲だった。


 先の試合で見せた炎を用いた高速移動により、蘭丸は真へ近接戦闘を仕掛けたのだ。蘭丸の掌と靴底からは轟々と音を立てながら炎が噴射され、それを天性の体幹と絶妙な放射方向のコントロールを用いてバランスをとっていた。この文字通りの電光石火戦術に、思わず真は仮面の下で目を丸く見開いた。


「速過ぎんだろ!?」

「先の試合で理解した。お前を放置するのは得策ではない、だからこそ早期に仕留めさせてもらう――――焚べた《Verbrennen》薪を糧とし《von Brennholz》、爛々と燃える火種《brennendes Feuer》、『万焼(ユニヴァーフランベ)』」


 素早く携帯していた杖を引き抜いた蘭丸が杖を振るいながら詠唱を済ませると、焔のように赤い魔法陣が展開し、小さな炎の塊が数個飛び出す。

 生み出された小さな火種は暫く蘭丸の周囲で舞った後に、まるで意思を持っているかのように真へと飛来する。


「っ、轟け『雷上動(らいじょうどう)』!……うぉあッッ!?」


 ”今までの経験上、この小さな火種ですら命の危機になりうる”。そう判断した真は、咄嗟に雷上動に蓄積された電気を放出する。

 装飾もない地味な弓籠手に雷が疾る装飾が浮き上がると同時に多数に分岐した電撃が宙を駆ける。電撃と火種が衝突した瞬間、小指の先程度の大きさだった火種は凄まじい威力で()()し、真を爆風で包み込みながらコンクリート片による煙を巻き上げた。

  

 爆発の震源地、そこに溜まった煙が晴れると、そこには()()()()()()


 しかし、熱量で僅かに焦げ付いたコンクリートの地面には僅かながら血痕が残っており、戦線からの離脱には成功したであろう真も無傷ではないということが暗に示されている。

 

「シン…っ」


 一瞬のうちに作戦が瓦解した聖が僅かな動揺を見せるが、しかし目と鼻の先に立つ蘭丸へと瞬時に警戒を向ける。


 しかし警戒された当の蘭丸は僅かな驚愕の表情を見せていた。確実に仕留められると考え初動で真を落としにかかったが、現実は見事に真を取り逃がし、ダメージをどれだけ与えたかもわからない状況。


 しかし、”この状況”はむしろ理想的だと考え直し改めて聖へと向き合う。

 

「逃したか…まあいい。奴の奥の手の電撃は使わせた、どの程度かはわからんが怪我も負わせた。これで土御門聖、お前と一対一だ」

「……上等。元からこちとら一対一(サシ)でやりあうつもりだったの、よッ!」

 

 会話を遮るかどうかのギリギリのタイミング、会話の合間に手に仕込んでいた符を投擲する。打ち出された符は、蘭丸の術式とはまた異なるイルミネーションのような紅い光の尾を引きながら、バチバチと雷を纏い空を突き進む。

 

 当然のように蘭丸も聖の攻撃と同時に動きを見せる。靴裏から火を噴出し僅かに飛翔すると、ジェットエンジンを想起するような異音を発しながら、姿勢制御の為に掌からも火を放ち華麗に宙を飛び回る。滞空した蘭丸は追尾する符を立体的な機動により巧みに空中で躱すと、次は一転攻勢と言わんばかりに聖へと猛進する。


(追尾符を立体的な動きで躱すとかどんなバレルロールよっ!?)


 現代の戦闘機もかくやと言った様子の華麗な空中機動で攻撃を躱された聖は、内心焦りながらも迫りくる蘭丸に備え素早く物理結界を展開する。空中に解けるように符が消失すると淡い緑色の結界が聖を覆い尽くした。


 

 しかし、次の瞬間に聖の耳が捉えたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「――嘘でしょ?!」

「想像よりも脆いな」

 

 照らす光を受けてキラキラと、ステンドグラスに使われるような色付き硝子の如き結界の残骸が宙を舞い、空気に溶けて消えて逝く。僅かに呆けた数瞬後、聖は自身の結界を易々と破壊した攻撃を理解した。

 

 それは”ただの蹴り”であった。

 

 空中へと移動した蘭丸の炎による加速と重力加速度の乗った蹴りは、瞬時に構えた物理結界をいとも容易くぶち破ったのだ。

 結界を蹴破った蘭丸は物理結界によって”僅か”に減速した後、掌を正面へと向けて逆噴射し、速度を完全に殺し着地する。縦横無尽に飛び回った蘭丸の体にGによるダメージは見えない。強引な着地や無理な姿勢をとったのであれば体幹や仕草に何らかのサインが出てもおかしくはないだろう。

 

 しかし、聖が見る限り蘭丸は一切のダメージを負っていない。その表情は未だ能面のように不動であり、冷や汗の一滴すら見当たらない。この状況すら全く問題なく平常とでも言わんばかりの態度、それは最早”不気味”の域だった。


 この3分にも満たない戦闘の中で、聖は嫌という程理解した。

 

(……()()()()()()()。どんなに工夫を凝らしたとして、芦屋蘭丸を降す方法が思いつく気がしない…ッ!)

「正直に言おう。土御門聖、お前を相手にする上で”サラマンダー”を呼び出す必要は全くない。だからこそ、お前が最も苦手とするであろう近接の戦闘をさせてもらう」

 

――これが、若手魔術師で最強の男。

 

 この余裕。この態度。聖は無意識の内に瞼の筋肉を痙攣させていた。

 それは舐めたことを言った蘭丸に対する怒りなのか、それともこの圧倒的不条理からくるストレスなのかは本人すらわからない。

 

 しかし、だからこそこれだけは聖は覚悟した。


「…いいじゃない、それは大変結構よ」

「ほう?」

「アンタはね、今こう言ったのよ。『本気を出さずに負けてやる。どうぞご自由に俺を叩きのめしてください』…てねッッ!!」

 

 『やられたらやり返す』。

 

 それは奇しくも、若しくはあえてだろうか。彼女の式神のスタンスと同一。恐らく蘭丸に挑発の意図はカケラもないのだろう。彼女にとってはなんたる侮辱、なんたる屈辱!そしてなによりも、この男が聖を注視するならば、それだけ()()()は勝利に近づくことができるのだ。


 符術による遠距離戦から戦闘スタイルを近接格闘へと切り替えた聖は、ボクサーのような構えと軽やかなステップを踏みながら蘭丸の動きに最新の注意を払う。

 

(近接戦闘?……上等!別に苦手なわけじゃないのよ!)


 聖の身体能力は決して低いものではない。

 少なくとも蹴りの一撃で”自称”一般男子生徒(あさだまこと)を気絶させられるほどの格闘センスと、女性特有の筋肉の柔軟性を合わせた彼女の近接格闘は、そこらの格闘家と張り合うのに充分と言えるほどの完成度を誇る。


「燈は燃ゆ《Licht brennt》、しかし我が身を焦がさず敵を焼く《verbrennt aber nur Feinde ohne mich zu verbrennen》、装燭の魔鎧(フレイムエンチャント)


 しかし蘭丸も油断をする男ではない。獅子である彼は慢心をせず、ただ確実に目の前のウサギ(ひじり)を狩ることに注力する。

 魔術詠唱によって幻出した二つの魔法陣から吹き出す焔が蘭丸の腕を勢いよく燃やした。一見すれば自殺行為にすら思えるその光景は、しかし一向に蘭丸が苦しみの声を上げないことで、魔術として”正解”であると周囲を理解させるに十分だった。

 

 「装飾(エンチャント)系の魔術、か。ホント嫌になるほど器用な奴…っ!」


 先程まで見せていた炎が赤色だったのに対し、装燭の魔鎧によって蘭丸の両腕をコーティングしている炎は見事な()()。炎は温度を上げることで色を変化させることは広く知られているが、先程までの赤い炎が約2000度前後だったのに対して白炎の温度は約6500度とその3倍を超える。

 掠っただけでも火傷するであろう焔纏う拳を前に、聖は背中に嫌な汗をかいている事を自覚した。

 

「容赦はしない」

「上等、ッ!」

 

 轟っ!といい加減慣れ始めたジェット噴射の異音と共に両者の物理的距離は急激に縮まっていく。

 

 細やかなステップを刻む聖に炎を用いた高速機動で蘭丸が肉薄。ジェット噴射によって加速した右拳を、普段よりも距離を取って回避した聖が不敵な笑みを浮かべた。

 ボクシングのような腕の構えを解くと、回避の勢いを利用して一回転。鋭い回転回し蹴りが蘭丸の胴体めがけて振り抜かれた。


(キックボクシング…!?)

 

 女性の体重は男性に比べて軽い。加えてトレーニングをしても筋肉もつきにくい。だからこそ女性のパンチ力は男性を凌駕するのが難しい。しかし、腕の筋肉と比較して脚の筋肉量は3倍、つまりパンチと比較してキックは3倍の威力、女性であってもキックの威力であれば十分となりうる。

 


 故に、彼女の近接格闘のスタイルは、女性故の体重の軽さを補う”キックボクシングスタイル”。

  

 

 気付いた時には時既に遅し。人一人悶絶させるのに十分な威力の蹴りが、蘭丸のガラ空きとなった胴体に突き刺さった。そのままの勢いで顔面めがけて脚を振り抜こうとする聖に対して、蘭丸は燃えた手で横腹を抑えながらもジェットを後方へと吹かして素早く距離をとった。


 先ほどの挑発、構えを偽ったボクシングスタイル。聖は自身の行動の節々に少しずつブラフを張り巡らせていた。小さな罠で相手を絡め取る、蜘蛛のような戦い方はどこかに彼女の相棒を想起させる。

 

 (あいつならここでこんな事を言うだろうな)

 

 そんな事を思いながら、()()()()()()()()()()を浮かべて、未だ脇腹を抑える蘭丸に対してこう言い放った。

 

「――さっさと本気出したら?」

「っっ〜〜〜!!」


 蘭丸の顔に張り付いていた無表情が剥がれ落ち、歪んだ。

 


 

 

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