舌舐めずり系少女
聖は結構薄いですが、雫ちゃんはこんもりしてます。
ラーメンに例えると雫ちゃんは二郎系で聖はあっさり博多とんこつです。あいつあっさりを自称してるけど意外としつこいからね。
「じゃあ管制は任せたっ!」
「了解した!」
雫から一旦距離を稼いだ聖と真は再び二手に分かれる。先ほどの近接での術式の応酬を警戒したためか、聖は頑なに雫の10m以内には近付かずにミッドレンジに符を飛ばし牽制を続ける。それに対して雫は的確に《夢幻なるカドセウス》を操作し、2つの水球を変幻自在に操り雷撃を受け流す。
雫も雫で聖に近づき難い理由があった、それは真の存在である。
近接警戒で聖が適宜気配を隠蔽し、雫の視界外へ逃れようとしている中、更に元々いつの間にやら別の位置へ移動している真を頭の隅で把握しなければならない状況。オールレンジの一撃で沈めるにしても、それができない理由が雫にはある。
(蜃は霧を司る妖怪、霧による妨害は意味がない。さっきも霧を媒体にした探索系魔術のどれにも反応しなかった)
未だに勘違いで真を蜃だと思っている雫はチャックメイトを模索する。先ほど真が探索術式から逃れ、防ぎ切れたとはいえ不意の大技を食らってしまった雫は、余裕ぶっているものの実際の残魔力量はほとんどない。
陣営の代表としての彼女は『勝利は余裕であった』という態度を示さなければならない。それが”水”陣営に求められる他陣営への示である。『”水”陣営は健在、かつてよりも強大なり』と大手を振って主張できるようにする、それこそこの大会に雫が選出された理由であるのだから。
(その点、聖姉が新戦力と新術式を引っさげて出てきてくれたのはラッキー。さっきの『枝垂藤』含め、強くなった”木”陣営をそれでもなお完封で勝利した実績は”水”陣営にとってもかなりプラスになるはず)
だからこそ、スマートに勝つ。
この勝負において勝利は大前提。ここからは少ない魔力をやりくりし、所謂”魅せプ”をしなければならない。
現状、既に広域に術式を使用することは不可能。しかも真は霧にまつわる妖怪、自力で霧を発生させられた場合、攻め手に欠ける現状では泥沼の戦闘に陥る可能性が高い。
「――兎に角、霧を生み出す前に確実に動きを止める」
「なぬぉをっ!?」
だとすれば、自身に取れる選択肢は速攻だ。
そう考えた雫は軽やかに杖を振るう。真の全天周囲を取り囲むように水色の魔法陣が現れ、真が慌ててそこから離れるため魔法陣へ触れると、物理的衝撃を伴って弾き返しそこから逃げることを赦さない。
「Die Umarmung der Mutter《母なる抱擁》, vom Leiden zum Schlaf《苦しみから眠りへ》, fallen《落ちる》, fallen《陥ちる》,fallen《墜ちる》. Der Atem wird zu Schaum, die Seele zu Blässe《吐息は泡へ、魂魄は蒼白へ》――水の牢獄は貴方を捉えて離さない」
「ッ!」
詠唱によって魔法陣が起動すると、周囲を取り囲んでいた魔法陣から一斉に水が吹き出す。そして《カドセウス》の片方がその水を取り込んで2mほどの水球となり、真を呑み込んだ。
温情なのか、首から上は水の外に出されている。見ようによっては間抜けな雪ダルマならぬ水ダルマだ。
「蜃は永い時を生きた貝が変性した妖怪だから溺れない…だからこのまま水分子の活動量を低下させて冷凍する。今日の祝宴のメインはデッカい貝のボイル蒸しに決定…♩」
「こっわ!お主、人型の生き物に対して躊躇なく食欲を沸きたてんなよっ!」
まさかの雪ダルマコース決定である。
頬を少し赤く染めて舌舐めずりをする雫。その動作に中学生らしからぬ色気こそあるが、その本質は色気より食い気、今だに真を貝の妖怪だと思い込んでいるがゆえに、勝った後の祝宴のため、真をこのまま冷凍保存しようと水分子の運動に魔力を介入させる。
一方、ガチの捕食者の視線を浴びせられた真は2つの意味で震え上がっていた。
(冷った!?徐々に水温下がってるんですけど!?)
しかも水球の表面が徐々に凍りついていき。冷気から来る靄が次第に発生する。当然そんな水球に囚われている真も無事な訳はなく、低下していく水温に体を震わせた。
「シンっ!!」
「《夢幻なるカドセウス》…reboot。悪いけど、完全に凍てつくまで聖姉は近付かせないよ」
慌てた様子で真へ近づこうとする聖に対して、改めて展開した2つの水球がその銃口を向ける。射程に入ろうものなら鉄すら穿つ一撃で粉砕される状況に、聖は厳しい表情で足踏みせざるを得ない。
雫を中心に2分された聖たち”木”陣営、さながら拘束された真がお姫様、それを助け出そうと奮起する聖は騎士。それを阻む魔王が雫、と倒錯した状況である。
そんな似合わぬお姫様役、悴みで次第に鼻水が垂れ始めそうな真にハッとして雫が尋ねた。
「…………あ、その前に最後に言い残すこととか聞いときたい。わたし、一度でいいから映画の悪役ムーブしてみたかった」
正面の聖に向けた砲撃は緩めずに、どことなく的外れな質問をする雫に対し、 ”この期に及んでそれかよ”と寒さに歯をカチ鳴らしながら耳を傾ける真。
流石にツッコミをする余裕も時間もない。そもそも、この時点で既に勝敗は決しているのだから。
「――――この弓籠手の銘は『雷上動』。主人はそう銘打ったが、それはあくまで縁担ぎみたいなもんでな。さてちびっこグラマラスガール、一つ問題だ」
「む、この妖怪、めっちゃ助平。食べるのちょっとヤかも」
「『枝垂藤』。あれだけの極太雷を食らってお主は兎も角、どうして儂は無事なんだろうな?」
「それは私が電気を全部拡散させたからで……ッ!!?」
確かに『枝垂藤』を防いでいた際、厳密にはウォーターヴェールはその凄まじいエネルギーに耐えきれていない。雫が蒸発した側から水を足し続けていたからウォーターヴェールは原型を保っていた。それはつまり、電気がその抵抗率の高さにより熱に変換されていたことを意味する。
しかし雷とは異なり、数秒間も照射された雷のレーザーが高々10cmの厚みの水の膜だけで全てのエネルギーを受け流しきれるのだろうか。
「気付いたか。抵抗率が高かろうと電気が急にどこかに消えることはない。抵抗の低いところへ向かうか、もしくは別のエネルギーになって電気としての性質を失うか…だが少なくとも、お主の足元や周辺のコンクリート柱に雷撃の一部が逸れていてもおかしくはない、よなあ?」
(……ッ、それは…そう。でも実際、周りの被害は全くない!!)
後の祭りである。その通り、あえて真が拘束された時点ですでに勝敗は決しているのだ。
『――さっきのぶんで『雷上動』に蓄積できる電気は上限に達してるわ。私が本命と見せかけて囮をやる。その間にアンタは何が何でもどんな手でも使って、あの水玉に腕突っ込んで思いっきり放電しなさい』
『…!へえ。で、勝算は?』
『知ってるでしょ?私は勝てる勝負しかしないのよ』
主人の言葉を脳裏に反芻しながら。凍りついていないはずの雫が顔面蒼白になって行く様を眺めながら。
そして、聖を真似て怖いくらいの作り笑顔を浮かべながら真は叫んだ。
「というわけでネタバラシ!轟け、『雷上動』ッッッ!!!」
「ッ、キャアあッッーー!!!!」
『枝垂藤』をほぼ全て吸収していた雷上動がそれと同色に眩く発光すると同時、表面が半ば凍りついていた水球は、その凄まじい電力に耐えられず爆散、周囲に細かく鋭利な氷の礫をさながら散弾銃のようにバラ撒いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「主人があえてお前さんに見える位置で耳打ちしたのは、真打が自分自身であると誤解させるためのブラフ……まあ雷上動の性質を隠し通したかったが、負けるよりかはずっと良いわな」
再び白一色に染まり返った結界の中で、真は淡々と、今までの作戦を独白のように明かす。
”白く染まった”とは霧ではなく、推定1t以上の水を無理やり電撃で爆発させ、かつ一部をその莫大な電力から変換されたジュール量で強引に水蒸気に変えたもの、つまりかなり生暖かい水蒸気である。
雷を圧縮した凄まじい電熱により水の牢獄は完全に弾け飛び、周囲に散った大量の水が雨のように降り注いだ。水は電気から変換された熱量により一瞬で温められ、湯気立つほどのシャワーのような温度に変わっている。
「儂…いや、儂たちの勝ちだ」
「むう〜っ、むう〜〜っっ!!」
そして、そのシャワーのような温水雨の中心で見事に真が雫を組み伏せていた。水の牢獄に最も近かった雫は、爆発によって散弾の如く散った氷の礫をモロに浴びてしまった。
日頃の鍛錬の成果か、ギリギリで防御術式子そ展開できたが、魔力量や展開時間の観点から強度不足、致命傷を避けはできたが、地面に倒れてたところをそのまま真が拘束した。
腹ばいになって倒れた雫に、マウントを取るような体勢。そして雫の腹部には『雷上動』が添えられている。未だ残電力を残した『雷上動』は先ほどの電撃のスパークをまだ微かに纏っていた。この状況であれば、少なくとも雫が魔術を詠唱する速度よりも真による電撃の方が何倍も早い。
”いつでも放電できる”と言う意思表示に、雫は悔し涙を浮かべながら唸る。
中学生の年相応の部分の露呈に真はいつも通り、”やられたらやり返す”の精神の元、にこやかな笑顔を作って決めセリフを吐いた。
「――奥の手は最後まで隠してあるから”奥の手”って言うんだぞ、津守雫ちゃん!」
「〜〜〜っっ!!屈辱っ、いつか調伏してやギャんッ!!!」
真の露骨な意匠返しに苛立ちと悔し涙を浮かべた雫は、捨て台詞を言い切る前に露骨に加減された電撃を食らって気絶したのだった。
こっからの展開考えてたら矛盾が見つかったので、ちょっと色々考え直す時間もらいます。
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