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超絶パワー系女子

実は忙しいので、次いつ投稿できるかわかんないっピ。

許して欲しいっピ!

 

 


 雫のその号令を合図に、金属すら切断しうる高圧のウォータージェットが束となって聖の結界を貫かんと射出された。高圧のジェット噴射の中には無数の鋭利な氷の針が含まれ、もしも直撃すれば全身串刺しは避けられない。

 

 結界内部は凄まじい数の砲撃により、ガラス同士をカチ合わせるような耳障りな高音が煩いくらい反響する。

 

「…ッ、この威力は、絶対にマズい?!」

 

 結界に叩きつけられる高圧水流の乱打に聖と共に結界が悲鳴をあげる。

 ガラスが軋むような音と共に結界には次第にヒビが入っていき、次第にヒビが結界全体へと広がり、結界の破片である緑色の光の粒子が宙に散っていく。

 

 見るからに結界の耐久限界が近い。一歩間違えれば全身串刺しの針山になる可能性に、聖は冷や汗を垂れ流した。


「このっ…!」

「このまま仕留める」

 

 聖は崩れかかった結界を補強するため、再び地面へと追加の符を投擲する。符が地面で弾けると逆再生かのようにヒビ割れが修復されていき、堅牢な城壁に戻った結界が四方八方から襲い来る雨霰の散弾から術者を護る。

 

 結界の修復を確認した雫は、少しムッとしながら術式の射出頻度を上げる。

 次第に氷針が結界表面を打ち叩く音のBPMは上がっていき、激しいドラムビートの如き猛攻に聖は結界内で静かに冷や汗を垂らした。

 

 しばらくの乱射の後。

 深い霧の中で、聖にとっては永遠に感じるような時間が過ぎ、漸く人を殺しうる豪雨が止まった。

 

「……術式再装填開始。むう〜、姉、粘り強い」


「はあーっ、はあーっ…そりゃね、このくらい、余裕よ余裕」


 軽い口調に反し、聖は息も絶え絶えで嫌な汗を全身にかいていた。

 先の攻撃での経過時間はたったの1分。しかし、想像よりも高威力の弾幕に結界を削られていた聖からすれば、精神的な体感時間はその数十倍に感じているだろう。

 

 しかし、これで結界が壊れかけるたびに修復しそれを氷の針が貫かんとまた破壊する、そのイタチごっこのように続いた雫と聖の矛盾対決は一旦のお開きになった。

 その証拠に空中に浮いていた数多の水球は既にその姿を消している。生成した水球分の水を全て使い切ってしまったが故に術が打ち止めになっていた。

 

 つまるところ、聖にとっては絶好の反撃チャンス。

 

 素早く腰のポーチから5枚の符を抜き取り魔力を注入、不活性状態だった術式に魔力を流すことで術式が活性化。発動待機に入った符から漏れる魔力が紅いスパークを形成し、濃霧を赤色に照らし出す。

 

(霧に混じった雫の魔力のせいで探索術式が誤反応を起こしまくってる。これじゃ正確な位置は特定できない……)


 雫の魔術によって生成された霧には、術者の魔力がふんだんに混ざっている。それがある種のジャマーとして機能し、本人の位置を完全に隠していた。

 そして肉眼に関しても酷い視界不良。さらに高湿度状態では符がすぐさま湿気てしまい、電撃を雫に直撃させることは非常に難しい。

 

「だったらッ!」

 

 聖は短くスカートの裾をはためかせながら、軸足を立てて華麗に一回転し、等間隔で5方向に一枚ずつ符を放つ。等間隔で五方向に放たれた符は空中で紅いラインを引いて霧の中を突っ切って飛んでいった。


「”下手な鉄砲数撃ちゃ当たる”、諺が間違ってた試しはないわ。攻性術式、紅種『蒲公英(タンポポ)』!一発くらい掠れッッ!」


 どおん、と腹の底に響くような()()()が響くと、赤一色花火が地上で5つ咲いていた。

 術式の宣言とともに5枚飛ばされた符は花火のように、あるいは綿毛を蓄えたタンポポのように球状に爆ぜ、その威力で霧が一時的に吹き飛ばしたのだ。

 

 ”濃霧で視界が封じられているのなら、範囲制圧のできる一撃で確実に当てればいい。”。実に脳筋な戦法だが、その一手によって聖は攻撃しつつ視界不良を解消したのである。


 

 しかし。

 

 

「――Mutter Ozean《母なる大海》 、hält mich vom Schmerz fern《痛みをはねのけ遠ざける》。この程度の爆発くらい、簡素な防御術式でよゆー」


「…この程度の爆発って、生意気(ナマ)言ってくれるわね」

 

 雫はその爆発を、ほんの軽く杖を振るっただけの簡素な防御術式で完全に防ぎきっていた。そしてナチュラルに煽りを吐くと聖の表情に苦笑と微かな怒りがチラついた。

 

 しかし、聖の表情はまた一転することになる。いつの間にやら自身の周囲に浮かぶ、大量の水球に気付いた為だ。その数は大体の目算で、先ほどの倍以上。

 それはつまり、単純に考えれば先ほどの2倍以上の威力での水砲乱射が行われることを意味している。

 

しかし二点だけ先ほどと明確に異なっていた。

 それは氷の形状とそのサイズ。先ほどまでの氷は精々が裁縫用の針程度の大きさだったが、今回水球の中に浮いている氷は鉛筆大。しかもその形状は流線型を描き、貫通性能を露骨に上昇させている。

  

「Spritzer《飛沫》、Regentropfen《雨霰》、Nadeln aus dünnem Eis《薄氷の針》。Die Welt bildet mich《世界は私を》 auf der Wasseroberfläche ab《水面に写す》…次の一撃は絶対に防がせない。これで新しいお姉ちゃんゲット、ブイブイ」

 

 防がせないと豪語するだけあり、次の一撃で確実に聖を負かす算段があるのだろう。それに裏付けされた自信が勝利宣言と共に両手でピースをかます、その本人の態度からもありありと感じられる。


 「…やっべ、これ撃たれたら私の負けじゃない」


 「これで詰みでしょ、()()()()()()?」

 

 自分の置かれている状況を呑み込んだ聖は冷や汗を垂れ流し、極度の焦りから目の縁を痙攣させていた。

 

 それを見、改めて自身の完勝を悟った雫は、珍しく満面の笑みを作って聖に笑いかける。それは”新しい姉ができる嬉しさ”が作る無垢な笑顔。雫に全くもって悪意がない分、聖にとっては何よりも屈辱的。

 

 うな垂れるように俯いた聖は、ポツポツと、覇気のない声で話し始める。

 

 「はあ…そうよ、ええ、詰み。これは()の負け、ね」


 「ふふん、いえーい」


 「――でもね。()()()はまだ負けてないのよっ!!

()()()()()()()()()()ッッ!!」


 「っ!?」


 うなだれていた様子から一転、凶暴な笑顔を作って顔を上げた聖が雫に向かって叫ぶ。厳密に言えば、雫の背後で()()()()()()()()()()()()相棒に対して、聖は指示を飛ばした。


 

 「待ってませんでしたァ!」

 


 いまいち締まらないセリフが雫の背後から聞こえた。

 雫が素早く後ろを振り向くと、その背後10m後方程には(シン)が立っている。しかしその立ち姿は少し異様、なにやら腕に巻かれた弓籠手を聖の方向に突き立てていた。


「ありえない!霧に織り交ぜた探索術式で周囲の状況は逐一把握してたっ!」


「知ったこっちゃねえよ、魔術は儂の管轄外なんでねッ!」

 

 驚愕に目を丸くした雫に事実のみを伝える(シン)。実際、なんで探索術式に引っかからないのかはこの場の誰も理解できないし解明することはできない。

 ”ただ影が薄いだけで潜伏している”という事態を誰も魔術的、科学的な観点から解明することは不可能なのだから。


 充満していた濃霧を利用して身を隠し、魂接による聖へのナビゲーションとによる位置の微調整、そして視界を完全にクリアにし、()()()()()()()()()()()()()()()()

 事前に作戦を組んでいた通り、この最高のタイミングで真が満を持して姿を晒した。


 真と聖はずっと意思疎通をしていた。そもそも2人は視界不良だろうと関係なしにお互いの感覚を微弱ながら共有しているのだから。何より魂接による副産物である念話を視界不良の状況で使っていないはずがない。


 つまるところ、今までの聖は雫を誘導しこの状況を意図的に作り出すために、雫に対してあえて敗北を匂わすような演技をしていたのだ。


(土御門、それで俺はここから何をすればいいんだ?)


(何もしなくていいわ。アンタはそこで()()()()()()()()()()


 しかし作戦の全容を真は知らない。頑なに聖が教えなかった。


 聖が突き出させた真の腕に装備された弓籠手の銘は『雷上動(らいじょうどう)』。

 鵺狩りのために聖の手によって作成されたそれは、鵺を射殺した武者が用いた大弓の名を冠しながら、身を守るための防具であった。しかし、それはあくまで見た目が籠手であるということ。一見防具でしかないそれは、電気を吸収蓄積し、自由に放出することができる特性を持つ。

 

 ではなぜ装備している本人は感電しないのか、それは非常に簡単な話である。

 答えは、避雷針のように『雷上動には()()()()()()()()()()()()()』ためだ。



 そして、雫は今―――丁度、聖と真の()()()()に立っている。



 つまり指向性など気にせず、完全に威力のみに特化した術式であっても、絶対かつ確実に雫を捉えることができる。

 

「私の全身全霊を以って、雫。貴女を倒します。だからこそ、私が使える中でも最大最高、そして最強な、超絶火力の術式をお披露目させて戴きます」

 

 聖は改まった口調で淡々と雫へと言葉を告げると、即座にポーチからありったけの符を取り出す。

 その合計枚数は20枚、その枚数たるや実に『彼岸花』の4倍。しかしこれから使用する術式は()()()()()()を抱えている。

 

 威力が自然災害レベルな為、聖の制御を完全に受け付けず何処に飛んでいくかわからない。だからこそ、絶対に避雷針(まこと)が必要なのだ。

 

 莫大な電力を魔力から変換生成する過程で、符に込められた大量の魔力の余剰分はスパークとなり、辺りに未だ残る薄霧を赤く照らす。それはこれから起こるであろう自然災害級の惨事に目をつぶれば、心を震わせるような非常に美しいイルミネーションだった。

 

 「――完全威力特化、私の最大最強火力をとくと味わえ!攻性術式符、真紅種『枝垂藤(シダレフジ)』……これでお終いッッ!!」

 「躱っ、…間に合わないッ!!」

 「……あ、えっ、俺ごとブチ抜く感じなのっ!!!??」

 

 威力特化型攻性術式符、真紅種『枝垂藤』。


 その威力は自然界で発生する雷に匹敵する。そして雷の電圧は1億ボルト、一家庭分の電力を1ヶ月以上、優に賄えるほどのとんでもない電撃。

 激しい稲光、次いで大気を震わす轟音。その衝撃は周囲に浮かぶ水球を霧ごと吹き飛ばし、霧で隠れていた驚愕に目を丸くする雫の表情を聖にくっきりと明らかにする。

 

 

 そして本命。極太レーザーの如き紅き雷が、()()情けない悲鳴をあげる()の2人を呑み込んだ。




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