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水々しい系少女

実は忙しいので、次いつ投稿できるかわかんないです。

…それって、不定期投稿ってコト!?ワッ…(ちいかわ)




 荒々しい銅鑼の音が11時の時を告げる。それは決闘の始まりを告げる合図。

 

 12対のオベリスクによって囲われた直径100mの特設リング、オベリスク同士を起点として生成された特殊な結界は、表裏面に対する超硬度な防御性と結界内の人間の受けたダメージを記録し、結界の外に出るか若しくは結界の解除によってにダメージ自体を”なかった事”にする特殊な概念形成結界である。


 つまるところ、以前土御門が百目鬼戦で使用した藁人形デコイの完成版のような性能をした結界であった。


 その結界の内に3人の人物が立っていた。


 1人は”木”陣営代表である土御門聖、2人目はそのオトモとして参加させられている聖の式神、浅田真(シン)


 3人目、その2人に対峙するのは”水”陣営、津守家代表の津守雫。


 参戦をギリギリまで隠されていた今大会における津守家の隠し球である。その小柄で小動物のような可愛らしい容姿は土御門聖と比較しても幼く見えた。それもそのはず、年齢が年齢でなんと本大会最年少の15歳の中学生。


 普段通りの改造巫女服スタイルの聖とは異なり、少しダボついたTHE魔術師といった雰囲気の藍色のローブを羽織っているが、一部が中学生らしからぬ()()()、体を半分以上覆うようなローブの上からでもはっきりと主張していた。

 

 垂れ目気味の瞳からは少し眠たげな印象を受け、これから致死に至るような戦いが始まるというのに、その立ち振る舞いは余裕すら感じる。この余裕は生来のものなのか、それとも単純に”木”を舐め腐っているのだろうか。


「…まさか本当に雫の方が出てくるとはね」

「俺…じゃなくて、儂が持ち帰った情報が信じられなかったってのか?」

「そりゃね。あのシスコン男が文字通り自分の命よりも大事にしている妹をこんな死と隣り合わせの大会に出すとは思えないし……」


 どうやら蒼のシスコンは相当有名だったらしい。


 とはいえ、しかし。

 聖から見ても目先に立つ少女はどこからどう見ても津守雫に間違いはない。過去に何度も顔を見たことがある。というか、むしろ歳が比較的近いこともあって2人の仲はいい方である。

 昔から自分を姉のように慕ってくれていた少女(しずく)の、その眠たげな()()()は確かにまっすぐ聖だけを見つめていた。

 

(……だからこそ不気味。あの策略モンスターの津守蒼がこのタイミングで妹を出陣させた。つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という算段があってこその参戦…)

 

 真がギリギリ取り繕っていた化けの皮が剥がれるほどの衝撃を受けた蒼のカミングアウトは当然聖にも伝えられている。そして、真よりも蒼に対する理解があるからこそ、その思考が全くもって理解できないからこその警戒。

 

 「なあ、そこな少女や。なんでお前の兄ではなく、お前さんが戦うんだ?儂としても少女の顔に傷をつけて楽しむような趣味はないのだが」

 「…? (あに)、私より雑魚。私の方が蘭丸に勝てる見込みあるから私が出た。何かおかしい?」


 聖が思考に耽る中、その隣で聖が何かを探っていることに感づいた真は、おそらく聖が考えているであろう疑問を雫に投げかけた。

 回答は想像よりも淡白。しかし抑揚の浅い声で帰ってきたその回答に、聖は耳を疑った。

  

 「シン、初っ端だけど”対芦屋蘭丸用”の作戦を切らざるを得ないかもしれないわ」

 「マジ?そこまで?」

 

 津守蒼は確かに政治力を買われて当主をしているが、だからと言って弱いわけでは決してない。そもそも前大会で聖を打ち負かしたのは他の誰でもない――()()()なのだから。


 「つまり、あのトランジスタグラマー中学生はお前を負かした兄よりも強いってわけか。それなら確かに警戒を強めるに越したことはないな」

 「中学生の胸元をガン見なんてトンだ性犯罪予備軍ね、これ終わったら警察に突き出しましょうか」

 「酷くない!?事実じゃん!!?」


 油断しているのか警戒しているのか、2人が普段通りの漫才じみたやりとりをしていると再び銅鑼が鳴る。けたたましい音が閉じられた空間上にくまなく響き渡れば、巨大な地下空間がしんと静まり返った。

 しばらくすると結界の外から、”大会運営委員”の腕章をした男が声を張り上げた。


 「これより第一回戦。”水”陣営、津守雫と”木”陣営、土御門聖の対戦を始める……両者構えィ!!!!」


 それを合図に、ピリリとした衝撃が疾って空気が変わった。それはおそらく緊張感ではない、そして今までに妖怪どもからさんざ浴びせられた殺意でもない。

  これは明確な()()だと真はある種確信を抱いた。

 

 「…私は(あに)のことあんま好きじゃない、でも聖姉は私の姉になってほしいと思った…ダメ?」


 巻き舌うざいし一々ベタベタしてきてうざいし…と付け加える雫。外野から優男の断末魔が聞こえた気がするが、誰も気にしていない。ここはまさしく、これから凌ぎを削る3人だけの空間であった。

 

 「そうですか、じゃあ雫のお姉ちゃんになったげる♡――――なんていうわけないでしょう?あんまり雫を傷つけたくはないんだけど……倒させてもらうわね!」

 「勝負、開始ィィっっ!!!!」


 けたたましい3度目の銅鑼、その聞き逃しようのない(あいず)と共に、戦闘開始の合図が声高々に告げられた。その合図を皮切りに向かい合っていた両陣営は素早く後方へと後退し、相手の術式の適性外距離へと距離をとる。


 「じゃあ作戦通りにやるわよ」

 「了解」


 ”木”陣営サイドでは、聖が事前に用意していた策の発動を真へ耳打ちしていた。それを聞いた真は、特に慌てるわけでもなく聖の背後へと回り、さらに雫から距離を取る。

 とはいえ、柱が立ってはいるものの開けた空間で、隠れるわけでもなく大胆に後退する真を、警戒心を張り巡らせた雫が見落とすわけもなかった。

 

(――あの式神、いきなり大胆に後ろに下がった。挟み撃ちをするにしても、不意打ちにしてもバレバレすぎ。やっぱり兄が言ってた通り、あの式神は戦闘要員ではなく聖姉のサポート…警戒レベルは下げても問題なし)

 

 事前に兄である津守蒼から聞いていた通り、”シン”と呼ばれていたあの式神には、直接的な戦闘能力は皆無である。

 そう判断した雫が、懐から取り出したるは50cm大の白樺の杖、先端に青い宝石が取り付けられてたそれは美術品のような気品を漂わせる。そして、そのまま雫は聖を視界の中央に捉えながら素早く杖を振るった。

 

 「Mutter Wasser《母なる水》, die Rettung《救済》, die Zügel des Lebens um die Menschen herum《ヒトを巡る命の手綱》. Umhüllend, nährend《包み 育み》, sanft umarmend.《抱擁せん》――我が肢体、覆い隠すは水の羽衣」

 「っ先制攻撃!詠唱妨害は…間に合わないか」

 

 雫が歌うように言葉を紡げば、振るう杖の軌跡に青い光の筋が生まれる。

 その光の線は次第に幾何学模様を描き出し、1つの巨大な魔法陣を宙に形作る。


 青白く発光する魔法陣が脈打つように輝くと、雫の周囲に白く靄がかかっていき、その靄は加速度的に霧と変わり、最終的に()()()()()()()()()()()と成った。

 

 爆発的な勢いで広がる濃霧は、ほんの数秒のうちに結界の内部全てを()()()()()()へと染め上げていく様子に聖は頭を抱えたくなった。


「西洋魔術、さすがに影響範囲が洒落にならないわね……しかもしっかり私対策になってるし」

 

 符術は紙媒体に蓄積できる魔力量が決まっているが、魔法陣と詠唱を媒介として魔力に特定の形状を取らせる”西洋魔術”は、注げば注ぐ分だけその影響範囲を巨大にしていく。

 

 つまり、机上論ならその威力は()()()

 

 そして、聖が頭を抱えたくもなるもう一つの理由として、大量の水分が宙に散布されたことによって聖が最も得意とする電気系の符はその威力を半減することになるというのがある。

 水分量が多いこの状況ではそもそも符が湿気でまっすぐ飛ばなくなる上に、電撃も近距離で放たなければ、水分が大量に空気中に存在し()()()()()()が無数にある今の状況では狙った方向へ飛ばすのは物理法則的に不可能に近い。

 

(術者どころか術式の形跡すら追えない…雫の使用魔術を”見てからのカウンター”ができないこの状況はかなり厄介)

 

『見てからのカウンター』という、さらりとトンでもないことを考えている聖だが、彼女にとってはさして難しいことではない。というか、符術は敵へと投擲する関係で、敵が見えていない状況ではカウンター以外に抗う手段がない。

 

 聖の十八番(とくいぶんや)は『素早い判断能力により適切な術式を適宜打ち込む符術』と、『とっさの機転による緊急時のリカバリー能力』。この二点はどちらも聖の優れた観察眼が起因となっている。

 つまりこの状況、濃霧により聖の観察眼を鈍らせているという点で、視界封じと術式封じを1手でやってのける。


 

 雫の作戦は完全に”土御門聖メタ”であった。

 

 

「聖姉、聞こえてるよね?今からいっぱい打ち込む。だから……死なないように頑張ってかわしてね?」

「っ…!?」

「…………Regentropfen regnen《注ぐ雨粒》, die Erde langweilt sich.《大地に飽きて》 Der nächste Schritt ist die Weiterreise zu einem noch unbekannten Ziel《次に進むはまだ見ぬ先へ》――水の飛沫は私の敵を穿いて砕く」


 深い霧の先から聞こえる歌は字面が非常に物騒だった。魔法陣から発せられるうすらと青い光が灯ると同時に、聖の周囲にこぶし大の水球が無数に浮遊し始め、聖の周囲を漂う。

 

 わずかに射し込むLED灯の光を受け、それを水球が眩く反射する。光の反射加減に違和感を覚えた聖が目を凝らして水球を見ると、光っているのは水面などではない。

 輝いていたのは大量に混ざった氷の粒、意図的に鋭利に製造されたであろう氷の結晶が、まるでミラーボールかのように水球の中で光を乱反射していた。


「想像よりもエグい術式使うわねっ?!」

 

 珍しく狼狽気味に冷や汗を垂らしながら聖は符を取り出し投擲する。

 投げた先は地面、地面に叩きつけられた符は緑色に発光し、地面を起点にして円球の結界を形成し灰と散った。

 

「――穿て」

 

雫のその号令を合図に、金属すら切断しうる高圧のウォータージェットが束となって聖の結界を貫かんと射出された。

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