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赤面系女子

投稿が速い時は、文章を2分割した時って相場が決まってるんですよね




 陣営同士の距離自体はそれほど離れてない為、蒼の後に続いて一分ほど歩けば、”水”陣営のテントに到着する。

 テントの形が”木”陣営と同じである為、真はぼんやりと”この大会の運営委員会はかなり中立だろう”と推理していると、蒼側から真に声が掛かった。


「本来であればボディチェックや魔術による分析をかけるのが道理ですが、今回は私から誘ったので諸々は省かせていただきます。抜かれたくない情報があるかもしれませんし、それをやると大会運営委員会に目を付けられますので」

「ああ、それはありがたい。儂としても面倒なやりとりは避けたいところなのでな」


 どうやらぼんやりしているうちにテント前だったようだ。真は少し気が抜けていたことを改め、ここは敵陣であるということを意識し直す。


 ”水”陣営の護衛が『()()()()()()()()当主(そう)』を当然のように迎え入れると、そのまま二人は陣営のテントに入って行く。

 テントに通された真はテント内部を軽く観察するが、内装や置かれているもの自体に魔術的なものではない。つまるところ情報として得られるものが何もない。


(そりゃそうだよな、このタイプの人間が自分の手の内をひけらかす訳が無いし)


 とはいえなんらかの成果を期待していたのは事実である。しかし、一緒にいる男は聖曰く『権謀術数が常』である魔術世界を上手く世渡りして来た男。多少の油断が命取りになりかねない。


 テント内部の机に案内された真は蒼に促されパイプ椅子に着席する。横から「粗茶ですが」という決まり文句とともに茶菓子とお茶が出されるが、何が仕込まれてるかわからない以上、真は当然口にしない。

 そんな頑なな真の様子を見、しかし余裕の表情と笑みを浮かべた蒼は、机を挟んでちょうど真の正面の椅子に座り、なんでもないように話を始めた。


「いやはや、うちの護衛魔術師ですら貴方に気付くことはできなかった。貴方の能力は相当隠密に特化しているようですね」

「一方的な話はしないと言った筈だが?そもそも、そのような話であれば主の前でも出来るだろう。儂はあまり呑気ではないのでな、端的な話でないのであればさっさと帰らせて貰おうか」


 さらっと自身の能力を聞き出そうとした蒼に対して、真は警戒度を引き上げ牽制する。


 当然だが、真に帰る気はサラサラない。聖に『なんかしらの情報を引っこ抜いてこいよゴラア!』と言われている以上、手ぶらで帰ったら恐ろしい目にあうが、とはいえ”水”陣営としても追加で真から情報を引き出したい以上、この状況で譲歩しなければならないのは蒼であった。


「世話話のつもりだったのですが……申し訳ありません。では、本題をば。―――聖さんの式神であるなら私に協力していただけませんか?」

「…へえ」


 真が上げたのは関心から来た声ではない。振られた内容について、あまりにも予想通り過ぎた為に少し呆れたのだ。しかし、蒼はその真の声を好感触と捉えたのか、畳み掛けるように言葉を続ける。


「シンさん、貴方としても彼女が現在陥っている状況を理解していない訳はないでしょう?少なくとも私の所に嫁入りしたら何不自由なく暮らすことを許しますし、実家の方もしっかり援助すると、そう彼女に伝えてはいただけませんか?」


 訴えかけるような声色と少し申し訳なさそうな表情。それは、まさに人に訴えかけるには最適解と言える()()()()()()()だった。


「―――ふ〜ん、で、何?結婚したらお前に一体何のメリットがあるの?

儂、腹を割って話さないタイプの人間は一切信じないことにしてるんだよね、まさに()()()()()()()()のことなんだけど」


 それでも真は”NO"を突きつける。

 そもそも、蒼に協力するということは聖に逆らうということに他ならない。少なくとも真はそういった不義理を受け入れるほど短絡的でも馬鹿でもなかった。


 しかし、当然蒼もその反応を予想していなかったわけではない。


「では私がメリットをお話しすれば、私に協力していただける…ということですね?」

「阿呆かお前、メリットを言ったら協力するなんて一言も言ってないだろうが……くだらねえ、こんなところ来なきゃよかった」

「それは申し訳ないことをしてしまいました。帰られるのであれば外まで案内しましょう。()()()()我々の護衛に見つかってしまうと面倒なことになりますので」


 ここで真は蒼との対談を完全に拒絶した。見た限り案内されたテントに情報はなく、蒼から聞かされる話も決して相容れない条件を呑むようにとの勧誘、元々悪意に強いタイプではない真としては、これ以上ない人間の悪意にうんざりだった。


 そして、蒼としても引き際をわきまえていた。

 価値観的な部分でも平行線、真を揺さぶって激昂させようとしたが真は怒りで感情的になるタイプではなく、逆に冷え切るタイプだったため、これ以上情報を抜き取るのは至難だと感じたためである。


 とはいえ情報を抜き出すための策は忘れない。『蜃気楼による実像の歪曲を用いた気配遮断』をシン(まこと)の能力と予想している蒼は、最後の最後まで自分の予想を答えに近づけるために伏線を張り続ける。


「面倒ごとは嫌いなんでね、最後まで見送って貰おうか―――次(まみ)える時は戦場(いくさば)、合法的にお前のいけ好かない顔に儂の拳を叩き込むのを楽しみにしておこう」


 しかし、真としても『やられたらやり返す』のがスタンス。挑発には挑発で返すのが礼儀と言わんばかりに煽り返す。

 ちなみに何を言うかは予め考えていたようである。スラッとこんな古風交じりの台詞が言えるほど真は演技派ではなかった。なんかちょっとダサいね。


「え、私は戦いませんが」

「…えっ」


 衝撃の一言である。


「戦うのは私ではなく、()()()()()()()()()()(しずく)きゅんです」

「…んん〜????」



 先ほどの衝撃を遥かに超えた、超衝撃の一言である。



 マイスイートシスター。雫きゅん。


 何をいっているんだろうか、この伊達男は。真は思わず作っていたキャラを忘れ、声を上擦らせてしまった。


「ええ〜っと。申し訳ないのだが、もう一度言ってくれ。少し耳の調子が良くなかったのでな」

「あなた方と戦うのは My Sweeeeeetest!! Little Sisterの雫きゅんです」

「なんか誇張してるし。聞き間違いじゃなかったかあ……」


 物凄い素晴らしい発音と巻き舌であるが、内容が内容だけに真は素で天を仰ぐ。先程までの、”こちらの情報をあらゆる手段を用いて引き出そうとする知略家”という津守蒼(つもりそう)という人間に対するイメージが完全に瓦解した。


 この男、津守蒼。

 頭脳明晰、容姿端麗、少々腹がドス黒いことを除けば欠点などない人間に思えるが…残念ながら重度のシスコンである。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 蒼と真の対談の同時刻。

 聖はテントの中で()()()試みに着手していた。


「”魂接(パス)”を介して会話を傍受できないかしら…」


 本来念話や感情の共有のように当人と当人同士を繋ぐ道として使われる”魂接”を利用した会話の傍受。

 式神と術者であれば当然”魂接”が繋がっているものであるが、実は性質自体は式神術式と同じく殆どがブラックボックス、つまり仮にこの傍受が成功するならそれは蒼であっても予想し得ない行為である。


「…傍受完了。って言っても思念の端も端を拾えただけ、か」

(会話の内容が予想通りすぎるんだよな。てか一方的な会話はしないって言ってんのに、コイツ自分語りしかしねえな)

「…流石に思考までしか読めないわね」


 真がちょうど聖の懐柔に協力してほしい旨を蒼から伝えられているタイミングで”魂接”が繋がった。とはいえ本来の目的である会話の傍受はできそうになく、泣く泣く聖は諦めて真の思考から会話内容を読み解く作業へシフトする。


 ちなみに”魂接”は()()()()()()()があり、式神側は基本的に優先度が下位に設定されている。そのため勝手に真の思考を傍受していることを真が悟ることはない。そもそもこれは人権侵害になりかねないので、この事実について聖は真に伝えていない。


(はあ。俺は他人にメリットだけを提示して、自分のメリットと他人のデメリットについて言及しねえような奴の話を信じられるほど馬鹿じゃないんだよなあ)

「いや、アンタは結構馬鹿だと思うけど」


 思わず思考に対して鋭いツッコミを入れてしまった聖。真の今までの行動を考えると、小賢しい部分もあるがそれ以上に抜けている部分が目立つ。


(それに土御門の人生をこんな”腹黒スカし野郎”に滅茶苦茶にされるのが癪で仕方ねえわ。アイツをまるで物みたいに言いやがって…)

「なるほどね、私がダメなら末端から懐柔していこうって魂胆だったか、魔術師らしい搦め手だこと」


 ”腹黒スカし野郎”と言うワードにクスりと笑みを浮かべるが、思考から会話の内容が大体掴めた。聖としても予想できる会話の内容だったので、真の『会話内容が予想通りすぎる』という思考に大きく共感する。


(土御門は確かにすぐ暴力に頼るし、しかもそのクセしてうっかりでミスして人をトラブルに巻き込むトンデモない女だけど)

「…結構ズタボロに言うじゃないの、帰って来たら張っ倒してやろうかしら」


(――でも、だからと言って()()()()()()()()()()()()()()()()()し、俺はアイツの友達だからな。こんなクソ野郎に俺の数少ない友人を奪われてたまるかってんだよ)

「………………うっ」


 聖は人の思考をこっそり傍受したことを後悔しながら、顔を熟れた林檎のように赤面させた。流石に聖としても()()からの純粋な好意には弱かったようである。


「…お嬢様?なんでそんなにお顔を真っ赤に染めて…もしかして体調不良でしょうか?」

「なんでもない!なんでもない!大丈夫だから…大事にしないで…お願いします…」


 横に控えていた緑が、唐突に顔面を真っ赤にした聖に吃驚しながら氷嚢の用意をしようとする。それが聖の羞恥心にさらに拍車をかける。そして、”こうなったのも全部真のせいである”。聖はそう自分に言い聞かせると、大元の原因である”魂接”を閉じた。


「…あんにゃろめ、帰って来たら一発小突いてやるんだから…」


 その物騒な言葉に反して、その表情には微かに笑みが浮かんでいたらしい。




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