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駆け引き系美男美少女

俺に仕事をくれるか、もしくは小説家にしてくれ。




恐怖の”一緒に地獄”宣言の後、一旦真達は準備のためにそれぞれの陣営に用意されたテントへと移動した。

全ての陣営が中の様子が覗かれないように入念に周囲を囲っており、変装や幻術の類で敵陣営に侵入されないためになのか、テント手前でボディチェックのような事までしていた。


「とんでもないチェック体制だな、ここまで厳重とは思わなかったわ」

「それだけこの大会が重要って事よ。なにせ文字通り今後の人生に大きな影響を及ぼしかねないんだからね」

「…なんかいつもよりも落ち着いてない?お前すげえな」


今回の大会で敗北すると、聖は政略結婚の後一生をその相手の家に軟禁状態で暮らさねばならない。

そういった事もあり真からすれば凄まじいプレッシャーがかかっているのだが、肝心の当人…聖は普段よりも数段落ち着いていた。

いや、どちらかと言えば自身に溢れているからこそ余裕がある、といった方が正しいのだろう。彼女自身敗北したくない一心で前回の大会から今日までにできる限りの戦略と対策を講じてきた努力の人である。


なによりも彼女には”()()”がある。それが彼女の自信の裏付けになっているのだろう。


「そりゃあね、やるべき事もやった。”秘策”もある。じゃあ後は冷静に相手を蹴散らす以外何もする事はないのよ」

「…男前なこって。土御門の事だから何かしらの用意はしてると思ってたが、じゃあ本番で秘策とやらのお披露目を楽しみにしてますよってね」


随分と呑気なことを宣う”秘策(まこと)”に思わず聖は笑い声を上げてしまう。実は緊張と恐怖で震えていた聖の脚は、いつの間にかその震えを忘れていたのだった。


「お嬢様、本日の対戦カードが届きました。お目通しを」

「――――へえ」





――――――――――――――――――――――――――――――――――





”水”陣営、津守家のテント。

当主である津守蒼は、”木”陣営――聖たちと同じく、先程届いたばかりの対戦カードに目を通していた。


「一回戦目がまさか”木”陣営とは、幸先がいいことこの上ないですね」


いつも通り、うまく作られた柔和な笑みを浮かべながらの一言は、周囲にいた”水”陣営の人々を落ち着かせるには十分な一言だった。しかしそんな甘言の裏で、蒼は明確な()()を抱いていた。


(あの式神…私は兎も角、蘭丸(らんまる)の知覚すらすり抜けていた。まるで先程までそこには居なかったかのように、急に現れた事といい…少なくとも低級や中級の妖怪ではない、下手をすれば何処かの土地神の可能性すらありうる)


権謀術数渦巻く魔術世界において、騙し合いや嘘は日常茶飯事であり、だからこそ蒼は今まで一切のデータのない真の存在を大いに警戒していた。事実を知っていれば真は比較的取るに足らないと掃き捨ててよい存在だが、それを彼が知る由はない。

彼の用心深さが持ち前の知性や洞察力を鈍らせていると言ってもいいだろう。


ただ、熟練の魔術師であれば常に周囲を警戒するために探査系の魔術を定期的に使用するのが通例、その探査魔術にすら引っかからなかった”真の体質”もある意味ではチートかもしれない。


「ただ、どうにも引っかかるのはあの話し方と態度ですよね。あれは明らかに演技だった」


あまりにも演技臭かった、と誰にも聞こえないようにぼやく蒼。

真の演技の方はバレバレだった。蒼が当主として取り繕った態度をした人間を見続けたが故だろうが、慣れていない事はしない方がいいという事だろう。


(とするとやはり土地神というよりかは、生まれて間もない神格を式神術式で現世に固定化した可能性の方が高いか…加えてあの式神の特性がわからない以上、警戒するに越した事はありませんね)


蒼の腕に付いた時計が記す時刻は午前10時。それは、つまるところ大会開始まで残り1時間という事実を示している。目を閉じながら思案を巡らせ終わると、蒼は座っていた椅子から立ち上がりテントから出る。


その足で向かうのは”木”陣営のテントだ。


(その1時間でできる限り、”木”の家に現れた謎の式神について調査する。それが今、私にできる最善…ですね)


基本的にそれぞれの陣営ごとにかなりの警戒がされているが、それはあくまでテントに入ろうとした場合である。だからこそ、蒼は決してテントには入ろうとせず、正規の手段で真に接触を図ろうとしていた。

正規の手段とはもちろん――


「そこの方、申し訳ありません。次の対戦カードのことで土御門聖さんにお目通り願いたいのですが」


口実を作って聖と接触を図ることである。


建前では何処の家も同じ地位にあるとされているが、現状”木”陣営の地位は他の家と比較しても最底辺。よりにもよってノコノコ敵陣営に現れた当主を突っぱねて返せるほどの力はない。

しかもその当主は無理に陣営に入り込むわけでもなく、むしろ謙っている状況。これを追い返してしまうとあまりにも体裁が悪いというのは少し考えればわかる事である。


つまりだ。


「あと1時間でボコボコにされるっていうのに、よくもまあ私の目の前にノコノコ出てきたわね」

「全くである、それは蛮勇と罵られて仕方ないものであると理解せよ」


この状況では、聖は話し合いに応じる他ない。当然、聖が出てくるのであれば真も付き添わなければおかしいので、蒼の『真との接触を図る』という目的は見事に達成されてしまった。


「いやあ、重ね重ね申し訳ない。私としても今の内に幾つか伝えなければならない事がございまして」

「私からしたらアンタの話を聞くメリットがないわね、寧ろ最終調整の時間をこの会談に割かされたという認識なのだけど?」


聖の態度は明らかに苛立ちを表していた。

勿論最終調整自体は既に終わっているためこれは演技である。が、それはあくまで真たちにしかわからない情報であり、体良くこの不条理な会談を早く済ませるための免罪符のようなものだ。


「存じております。あまりこちらから鑑賞すると大会管理委員会にペナルティをもらう可能性もありますので…手早く1言だけ。―――聖さん、この大会を早期に棄権して私との婚姻を進めていただけませんか?」


これは本音である。


”水”陣営は”火”と並んで日本の魔術世界の2大巨頭ではあるが、その現状ではかなり”火”の方にパワーバランスが傾いていた。だからこそ、何処の陣営にも属していない”木”陣営を取り込み、傾いていた天秤を均等に戻す。

そのための婚姻、そのための結婚、当主として家の繁栄に務める義務がある蒼は、何が何でも”火”陣営――芦屋爛丸(あしやらんまる)と土御門聖の婚姻を阻止し、聖と婚姻関係を結ぶ必要があるのだ。


そしてその婚姻に対して最も嫌悪を抱いているのは、他の誰でもないキーパーソンであり中心人物、土御門聖である。


「断るって言ってるでしょ。私は私の生き方でこの世界を生き抜く…そのための()()()よ」


さらに苛立ちを強く示した聖が、自身の背後に立つ真に指を向ける。指を向けられた真は一瞬ビクッと体を撥ねさせると、目を瞑って聖に向かい傅いた。


(…おや?)


そして、真の動揺を蒼は見逃さない。


(あの式神、確かシンと呼ばれていましたが…今の会話の何処に動揺する要素があったのでしょうか?自分がアテにされているとは思っていなかった…?いやまさか、だったらこの場にいる意味がない。

だとすると、そもそも戦闘能力自体が皆無な存在…いや、”私が生き抜くためのコイツ”と少し暈かした言い回しからして戦闘能力自体に言及しているわけではありませんね、ということは…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)


蒼、ニアピン賞である。そもそも真は戦闘に参加こそすれ、まさか()()()()()()に頼られているとは露ほども思っていなかった。

確かに聖は今までのポカを考えると本番に弱いタイプ、もしくは異常事態に弱いタイプであるが、だからと言って戦闘能力の差で考えるのならば、真と聖は月とスッポン。ちなみに符術抜きでようやくトントン程度である。


「…なるほど。でしたら私からはこれ以上言う事はありませんね」


(あの異様な存在感の希薄さと”シン”と言う名前…土地神だと考えていましたが、彼の正体はおそらく(シン)にまつわる者でしょう。蜃気楼を生み出す妖怪で本来は貝の妖怪ですが、土地によっては竜と同一視される格式高い妖怪…とはいえ彼の様子を見るに長生きはしていない、精々百数年程度生きた貝が変生した存在のようですね)


大外れである。とはいえ、シン(まこと)が今の所式神化の実例のない只の人間であると予想しても、そもそも”その可能性がある”という時点で仮定として捨て置くほどのものであり、仮に蒼が「シンの正体は人間だ!」と主張したとしてそれをすんなり信じるものも皆無である。それほど魔術師にとって”人間であり式神”という積集合は予想外なのだ。



敵の手の内を暴く情報戦も対魔術師戦の基礎の基礎。だからこその予想外で想定外。その奇抜性を以ってして、聖は真を()()()と称したのである。



「あまり長話するのも失礼ですし、私はそろそろお暇させていただきます……いえ、そうですね。シンさん、少しだけ私とお話ししませんか?」


物の見事に聖の仕掛けた罠に嵌った蒼は、全くもって的外れな推理を成果に自陣へ堂々凱旋しようとするが、しかし少し思案したのち、真に声をかけながらこちらへ来るようにと手招く。どうやら一対一で秘密話をしたいらしい。

当然のように真は警戒し身構えるが、聖が「面白そうね、行って来なさい」と小声で許可を出したためその誘いに乗ることにした。聖陣営としても蒼が情報を抜きに来たことは容易に予想できるが、それは逆もまた然り。聖としても蒼から少しでも情報を抜きたいところであったためである。


「……よかろう。主からの許可も出たのでな。ただし、一方的な会話をするつもりは毛頭ない」

「それは勿論…では私のテントに招待しましょう」

「…それは、無警戒すぎるのではないか?」


真は動揺を隠せず、思わず本心を口にした。まさかこのタイミングで、自陣へ敵の切り札を招待する人間がいるとは思わなかったからである。


これは当然、善意でも蒼が馬鹿だからという単純な理由でもなく、蒼側の大きな意図がある。

蒼としては真の口調や態度は演技であると完全に見抜いており、そして先ほどから真は動揺の度にボロを出していた。

だからこそ、真を()()()()()()()()()という状況を作り出しつつ、自身の話術を用いてまだ見え切らない『”シン”という式神の本質』を全て詳らかにするという策であった。


「へえ、随分と私たちのことを舐め腐ってるのね……シン、ちょっとそいつのテントに顔を出して色々と情報を盗んできなさい。これは私からの命令よ」

「……承知した、なるべく多くの情報を主に還元するよう努めよう」

「お話が纏まったようで何よりです。では私の陣営へご招待致します」


そう言いながら柔和な表情で誘う蒼が、真にはあの手この手で人を欺き喰らう怪物に見えて仕方ない。

しかし聖のため、ひいては自分の自由の為にもこの誘いに乗らない手はなかった。




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