乙女ゲー系女子
実は忙しいので、次いつ投稿できるかわかんないっピ。
許して欲しいっピ!
一週間という期間は光陰矢の如しと言わんばかりにあっという間に過ぎ去り、大会当日。聖と真は緑の運転する車で東京まで移動していた。
「そういえば言い忘れてたんだけど…アンタ、大会中は名前と顔を隠したほうがいいわね」
「え、なんで?」
早朝ということもあり車の揺れが心地よくなりつつある真に聖から提案があった。
顔を隠す、と言われたところで今日の真の持ち物は胃薬と飲み物と預かっていた雷上動のケース程度であり、仮面なんて持ち合わせていない。そもそも急に顔を隠せと言われても、その理由が真にはイマイチ、ピンとこなかった。
「基本的に式神は獣霊や物質霊、強いものになれば次第に人型になって土地神や高位の妖怪になるの。だから式神としてアンタを参加させるに当たって、少なくとも”アンタが人間である”ってことは隠し通した方がメリットが大きいわ。あと万一アンタが人間とバレた場合に――魔術師たちから”お礼参り”、されたくないで「そりゃもうもちろんで御座いますはい!本日1日通して俺は浅田真という名前を捨てさせていただきます!」
「…でしょうね、はいこれ。顔を隠すために作っといたわよ、ちょっと付けてみなさい」
魔術師から寄ってたかって襲撃されるという物騒すぎる発言に、ノータイムで真は自身の名と顔を捨てることを決定した。
真のあまりに早い返答に少しひきながらも、聖は荷物の中から黒い狐の面を取り出した。目元だけ隠すようなデザインで一見ゴムなどの顔に固定するための部位が見かけられない。
とはいえ言われた通りにその黒狐の面を顔へ近づけると、まるで顔に吸い付くかのように、ピッタリと仮面が真の顔に引っ付いた。
「のわっ!なんだこれ、すっげえ!」
「エンチャントでちょちょいとね、魔女術様様ってワケ。あとは名前だけど…適当に『シン』とかにしておきましょう。日本の妖怪にも中国系の怪異にもあり得そうな名前の方が相手方が誤解しそうだし」
「了解、俺はシン。式神のシンだ…んっ?」
自己暗示かのようにそう呟いた真の胸の奥で、少しだけ、ほんのかすかにピリリと電流を浴びたかのような感覚が起こった気がした。とはいえ、何か身体に変化が起こったような気はしなかったため、誤解だろうと考えた真は、再び車の揺れに体を預け、揺蕩い始めた。
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東京、23区外。県内外問わず写真一枚見せても絶対に東京だとわからないようなのどかな平野。そこの駐車場に数台の車が停車している。1台は見覚えのある黒塗りの高級車、残りはそれぞれスポーツカーやワンボックス、クラシックカーなど統一性が全くない車が止まっている。
万一、誰かがここの周囲に近づけたのなら、その奇怪な様子につい来た道を戻りたくなるだろう。東京の正午頃にしてはあまりにも周囲に人の気配がない。むしろ人に近づいて欲しくないとまで思えるような異様な様子が漂っているのだ。
「あー、すっごい身に覚えのある感覚だこれ。というか儂、こんな変な感覚を喰らいながらよくあんな熟睡できたな」
「…一人称まで変える必要はあるの?いやまあ対策は万全にする方がいいに決まってはいるのだけど…」
若々しい声であるのにも関わらず老人らしき一人称を使う狐面をつけた怪しげな男が、少し苦しげな声で物思いに浸っている。それに対して隣に立つ巫女装束の女がつかさずツッコミを入れた。ご存知、土御門家次期当主、土御門聖嬢と、その式神である浅田真改め、シンである。
今、二人は地下にいた。
あの平野の全体には隈なく強力な人祓の結界が張り巡らされており、その疎外感を与えるような気持ちの悪い感覚に過去の苦い体験を想起したというのが真相である。
そして平野の地下には極秘裏に建てられた決闘場があり、二人は絶賛そこに向かっている最中のエレベーターの中である。
「巨木に隠したエレベーターから地下に降るってのもかなり吃驚だけども…にしても深くない?その闘技場って何メートルにあるんだよ」
「なんとびっくり地下100m、ちなみに今は大体……80m過ぎたくらいだと思うわよ」
真はウクライナにある有名な地下鉄が105mくらいだったことを思い出し、こっちも大概深いことを実感する。
そんなことを考えているうちに、少しチープな”チン!”という音と共にエレベーターが止まり、ゆっくりとその扉を開いた。
「…これは、またなんとも…」
扉の、その先の景色を見た真は言葉に詰まった。それは、あまりにもスケールが大きかったからであった。
闘技場と呼ぶには、そこはあまりにも実用的で無骨だった。
まるでパルテノンの神殿かのように整列し、天まで伸びた極太のコンクリート柱が何本も生え、その天井を支えている。
所謂地下放水路がそのままそっくり、真の目の前に広がっていたのである。
エレベーターを出、ライトで照らされた空間に出ると夏場というのにひんやりしたその巨大空間に男性特有のロマンを抱く真。仮面の下でキラキラと瞳を輝かせていると、つかさず聖からの茶々が入る。
「表向きは雨水を貯める空間なんだけど、その実は拡張工事の際に私たち魔術師が裏で手回ししてこの空間を作らせただけで水なんて入らないわ、まあバレようものなら税金の無駄遣いと大炎上騒ぎになるでしょうね」
「……知りたくなかったなあ、その裏事情」
「久しぶりだね、聖さん。君に会えるのを私はすごく楽しみにしていましたよ」
あくまでここだけ用途が違うってだけで残りはちゃんと貯水槽として活用されてるわよ?と聖が付け加えるが。地下に広がっている巨大空間の裏事情を聞き、真が流石魔術師、汚い!と心の底で感じていると、背後からやけにクリアなイケメンボイスの声がかかった。
「――津守蒼、そのいけ好かない口説き文句といい久しぶりね」
スラッとした長身の男性が、いつの間にか二人の背後に立っていた。
年齢は20前後だろうか。
顔立ちは整っていて、その穏やかな口調と優しい笑みから、大半の女性はコロッと惚れてしまいそうな容姿。
特に切れ目から覗く蒼の虹彩には魔性の魅力が宿っているだろう。
しかし、蒼のその優しげな言葉に対して、聖は頑なな様子で払い除けた。表情も普段の2倍ほど露骨に不機嫌なのが真としても見て取れる。
ちなみに、当然の如く隣に立っているはずの真はスルー…というか、いつも通り気付かれていないのだろう。
とはいえ類似例に何度も経験のある真としても、流石に今回のようにツレが露骨にナンパされたパターンは初めてであった。
真がどうしたもんだと頭を抱えていると、次はまた別の方向から聖へと声をかけるものが現れた。
「──おい土御門聖。なぜ俺との婚約話を蹴り続ける?意味がわからん、この婚約を蹴るメリットなどお前にはないだろう」
また出た。よりにもよってまた別のイケメンが現れた。
今度はまだ少し幼さが残る感じはあるものの、短く刈った髪とどこか野生的な雰囲気が妙にマッチしたワイルドイケメンである。その両目は綺麗なルビーレッドだが、それに反するように言動は酷く論理的で冷静沈着な雰囲気を感じた。
「また面倒なのが増えた……。――芦屋蘭丸、誰がアンタみたいな奴と結婚するもんですか」
「家同士のつながりが強い方がこの時代に適しているだろう、お前ほどの女がなぜそれに気が付かない」
「おっと、芦屋君。君みたいな効率しか追求できない倫理観に欠けた男に聖さんは惹かれていないのですよ。
この前の鎌鼬騒動の件からしても、君を聖さんが好ましいと思う要素なんて皆無でしょう。君がそれに気づいた方が良いのでは?」
芦屋の強情な態度を見かねたのか、にこやかな表情で津守が横から会話に割り込む。しかしその表情はわかりやすくつくりものであり敵意と嫌悪が透けて見えた。
「……あいも変わらず回りくどい男だな、津守。お前のように力ではなく権謀術数にしか取り柄のない男はいけ好かん。やはり今日、お前を焼き殺して土御門と婚姻を結ぶ」
「それは無理ですね。前回と違って君の対策は万全です。
前回も所詮は運によるもの。私からすれば君を殺そうとは思えませんが…うっかり力加減を間違えて溺れ殺してしまうかもしれませんね」
次第に目の前にバチバチとした火花が幻視できそうなほど白熱する口論、だが真はそんなものを幻視する余裕も何かを考えている余裕もなかった。
片や涼しげな雰囲気のイケメン、片や野生的なイケメン。なんだこれは、なんだこの状況は。
「………なにこれギャルゲ?」
ぽろっとそんな言葉が無意識に飛び出す。
何かを考えている余裕というか、そもそも現実味がなさすぎるこの状況があまりにも飲み込めていないのだ。
仮にこれが女性の立場であれば、側から見れば羨ましい、もしくは嫉しい風景かもしれないが、聖の本性を知っている真としても、そもそもマジモンのイケメン二人が黙ってりゃガチの美人である自分の友人兼部長兼ご主人を口説いているのが、なぜか無性に腹立たしかった。
(ん?なんで腹立たし…ってまあいいや。土御門の奴がわかりやすくイライラしてるし、そろそろ助けてやるか)
人を驚かせるなど、真からすれば手馴れたものである。というか特に何か特別なことをする必要はない。
一般人が誰かを驚かせようとする時のように普通に後ろに回り込んで、普通に肩を鷲掴むだけ。影がネオラント並に薄い真であれば、それだけで効果はてきめんなのである。
二人の肩をなるべく力一杯ガシッと掴むと、ビクッと身体が跳ね上がり、首が背後の真の方に向いた。
「――そこの二人、儂の主人が大層困っているようでな、そろそろ餓鬼のお遊びはやめてもらおうかの?」
「「ッッ!!?」」
態とらしく口元に不敵な笑みを浮かべた真が、演技がかった口調でそう告げる。
唐突に現れた狐面の男に、流石と言ったところか背後へ飛んで距離を取り、臨戦態勢に切り替わった蒼と蘭丸。両者の間には緊張感からくる拮抗状態が発生した。
それを崩したのは、第三者である聖だった。
「シン。アンタ、私が困っているところを態と眺めていたわね?さっさと助けなさいよ」
イケメンパラダイスに絡まれていたから普段よりさらに機嫌が悪いのだろう。
流石に酷い言われようであった。流石に真も絶句である。
「ええ〜〜…………。普通にどうしたら良いものかと様子を見ていただけで、他意があったわけではないのだが…とりあえずそこの二人、あまり儂の主人を困らせるな、次は容赦無く素っ首掻っ切るぞ?」
真が思い出し、真似するのは過去に戦った鎌鼬の言動。親指で首元を横になぞるジェスチャーをすると、冷や汗をたらりと流し二人は去っていった。
「…酷くない?流石にナンパされてるやつを助ける方法とかわかるわけないんですけど」
「へー、アンタはもっと人生経験豊富だと思ってたわー」
クソほど棒読みだった。明らかに機嫌が治っていない。
とはいえ拳が飛んでこないだけマシだと思い、先ほどの二人のことを思い出す。
「土、じゃねえ、主人。あいつらが例の…」
「……そう。アンタと私の自由のため、絶対に倒さないといけない相手。ムカつくでしょ?アイツら、私達を倒した後の話しかしてなかった、それだけ舐め腐ってるのよ…これからあの二人をシバき倒すわよ、楽しくなってきたでしょう?」
聖は珍しく犬歯をむき出しにするほど凶暴に笑っていた。機嫌が悪い時は必ず作り物の綺麗な笑みしか浮かべない彼女が、”心底いけ好かない野郎供をブチのめしてやりたい”と思いながら笑っていた。
あまり自分の本心を見せない聖がそれだけ心を透かしている。その事実と透けて見える本心に、真は改まって素直な言葉を返した。
「――いいね、合法的にイケメンをはっ倒せる機会なんてそうそうねえもんな、ボコボコにして土下座させてやろうか」
「それは……最高ね!」
この瞬間初めて、とても可愛らしく笑った聖を真は目にした。
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「あ、ところで。
なんで俺…じゃない、儂まで不自由になんの?」
「結婚したら十中八九、世継ぎ産むまで監禁だろうし、そんなの私一人で耐えきれる訳ないじゃない。
なんで私が地獄を見る羽目になるのにアンタは外でのほほん暮すのよ、許す訳ないでしょ、一緒に地獄に落ちてもらうわ」
「ええ…………お前……」
先ほどとのあまりの温度差に真はドン引きしたのであった。
ちゃんちゃん。
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よろしくお願い致します。
あ、今度新作出します…というか今そっちのストック作ってます。
内容としてはみんな大好きな『異世界転移もの』です。新作出すときに連絡するので、絶対に見てくれよな。




