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ショッピング系女子と待機系男子

実は忙しいので、次いつ投稿できるかわかんないっピ。

許して欲しいっピ!




 本を購入した後もしばらく露店を回ったものの目に付くものはなかったため、入口付近まで戻った真はスマホで聖に買い物終了の旨のメッセージを送る。

 改めて裏市を眺めれば、明らかに仕立ての良い服を着た紳士や逆に怪しげな古めかしいローブを着た男性、周囲に狼のような生き物を侍らせる妙齢の女性など非常に多種多様な人物が伺えるが、一向に顔見知り2名の姿は見えない。


(…いや、遅くね?)


 時計を見るに少なくともこの空間に入って4時間は経過している上に、一見この市場がそれほど広いようには思えない。

 とはいえ聖の発言から推測するに、空間の大きさが実寸と噛み合っていないのは推測できるので、もしかしたら相当広大なのかもしれないが、それを知る(すべ)を真は持ち合わせていない。


 時間の経過の割に明らかに上空の月が一切微動だにしていないが、どうせ魔術的なサムシングなのは確実であるので何も考えなかった。


(そもそもこの空間自体が意味わからんし…とはいえ月が動かないからってな…)


 そこまで考えて、真は自分が随分と感性が魔術師に染まってきたものであると内心少し驚く。

 意識が上空に逸れていた真は背後から近づく人の気配に気付かない。


「なにを黄昏てんのよ」


「のわあ!?」


 後ろから現れた聖と緑に声をかけられ、今度は別の意味で驚く真。


 少なくとも入口付近で待っていたが、まさか()()()()()現れた二人に声をかけられるとは思っていなかったため余計に驚いていた。


「あ〜びっくりした…どっから出てきてんだよ、もしかしてとっくに買い物終わって外にいたのか?」


 その質問に対して聖の背後で緑が手荷物を掲げる。どうやら買い物自体は先程終わったことに間違いはないらしい。


「ここは空間が魔術的に弄られてるから一部の道がこの入口と重なってるのよ…んでアンタは結局なに買ったの?変なモン摑まされてたら嫌だから見せて」


 急に後ろから現れたカラクリを解説し終えた聖に真は手に持った2冊の本を手渡す。聖はその奇抜は表紙のデザインに少し眉を顰めたがペラペラとページを流し読む。


「ほうほう…少なくとも理論的な部分はしっかりとした解説がされてるわね。にしても随分と変な本を、っと著者は……あ〜、アイツ(あしやみく)の著作なら大丈夫ね」


「その言い方だとこの本の著者と知り合いなのか」


「……ええ。そもそも魔術師自体の数が少ないから、名の知れた魔術師なら一目見たことあるわ。芦屋美紅も有名な魔術師だから、顔を見たことがあるってだけの話」


 にしては”アイツ”と呼称している辺り、知り合い程度の仲ではありそうだが、明らかに聖が会話を続ける気がない様子だった。真としても少し気になった程度の話であり、下手に刺激して虎の尾を踏むことを避けようとしたので会話は打ち切られた。


 とはいえ、現役バリバリの魔術師様からのお墨付きをいただけた真としては、下手なものを購入してビリビリを回避できたことで別の部分で内心ホッとしてはいるが。


「んでもって俺が買ってきたのはこの2冊な訳だが…そっちは何を買ってたんだ?かなり時間がかかってたから相当な大量買いだと思うんだが」


「私は妖怪を狩ってる訳じゃないから妖怪由来の素材は基本購入してるの、今日買ったのもほぼ全部素材」


 確かに、と真は納得する。


 覚えている限り聖は妖怪に止めを刺さず必ず赤い(キューブ)の中に捕獲していた。聞いた話だと、その後は土御門家の封印蔵に収められているという話であり、少なくとも某狩りゲーの様に捕獲した後に解体しているわけではないことは知っている。

 とはいえ、それこそ真専用に作られた雷上動(らいじょうどう)は聖曰く『蔵の中で埃かぶっていた雷獣の皮』を用いて製作された装備であるし、どこかしらで妖怪由来の素材を入手していることは予想できていた。


「それを使ってマジックアイテム的なやつを作るって訳か。ちなみに何を作るつもりなんだ?」


「デコイ系のアイテムとトラップ系のアイテムよ。なにせ火力はまだしも魔術の展開速度の面で西洋魔術に勝ち目がないのよ。だからこっちのペースに持ち込むために妨害は欠かせないってワケ」


 その発言を聞いて真は疑問が浮かぶ。


 聖は戦力分析をきっかりするタイプではあるが、にしても西洋魔術をかなり評価している口ぶりである。

 しかし思い返して見ても漫画やアニメで見るようなthe 魔法!といった雰囲気の術を使ったところを見たことが殆どない。そもそも戦闘のときに着ている服からして、魔術師と呼称するより巫女といったほうがよっぽど適切である。


「他の家の奴らは符なんて使わずに、杖を触媒とした魔術を使ってるから再詠唱(リキャスト)にかかる時間にバカみたいに差が……ってあれ、この話してなかった?」


「普通に初耳なんスけど…というか土御門も符術以外も使えるんじゃないのか?」


 その真からの質問に対して聖は少し苦しそうな表情を浮かべた。どうやらあまり聞かれて気持ちの良い質問ではなかったらしい。


「あ〜〜……いや、言っておくべきね…。私ね、符術以外の才能が皆無なの。私はまさに東洋魔術を極めるために生まれてきた存在なのよ…と言いたいところだけど、正直西洋の魔術と比べると符術はかなり汎用性に欠けてるのよね」


 珍しい自虐的な発言に真は驚いた。

 自信過剰を絵に描いた…とまではいかないものの、普段の様子は儚い美少女というよりは女傑と言い表したほうが余程ぴったりな彼女が珍しく参っているのだ。


 しかしその弱った様子もほんの数秒で元に戻り、少し考えた様子の後に よし、と何かを思いついたかの様な独り言を零す。


「さっきの感じだと東洋魔術と西洋魔術の仕組みの違いについても多分ちゃんと話してなかったわね。ちょうどいい機会だからわかりやすく解説しましょう」


「そんなゆ○くり実況みたいな雑な入りでいいのか…?」


 人によっては見慣れた唐突な導入から、『ヒジリのパーフェクトまじゅつ教室』が始まった。


「東洋魔術…所謂符術と言われるものは符を媒体として魔術を行使する。事前に符に術式を書き込んでおくことで低度、高度にかかわらず術式の展開速度が一定。また術式は種類、威力問わず一定の魔力を符に注ぐことで起動する…ここまでは基礎かつメリットね、ここからはデメリットなんだけど…どうせならクイズ形式にでもしてみましょうか」


 聞いてるだけじゃ飽きるしね、と補足する。実際少し眠気がきていたので真としても助かった。


「デメリット…ねえ。どんな術だろうと符に落とし込んでいる以上、取り出す時にラグが発生する…とか?」


「う〜ん、それも正解。でももっと深刻な問題があるのよね」


 確かに術式を符に落とし込んで携帯している以上、使用するときに多少のラグが発生するのは正しいが、西洋魔術でも魔術を使用するまでに多少の時間がかかるため、デメリットと言い切るほどではないのは確かである。

 その部分がわかるということは真はしっかりと聖の戦闘スタイルを理解しているということであり、聖は少し口元を緩めた。


 とはいえ、それが100%の正解かと言えば()()()N()O()である。


 少し溜めた後、聖は満を持して答えを告げた。


「答えはもっと大きく、『汎用性に欠ける』ってところよ」


「まあ確かに万能かって言われりゃ、そんなことないんだろうが…そこまで言い切るほどか?符だって数枚同時に投擲すれば威力が上がるんだろ?」


 真はその答えに疑問が尽きない。少なくとも真からすれば聖が魔術関係で苦労した場面を見たことがないのでそう言われた所でイメージが沸いていないのが大きい。

 思い返して見ても、ここぞ!という攻撃の際に聖が数枚の符を同時に投擲する姿を何度も真は見てきた。


 だからこそ、汎用性に圧倒的に劣るという発言含めいまいち納得がいっていない。


「まあ威力なら調整が効くけど……例えば”電撃の符”があったとして、”誘導付きの電撃”を使いたくても事前に用意してなかったらどう足掻いても誘導を術式に付与するのは無理なのよ。その点、西洋魔術はその場で術式にアレンジを加えて臨機応変に対応できるってこと」


「そうなのか」


「ハンコとサインの違いみたいなもんよ、結果的に効果は同じでも状況に応じて形は変えられないの。西洋魔術については私はド素人もいいところだから、ちょうどいい機会だしアンタが買った本で勉強してみるといいわよ。というか多分その目的で買ったんでしょ?」


「いや、まあ……そうなんだけども…とは言え、わからないところがあったら質問くらいしてもいいよな?」


 真は困った。どちらもド素人なのは確かだが、片や生まれてこの方ずっと魔術世界にいた人間、片や数ヶ月前まで魔術なんて微塵も知らなかったペーペー。ド素人といってもレベルが違いすぎる。

 多少の魔術的理解は解説できるのも確かなので、その問いかけに対して聖はサムズアップを返す。


 こうして4時間にも渡る、男性にとってはやたら長く感じるショッピングタイムが終わりを迎えた。





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