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いきなりピンチ系男子&女子

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「二匹目…?!」


 電波女が驚嘆の声を漏らし目を丸く見開いた。正確には”そのように見える”だが、だとしてもこの状況は彼女にとっても完全な想定外という事。


 つまるところ、この状況は非常にまずいものであると察した真は内心冷や汗を垂らす。


「ッチ、馬鹿な()がよ。儂が来るまで待てといったろうに……まあ良いわ。そこな巫女を()()()にする前に、術を解いてもらえば万事問題ないからのぅ」


 現れた2匹目は淡々と、しかし悲しそうな声色で虚空へと言葉を投げかける。しわがれた声は先ほどまでそこにいた1匹目と区別がつかないほど酷似していた。


 目の前の鎌鼬が言うように、先ほど拘束していた鎌鼬は彼の弟に他ならない。


 真はかつてどこかで読んだ本の内容を思い出していた。鎌鼬は3匹で行動する妖怪で1匹目が人を転ばし、2匹目が鎌で切り裂く、そして3匹目がその傷に薬を塗る三位一体の妖怪だと。


 そして鎌鼬が起こした裂傷が痛くなかったという伝承はこの3匹目が去り際に塗っていく薬によるものだという。


「アイツの報告では弟の鎌鼬は討伐したって聞いたのにッ!?」


 電波女の発言から推測するに、鎌鼬の数を誤報されていたんだろう。しかし焦燥の理由はわかったとしても、それは根本的解決に至るものではない。


 もしも、鎌鼬1匹分の装備しか整えていなかった場合、この状況はさらにまずい状況となり得る。嫌な事実に気づいてしまった真は、それでも問わずには居られなかった。


「…一応聞いておきたいんですけど、余剰分の装備ってあるの?」


「………」


「…OK。分かった」


 真が小声で目下一番の心配事を尋ねるが、帰って来たのは無言。その視線は新たに現れた二匹目に固定されているものの、その顔からは明らかに冷や汗が垂れている。


(唐突に状況が大ピンチ…!?)


 ダメっぽいぞこれ!!?と真の心は余計荒げた。


 (……考えろ、どうするべきか)


 一周回って冷静さを取り戻した真は視線を軽く周囲へと向け、状況を整理する。


 第一に逃げようにも、鎌鼬がドアと2人との間に陣取っている。鎌鼬は速さが逸話に残るほどの妖怪、隙を突いて横から抜けることは全くもって現実的ではないだろう。


 第二に頼みの綱、電波女が持ちうる装備も弾切れ。主観的に見ても()()に近い。


 先ほどまでとは違い自分は傍観者で居られる状況ではない。そう判断した真は焦りながらも思考を研ぎ澄ます。

 限界的な状況で思考が冴えた真は、現在の教室の位置から最短かつ最も安全な逃避ルートを模索する。


(……この教室は1()()()()()、正門からは遠いが近くに()()()()()!)


 思いつく範囲でこの教室から最も近いのは裏門。

 窓から飛び出せば、走って数十秒で学校外へ逃亡できるというルートを思い至る。怪我の功名とでもいうべきか、手持ちには護身用とはいえ一枚だけ符がある。


(つまり、背後の窓から教室を抜ければ逃げられるかもしれないっ!!)


 『符を用いて隙を作り、一気に逃げる』。

 考えうる限り確実な方法はそれであると真は判断した。


 考察が纏まった真は、次に逃走の下準備のため素早く横目で窓を確認する。

 何と言う僥倖だろうか。奇跡的に窓の鍵は掛かっておらず、真は田舎特有の無警戒さに感謝し、内心ガッツポーズを決める。


(不幸中の幸いっ…!)


 逃走の旨を電波女に知らせるべく、巫女服の裾を軽く引っ張った。此方をチラリを見るがすぐに正面の鎌鼬に注意を戻す。一瞬交わった視線には、先ほどまでの軽くお気楽な雰囲気はひとかけらほども感じられなかった。


 なるべく鎌鼬を刺激しないように、ゆっくりと電波女の後ろ側、鎌鼬から見て死角となる位置に移動する。


「裏門…背後、窓から出るぞ」


 ギリギリ聞こえるような小声で耳元で囁くが、明確な返答はなし。しかし電波女側から何かしらのアクションがなく、それは”ここは逃げの一手を選択するしかない”ということを暗に示していると真は判断する。


しばらく睨み合いの後、電波女はもう一度此方に目を向け、次はしっかりと真と目を向き合わせる。視線を鎌鼬からの視線が通らない位置にある自らの左手に下げ、真の視線を自身の手へと誘導する。



電波女の指は、”3”を示していた。



(…なるほど、()()()()()()()で”GO!”と)


 一か八かの逃亡劇の下準備のために、真は少しづつ位置を後退させ、すぐに窓を開けられるようジリジリと窓側に近づいていく。


 それに合わせて電波女を盾に鎌鼬の死角へ体をすこしずつ移動させ、素早く後方を確認する。


 窓までは1メートルと少し程度。やはりさっき確認した通り、窓の鍵は奇跡的に開いている。これなら窓を開けるまで3秒もかからないだろう。


「それで……そちら様の目的は復讐?聞いた話だとところ構わず人を襲ってたんでしょ?じゃあ、()()()()()なんて簡単にわかるじゃない 」


 電波女の言葉には、暗に『私みたいなのがアンタを倒しに来る』という意味が包含されているように思えた。挑発的に思える言葉は鎌鼬の気を逸らすためだろうか。


「━━━種として生き残るために襲って何が悪い?科学の進歩のせいで儂らの正体は()()()()()()()()()()のせいになっちまった。姿も見せんでじぃ〜っとしてたら儂らはすぐにでも消て無くなっちまうだろう?」


「往生際が悪くないかし?消えるものは消える、それが世の常だと思うのだけど?」


 やれやれと言わんばかりのジェスチャーをしながらさらに挑発を重ねる電波女に対して、老獪といった様子の鎌鼬は口元を歪めた。それは余裕の笑みだろうか、それとも憤りを露わにしただけなのだろうか。


 膠着状態は次第にふつふつと、水面下で戦の足音を感じさせるように不穏に移り変わっていく。


 指が1つ折りたたまれる。カウント、2。


「言ってくれるじゃねえの、まあその通りなんだけどよォ。別に消えるのもやぶさかじゃなかったんだけどよ……今はちいとばかり状況が違うってワケだ。

───()()があンだよ、お前ら祓い屋共に。儂らは3匹で協力して生き延びてきた、でもお前らが儂らの大切な弟を()()()()()


 間延びしている語尾からは想像もできないほど、ぎらついた瞳が2人に突き刺さる。

 短期間に3度も味わった明確な敵意。少し慣れてきたのか、真は少し足の震え程度で済んだ。


「だから…炎を操るあの小生意気な小僧は殺す、何としてでも殺す…ッ!!そのためなら往生際が悪くたって構いやしねえっての…それによォ?お前さんは儂を頭数に入れとらんかったようじゃのぉ…お前を殺すには好都合じゃ」


 弟と同じクツクツと独特な笑い方で2人に語りかけてくる鎌鼬のその目は一切笑ってなかった。


(……まずい、準備不足がバレてる)


 真は自身の額が痙攣して顔から脂汗が滲み出てくるのを感じていた。しかし電波女の左手のカウントは止まる気配は一切ない。


 そして最終カウント、カウント1。


「別にアンタ程度の低級妖怪の1匹や2匹、物理で殴って封印する程度のことを出来ないとでも思ってんのかし、らッ!!!」


 ガラスが砕け散るような音が教室に響いた。その正体は電波女は巫女服の裾に隠し持っていた何か。床で砕け散ると共に部屋全体を()()()()()()()()()の煙が教室中に舞い上がった。



 日はほぼ沈み、残り僅かな陽の光が刺す暗がりの教室。

 ただでさえ薄暗くて視界が悪い教室が更に輪郭が失われる。



 煙から漂っているのだろうか。鼻を擽る甘い香りと同時、辛うじて見える()()()()0()

 素早く振り向き全力で窓に向かって疾走し、その勢いのまま真は窓を横に強引に押し開け、そのまま窓枠に足をかけ、外へと飛び出す。


(急いで外に逃げないと…ッ?!)


 背後には電波女。

 急ぎ飛ばないと後ろがつっかえてしまうという焦りから急いで体を宙へ放り出した。放り出してしまったのだ。



 ━━━まさにその瞬間だった。机上の空論に冷水を引っ掛けるが如く、最悪の事態が()()()()()()()()



「っ、柊の灰煙かッ…だが甘いっッ!!」


「ッ!?!?」


 窓枠から飛んだその直後、真の体は背後から突如吹き荒れた暴風によって制御を失う。

 身体は台風もかくやという強風に煽られ体勢は崩れ、無理な着地をした直後、頭部に()()


「っガッ…?!」


 痛みと共に真の視界が一面真っ白に染まった。


 頭部に走る痛みのあまり、呼吸が一瞬止まったかと錯覚するほどの激痛。格闘技などした事がない素人が受け身など当然取れるわけもなく、バランスを崩した真はそのまま地面を勢いよく転がる。


 夕暮れの空、土色の地面、空地面空地面。


 景色が二転三転し、最後には背中に重い衝撃が走って、固い何かに衝突して漸く回転が止まる。


 ぐらり、まるで大波の船のように世界が揺らぐ。そして体の端から段々と底冷えするように冷たくなって行く感覚に襲われた。


(視、界…がおかし、い…?)


 突如としてまるで体に水に沈んでいくかのような感覚で力が抜けていく。同時に目の前に広がる世界は輪郭を失い、まるでトリックアートのように景色がいびつに歪み始めた。


(なぜか体がひっくり返って、地面にぶつかって…どうなって、る…?…意識が)


 更に意識が遠くなっていく感覚、このまま気絶したら拙いことは真も理解している。しかし抗う事は出来ず意識はどんどん暗い水底に落ちていく。


(…っ、電波女(アイツ)()()、な()()()…?!)


 意識を手放す直前。


 最後の底力か走馬灯か、真の脳裏に数瞬前の出来事がはっきりとフラッシュバックした。

 

 気絶する直前に辛うじて見えていた逆さまの光景では、大量の煙が窓から吹き飛んでいく様子と頬に()()()()()()()が降りかかった事。



 そして記憶の最後に見たものは、窓枠に一歩届かなかった電波女が風で大きくバランスを崩し、そのまま背を鎌鼬に()()()()()()()()()()()だった。



「っあ。」


 暗闇へと沈む。





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