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必殺技系男子

現実逃避に小説を書く人間です。






(馬鹿言ってないでさっさと作戦立案と準備!しくじったら次こそ炭になるまで雷撃だからねッ!)


 脳内での会話は普段通りの軽口。しかし、聖は鋭い視線で鵺を捉えて離さない。


 最初に動いたのは鵺。大柄の熊をさらに上回る様な巨体が、そのサイズに似合わないような速度で聖めがけて突進を開始する。

 しかしその狙いはどこか不明瞭であり、明らかに全力ではない。符によって気配を誤魔化していることにより鵺は知覚に異常を起こしているのだ。


(初見必殺ッ!…と言いたいところだけど、百々目鬼の時はそれで散々な目にあってるからね、まずは手探りッ!)


 聖は自身に身体強化を施すと、突撃コースから素早く飛び抜けすれ違いざまに数枚の符を投擲する。空中で紫電の尾を引いた符は見事に鵺の横腹を捉えた。


「グッ、グゥッ!」


 直撃した符から強烈な電撃が迸り、鵺はさながら電飾に飾られていると錯覚するほど眩く輝く。


「グゥ…ラァ!!!!」


 しかし軽い咆哮を上げると、体に引っ付いていた符は粉微塵に粉砕された。

 軽く体を震わすと、少し焦げ付いていた毛皮からポロポロと炭のカスが落ちただけで、明らかにダメージを負っているようには見えない。


(小手調べって言ってもそこそこ殺傷力あるやつ選んだんだけど…想像通り、めっちゃ頑丈ね…!)


(耐久はやっぱ百々目鬼並って感じかよ、これどうすんの?)


 状況変化としては、結果として鵺が草原の中央に移動しただけだ。しかも今の一撃で油断が抜けたのか、鵺の両眼はしっかりと聖を捉えている。気配遮断の符の効果による錯乱はもう狙えないに等しい。


「グァアっ!!!」


(黒煙の出現確認、こっちは何も問題ないわ。アンタは視界が悪くなることはないだろうけど一応気をつけてなさいよ!)


 先程とは違う声色で鵺が唸ると、どこからともなく黒い煙が出現し、周囲一体の地面に停滞し始める。聖の膝下までを覆う煙はどこか禍々しく、しかしその割に聖は実害らしき実害を感じなかった。


(むしろお前の方が気をつけろよ…鵺なんだが、体の左側にかなりの怪我を負ってるのが見える。攻めるなら左側からの方が確実だとじゃねえかな)


(ナイスアシスト!今日はアンタの出番、なさそうね)


(マジ?それだと助かるわ、頑張ってくれ)


 聖視点からは見えなかった左半身の怪我、かなり頑丈である鵺を切り崩すための明確な弱点。それを発見した真に対して聖は機嫌よく返答を送る。


 よく見れば確かに左半身を聖から隠すように鵺は立ち回っている鵺を見、聖は追加で幾つかの符を新たに抜く。


(2、3発目眩しをぶち込んで左半身に本命をぶち込むわ。5秒弱目え塞いどきなさいッ!)


 真からの返答を待たずして、聖は新たに抜いた符を投擲する。

 それを素早く回避しようとする鵺を嘲笑うかのように空中で符が炸裂する。強烈な閃光が発生し、辺りを真昼の如く照らした。


「グァッ!!?」


 堪らないといった様子で鵺がサルの顔を歪め、虎の前脚で顔を押さえながら踠き苦しむ。苦しげな声を上げ、よく見れば顔からは涙が溢れていた。



 しかし、”弱点”と”怯み”が重なった今は、まさに千載一遇、絶好のチャンスである。



(今ッ!)


 素早く左半身側に移動した聖は更に5枚の符を構え、近距離からの一撃を放つ為に肉薄する。

 小手調べの紫電ではなく聖の代名詞とも言える紅い稲妻、5枚の符から漏れるようにバチバチと赤いスパークが迸った、


――――まさにその瞬間だった。


「…は?」


 真は念話ではなくあまりの驚愕で素で声が漏れるが、防音結界がその音を外に出すことを許さない。誰にも聞こえない素っ頓狂な声をあげた真は改めて目の前の状況を理解しようとする。


 少し遠方から状況を俯瞰していた真の目に映っているのは、鵺の左サイドを陣取っていた筈の聖が()()()()()()()()()()()()()()という奇怪な光景。

 次の一撃でチェックメイトという盤面が卓袱台をひっくり返されたような、全く警戒していなかった未知の一手だった。


(()()()()()()()()()()私を捕らえたッ!?コイツ、狡猾…いや、頭がいい…っ!)


 聖の膝下までを覆い隠す黒い煙。その分かりやすいほど露骨な死角を這って、鵺の尾である大蛇が聖の片足を巻き上げ、宙吊りにしていた。

 この状況を改めれば、追い詰められたように見せて鵺は聖を釣っていたとしか思えない。


「グルフフッッ」


 ()()()、と。


 実に下卑た笑みを鵺は浮かべた。その表情は野生の獣ではなく明確に知性を感じさせる。仔牛程度なら丸呑みにできる程のサイズがある蛇が鵺に共鳴するようにシュルシュルと舌を鳴らす。


 脚先から昇って、腰、胸、腕と蛇が聖を絡め取っていく。

 ほんの一瞬の混乱に生まれた油断の合間に聖は完全に拘束された。


(…ピット器官による熱源探知か、視覚を潰してもダメなわけね)


 雁字搦めの中、冷や汗を垂らしていながらも冷静な聖の脳裏を過るのは爬虫類にある特殊な器官、ピット器官についてだった。


 (土御門!まずい…今助けるから待ってろ!)


(…なるべく早めでお願い。身体強化してるからまだ耐えられてるけど、身体がミシミシ…軋ん、でッッ〜〜!!)


 苦痛の声を最後に途切れた思念に焦りを覚えつつも、近くの草むらで身を隠して状況を見ていた真が走り出す。鵺は実に愉しそうに苦しむ聖を観察しており、接近するもう一人の人影に一切注意をしていない。


(その油断が命取りなんだよ…ッ!!)


 鵺の胴体、その左側にある大きな切り傷。


 今だに完治しておらず、分厚い毛皮の下のピンク色の皮膚と、何かに袈裟斬りにされた際にできたであろう傷から溢れた血液が辺りの毛を固めて黒く変色している。


 そこ目掛けて真は、矢籠手で覆われた右手で拳を放つ。


(使い方は…ッ!)





――――――――――――――――――――――――――――――――





『ところで土御門、俺専用装備って言っても使い方とか全くわかってないんだが…』


 鬱蒼とした森は夜の帳で更に暗く沈み、まるで罠のように足元で張り巡った木の根は歩く者の足を掬おうとしているかと思うほど鬱陶しい。


 おおよそ自殺を考えている人しかいかないような、真夜中直前の山道をせっせと登る聖と真。

 夜目が効くようにと符で目に強化を施してはいるものの、足元を注視していないと転びそうになるので、二人揃って俯いて山を登っていた。


『あ〜、そういえばちゃんと説明してなかったわね、改めてその弓籠手…『雷上動』の能力は2つ。1つ目は電撃を吸収して無効化する能力。推定だけど、1億ボルトくらいまでならなんともないように設計してあるわ』


『…なんだろう。電撃の単位として10万までは割とポピュラーだけど、1億って聞くと全く想像つかないんだが』


 某ポケットにゲットするゲームのお陰で、なんとなく10万ボルトまでならイメージがついた真だが、その1,000倍の電撃まで耐えられるというのは流石にイメージがつかなかった。

 まあ前者についても、あくまでアニメでイメージできているだけで現実基準では図れていないが。


『さっきも言ったけど自然界の雷1発くらいは大丈夫って程度に考えておけばいいわ。

そして2つ目、こっちが大本命。電気を勝手に吸収し、自由に放出できる能力よ!蓄積した電撃をそのまま放つことが出来るってわけ!』


『おおっ!ようやく俺にまともな攻撃手段ができたってわけか!…んで、どうやれば電撃が出るんだ?』


『それはね━━』


 ただ念じるだけで…と言葉を続けようとした聖は、すんでの所で言葉を止めた。


 その理由は相当くだらないもので、最近真の手のひらの上で定期的に転がされているような気がする聖にとって、この状況は少し()()()()状況だと思えたからである。


 別に電撃を使うのに特定の動作などは一切必要ないというのは事実。防具であり武器なのだから、複雑な機能は使用感の悪さを感じさせるだけであり、基本は機能と性能を重視しその次に見た目を重視する。


 そう言った職人気質のような所のある聖が一から設計、制作した『雷上動』は、使用者の使いたいという()()をキーとして電撃を放つように設計されている。


(最近コイツにおちょくられて色々と…恥ずかしいとはいかないまでもちょっと、ちょ〜〜っと心を乱されてる気がするのよね。私の式神の癖してそういうクソ生意気な態度はやっぱりよくないと思うのよ、うん)


 何に対して、そして誰に言い訳をしているかわからないが、一瞬で行われた聖の脳内会議は真に制裁を加えることで決議が固まった。


 この間僅か0.2、3秒。

 最近何かと察しがいい真に警戒されないように、なるべく自然体を装い言葉を繋げた。


『━━━━それはね、さっきわざわざ銘をつけたでしょ?能力解放のキーを”銘の宣言”に事前にしておいたのよ。だからアンタが攻撃するときは、()()()()()()()()()()()()()()





――――――――――――――――――――――――――――――――





(「轟け、雷上動ォォっっ!!!!!!」)


 思念と口から同時。

 実はいらない大きな声で発せられた声と、本来これだけで良かった強い意思に呼応して『雷上動』が唸りをあげる。


 出発前にチャージしておいた『雷上動』によって真の拳は青白い電撃を纏い、鵺の傷跡へと勢いよく振り抜かれ、傷をえぐるように突き刺さると同時にけたたましく雷撃を解放した。


「ギィッッッッ〜〜!!!!?」


 世界が白色に染まり変えるほどの激しい稲光。


 一億ボルトもの雷撃が直撃した鵺の耳を劈くような唸り声が深夜の山に響き渡る。

 完全に油断しきった状況であった鵺は、突如訪れた強烈な激痛に暫く喘ぎ苦しみ悶絶し、そのまま泡を吹き出し倒れ臥した。


「プッ、ふ、ふふ…ッッ〜〜〜〜〜!!」


 なお、この時聖は身体が締め上げられている状況にも関わらず、横腹を痛めるほど吹き出して笑っていた。

 

 防音結界さまさまである。







やる気と元気をください。

なりふり構ってないで承認欲求を満たしたいので、ブックマークと評価してください。

マジで頼みます。

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