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嘘吐き系女子

ふつーーーーに死ぬほど忙しい。

忙殺はされないまでも余暇に書いてる暇がないくらいにはやべえです。





「アンタはブレーン兼私の式神なんだから」


 そう言い放った土御門聖の表情は、傲慢ではなく確かな自信を感じさせる、そういう笑みだった。


「ブレーンっていうなら遠隔地から指示だけされてくれよ、そうすれば幾らでも妖怪退治に付き合ってやるから」


「……訂正、アンタはブレーン兼肉壁よ、もうちょっと男子然とした態度とかないの?

”命に代えてもお前を守る!”みたいな…想像したら違和感しかないわね、あり得なさすぎ」


 決め台詞のようにそう言い放った聖は暫く考えたのちそう結論付けた、かなり馬鹿にした表情で真を嗤いながら。

 端正な顔立ちが嘲笑っているのもあって真は顔を怒りに染めて自然と顔を窄めた、相当頭にきているのがわかるだろう。


「頭キたぞおい、誰が肉壁だコラ。もう今回お前がピンチになっても俺は助けてやんねえからな………まあ、そもそも俺には魔術とかそういう直接攻撃に使える手段が一切無いわけだけども」


 怒り転じてナーバス。

 真は聖との、短いのにとても濃い非日常で1つ悟ったことがあった、それは自身の無力さである。


 確かに機転を利かせて聖のサポートをこなしてきた真であるが、彼自身の特性はあくまでも影が薄いために斥候や物理的な裏工作に向いているといった()()


 聖の行使する符から繰り出される巧みな魔術と比較すると、見劣りどころか比肩するのも烏滸がましいと、そう考えるのも無理は無いだろう。

 事実、この1ヶ月近い付き合いで聖がボロボロになりながらも戦う姿を2回も目撃した。


 積極的な聖と慎重な真。


 凸凹コンビとなりつつある聖と真であるが、真は先ほど言われた事を割と気にしていた。

 即ち”本来であれば、男である俺の方がボロボロになってるべきなんじゃ無いか”と、現代社会にそぐわない様な感覚ではあるが、やはり体を張るのは男である自分の方がいいとつい考えてしまった。



「なんていうか、さ。

確かに土御門が言う通り、命懸けでお前を守るなんて言い出すとしたら、それはホントに肉壁でもやる状況でしかあり得ないんだよな…だって俺はお前の符無しに魔術とか使えないし、精々敵の目を誤魔化しながら陽動くらいが限界だし」


 真は先ほどまでの表情と打って変わり、少し影を落とした顔で下向きの視線でそう呟く。普段は割とツンケンしているが根はそこそこ優しい真が、多少なりともそう考えるのは仕方がないだろう。


 自分を卑下するようにそう言い放った真を見つめる聖と緑。緑はどこか同情的な視線を向けるが、聖は全く違う視線を真に向けていた。


「ふふふ、その通り。アンタは今までのところ、私の力を借りた上で私のお膳立てが精々だったわ。

そう、()()()()()はね?」


 少し態とらしく笑った聖は、まるで演劇の台詞回しかのように言葉を紡ぐ。聖の視線の正体は憐憫でも軽蔑でもなく、()()


 何か嫌な予感がする、と直感的に感じた真は恐る恐る尋ねる。

 こう言う表情をした聖は恐ろしいと短い付き合いでも理解しているからこその行動だ。


「…と、言いますと?」

「大丈夫よ、用意は万端」

「文脈おかしいし大丈夫ってなにが!?」


 これまたキメ顔を作りながら聖が指を弾く、室内には大きく”パチン!”と音が響き渡った。


 すると側に控えていた緑が、短期の旅行にしてはやたらと大きいキャリーケースを開き、まるでマトリョシカのごとく中から頑丈そうなアタッシュケースを取り出した。

 それをおもむろに机に置くと、聖がポケットから金色の鍵を取り出し鍵穴に差し込んでロックを解除する。

しかし、その様子はただアタッシュケースを開くにしては違和感を覚えた。

 

 聖と緑は顔を()()()()()()()()()腕で顔を覆い隠しているのだ。


「え?」


 真が『なんでそんな露骨に顔守ってんだよ』と言葉を続ける前に目の前が真っ白に染まる。

 理由は至極単純で、”プシュ〜〜〜”と、ジュースの炭酸ガスが抜ける時の10倍は煩い音と共にケース内部から凄まじい勢いで白煙が噴出し、辺り一面を曇らせたからだった。


「ゴッフ、ゴッッフォ!!?………あの、こ()()()?」


 無味無臭とはいえ白煙を大量に吸い込んだ真が盛大に暫く噎せて、涙と鼻水を垂らしながら改めて謎のケースの中身について二人に疑問を呈した。

 相当目と鼻に来たらしい、無臭なのに。


 煙を吐き出したケースの中に収まっていたのは()()()()()()()()()()()、よく見ると幾何学的な刺繍が幾重にも施されるのが伺える。


 その見た目こそ体に羽織る装束のようだが、それにしては体半分を覆い隠す分の布地しかないように見えた。


「なにって…弓籠手(ゆごて)だけど?」

「知ってるのがさも当然みたいに言われても知らないんだが!?」


 真は怪訝そうな顔を作った土御門の言葉に異を唱える。


 ”弓籠手”とは昔の弓兵が纏っていた武具であり、少なくとも相当古典に詳しくでもない限り、現代の高校生が知らなくてもおかしくないだろう。


「冗談はさておき、とりあえず着てみなさいな。サイズが合ってないと防具としては不十分だし、ここで最終調整してしまいましょう」

「では(わたくし)が最終調整を。お嬢様はこの後の準備に意識を向けていただきたいですし」

「それじゃあお願いします、私は奥の部屋で符と魔術道具の確認をしてますね」


 真本人を置いてきぼりに話がどんどん進んでいく。

 スッと移動した緑はどこからともなくメジャーを取り出し真の腕の丈を採寸し出し、聖はコテージの奥の部屋へキャリーバッグと共に消えていった。


「とりあえずこれを羽織って下さい、丁度そこに鏡もありますし調整も容易でしょう」

「え、あ、はい」


 ちゃんとした返答を返す暇もなく、”さあさあ”と背中を押されて鏡の前へと押し出される。

 手慣れた様子で真の体に矢籠手を通しながら、緑は真にとっては普段聞き慣れた教師モードの声で着方のレクチャーをする。


「はい、そこに腕を通していただいて…こちら側の紐を調整すれば……。これでズレ落ちないですよ、一回脱がしますからもう一度今の手順で着てみてください」

「なんで教師モード…まあそれはどうでもいいとして。えっと、腕を通して…んで、ここから紐を通して強く締めればっと」


 改めて自分で羽織った矢籠手を鏡を通して見るとつやの消された布地に鼠色の地味な色合いが相待って、真自身大変不服であるが、とても自分に合った装備だと思った。

 真の右上半身から右の指先までをすっぽり覆う装備は基本的には灰色であるが、よく見れば血管のようにも見える幾何学的な図形が黒の刺繍で施されていた。


「似合ってますよ」

「確かに、まるで()()()()()()()()()()と思う程度にはぴったりな装備だと思います」


 地味な見た目を揶揄する様に少し自虐交じりにそう言った真、その言葉を聞いて緑は苦笑を漏らすと少し楽しそうに訂正を入れた


()()()、ではないですよ。これは真君のために製造された装備で間違い無いです。

なんとびっくり、他でも無いお嬢様謹製の一品ですよ」

「え…?」


 真は目を丸くした。


 まさか聖が自分のために装備を新調、それどころかまさか自作してくれるとは思ってもいなかったからだ。


 確かに彼女の式神という立場にある真だが、彼自身の認識では聖との関係は精々知り合い以上友達未満程度であり、何気に人生初の()()()()()()()()()()()()()()()()()()をもらえるほどの関係では無いつもりだった。


 それ故に少なくとも聖よりは誠実だと思っている緑からの言葉に驚愕した、ちなみに聖本人から言われてたら10割信じていなかったらしい。


「そしてお嬢様が今日の朝、遅刻した原因でもあります。テスト週間もあって最近は中断していましたが、真君の専用装備であるこれを魔女術と東洋魔術の知識をフル活用してずっと作っていたんです、ようやく完成したのが()()()()()です」

「朝、方…?!じゃあ、ええと……3時間くらいしか寝てないってことじゃないですか!?」


 真は改めて自分の記憶を辿れば、確かに聖は行きの電車の中でもほとんど寝ていた。そういえば顔色もそれほど良くないし、化粧で誤魔化してはいたが目の下も少し黒ずんでいた様な気さえしてきた。


「…討伐開始予定時刻、あと何時間ですか?俺、疲れちゃったみたいでしばらく寝させてもらいたいんですが」

「えっと…鵺は夜にしか現れないという話なので夜9時に出発の予定なので……後4時間ほどですね」

「なるほど、じゃあ俺も少し寝ます。でも相当疲れてるから…もしかしたら()()()()()()起きないかもしれないですけど」


 にやりと、悪戯な笑顔でそう緑に告げる。


「…!わかりました、では私も()()()()()()()()()()()かもしれませんね」


 真の意図を察した緑はにこやかにそう告げる。

 緑は聖が消えていった奥の扉から静かに聞こえる寝息に微笑みながら、別室に入っていく真に見えない様に会釈したのだった。






〜余談〜

「ってことは、あのバナナへの異常な執着も深夜テンションの延長…!?」

「いえ、あれは本気で食べたがってましたよ」




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