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一件落着系女子と黒焦げ男子

ちょっと課題とか終論とか忙しくなってきて時間の確保が難しくなってきました…

投稿ペースがかなり落ち込むと思います。




 聖達陰陽師が結社している組織である『極東魔術連盟』の勢力図で考えると土御門家──『木』の家は劣勢にある。


 紆余曲折あって他の家よりも復興が遅れている土御門家にとってわずかなミスであっても、それが家系の存続に大きなダメージを残す可能性は十分にあった。

 そのため、”土御門家の次期当主候補である土御門聖が只の一般人に2度も助けられた”という、至極わかりやすい失脚の芽は早めに潰すのが聖の母親である土御門櫻にとっての最善であった。


 当然、この事実を十全に理解している訳ではない聖でも、母親の行動から大方の推論を立てることができる。


 そのため彼女は先手を打った。

 それこそ真が『異能者の可能性がある』という情報と『彼との式神契約』である。


 そう言った裏の事情をほとんど知らない真は、少し納得のいかないような表情ではあるが、少し考え込んだ後に口を開いた。


「…そうだな。死ぬよりはよっぽどマシだった、助けてくれてありがとな」


 無論、聖自身全ての推論と事実を真に伝えた訳ではない。

 しかし、その限られた情報からでも『自身の命がマジでヤベーーイ!』だったことを悟るのには十分だった。


 やけに素直な態度で頭を下げた真に対して、その反応は予想外だったのか若干照れ臭そうに聖は頬を染め外方を向いた。

 しかし一呼吸置き真剣な顔つきを作ると、真と向き合って淡々と話し出した。


「…後から伝えるのも何なんだけど”式神”になった人間の()()()()()の。もしも体に不調が起こったりしたらすぐに私に知らせなさい、これ私の連絡先とLIFEのiDね」


「……え゛っ、なにそれこわい。さらっと怖いこと言ったな今、アレ安全性保証とかされてなかったの?」


 ぶっつけ本番でトンデモ術式による契約が行われていた事実に肝が冷える真だが、とはいえ自分の命が助かった(らしい)現状で、色々と裏で尽力してくれていたであろう聖に対してこれ以上の文句を垂れる訳にもいかなかった。


 そもそも彼の性格上『誰かを必要に責め立てる』こと自体あまり得意ではない。責め立てこそするも後から罪悪感に苛まれるタイプなのでよっぽどの状況でもない限り人に対して怒鳴りつけたりはしない。

 それに何より、真剣な眼差しの裏にどこか申し訳なさを含んだ聖に対して、そんな御無体な言葉を吐けるほど真は無神経でも恩知らずでも無いのだ。


 真は複雑な心境ながらも差し出されたスマホのQRコードを読み取り、連絡先と連絡用SNSである”LIFE”のiDを登録する。


 なお彼自身今の所は気付いていないが、母親を除いて初めての女性の連絡先ゲットの瞬間である。さらにその相手は()()()()は『学校一のマドンナ』という、殆どボッチ野郎にしてはトンデモない快挙であろう。


「え〜〜っと、まあ、さっきは死ぬかと思ったけど…今は見ての通りピンピンしてるし…平気、かな?体に関しても特に異常は感じないし」


「…ホント?」


「ホントもホントだっての、というか真偽については”魂接(パス)”から伝わってくる感情から何となくわかるだろ?」


 ”魂接(パス)”、式神契約によって生まれた聖と真の魂による繋がり。


 ”魂”という肉体以上に深層である繋がりは、何かの術式を介する訳でもなく思考や感情などがごく一部契約相手に伝播してしまう性質を持つ。


 それがあの『魂のセカイ』で真の脳内に焼き付けられた知識であり、実際に先ほど身を持って味わった事実。それを踏まえての発言であったが、しかし聖は怪訝な表情を作ると、真をどこか小馬鹿にするように話し出す。


「あんなもん煩わしいからとっくに遮断したわよ、アンタもさっさと遮断しなさい。いつまでも他人に感情を読まれるのは嫌でしょ?」


 その聖の言葉を受けて思わず真が顎を外しそうになる程度には衝撃的なカミングアウトである。


「えっ、これ遮断できんの?早く言ってくれよ…」


 あのセカイでそんなこと習ってないんですけど…と言わんばかりの顔のまま突っ立っていると、ため息交じりに聖が手持ちのホワイトボードにイラストと文字を書き連ねていく。


 その後、聖から”魂接(パス)”の情報遮断について軽いレクチャーを受けた真だったが、時間が夜の10時を回っている事に気付き慌てふためき帰宅の準備の後緑によって自宅まで送ってもらう事となる。


 そして、真の家までついて来てくれた聖の”才色兼備美少女モード”によって真の母親はあっさりと騙され、暫くの間真が毎日赤飯を用意された上に、耳年増状態の母親から有る事無い事を聞きまくられたせいで彼が変な頭痛に見舞われるのはまた別の話。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 百目鬼&百々目鬼戦の翌日、つまり昨日の今日。



 夕暮れ時、放課後の一年生の教室。まるで”草木も眠る丑三つ時”を想起させるような、”しいん”と静まり返った学校。


 椅子に座っているのは呆れた表情の男子生徒、顔の作りは中の中の筈だがどこか浮世離れしているような印象を抱く彼──浅田真の呆れる理由である視線の先。


 いい加減見慣れたミニスカートの改造巫女服をまとった美少女──土御門聖は、張り切った様子で想像の倍くらいは勢いよく全身の関節を曲げて伸ばしてと準備運動に励んでいた。


「…んでもって今日も今日とて7不思議退治って事ですかね、ご主人サマ?」


「キッショ…2度とその呼び名使わないで鳥肌立つから。前者については肯定。さ、行くわよ」


「行くわよ」という言葉からわかる通り、聖の妖怪退治に真は同行する事になった。


 理由などは考えるまでもないだろう、彼は彼女の”式神”なのだ。


 ”式神”とは、陰陽師に使役される神仏人外が魂による契約によって従属した存在。彼は”影の薄さ”以外はどうしようもない程度に人間だが、冷静に考えれば式神が主人から離れて行動するには違和感があるだろう。


「キっ?!気色悪くな……いや、キショかったわ、うん。俺も2度と言わないようにするわ…んで今日のお相手はどちらさまですか?」


 改めて真は自身の通う学校、公立崎森高校に伝わる七不思議を挙げていく。


「1、音楽室の見つめる肖像画。

怪談の内容としては音楽室に飾られている楽聖の肖像画が生徒を目で追ったり血の涙を流したりするっていうありふれた怪談。正体は『目目連』でこれはこの前倒したから解決済み。


2、1階の背後霊。

一階の廊下を夕方2人で歩いていると背後にボンヤリと人の影が現れるというもの、未解決。


3、トイレの太郎さん。

この学校のどこかの男子トイレに住み着いていて、ノックに返答するがいつの間にか扉が開いていて消えている地縛霊というウワサ、未解決。


4、開かずの扉。

三階の西校舎の角部屋がこの学校が建て替えられた後からずっと閉まったままで、曰く扉の先は異界につながっているという説や昔、建て替えられてすぐに生徒が自殺した等と生徒間で噂されてる、未解決。


5、赤紙青紙。

トイレに現れ、悪意のある二択を迫り最終的に人を殺める危険度の高い七不思議。正体は『鎌鼬』であり、すでに解決したよな。


6、呪いの鏡。

金曜日の昼の十二時頃に一階購買前の鏡を数人で覗き込んでいると、いつの間にか全く知らない人物が写り込んできて、周りを見渡してもその人物はいないという旨の怪談。未解決。


7、正体不明。

誰も知らない謎の怪談、んでもって解決手段無し…ってところかね?」


「はい、よくできました。ちなみにトイレの太郎さん、呪いの鏡、正体不明の7番目、開かずの扉については妖怪とは無関係だったわ。

という訳で、これが正真正銘()()()()()、一階の背後霊に焦点を絞って調査するわよ!」


 ”むふん!”と鼻息荒く胸を張り、十分以上にやる気を滾らせる聖を横目に、体の動きの細部まで気を使って歩いている様子の真は教室から出、すぐさま目の前の廊下で立ち止まった。


 閑散とした廊下、それはおろか学校中からは他に居てもおかしくない人間の生活音の一切が感じられない。


 それはそうだろう。音を立てる主体である人間は既にこの学校内に2名しか存在していないのだから。


 極東魔術、その神秘は決して一般人には知られてはいけない。準備段階として”人払いの結界”によって教師生徒は一人残らず無意識に帰宅されられた。

 冷静に考えてみると、教師はブラック職務という事で有名だが、魔術的誘導とはいえ定時に帰れる崎森高校の福利厚生という面でとてもしっかりしていると言えるかもしれない


「とはいえ廊下に背後霊…ねえ」


「ええ、最近目撃例や遭遇例が後を立たないのよ。

妖怪の痕跡がないのも怪しい、もしかしたら痕迹を隠蔽できる程度には()()()()()()()である可能性もあるからアンタも気をつけなさい…ってアンタは初見で見つけられる心配はないか。もし現れたら堂々と後ろから一撃ブン殴ってやりなさい、それで怯んだらそのまま『彼岸花(ひがんばな)』で瞬殺してやるわ」


「なんというか…嫌な信頼だな。もしかしたら見つけて()()()()かも知らないだろ?」


 見つけて”貰える”と言うあたり、自分の体質について自覚があるのだろう。しかし、その謎の自信満々な台詞を聖は鼻で笑う。


「はっ!ありえないわね」


「鼻で笑いやがったぞコイツ!もう少し悩むとか考えるとかさぁ…はあ、もういいです」


 がっくりと肩を落とす真だが、容易に予想していた回答であるだけに精神的な復帰も早い。

 とはいえ若干傷心気味に廊下を見渡すが、やはり彼にも”怪しそうなモノ”なんてものは一切見つけることはできなかった。


 それはもちろん聖にも、である。


「にしても一階の廊下…ねえ。毎日使ってるけど、怪しい気配なんて感じた事ないんだけどなあ」


「聞いた話によると休み時間や放課後、たまに授業中にもふと後ろに何かがいる感覚に襲われることがある…らしいわね。特にアンタが所属している1年2組の教室の周辺、で…」


「ああ!そういえばクラスの女子から聞いた気がするわ、背後に気配を感じる〜って。

んなこと言ったって()()()()()()()()()()()()()()怪しい奴が立ってたらわかるってのにな、はは…は?!」



 その瞬間、二人の脳内に一陣の稲妻が駆け、情報の点と点が繋がった。



 理由は違えど、両者が全く同じタイミングで硬直する。片や全てを理解し犯人を確信した様子、片や必死に否定材料を考え焦っている様子の被疑者である。


 夏の陽気とは関係ない汗が急に吹き出した真が、ふと殺気を感じてそれを辿ると、その先に美しい笑顔を浮かべた美少女が手に5枚ほど符を挟み込んでいた。


 彼には嫌という程わかってしまう。

 あの美しい作り笑いの裏では恐らく恐ろしいほどの激情が濁流しているだろうと。


そして、この間は嵐の前の静けさにすぎないと。


「……いやいやイヤイヤ、僕、ニンゲン。妖怪じゃない、疑わしくは罰しちゃダメ、それこの国のルール」


「アンタが七不思議かよッ!喰らっとけ、『山茶花(さざんか)』!」


「いや、ちょ、まっ!流石に符5枚分とか威力がエグっ、びゃああアっっッ!!?」


 

 ……真の言い訳虚しく、というかなんというか。

 とりあえず言うべき事があるとするならば。


 懲罰用に製作された符術、『山茶花(さざんか)』による電撃に致死するほどの威力は当然なく、真は精々ギャグ漫画みたく黒焦げアフロで済んだという事と。



 これにて、土御門聖が『極東魔術連盟』から依頼されていた初のソロ依頼である、『崎森高校で噂される七不思議の背景、正体である妖怪の討伐』と言う依頼は達成されたという事だろう。






                                             〜第1章 完〜



これにて1章は完結しました、おつきあいいただき有難うございます!

とりあえず課題の処理と新章のシナリオ構築のために2週間ほど時間をいただきます。


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