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同刻:会合にて

残念ながら、これは割と本編に深く関わってくる内容ですので、今までの蛇足とは異なります。




 土御門が盲目になりながらも無名の異形の鬼と戦闘している最中、その同刻。


 薄暗い部屋、畳30畳はある大部屋には5人の人影があった。

 照らすのは蝋燭、よく見れば畳には赤い糸の様なもので大きく星が描かれており、その頂点5つに座して4人は位置しているが、一人は星の角には座らずに従者の様に人の良さそうな初老の男性の後ろに控えている。


「では始めましょうか、我々”極東魔術連盟”の会合を」


 芯のある声で会合の開始が告げられた。告げたのは黒髪ショートの中年の女性であり、佇まいは洗練されているが何処か荒々しい雰囲気を漂わせている。


 権謀術数渦巻くこの連盟の封切りをしたという事は、詰まる所この女性が盟主であるという事実に他ならない。

残りの3人は沈黙をもって会合の開始を了承した。


「議題は当然”木”についてだ、我々がここに居る意味を解っているのだろうな?」


「ええ、勿論。しかし、私の娘達は力量不足ではありませんわ、”火”の方」


「どうだかなあ?

昨日の調伏は成功こそしたらしいが随分と酷く痛手を負わされたとか、しかも低級の”鎌鼬”程度に」


 ”木”と呼ばれたのもまた女性、顔にはわかりやすく作り笑顔を浮かべ、”火”の追求をまさに柳に風と受け流す。

しかし、昨日の件について触れられた瞬間、一瞬だけ眉がピクリと吊り上がった事をこの場の誰も気付かなかった。


「昨日…ですか。それについては勿論技量不足も一つ原因かもしれませんが…どうやら誤情報が伝わっていたらしいのです。

何方かの報・連・相すら理解できていない未熟者が、よりにもよって三位一体の妖怪のうち一匹だけしか調伏出来ずに取り逃がした様で…」


「”木”の党首、もう少しハッキリと物を言ってもいいと思いますよ。何と言っても其処の女性は()()を理解できないタイプですので」


 口早にまくし立てた”木”に対して、いま集まっている人間の中で最も年若い様子の眼鏡をかけた美丈夫が鼻で笑いながら話に割り込んだ。


「おい”水”、私は回りくどい言い方が嫌いだ、何なら貴様が”木”の代弁をしてもいいのだぞ」


「お断りします。私は口は出すがメリットのないことは基本的にしない事にしているのでね」


「…屑が」


 ”水”のあまりの発言に対して”火”が聞こえる様な声で悪態を吐く、すると人の良さそうな白髪混じりの初老の男性が穏やかな口調で切り出した。


「まあまあ、会合は始まったばかりですので、そんなに苛々するのはやめましょうや。”木”の話はまだ終わっていませんし、最後まで聞きましょう、ね?」


「”金”…狸親父めが」


 初老の男性が発言するとこの部屋にいる誰もが露骨に眉を顰めた。”水”に至っては蚊の如き細い声で露骨に嫌悪感をむき出しにして吐き捨てる様に声を漏らす。


 会合が始まって数分も立たぬうちに既にこの場は負の感情渦巻く坩堝と化していた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「私の話の続きを話しましょうか。私の娘…聖が昨晩交戦した鎌鼬は2匹、前情報では一匹のみ取り逃がしたとしていましたよね?

他ならない盟主の息子である蘭丸(らんまる)殿からの通達であったとされていますが」


「雑魚が一匹増えた程度で重傷を負う様な鍛え方をする方が悪い。そして今回の一件で明白になったのではないか、”木”の明確な弱体がなあ?」


”木”は尊大な物言いの”火”の言葉に苦虫を噛み潰したかの様な表情をとる。


「聞けば貴様の娘、土御門聖は五行の”木”の性質のうち”雷”の適性が色濃く出たせいで”風”の適性がかなりお粗末らしいではないか…わかっておるな?

()()()()()四大元素論において提唱された4大精霊を基とする西洋の精霊魔術を扱えぬ者に術者として大した価値はない」


「……」


「本題に戻るか。”木”よ、いい加減”火”の門下に下れ。

最早貴様の娘達には種牝馬の価値程度しかない、今下れば我が息子である蘭丸との婚約を認めてやろう」


 そのあまりにも上から目線の発言は現在のお互いの立場を明確に表していた。しかし、それに対して口を挟む勢力も一つ。


「待て、”火”。貴女の家は現在の盟主だ、これ以上力を蓄えるのは面白くないというのはわかるだろう?

”木”、私たち”水”に下らないか、其処な女帝の様に振る舞う目の上のたん瘤よりも高待遇を約束するよ」


「おい、”水”。それ以上私を愚弄するならば今ここで貴様を灰燼に帰すのも吝かではないぞ」


 ギロリと三白眼を見開くように”水”を睨みつける。

 ”水”の歯に衣を着せない物言いに怒りを露わにした”火”、その周囲に蜃気楼が揺らめき部屋の室温が真夏をも超えるほど一気に上昇した。


 その様子を鼻で笑う”水”が軽く指を弾くと、今度は”水”の周囲から濃霧が立ち込め始め、蜃気楼と衝突するとジュウ、と音を立てて湯気となり拮抗する。


 一触即発の様相を呈した状況、最初に動いたのは誰でもない”木”であった。



「”火”、”水”、あまり私の娘を舐めるな」



 先ほどの丁寧な口調と変わって凛とした口調。それを見た”火”は興ざめだと言わんばかりにつまらなそうな表情を作ると蜃気楼は搔き消え、それを見た”水”も手で払う様な動作で濃霧を霧散させた。


「次の四大家術式競…今は()()()()でしたね。その際に我が娘、聖の力を御覧じろ。

二度とその様な侮辱を吐けないほど、貴方方の兄妹息子孫を叩きのめすでしょう」


「…宣戦布告か、ハハハハ!!

面白いじゃないか”木”よ、万が一…いや億が一にでも我が息子に勝てたのなら我々は貴様の靴でもなんでも舐めてやるさ!!なあ、”水”よ?ハハハハ!」


「…随分と冗談がお得意な様で、時代遅れの我楽多術式使いの家系が大きく出たものですね。

構いません、私の()()()()()()が貴女のクソ雑魚娘に負けることなんて天地がひっくり返ってもありえないのですから」


「貴様…まだシスコンが治っていなかったのか…」


明らかに舐め腐った態度と言葉、しかしその言葉を聞いた”木”は内心ほくそ笑んだ。


(聖、あの子には隠し玉が沢山ある。()()()()()()手数で負けることはない)


 ここは『極東魔術連盟』会議場、等組織は陰陽五行説に基づいた御五家の当主たちが戦後に成立した組織であり、その目的は喪失した術式の再現とその保護である。


 既に穏健派と革新派に内部が分裂し目的の形骸化が進行している。この権謀術数渦巻く伏魔殿において、当人である土御門聖の知らぬうちにとんでもない賭け事が行われていたのであった。



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