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必殺技系女子

話を分割して読みやすい量に変更する作業と並行して文章を改稿しています。

文章量は3000〜5000程度に統一することといたしました、ご了承ください。




「あの怪物の正体は”妖怪”。早い話が人に仇なす怪物よ」


「七不思議じゃないのか…痛っ、もっと優しくやれよ……。というと、”唐傘おばけ”とか”ろくろ首”みたいな?」


 夜の教室の中で、男女が声を潜めながら会話をしている。定期的に布同士が擦れるような音が暗がりに響き、その度に男子は少し痛そうな声を上げて女を非難する。


「メジャーどころね。そのイメージで問題ないわ。で、他に何か質問は?」


「……なんで俺、()()()にされてるんですかね、って痛てててっ!?」


 真を足蹴にした電波女がロープをキツく締め上げると、悲痛な叫びが夜の教室に響き渡った。電波女に少し座ってろと言われたの真が素直に座った結果、何故か馴れた手つきで、一瞬のうちに縛り上げられてしまった。


 そのまま普通に会話を始めるものだから、ひょっとしなくともこの女はサイコパスか何かではないかと真は薄ら思った。冷静に考えれば普通に会話を続けていた真も真でおかしいのだが。


「アンタの役割は釣り餌よ?」


「あっさり恐ろしいことを言うな!!人権侵害だぞ、解放しやがれこのやろ!!」


 電波女は簀巻き状態で動けない真の抗議に耳も貸さず、教室の扉を全て施錠する。その後、整然と並ぶ机を教室の後方へと寄せた。

 教室はまるで掃除の時間のようにスッキリとし、その中央に2人が構える形をとる。


「ふう、これでよしっと」


 独り言混じりに軽く汗を拭う電波女。やり遂げた感を露骨に出しているものの、真からすれば教室の中央で簀巻きで転がされている状態である。

 

 側から見れば相当にカオスだ。


「…俺は真剣に聞いてんだよ!答えろよ、これは一体どういう状況なんだよ?!」


 右も左もわからず、ただ拘束された事に対する不安もあるだろう。

 語気を荒げ電波女へ怒りを向けるイモムシ(まこと)。しかし怒鳴りつけられた電波女は、先ほどまでとは打って変わり、真剣な声色で真を諭すように話し始める。

 

「━━納得いかないかもしれないけど、これはあなたの為でもあるのよ」


 電波女の声は先程までの楽観的な雰囲気はなく、恐ろしいほど真剣味を帯びていた。その変わりように思わず真は息を呑む。


「獣型の妖怪は一度目をつけた獲物を絶対に逃がさない。彼らにとって、狩りの失敗は誇りを失うことと等しいわ」


「ええと、つまり…どう言う事?」


「ここで”赤紙青紙”を仕留めなければ、アンタはこれから卒業までの間、()()()()()()()()()()()()()()ってことよ」


「っ!!?」


 衝撃の告白に真は顔を蒼白にして息を呑む。先ほど味わった恐怖が脳裏を駆け、血の気がどんどんと引いていく感覚を覚えた。


「釣り餌と言ったのも、”赤紙青紙”からすればアンタは既に獲物だと認識されているからに他ならない。……『信じて』とは言わないわ。でも、まあ…悪いようにはしないわよ」


 『卒業まで狙われる』という、想像よりもずっと厳しい現実に真は目眩がした。


 しかしそれ以上に、霞のかかった顔でも電波女の真剣な感情が伝わってくる。芯のある強い声とその鋭い視線は告げられた言葉は嘘ではないと信じられるだけの説得力があった。


 話が終わったようで鋭い視線が外れると、電波女は腰のポーチから数枚の符を取り出し手元で弄り始める。


「……”赤紙青紙”のうちに調伏出来たなら御の字、かな」


 無意識だろうか。電波女は何処か遠くを眺めるように小さく独り言を零した。少しだけ聞こえた電波女のその独り言に、真は何処と無く違和感を覚える。


(…どう言う意味だ?まるで、さっきのバケモノが()()()()()()()みたいな口ぶりだけど) 


 ほんの少しだけ得た情報から状況を考察しようとするが、幾ら考えたところで真は答えに辿り着くことはないことは理解していた。


 真がこれまでの電波女とのやり取りで分かった事は、『電波女は重要な情報は上手くはぐらかしている』と言うことだった。

 

 それが真に対する配慮なのか、はたまた秘密主義なのかははっきりしない。しかし言葉の節々から察するに、少なくとも自分を守っているのだろうという根拠のない確信だけはあった。


(悪いようにはしない、か)


 ”簀巻きにされたこと”は兎も角、とりあえず今は電波女(コイツ)を信じるしかないと思い至った瞬間。



 ━━━突如、()()()と背に悪寒が奔った。



 遠くから聞こえる奇っ怪な息遣いに背筋が凍りつく。全身に鳥肌が立って変な汗と共に浅くコヒュっと変な息が漏れる。

 濁りきった粘着質なナニカが全身に纏わりつくような、重さと心底冷え切る寒気を含んだ、この気色悪い感覚。


(来た……”赤紙青紙(アイツ)”がすぐ近くにいる…ッ!!)


 先ほど襲われたトラウマからか、蛇に睨まれたカエルのように固まってしまった真はかろうじて動く目玉を電波女へ向ける。

 視線の先で、電波女は手慣れた様子で、手元で遊んでいた2枚の符を宙に放った。二枚の符はヒラヒラと宙を舞うと、すぐさま緑色のスパークを煌々と迸らせる。

 

 二枚の符はそれぞれ異なった動きを見せる。


 一枚の符は淡く輝く緑の粒子を放ち、2人を中心に散布さする。それらは次第に結合していき最終的に2人を覆い尽くすとステンドグラスの如き”結界”を形成した。

 真の視界はそれに覆われた事で、辺りの景色に薄緑のフィルターが掛かった。


 もう一つの符は眩い光を一瞬だけ放つと、しかし特に何か変化をせずに教室の床へとゆらゆら落ちていく。


 数秒ほど経つと、二枚の符は役目を終えたかのように塵となり消えていった。


「お、おお…」


 結界が生み出される過程を興味津々といった様子で眺めていた真から2つの意味で感嘆の声が上がった。


 明らかに魔法で作られたバリアが現実に生み出される過程を見たことに対する感動と、そして膜が出来た途端に悪寒が薄れて、さっきまでの体の強張りが嘘みたいに体が動くようになったのだ。


 手を握ったり開いたり肩を回したりしていると、少し馬鹿にしたような言い回しで電波女が真へ声をかける。


「鳩が豆鉄砲くらった様な顔になってるわよ。簡易的な結界を貼ったわ、アンタはこれで妖怪からの影響を受けなくなった」


 口調こそ軽いが声色は真剣そのもので、真の方には目もくれずに鍵をかけた扉の方向を鋭く凝視していた。

 少し考えるような素振りの後、再びポーチから一枚札を取り出し、こちらを一瞥する事なく適当に真に押し付ける。


 しかし、場所が非常に悪かった。見向きもせずに貼り付けたためか、見事に符は真の額にクリーンヒットしてしまう。


「痛っ!?」


「あ、ごめんなさい」


 意外と素直な謝罪がされるが、真としても驚いて口走っただけでそんなに痛く無かったのでお相子である。しかし結果的にだが、見事に符は真のおでこに貼り付けられてしまった。

 視界が半減し周りが一気に見えづらくなる。胴体もグルグル巻きにされているのもあって、真は更に身動きが取りづらくなってしまった。


 しかもなぜか額がヒリヒリするという謎の現象に襲われる真。やっぱり妖怪に効くような特殊な薬剤でも塗ってあるんだろうか?と怪訝な表情をするが、側から見れば額から符をぶら下げている真はキョンシー的なサムシングにしか見えないだろう。


「一応あんたの護身用の符よ、廊下で赤紙青紙を追い払ったやつと同じ術式符。ないとは思うけど、危なくなったら使いなさい」


「…あのとんでもなく眩しいやつか。結界も含めて助かる、じゃあありがたく頂戴するわ」


 変なところに貼り付けられたとはいえ真の護身用という事で、結界の件も含めて電波女に感謝を告げる。


「にしても既に因縁深いな、この術式…符?ってやつ、俺の目を潰しかけたのと同時に俺の命を救ったやつだもんな」


「別にあんたの眼には因縁なんてないんだけどね」


 しかし、ここで一つ問題が発生する。簀巻きにされて転がされている以上、真は符を使うことはできない。とはいえ結界が張ってある以上、赤紙青紙もまた真を攻撃できないのである。

 その事実に気づいた真は、ふとよぎった疑念に頭をひねった。


「…ん?あ、あれ?」


 『縛られていて』、『結界があると真は干渉されないが』、『真も動けないから攻撃できない』。今の真の状況を端的に表すとこうなる。

 そこから導き出された『()()()()()』に気付いた真は、別の意味で冷や汗が滲み出できた。


(…いや、一応プロらしいし、そんなミスするとは考えられないけども、でも…この状況…)


 仮にもこの道のプロフェッショナル(らしい)電波女がこんなヘマはしていないと、その一抹の希望を胸に電波女に真はお伺いを立てた。


「あの…確認なんだけど、一応、一応だぞ?結界張るんだったら、()()()()()()、あったの?」


 そう問いかけるや否や、直前まで真剣な雰囲気を帯びていた電波女の肩が言葉に反応したようにビクリと跳ねた。そして先程まで扉を凝視していた電波女の顔が、真を視界に収まらない方向に露骨に向く。


………さてはこいつ、やりやがったな…!?


「…アンタが、え〜と…私から、あ〜、逃げないように、する、た…め、とか?」


「お前雰囲気に反してポンコツなタイプかよ!?早く縄を解いてくれ電波女、これじゃ鴨がネギ背負って歩いてるようなもんだろ!!このポンコツ巫女!」


「はあ!?誰が電波女よ?!

というか、そもそもこんな事態に陥ってんのは、アンタがこんな時間まで居残りしてたのが悪いんでしょうが!責任転嫁も甚だしいわよ!」


 

 ガンっ!と、犬も食わない喧嘩を他所に、不意に教室の扉が異音を奏でる。


「「っ!?」」


 金属製の扉からありえない様な重い音が響く。電波女は臨戦態勢に移り、不毛な言い争いは中断されると視線は自然に異音の発生源である金属扉に集まった。

 先ほどまでと明確に違うのは、金属扉が明らかに()()()()()()()()()という事実。


 初めの音に続き、2撃目、3撃目の重低音と共に扉がメシリ、メキリと金属が歪んでいく嫌な音が響いてくる。


「あいつ…ッ!まさか()()()()()()()()!?」


 電波女が符を構え戦闘態勢に入った直後の5撃目、少し軽くなった音と共に金属製の扉が紙くずのように宙を舞い、机の上に乗せてあった椅子に勢いよくぶつかる。

 ぶつかられた椅子も同じく巻き散らされ、扉は静止した。


「結界の、物理干渉は…弱いな。久々の獲物が、雑魚とは、儂は本当に運がいい」


 入学してから毎日使っていた教室、いつも開けていたはずの金属扉が宙を舞う。赤紙青紙は入り口辺りを小突いたりジロジロと観察した後、手に持った鎌で軽く空を切りつける。


 すると突如ガラスが割れるような音が響き、うっすらとした緑色の幕が教室全体を包み込んだ。

しかし斬りつけられた拍子に、展開されていた結界はあっさりとバラバラに霧散した。


「ッ!?」


 その様子を同じく見ていた電波女が明らかに驚愕の声を漏らした。

真に取っては全く理解できない状況だが、少なくとも今現在、かなり崖っぷちということだけはわかった。


 怪物(あかがみあおがみ)はゆらりゆらりと体を揺らしながら教室に侵入する、その横の動きは恐らく符による初撃警戒だろうと気付く。つまり、この怪物にはそれなり以上の知恵があるという事だ。


「獲物は、何処だ。ここにいるのは、匂いでわかる、教えろ小娘……ッ!!」


「…え?ここに居るじゃない、何言ってるの?」


「……態々獲物を、捕まえておいてくれるとは、用意周到じゃあないか」


「いやお前、こんなわかり易く捕まってるのに見落とすなよ」


 どうやら真が簀巻きにされているのにも関わらず見つけられなかったらしい。状況が状況なだけに、真はとても複雑な心境になった。

 怪物は何処か呂律が回っていないような口調で話しながら、縛り上げられた真を見つめ、嗜虐の権化は牙を見せびらかすように口を歪めクツクツと嗤う。


 その声はどちらかというと嘲笑のニュアンスを含んでいるように思えた。てかやっぱり縛る意味ねえよな…ってこの状況マズいだろッ!?


「正面から堂々突破してくるなんて、私を随分舐めてくれたわ、ねッ!!」


 電波女は嗤う化け物を見るや否や、即座にポーチから数枚の符を引き抜いて速攻。先程とは異なって紅いスパークが帯電する符を投擲。教室の入口に立つ化け物を確実に捉えたコースで符は真っ直ぐ放たれる。


 放たれた符は紅いラインを引きながらターゲットへと直進するが、しかし化け物が()()()()()()()()椅子によるフルスイングによって叩き落とされる。


「っ、あいつ、鎌を手放すのかよ?!」


 直撃の軌道にあった符はコースに割り込んだ椅子と衝突すると赤雷を迸らせ消滅する。同時に雷撃によって椅子がバラバラに砕け散り、結果として電波女による攻撃は完全に防がれた。


「マジッ?!」


「物理に対する、耐性は皆無かっ!このまま潰れて死ねッッ!!!」


 その相殺によって電波女が目に見える焦燥を見せる。瞬間、赤紙青紙が二足歩行から四足歩行へ体勢を変え、獣じみた驚異的な瞬発力によって間合いに強引に入ろうと距離を詰めてくる。


 手に持った椅子の残骸を振り上げ圧倒的健力で電波女目掛け、ほぼ鉄パイプと化した椅子が豪っ!と勢いよく振り下ろされる。


 真が恐怖のあまり、瞼を力強く閉じた直後–––



 教室には、金属同士が()()()()()()()硬質な音が響き渡る。


 

 ゆっくりと、恐る恐る瞼を開く。目の前に立つ女は、間違いなく()()()()()()()()

 結果だけ見れば、緑の結界の膜には少しヒビが入っただけ。対照的に化け物は驚愕の表情を作りながら、椅子を手放し大きく仰け反っていた。


「なッ!?」


「1枚目の結界はわざと強度を落としておいた…アンタを油断させるためにねッ!」


 先ほど投げたうちの1枚、何ら変化なく消滅した1枚の符は、とてつもなく脆い結界を生成していた。だからこそ真の目に見えるほどの変化がなかったのである。


 「──赤紙青紙、これで私の()()()()ね?」


 モザイク越しに電波女の口角がつり上がった。美しい笑顔は一転して悪魔の笑みへと映る。


()()()()()ッ、心臓に悪すぎる!!)


 態々作り出したその隙を電波女は見逃さない。

 素早く3枚の札をポーチから抜き取ると、眩い紅色に輝きを放った3枚の符が追撃として化け物に放たれた。


「今度のは痛いじゃ済まないからッ!!」


 先程までの余裕ある態度とは違い、明らかに焦った様子の赤紙青紙は咄嗟、無理に体を捻って回避運動に移ろうとするが時既に遅し。

 電波女の放った攻撃が化け物に接触し、直後雷が目の前に落ちたかの様な閃光と劈く爆音が教室中に響き渡った。



「━━()()()()()、紅種、迸れっ『彼岸花(ヒガンバナ)』っ!さっさとくたばりなさいっッ!!」



「ぐッ、っっッガああアアァァッ!!!」


 赤紙青紙の絶叫と共に、目が痛くなるような赤い閃光。その光はまるで化け物を無残にも刺し貫く()()()()()()


 張り付いた符から迸る雷光が暗がりに沈みかけた教室を真っ赤に染め上げ、幾重にも奔る雷の槍は、化け物の躰を満遍なく串刺しにする。



 その様子はまるで、人が死んだ時にたどり着く彼岸。あの世の園に一面に咲き乱れているとされる、彼岸花(ヒガンバナ)を幻視した。





<術式解説>

・攻性術式 符紅種『彼岸花』

 ???が最も得意とする術式符。

 紅の雷撃を迸らせながら飛来する符は敵性存在へと衝突した瞬間、無数の雷の棘を無数に生やし、敵を焼き貫く。その様子が『まるで彼岸花の花弁のようである』と言うことで名付けられた。

 攻撃性能が高い反面、影響範囲や符自体に接触しなければ発動しないなど、使いどころが難しいと言う弱点が見られる。


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