無茶系女子
ストックをそろそろ作っていきたいですね。
「ックク、ハハハ!!どうだ、ざまあみやがれ!!俺をなめ腐った、罰…だ…?」
校庭の中心、町じゅうに響きそうなほどの大きな高笑いで、女を仕留めたと喜びに心躍らせていた百々目鬼は徐々に感じ始めた違和感に眉を顰めた。
確かに土御門聖は百舌の早贄の如く腹を穿たれたはずであった、しかしその死体には明らかに違和感がある。
━━貫いた腹部から血液が垂れていない、そして、
(肉の感覚が…ねえ?!)
妖怪特有の鋭い五感によって感じられる貫いたはずの右腕に伝わる感覚には、生きていた肉特有の生暖かさや血生ぐささを一切感じなかった。
百々目鬼がその違和感に気付いたとほぼ同時、腹に大穴が開いた聖の死体がまるで蜃気楼だったかのように揺らいで消えて無くなる、ふと足元を見ると胴体に穴の開いた雑草で出来た人型のナニカが転がっていた。
「…釣られた」
百々目鬼は自身が既に策の術中に嵌っていることを悟り、にが虫を噛み潰したような表情を作る。それは今まで優位に立ち続けてきた百々目鬼が見せる初めての表情だった。
『そう、その通り!アンタは釣られたのよ!』
「ッ!?」
その小さな独り言を拾った誰かが百々目鬼に対して返答した。
とっさに百々目鬼が全ての瞳を十全に使って索敵するが、その声の主の姿形を捉えることはできない。自身が貶められている事実と術中に嵌った苛立ちから百々目鬼が再び叫ぶ。
「何処だ、何処にいやがんだよ畜生がァ!!」
「━━何処って、アンタの前にいるじゃないの」
その声が聞こえた直後、再び硬いものが砕ける音と共に一瞬の内に深い濃煙が立ち込めた。
百々目鬼はその五里霧中の最中、自身の少し先に薄らと人影を見たがその影はすぐさま煙の深くへ消えていった。
その影を追うようにボロボロの手を突き出した百々目鬼は、しかし先ほども見た緑色のスパークによってその行動を断たれる。
「痛ッ!?結界、しかもさっきと同じヤツかよ…ッ?!」
咄嗟にその影を掴もうとする百々目鬼の腕は硬質なガラス状の何かに阻まれた。
人影に一瞬意識を奪われていたのが仇となった。いつの間にか先ほどと全く同じ結界が、今度は百々目鬼を覆って生成され文字どおり完全に身動きを封殺していた。
先ほど同様の結界をブチ破ったその自慢の両拳は、既に血こそ止まっているが骨や筋繊維がむき出しであり再度結界を破壊するほどの力は残っていない。
(ふう〜……作戦第二段階、完了)
先ほど百々目鬼が煙の先に見た人影、つまり聖本人は深い霧の中で作戦の予想以上に速い進行にほくそ笑む、まさかこんなにあっさり引っかかってくれるなんて、真も含め聖も考えていなかったからだ。
(個人的にメジャーな西洋魔術が苦手だったから、ある程度使える魔女術でデコイの魔術を再現したけど…割と何とかなったわね)
魔女術、西洋に伝わる土着的魔術の一つ。
現代魔術世界におけるメジャーな魔術体系は四大元素論と妖精の関係による妖精魔術だが、聖はその適正に欠けたため魔女術を習得していた。
魔女術の特徴は一般的に想像されるような魔女の大釜による薬品の精製や呪術道具をその名の通りクラフトすることであり、実際今回使用している煙玉も聖のお手製である。
そして今回『デコイ』の魔術として使われたのは”藁人形”、正しくはそれを模して雑草で組み上げた人形。
日本でもポピュラーな呪術アイテムであるそれに髪の毛を編み込んで自身に見立て、気配遮断の符で誤魔化しながら近距離から腹話術師のように操作していた…というのが絡繰であった。
(ッ〜〜!…本来であれば藁人形は他人を呪うためのアイテム。魔女術で細工して術者とのリンクを誤魔化したけど…少しダメージが流れてきたわね)
しかし当然無茶がある。
藁人形とは、本来他人を呪いで殺すために作られる所謂殺害を主とする呪殺道具であり、確かに同じように呪術やアイテムの製造を主とする魔女術との相性は比較的いいと言えるだろう。
しかし再現度と可能性を最大限高めるために自身の髪の毛を藁人形に編み込んで剰えた人形の胴体を鬼の一撃で貫通された聖は、腹部にかなりの激痛を覚えていた。
だが、だからなんだというのだ。
(昨日の肉削ぎよりはマシね)
聖は昨日の苦くて痛い思い出を思い起こして自身に喝を入れなおす、今日は助けに来るヒーローはいないのだから、と。
「じゃあ最終工程、入りますか」
額に大きく浮かぶ脂汗を雑に拭った聖は、大きく柏手を2回打つ。
すると、百々目鬼の立っているその位置を中心として、校庭に紅い光のラインが奔り巨大な五芒星が描かれた。眩く輝く五芒星のその5つの鋭角には、それぞれ符が置かれていて赤いスバークを滾らせて輝いている。
「ふぅ…次っ!」
予め設定されていた解放の呪文を素早く詠唱すると、中央の結界を封じるように展開した五芒星の核となる5つの符が大きく点滅した。
即座に一層眩しく輝いた符から勢い良く紙垂がついたチェーンが5本が飛び出し、それぞれがまるで意思を持っているかの如く、百々目鬼を狙うように動き出す。
腹痛なんて感じていないと錯覚するほど大きな声で聖が叫んだ。
「5重展開ッ!封印術式符、紅種、『蠅捕草』っ!喰らい付けぇッ!!!」
「っちィ!!」
容赦のない面による拘束かつ高速の攻撃に、百々目鬼は思わず眉間に皺を寄せて舌打ちをした。
結界をすり抜けて飛来する5本の鎖が百々目鬼を狭い空間の中で肉迫し、それぞれを紙一重で回避する百々目鬼に食らい付かんと襲い来る。
四方八方から襲い来る鉄の蛇は変幻自在。
せいぜい直径2m大の球の中での回避運動は長くは続かず、一撃を喰らうとその隙にまた一撃と鎖に手足を拘束されていく。
まるで生きた蛇のように動き回っていた鎖はそれぞれ百々目鬼の四肢と首に巻きつき、ギリギリと限界まで締め付けると一部を手錠のような形の拘束具のように形を変えた。
「グ、ググッ…ガあァアァアアッッ!!!!」
注連縄のように紙垂のついたチェーンにより完全に四肢を拘束された百々目鬼はその拘束から逃れようと暴れるが、しかしそれは虚しく金属チェーンの擦れる音と獣じみた咆哮が叫ばれるだけに終わった。
「魔術を使うような妖怪じゃないし、アンタはガチガチに物理対策を施したこの五芒星と物理結界の2重結界で封殺することにしたわ」
「う、動けねえッ…!!?」
「当然、封印用に拵えた拘束符を4枚をそれぞれ手足に1本ずつ使ってるんだから、超大盤振る舞いよっ!」
「…ん?」
聖は声を張り上げてそう宣言する、それはまるで完全勝利宣言のように高らかに啖呵を切った。しかし一瞬焦りを見せたが何かに気付いた百々目鬼は、完全に落ち着きを取り戻しその勝利宣言を鼻で笑った。
四肢と首に手綱をつけられ、その上身動きを封じられて尚、鬼は嗤う。
「…で、こっからどうすんだ?お前のヘナチョコ電撃なんか効くかよ、さっき見ただろ?」
「━━ええ、だからまず貴女の化の皮を剥いであげましょう」
全身を拘束されてなお崩れない百々目鬼のその余裕に対して、聖は表情を崩す事は無く不敵な笑顔を作ったままそう言い切る。そして目を瞑ると、ふう と1呼吸おいてから聖はゆっくりと語りだした。
「貴女は『百々目鬼』、これは間違いない事実。しかし私にとってどうしても腑に落ちないことがあったの」
語りは止めずに、しかし聖はゆっくりとした歩みで百々目鬼との距離を詰めていく。
「貴女は本来盗人が変性した妖怪の筈で鬼の名を冠していても鬼らしく人を食ったり襲った伝承は存在しない、つまり貴女は百々目鬼だけど何か別のものが混ざってる」
「…は?」
「最初はまさかと思ったわ、でも少なくともこれが私の推理した真実。…貴女、百目鬼と混ざったのね」
百目鬼。
百々目鬼に似た名前の鬼であり刃のような髪を生やした100の目を持つ鬼と伝えられている。
同じく目が沢山生えているなどの特徴があり両者は似ているが、それが女性の鬼であったなどという伝承はない。
”同一の発祥を持つ”というそれ故に後世においてそれら2つの伝承は時として混同されて語り継がれた、語り継がれてしまった。
『その成れの果てこそこの女鬼である』と推理した聖は、それを元に言葉を紡ぐ。
そしてその恐ろしい話を語られいる百々目鬼は徐々に全身から汗が垂れ流し、過呼吸気味なほどに呼吸を荒げていく。
「その結果、貴女は別の妖怪と伝承が混ざった。どちらでもない半端な存在が、奇跡的に形を保ちながら存在できている…現代において語り継がれなかった妖怪が、こんなバグみたいな現象を起こすなんて流石に信じられないけど…その様子だと、そのまさかみたいね」
「何言ってやがる、んだ?俺は、いや…私、いや俺は俺で私だ違う俺は百目鬼…じゃなくて百々目鬼ッあああァァ??!?!」
野生的な美貌を備えた鬼女の顔が半分割れて崩れ、まるで分厚い化粧が剥がれ落ちたかのようにその内から醜い鬼の顔が浮かび現れる。
まるで能面や蝋細工かのように無機質なまでの白い肌、まるでマチ針のような鋭い髪の毛はしかし長年手入れされていなかったのか脂ぎって汚れて縮れている。
魚の瞳のように大きな目には虹彩のない真っ黒な瞳が浮かび青白い唇のその奥、下顎から突き出した黄ばんだ牙がギラギラと照っていた。
「しッ!」
つかさず鋭い呼吸で聖が符を拘束された百々目鬼に射出、紅く尾を引いた符が息も絶え絶えになっている百々目鬼の頭部を直撃し赤い雷撃が百々目鬼を焼いた。
「がっ、アガッ…!」
「っしゃ、効いて、っ?!」
拘束されていた百々目鬼が突如狂ったように暴れ出し、聖は確実に仕留めるために詰めていた距離を咄嗟に大きく後退して離した。
それは最早自傷行為のように見えるほど、激しく暴れる百々目鬼の肉体には暴れれば暴れる程特別製のチェーンが食い込んでいく。当然のように暴れることによって拘束具が肉に食い込んでそこの皮膚が擦れ剥がれ、ダラダラと血が垂れ流されていく。
(何事…ッ!?)
明らかな異常事態に警戒を強めた聖は、しかし一頻り暴れた百々目鬼が突如完全に停止する。
うわ言のように何かを呟く鬼、しかし先ほどの赤雷を皮切りとしてだろうか。
痛みに悶絶する叫びと共に百々目鬼の体の至る所に亀裂が走ると、まるで脱皮するかのように百々目鬼の肉体が綺麗に半分ボロボロと崩れ始めた。
崩れた肉体、まるでそれは内側に潜んでいた何かを覆い隠すための仮面だったのだろうかと邪推するほどの変化が起こる。
全てが治った後に拘束されていたのは体半分が血色のいい華奢な女性。もう半分が蝋で出来ているのかと錯覚するほどに白い肌の筋肉質な男性の歪な鬼。
錆色の混ざった赤いボロ布を纏ったそのアシンメトリーの肉体には全身至る所から数多の瞳が生えている。最早原形が半分しか残っていない、そのあまりの異形に聖は眉を顰めつつもその化物に問いかけた。
「…で、アナタは結局どっちなの?」
「「…?!、ァっ!!?…。だ、まマレれれレ…俺俺おれ、はワタ…しは??だれどっちどれどれどれどれどれどどどどどど??!?!」」
「……精神が壊れたか」
あちゃあ…と次は別の意味で眉を顰める聖。
5肢を鎖で拘束されて尚暴れる百々目鬼だったモノは、まるで壊れたラジオのようにノイズの様に言葉を出力した。
しかしその声は、嗄れた男の声と暴力的な女の声が雑多に交ざった異音でしかなかった。
浜藍名義のツイッター作ろうか悩んでいる今日この頃。
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