ニトロ系女子
決めた、アタイ3000字くらいで投稿する!
というわけでそのくらいの方が悩まずにバシバシ投稿できると気づいてしまったのでこれからそのくらいの長さで投稿していこうと思います。
日の沈みきった山に建設された学校、その裏手側で1組の男女が座り込みんでいる。勿論如何わしいことをしているなんてことはなく、会話自体は物騒ではあるが至って建設的だった。
「どうやって封印まで漕ぎ着けるかは決まったとして、他に何か知りたいことはある?」
「あ〜、俺百々目鬼って妖怪についてなんも知らないから、それについてかな」
(百々目鬼について、か。)
聖は過去に学んだおおよその知識を頭の中から引っ張り出した。
この仕事をするにあたって敵を知るというのは必須であるため、そのため幼少期から日本に限らず世界各地で語られる数多くの魑魅魍魎について、その概要を多かれ少なかれ学んでいる。
「ええっと…百々目鬼ってのは元々人間だった妖怪ね、手癖の悪い盗人の女の体にある日大量の目玉が生えた。
それによってその泥棒女は大量の目が生えた鬼ってことで百々目鬼って呼ばれるようになったの」
随分昔に読んだっきりだが、辛うじて覚えていた情報を真に伝える、真は少し頭を捻るとそういえば、と話を進めた。
「昨日不思議に思ったんだけど、赤紙青紙を倒した時に中身の鎌鼬はほとんどダメージなかったよな、よくわかんないけど百々目鬼もあの状態ってことか?」
「たぶん違うはずよ、ええと…」
聖はわかりやすく伝える方法を考える。妖怪の生態については学びはしたものの複雑であるため、あまりしっかりと記憶してはなかった。
しかし、むしろそれでもいいかと改める。情報として必要なのは理屈ではなく、この状況を打開するために必要な知識、むしろ複雑なことを教えるとかえって混乱を招く可能性があるためである。
「まず妖怪ってそもそも存在自体があやふやなのよ、塗り壁って妖怪は知ってる?」
「知ってるよ、国民的に有名だしな」
心の中で安堵、これを知らなかったら説明のしようがない。聖は心の中で改めて妖怪研究の第一人者に感謝をする。
「じゃあどういう見た目のイメージ?」
「そりゃ塗り壁って言ったら…こう灰色の壁に目がついてて…」
「じゃあ、もともとどんな姿だったか知ってる?」
「…ん?元々ったってそれがデフォルトなんじゃ」
真が知らないのも無理はない、そもそも塗り壁とされてきた絵はいくつか存在しその中には海外で見つかったものすら存在するのだから。一般的に知られている塗り壁という妖怪の”像”というのは後世になってようやく固まったものであるということを知っている人間はよっぽどのマニアくらいなものだろう。
しかし、文字通り直接妖怪と関わってきた人間の集団に所属する土御門聖という人間にとっては話の切り口として最も使いやすい事例だった。
「今スマホ持ってるでしょ?それで塗り壁って検索してみて」
「…ナニコレ」
真のスマホの画面に写っていたのは浮世絵のような画風で描かれた三つ目のブルドッグのような生き物、毛らしきものは生えておらず体は隅まで真っ白で、口元には漆黒の鋭い牙が2本ちらついている。
真の中で今までの塗り壁のイメージがガラガラと音を立てて崩壊する。
「じゃあ問題だけど、実際に出てくる塗り壁はどっちだと思う?」
「ええ…っと、まさかこいつ…?」
若干眉を顰めた真が画面の中の珍生物を指差す。聖はにこやかな表情と共に首を横に振る。
最近、というか昨日は散々な目にあわされた挙句失態しかばっかり見られた男子にものを説く快感に聖は胸を躍らせていた。あまつさえ自分、人にものを教えるのがうまいかもと思い込む程度にはルンルンである。
なおその様子を見ている真の瞳にはやたら上機嫌の聖は不気味に映っていた、真が理不尽な折檻を食らうのは聖が『いい笑顔』の時か『機嫌が明らかに悪い』時のどちらかといい加減学び始めたからである。
なんならウッキウキの顔からいつ毒舌と共に鋭い一撃が飛んでくるのかとヒヤヒヤし始めていた。
そんな内心の温度差が180度くらい異なっている二者だが両者とも互いの内心なんて知る由もなく話は進む、聖はご機嫌に妖怪についての嚙み砕いた説明を続行した。
「答えは前者、壁のような妖怪として塗り壁は出てくる…らしいわ。
例えばだけど有名な人間が後世でイメージが変えられてしまうことがあるでしょ?アーサー王とか織田信長は女体化されまくってるしそれが顕著なんだけど」
「…確かに」
真の頭の中でドイツの軍服を羽織り背後に3000丁の火縄銃を浮かべた織田信長と、やたら亜種が多い金髪碧眼でご飯はたくさん食べるタイプのアーサー王が脳裏をよぎった。
そういえば火縄銃を扱う織田信長が出てくる漫画の最新刊はいつ発売だっただろうか、と真の思考が危うく脱線しそうになる直前で聖が話を続ける。
「だけど妖怪、あいつらは自分で自分のイメージに自分で手を加えられる、存在に手を加えて別の存在に成り替わることだってできるの。
『妖怪変化』っていうだけあって自己に固執しないなら何にだって成ることができるそうよ、理論上はね」
「…で、何で赤紙青紙の時のダメージは鎌鼬に引き継がれなかったんだ?」
(…あっ)
唐突に聖が固まった。理由はどうしてその現象が起きたのかを説明できるほどの知識がないし、何ならその研究がどこまで進んでいるかわからないからである。有り体に言えば、『そんなこと知らない』だ。
そもそも西洋では中世以降、日本では陰陽庁が取り潰されて以降、神秘や魑魅魍魎の存在は秘匿されてきた、そのため民俗学としての妖怪を研究する人間は数あれ実在する妖怪を研究する人間の数は少ない。なんといってもこちらの世界に気付いて足を踏み入れる人間はほとんどおらず、そういう特殊な人間は基本的に戦闘、つまるところ魔術師としての才能があったためこちらの世界を知るためだ。
妖怪を研究する人間は基本的に代々その研究に携わってきた一族か、変わり者の中の変わり者くらいしか存在しない、そんなこともあってか圧倒的に研究者の母数の少ないため、研究はお世辞にも進んでいるとは言えない。
「…知らないんだ」
フリーズした理由を察した真がボソッと小声で呟く、しかし地獄耳のごとくそれを捉えた聖は”凄み”を含んだ美しい笑顔を作ると真に真との距離を近づける。
「何?言いたいことがあるならはっきり言った方が私はいいと思うわ」
おっと、と顔を青ざめた真だが時既に遅し、パキパキと骨の間の空気が抜ける音を鳴らす般若の表情の巫女が目の前にいた。
「あ゛っ、なんでもないなんでもないんで、拳を振りかざさないでいただけ…ギャッ!!?」
…合掌。
やっぱり3人称の方が書きやすいし得意だと気づいてしまったので、七不思議編が終わったら3人称メインで書いていきます。
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