集合体恐怖系男子
言い訳が2つあります
書いてたらどうにも長くなってしまったので2本に分けることにしました、暫定後編は近日中に上げるかいつも通り来週の土曜日に上げます。
あと辻褄が合わない部分が出てきたため既存の文章の部分的修正をしていたら違和感のある文章ごと全部加筆してしまいました。
まあ誰も待ってないような気がするんですけどね、悲しいなあ。
ナニモ、ナカッタ(自己暗示)
記憶から大部分を消去しつつ本来の目的地だった音楽室に移動を始める。とはいえ何で俺は2階の廊下で寝てたんだか…音楽室は3階なのにな。
っと、思い出さないと誓ったそばからまた真相に近付こうとしてしまった、まずいまずい。
階段に差し掛かると前方を歩いていた土御門が先に登り始める。
すると当然目線の高さが変わるわけで…巫女服特有の明るい色の赤いスカート、本来だったら超がつくほどロングであるはずのそれは、こいつの趣味かどうかは知らないがかなり丈が詰められていて、もはやショートスカートといって差し支えなくなっている。
階段を一歩登るたびに緋色の布が大きく左右に揺れる。
そこからチラリとのぞく太ももには昨日の夜に大きく削ぎ落とされたはずなのに傷一つなく、健康そのものといった感じだ、ってこれじゃただの変態じゃねえか。
…ダメだ、どうしても気になってしょうがない。
いやスカートの先にある非公開領域についてじゃないよ?なんでか知らないけどスカートが揺れてるのを見てると頭痛が酷くなるんだよな。
とか言いながら揺れてるスカートに視線を吸われてる時点で何も言えないわけだが…悲しきかな、これが男の性だ。
って、誰に言い訳してんだよ俺は…とにかくこれ以上深く考えるな。煩悩ごと思考を無に帰せ、とりあえずなんとなく知っている呪文っぽいものを読み上げてみるか。
「凛、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」
「なんで唐突に九字切ってんの? …もしかしてそんなに怖い?」
「あ、いや。なんでもないです」
「……そう?本当にやばそうだったら早く言いなさいよ?」
あ、これ九字っていうのね、知らんかったわ。というか普通にガチトーンで心配されてしまった。
可哀想なものを見るような目でこっちを見る土御門、なんか心成しか悲しくなってくるので勘弁してほしい。
…いや、冷静に考えると適当な呪文を読んでどうにかなると思った俺の脳みそが一番問題だったわ、色々テンパってるにしてもあまりにも過去の俺が馬鹿すぎる。
でも男子高校生の悲しき煩悩が引き起こした事故みたいなものだから仕方ないんです。…なんか痴漢した奴の言い訳みたいになってしまった。ダメだ、もう何言っても失言するわ。
もしかしたら本当に頭に何かしら問題があるのかもしれないと若干の不安を感じつつも、音楽室のある三階に到着した。
音楽室は図画工作室の2室横、とは言っても階段を境として西側が図画工作室、東側に1室挟んで音楽室があるので昨日とは向かう方向が真逆だ。図画工作室は選択授業で美術を取らないとそもそも行く機会が無いけど、音楽は何故か1年から必須科目だからどっちかというとこっち側の方が馴染みがあるんだよな。
そう考えると高校は中学と違って、使わない教室はとことん使わない関係で何なら図画工作室って昨日初めて入った気がする、冷静に考えて高校生活始まって初めての図画工作室利用が人質救出とか全人類初なのでは…っと。
音楽室前に到着。大部屋である音楽室は左右の端に出入り口のある構造なので、一番近場の階段から行くと必然的に部屋を正面から捉えて右側のドアを利用することが大半だ。
その右側の扉の前に立つと土御門はおもむろに服の袖に手を入れ、そこからマスターキーらしき鍵束を取り出した。
へー、そこは着物みたいに収納スペースになってんのか…というかマスターキーを持ってんのかよ、昨日の演劇準備室の鍵が開いてた理由がわかったな、だからと言ってどうということはないが。
音楽室は比較的最近…と言っても俺らが入学する随分前だろうけど、に改装したのか内装はそこそこ新しく、防音設備も整っているそうだ。まあ俺は楽器をリコーダーと鍵盤ハーモニカくらいしか触ったことがないので、そういうのはよく分からないんだけども。
鍵を開けた土御門が教室に入ったので後ろについて入室する。
夕暮れ時、日がほとんど差し込まない薄暗くなった音楽室は正面に椅子が上に上がっている机と右奥にクラシックピアノ、左側には吹部が使うらしい楽譜や音楽関連の本が詰まった本棚が2つ連なっていた。
件の動く肖像画らしきものはピアノ側の防音壁、よく見る等間隔に穴の開いた壁に天井に沿って横に並んで飾られていた。
ベートーベンとバッハと…ダメだ、中学の音楽の筆記で覚えたがもうほとんど忘れてら。
…うん、何の変哲もない見慣れた音楽室だわ。
昨日だと空気が重苦しかったりトイレの個室のドアが全て閉まっているとか、如何にも何かが出てきそうな雰囲気があったが今日はそんな感じがない。
肖像画は確かに不気味な気もするが見つめていても目が合ったりしない。デマだったのではと正直既に勘ぐり始めてる。
…何かが出てくることを期待してるみたいな感じになってしまった。どっちかというと出てこない方がありがたいよ?俺は好き好んで命賭けたがる死に急ぎ野郎ではないよ?
「成る程、出てこないつもりね」
「え、やっぱり何かいるの?」
流石その道のプロ、やっぱり妖怪がいるかどうかのアンテナてきなものが備わってるのだろうか。
「ちょっとしゃがんでなさい。下調べもせずに封印しに来るわけないで、しょッッ!!」
驚きの声を上げる前に言われた通り即座にしゃがみこむ。威勢のいい声を皮切りにして土御門の演舞が始まる。
いつの間にやら両手の指の隙間に大量の符を構えていた土御門が片足を軸に回転して四方八方適当に符を投げまくる、危うく巻き込まれるところだった…
壁や椅子、その他様々な備品に命中した符はヒットしたそばから発光し白煙を吹き上げる、多分だけど昨日俺に出会い頭で使った符だろう。
どういう原理かは知らないがあの符で俺が妖怪かどうか確かめてたし、あの光加減と間抜けな音と一緒に出てくる煙に見覚えしかない、大変遺憾だけども。
「…そこッ!!」
2回転するかどうかのところで足を止めた土御門が右奥、ピアノが設置されている辺りの壁に鋭く数枚の符を投擲、穴付きの防音壁に貼り付いた符は先程とは異なって紅いスパークを迸らせると、煙の代わりに強烈な電撃を解き放つ。
突如稲妻による破裂音がはずれの音をかき消した。
衝撃音と光が収まるのを待ち、立ち上がる
「うげえ…」
思わず声が漏れた。
壁の穴だと思っていた黒い穴が、突如瞬きとともにギョロギョロと動き出きだした。
それを起こりとしてまるで連鎖するように周囲の穴も動き出す、俺らが穴だと思っていたものは全て壁から生えているような目の大群、それら大量の視線が一斉に俺たちを捉えた。
「…蓮コラかよ!!?」
数え切れないほどの目、100以上普通にありそうなそれらは各々黒目をギョロギョロと動かしたり、こちらをにらめつけたりずっと瞬きをしているものもある。
あまりの気持ち悪さに鳥肌が身体中に走り回り反射的に目を逸らしてしまう、なんだこいつら…めっちゃ気持ち悪っ!?
「やっぱり目目連か、こいつらなら交渉次第ってところね」
目目連、目目連…?
…っあ〜、なんか鎌鼬が出てた本で見たことある気がする。
百目とかのインパクトがデカ過ぎて完全に忘れてた、というかこいつらメジャーな感じしないし。
「目目連、聞いてちょうだい。
私は組織には所属しているが立場としては保守派です、だからあんたを封印させてもらうけど消したりはしない。
でももし暴れるなら容赦はできない、ここは私が管轄している場所、って意味はわかるわよね?」
目の大群は瞳を各々パチクリとさせると、壁を泳いでいるかのように移動して<良し>と文字を形作った…って器用だなお前ら。
というか保守派て…新しい情報を聞けば聞くほど土御門が所属している組織がきな臭くて仕方ない、利権関係で拗れてるとかやめてくれよ…?
「じゃ、許可も得たしチャチャっと封印させてもらうわ。この範囲なら…こんくらいかな…っと」
土御門がポーチから符を5枚引き抜くと、それをそのまま上に放り投げた。紅く帯電した5枚の符は、まるで空中に貼り付いたかのように静止し其々が一斉に放電を開始する。
土御門が人差し指と中指だけを伸ばしたような印を結んだ右手で空を軽く払うと符が赤い稲妻のラインを放ち、それぞれの符と符を繋ぎ合わせるように奔らせ空中に大きな五芒星を形成する。
生まれた星は完成と同時に脈動するかの如く目がくらむほど激しく光る。教室は夕日ではなくスパークによって目が痛くなるような紅色に染まり返った。
土御門が軽く指を弾く。
それに応えるように教室を赤く煌々と照らす五芒星から、球状の半透明緋色の膜が発生して教室を包み込んで広がって目玉だらけの教室に紅色の薄膜を張り付かせる。
差し入る日は夕暮れの茜色ではなく紅色のフィルターを受けて真っ赤な色を投影した。
…改めて見るとちょっと感動するわ。
生きているうちに一回は見てみたいと思っていた超常現象を2日連続で目にした人間は中々いないんじゃないだろうか。
さっき膜が体をすり抜ける時は若干体が強張ったが、ほんの少しの違和感を感じただけで赤い結界は俺の体を素通りした。
「んで、次は収縮…!」
土御門が再び指を鳴らす。教室を包むように広がっていた結界が今度は逆再生のように収縮を始め、教室中の至る所に生えていた無数の瞳をまるで網漁のように掠め取っていった。
今度は背面側から俺たちの体をすり抜けた結界は球状の目玉の塊になって空中、五芒星の中央で完全に収束する。役目を終えたからか、五芒星を形成していた5枚の符が空気に解けるように散っていった。
「危ないから目閉じてなさい」
「え?」
感動して見入るように観察していると、直後爆ぜるような極光、って目痛ッッてえええ!!?
「ッ目が…目がァ〜!!?」
「はぁ…昨日も見たでしょ、忠告してあげたんだから目を閉じてない方が悪い」
「昨日の今日でそんなこと覚えれるわけねえだろ?!」
最初から言っといてくれよ…クッソ、目がチカチカする…っあ゛〜!
…強烈にデジャビュだよ畜生が。
輪郭がはっきりとしない視界のまま空中を見ると、赤く輝いていた五芒星は消失していて力場を失ったのか浮いていた赤色の球体が落下する。
コロコロと地面に転がる球は即座にパチパチと氷が水で弾けるような音と共に角を出して変形、昨日も見たサイコロ大のキューブとなった。
なるほどわからん。頑張ってどういったものかを理解しようとしてみたが、1から10まで何もわからん。…球が直方体になるのも正直意味わからんが、そもそも結界の原理とか妖怪とか目目連とかも全く理解できないからそりゃ仕方ない話なんだけれども。
「封印完了っと、怪我もなかったし今日は楽勝ねっ!」
「全くだよ、今日は一般人である俺の出番がなくてマジで良かったわ…というかやっぱり事前に眩しいこと教えられたよな?お前そういうところだからな?マジで」
正論という文句を垂れてみるが、土御門は馬耳東風とばかりに受け流す。こんにゃろ〜…顔がいいやつはこれだから始末が悪いんだよ(持論)
とはいえ昨日の満身創痍のボロ雑巾に比べたら今日は全くの無傷、正直かなりビビってけど蓋を開ければ徹頭徹尾危険性ゼロの超楽勝ムードだった。
土御門を見ても昨日みたいに”the 魔法”といった感じの必殺技的なのも使ってないからか疲弊もしてない感じだ。
…じゃあ昨日のあれはなんだったんだよって話になるんですがそれは。なんで俺があんなに体張らないといけなかったんだろうね、不思議だね。
土御門は軽く体を伸ばすと、ルンルンの満面の笑みでキューブを拾い上げる。そのままキューブの中身を透かすように日に翳す、遠目から見てもなんとなくわかるが赤いキューブの中にはぎっちりと目玉が詰まっている。絶対に直視は御免被りたい、絶対気持ち悪いし。
ーーーーここで思わず顔を顰めてしまったのが運の尽きだったかもしれない。
いつの間にかこちらに微笑みかけていた土御門がジリジリと距離を詰めてきた。
…おっと?なんか嫌な予感がプンプンするぞ?
「…中身、見てみたいでしょ?」
「そういうのに関わると良いことないって昨日学んだし遠慮しとこうかなって」
「まあまあ遠慮なんてしなくて良いから、見てみなさいって」
さっきまでのそれとは違う、露骨に性格の悪そうな笑顔を浮かべた土御門が一歩前に出る、体を引きながら一歩後ろに下がる。また一歩進むと俺が一歩後退する。
「まあまあまあまあ」
「いやいやいやいや」
…中々体を前に向けるような隙が生まれない。
一歩前一歩後ろ一歩前一歩後ろ一歩前一歩後ろ一歩前一歩後ろ、土御門までの間隔が一切離れないままに積まれた机や大型の楽器の間をすり抜けながら逃げ回る。
「まあまあまあまあ!!!」
「嫌嫌嫌嫌あ!?!?」
だんだん圧が強くなり思わす悲鳴交じりに遠慮する、追いかけっこのようにそれを繰り返していると背中に固い感触。
教室の端、完全に誘導された…ッ!サイドに逃げ…ダメだ、部屋の角に逃げたらそれこそ完全に逃げ道をふさがれる。
万事休す…か。
せめてもの抵抗で目をくいしばるように閉じるーーー
「おいそこの女子生徒、とっくに下校時間は過ぎてんぞ〜」
意識外から唐突に掛けられた声に思わず体が跳ねる。よく見れば守衛の人が懐中電灯を肩に当て、音楽室の扉に寄っかかって立っていた。
明らかに額に皺が寄っていて面倒くさそうな表情、さっきの掛けられた声も気怠さ混じりだったので断れそうな雰囲気じゃないな、ってよく見たら女の人じゃん、ガタイがいいから初見でわからなかった。
…どこ見て判断したかは内緒。
というかマジで助かった、お礼と自己保身を兼ねて声を掛け返す。
「あっすんません、すぐ帰ります!」
「ってうぉわあ!!?びっっくりしたあ!?なんだお前、いつからそこに……ってうちの生徒かよ、ビビらせんなよ…」
……
そこまで露骨に驚かれると流石にちょっと悲しくなるというか、なんというか。
「…すいません、楽器の片付けが中々終わらなくて…今さっき終わったので帰宅します、ご苦労様です」
土御門は上品かつ柔和な笑みを守衛の女性に向けながらサラッと嘘を吐く。さっきまでの性悪女ムーブが嘘みたいだ、稀代の名女優かよ。
…なるほど、噂に聞く完璧美少女な土御門聖を俺は初めて見たかもしれない、本性を先に知ってしまった今となっては少し気持ち悪くすらあるんだけども。
あれ?こいつ猫被ってた方がよっぽどいいんじゃね?寧ろずっと被ってて欲しい。
「い゛ぃ゛!!?」
不埒な考えを読まれたのか守衛さんからちょうど見えない位置に移動した土御門に脇腹を捻られた。慌てて後ろを向くと半目無表情の土御門、やたら整った顔の血色のいい唇が3回大きく動く、読唇術しろってことですか…?
お、お、う……あー、殺す、ね。
取り敢えずこっちもす、ま、ん と言っておく、さっきから痛いほど感じていた射殺すような視線が消えたので多分許してもらえたと思う…というかそう思いたい。
「お〜い、さっさと出てくれねえか…?鍵閉めらんなくて困るんだけど…」
「「あっ、すいません…」」
足早に音楽室から退室すると、守衛の女性が手早く鍵をかける。マジで俺達待ちだったのか…なんかだんだん申し訳なってきた。
「本当にすいません、私達が帰らないと校門も閉められないですもんね…御苦労お掛けします…」
「…いや、毎回1、2組は学校に残ってるモンだし、慣れっこよ慣れっこ」
土御門が割と本気で申し訳なさそうに謝罪すると、守衛さんはどこかバツが悪そうに謝罪を受け入れた。
考えてみるとこんな遅い時間まで学校に残っているのは相当な問題児位しかいないのかもしれない、だとしたら謝罪慣れしてないのも仕方ない気がする。
というかそうか、俺達が帰らないと校門閉められないもんな。
……用事は済んだらしいし守衛さんに残業させるわけにもいかない、さっさと秘密基地とやらにドナドナされてやるか。
「あの、ホントにすいません、俺達もう帰りますんで…あっ!なんだったら俺達がちゃんと帰るの確認してもらって全然構わないんで」
「お、おう…じゃあ校門まで見送りでもさせてもらおうかな」
申し訳なさからグイグイいったらちょっと引かれた、解せぬ。
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