逸般人系男子
多分そんなに待ってる人もいないでしょうが復活のRです。
キャラ設定やシナリオまとめてたりしたら10日くらい過ぎてました、すいません。
あ、あと成績開示もありました。とりあえず今年もなんとか進級できたので慌てずゆっくり書いていこうと思います。
<追記>そういえば10万字超えましたね、やったあ。
「んじゃ、行きましょうか」
「いやだから待てっつってんだろ、色々説明が足らんでしょ説明が!?てか、何で俺が七不思議退治についていかなきゃならねえんだよ!?」
再び廊下に猪突猛進しようとする土御門を制止する。そもそも何で俺が妖怪退治についていかないといけないのか訳わからん。
「グチグチうっさいわね…だってあんたを一人きりにしたら逃げかねないし、一々探し直すの面倒なのよ。━━━逃げない、なんて言葉は信用に値しないわ。一度逃げた奴の言葉をすんなり信用できるほど私は素直じゃないの」
「ぐう。」
「ぐうの音は出るんかい」
逃げない、と言う前に逃げ道を塞がれた。あまりのど正論に危うくぐうの音が出ないところだった。
いや、でもそりゃそうだわ。俺がその立場でもそう言うに決まってる。目を話したら消えてるようなヤツから監視を外すなんてバカはそうそういないわと内心自虐してみる。心が痛いな〜アハハ。辛い。
「…あ!やっぱり逃げてもらっても全然構わないわ」
目から1滴の汗が垂れ流れそうになっているタイミングで、土御門が唐突に逃亡の許可を出した。同情でもしてくれてるのだろうか?
「…というと?」
質問の返答の代わりとしてか土御門が作り物みたいに綺麗な、それでもってどこか気味の悪い笑みを浮かべる。腰に手を回し皮のポーチを開けると、その中から一枚の折りたたまれたメモ用紙を取り出した。
「浅田真16歳、一年2組所属で身長165cmの体重50kg、家族と三人暮らしで現住所はこの町の北4丁目、目印は2階建ての淡い青色の屋根。父親は中小企業で海外事業を担当し現在中東に単身赴任中、母親も父親と同じ企業で勤めていたがアンタを妊娠した時に寿退社、現在は専業主婦。…家族仲は良さそうで大変結構なことじゃない、羨ましいわね。」
「は?こっっわ、どっちみち逃す気ねえじゃん。ここまで追い込まれてるといっそ笑いがこみ上げてくるわ」
たらりと流れる冷や汗と一緒に眉と頬が引きつった。なんだこいつの情報収集能力。
これを調べ上げたのは昨日の今日じゃない。だってこいつが俺が誰かを探り当てたのは今日。恐らく朝の時間と昼休みを使って俺に目星つけたんだとして……これだけの個人情報を調べ上げるのにかかった時間は、おそらく3時間ちょい。
(…やっば、なにこいつ。俺の方がお前が何者か聞きたいわ、聞くこと自体ヤバイ気しかしないけど)
とりあえず逃亡という選択肢が消えた今、これからのことについて思案する他ない。諦観の念の籠った声で土御門へと質問を繰り返す。
「…で、結論何時くらいに終わる予定なんだ?」
「…へえ、驚いたりしないのね」
その意外そうな反応が癪に触る。別に俺とて驚いていないわけではない。でも、驚いたところで恐らくなんの意味もないのだ。
「何?ビビってたら逃げても許してくれんの?」
「ンなわけないでしょ、地の底までだって追っかけて捕まえてやるわよ」
「だろ、ならビビってたって仕方ねえじゃん。んで、いつ終わるかそろそろ教えてもらっていいですかね」
”退路なし”。であればもう腹くくる以外に選択肢はない。
いや、覚悟が決まってるとかじゃなくて、外堀を完全に埋められたからってのが大きいんだが……内心は『あとは野となれ山となれ』って気分だ。
「ん〜、六時前には終わってる予定ね、想定されてる妖怪は大したやつじゃないから。で、その後私たちの組織のところで事情聴取だから…多分全部終わるのは八時過ぎくらいだと思うわ。あと何度でも言うけど、殺したりとかそういうヤバい系はないから。そこだけは安心して」
(…そこだけは、ね)
含みを感じるが深く考えるのはやめとこう、怖くなる。
「…了解、帰りはどうすればいい?」
「送ってってあげる、親御さんに説明も必要でしょうし。…なんだかんだ昨日は助けてもらっちゃったわけだし、恩を仇で返す気は毛頭ないわよ」
おっと。以外と優しい…いや、飴と鞭だな。
ついでに本当に住所あってるかの確認も兼ねてそうで怖い。が、ここまでバレてたら今更隠す意味ないか。ここまで調べがついてるなら色々と今更すぎる。
「じゃあお言葉に甘えて、んじゃちょっと電話するわ……ってスマホ鞄の中じゃん」
素直に好意と受け取ったが肝心の連絡手段がカバンの中だ…って、そもそもHR前に木下先生にドナドナされたわけだから仕方がない話なんだが。
若干気まずい空気の中、無言で土御門の方を見つめる。目が合うと土御門はそりゃそうよねと溜息と共に小声でボヤいた。
「…私もついてく。逃げられたら面倒だし」
呆れたような表情の土御門と共に気まずい雰囲気を引きずりながら廊下へ出る。準備室から教室までの道のりはお互い無言のままだった。
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ようやく馴染んできた1–2の教室に入ると、既に人っ子ひとりいない空っぽ。案の定クラスメイトはいなかった。机の横に掛けていたエコバッグと鞄を回収する。
スマホを取り出すついでに、朝に貰ったプロテインバーが入ったエコバッグを適当に折りたたみ鞄の中に突っ込む。
鞄を一旦机の上に置き、登録されている母さんの電話番号をタップし耳に当てた。コール音はは予想以上に早く終わると、直ぐさま母さんが電話越しに『はぁ〜い』と気の抜けた声で話し出した。
「あっ、母さん?昨日の件なんだけど、なんか今日さ、お礼としてその子の家で晩飯ご馳走してくれるらしいんだよね」
『あら、あらあらあら?よかったじゃない!苦節16年、ようやく我が子にも春が来たのね〜!』
我が母ながら御年40にしては若々しい声。本人曰く、若さの秘訣は20年間毎晩飲んでる特製スムージーと適度な運動らしい。
でもジムに行っていたりランニングをしているところを見たことがない。多分だが父親が赴任から一時的に帰ってきた時に限ってなぜか、な、ぜ、か!親の部屋でベッドが軋む音が聞こえるので、適度な運動というのがそれなんだろう。
なにやってんのかは知らない…というか知りたくもないが、ひょっとして多分そろそろ確実に妹弟ができるんじゃないかな〜って思わなかったり思ったり。(遠い目)
両親の性事情のせいですっ飛んでしまった意識を母親との電話に戻す。
「いやそういう感じじゃねえんだけど……んで、その後車で送ってくれるらしいから今日晩飯いらないわ」
『了解〜。で、帰りは何時頃?日を跨いでも私は全然構わないけれど』
おい、話を飛躍させるな…と、ツッコミたいところではあるが柳に風。暖簾に腕押し馬耳東風なのは簡単に予想がつく。
言っちゃ悪いが、俺の母親はそういった人間であるということを俺と父親が一番理解している。
「………帰りは多分八時前には帰れるよ、なんかそこそこ遠いらしいし」
『はいはい、いい報告待ってるわね〜』
”いい報告ってなんだよ”と文句を返す前に電話が切れた。
…なんか疲れたな、精神的に。
母さんとの会話は毎回カロリーが高すぎるのが玉に瑕。
スマホを尻ポケットの定位置に仕舞いつつ、真後ろで話の最中適当な椅子に座っていた土御門の方に振り返る。終わったぞと声をかけると、目をつぶって精神統一か何かをしていたらしく、土御門はすくっと立ち上がり軽く体を解した。
「オーケー、それじゃあ移動しましょう」
「…いえす、まいまじぇすてぃ」
ふふt窓から外を見ると、昨日も見えた夕焼けが向かいの山を橙に照らしていた。その夕日は記憶から昨日のことを思い出させて、俺はどこか心が穏やかじゃなくなるのを感じる。
俺の気など全く知らない土御門はどこか軽い足取りで教室を出、教室の扉から頭だけ覗かせ俺が来るのを今か今かと待っている。
(…気が重い)
ため息混じり、後頭部を乱雑に掻き乱しながら俺は土御門の背中を追った。
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「で、音楽室ってことは次の七不思議はさしずめ”見つめる肖像画”ってところか?」
俺でも聞いたことのある崎森高校に代々伝わっている七不思議、そのうちの一つである”見つめる肖像画”。恐らく今回戦うのはこれだろう。
怪談の内容としては、『音楽室に飾られている楽聖の肖像画が生徒を目で追ったり血の涙を流したりする』というもの。
正直、どこの学校でもよく聞くやつだろう。
他の七不思議は”1階の背後霊”、”トイレの太郎さん”、”開かずの扉”、”赤紙青紙”、”呪いの鏡”、そして最後の七不思議は……なんかそもそも存在しないらしい。
7つ目が存在しないのが7不思議ということらしいが、昔はあったと主張するOBもいたりして、はっきりしないそうだ。どういうことだよ
七不思議の不思議に思いを馳せていると、前方を歩いていた土御門がこちらに振り向き、右手の指で円を作った。どうやら推測は正解ということらしい。
「大正解。さっきは肉壁になれって言ったけど今日に関しては十中八九危険性は皆無ってワケ。だからこそあんたみたいな一般人…一般人…?を連れてってるわけよ。昨日の一件でなんとなく分かると思うけど、あんなのに普通の人を巻き込めるわけないでしょ?」
「そりゃよかっ、ってちょっと待ておい、まずは俺を一般人だと断言しろ。お前みたいな魔法少女モドキに否定されたらいよいよアイデンティティがおかしくなる」
遠い目をしながら明後日の方向を向くな、おい土御門。せめてもうちょっと上手く誤魔化してくれ、頼むから。
…まあいいや、いやよくはないんだけど。
しかし動く肖像画か…赤紙青紙と比べてメジャーだし、怪談自体に物騒な要素がないビックリ系のやつだから多分大丈夫だろう。
土御門の腰元にぶら下がっているポーチが昨日と異なりパンパンに膨れていることからも、物騒な事態になっても昨日の失敗を繰り返さないという強い意思を感じる。
…というか、こいつの性格的に昨日の憂さ晴らしをするような気さえする。これから倒される名も知らない妖怪にはむしろ同情の余地があるかもしれない。
ちなみに俺の予想では出てくる妖怪は百目とかだと思う、というか目に関する妖怪はそれしか知らないし。頭の中でブヨブヨとした2m越えの巨大な肉の塊に無作為に大量の眼が生えた怪物を想起する。
想像しただけで気色悪い、身体中に寒気が走って鳥肌が立った。よく考えたら俺集合体恐怖症だったわ、蓮コラとか絶対にダメなタイプ。なんか余計に帰りたくなってきた。
「………魔法少女モドキ」
集合体恐怖症特攻なイメージを頭から払いのけ土御門の方を見ると、どうやら俺が言った魔法少女モドキというワードに深刻なダメージを受けていた。
「えっ、自覚なしだったの…?微妙にダサい厨二病的な変身ポーズとかまさにそんな感じだったと思ったんだが」
「ダサ…っ?!」
「…いや、魔法少女ってかあれか、どっちかといえば退○忍ならぬ退魔巫女か。スカート丈とか異様に短いもんな」
「……ッッ〜!?!?!人間の記憶を消すのってどうやればできるんでしょうね?とりあえず脳天に踵でも落としてみましょうか…ッ!!」
わなわなと怒りに震える土御門が物騒な事を言いながらこちらを睨みつける。目線の先、土御門の顔面は茹だったタコみたいに真っ赤に染まって、歯をこれでもかという程食いしばっていた。
そして釣りあがった両目には2粒大きな水玉、完全に失言だと気付いたが時すでに遅し。
目が合うと土御門はその場で大跳躍。空中で持ち上げていた左足を急制動で右足と入れ替えることで反動をつけ、天井を突くほどの勢いで180度近くまで足を振り抜いた。
位置エネルギーと備わっている脚の筋肉により威力を増した踵が俺の脳天を破砕する一撃に昇華される刹那、反射的に固まってしまった俺が視界の端に捉えたのは、やたら丈の詰められた改造巫女服のその先。
そのスカートのその先の所謂絶対領域に存在する—————
「死ねッッ!!!!」
「待てそれはシャレにならなって、あっ白ガッ!?!?」
頭頂部に重い一撃。
脳がシェイクされ三半規管は正常に動作せず体は膝から崩れ落ちていく。
脳天に突き刺さるような激痛と意識がふわふわと沈む謎の浮遊感を覚えながら、俺の視界と意識は布切れと同じ真っ白に染まっていった。
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「っっァ〜…んあ?」
ッてえ〜…あれ、どこだ…ここ?きょうしつ…?
寝ぼけ目を擦って辺りを見渡すと、なんか知ってるようで知らないような変な場所にいた。
妙に頭と体が痛いんだよな、硬くてひんやりとした感触を覚えて寝ていた場所を確認する。灰色に近い樹脂性の床材、叩くと適度な硬さを感じる。当たり前だが明らかに俺の机でも寝床でもない。
「って、ここ二階の廊下じゃん」
辺りを改めて見渡すと2階の廊下だということに気付いた。やばいだろ、明らかに未知の怪現象だぞこれ。
「お目覚めかしら、ミスター昼行灯」
「……辛辣系アイドルのモノマネなんてしなくてもお前は十分辛辣だし、なんなら特に罵倒されるようなことをした覚えはないんですが…てか土御門、お前いつ着替えたんだ?」
頭に大量に浮かぶクエスチョンマークを処理できずにいると真後ろからいい加減聞き覚えのある罵倒、返答しながら振り返ると案の定土御門が廊下の柱にもたれ掛かって立っていた。
昨日今日と目が覚めると唐突に罵倒されたり、化け物に追いかけられたりして散々だ。今度お祓い行こうかな…
「…ん?」
土御門とさっき社会準備室で会った時は確か学校指定の制服だったはずだが、俺が寝ている間に着替えたらしい。…って社会準備室じゃなくて何で俺は廊下で伏せってッテテェっ!!!?
何かを忘れているような気がして思い出そうとすると、頭がかち割れてるんじゃないかと思うほどの頭痛が襲ってくる。
「ッってぇ!?…なんかすっげえ頭痛いんだけど、なんでか知らないか?」
「…そこら辺にバナナの皮が落ちてたのよ。アンタは間抜けにもそれを踏んづけて、そのまま勢いよくひっくり返ってこんな時間まで気絶してたってワケ」
「わかりやすく嘘じゃん。逆にビックリしたわ」
今日日小学生でももうちょっとマシな嘘を吐くぞ…見え見えの嘘を真顔で吐いた土御門に一周回って逆に驚く、てかもはや関心の域だわ。
立ち上がって外を見れば、山々の合間を縫った夕日が窓から差しこむ。夏場でこの太陽の位置であれば…さては、現在時刻は逢魔が時ってやつなのでは…?
時計確認。嫌な予感的中。案の定もう6時手前だよ…現実逃避したくなってきた。
なんでこんな時間まで気絶すっかなあ…ってまた気絶じゃん。昨日も頭打って意識が飛んでるし、本格的にお祓いが視野に入ったぞおい。厄年とかそういうレベルじゃないだろ。
というか何か忘れているような…うぐぐ、なんだっけか、全然思い出せない。
(……逆に考えるんだ、忘れちゃってもいいさと)
思い出せないならもうそれでいいや。恐らく土御門が何かしたんだろうが、こいつ関係ってことは十中八九ロクな記憶じゃないってことのような気がしてならない。
だったらむしろ思い出さないほうがいいような気がする、とは言っても何か引っかかるんだよなあ…
喉の奥に小骨がつっかえてる感覚に近い。こうなると、なにかと気になってしょうがないので頑張って思い出そうと唸ってみるが…。
「…っあ゛〜ダメだ、全然思い出せない」
「そう、それは良かったわね」
「良かった?何が?意味わかんねえんだけど」
「なんでもないわよ、気にしないで」
綺麗な笑みでこちらに微笑む土御門に何故か底知れぬ恐怖を覚え、ホントに背筋が凍えたと錯覚するほど身震いしてしまった。
………うん、忘れよう!思い出そうとしたことごと綺麗さっぱり!
好奇心で死にたくないんでねっ!!
今回の話から1部2章に入ります、はてさて動く肖像画の正体は一体どのような魑魅魍魎なんでしょうね?
まあ予想できてもコメント欄は開けてないのでコメントできないんですけどね。
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