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ポンコツ系男子

これがリアル男子高校生の日常ってことですね。

というわけで1章の2部がここから始まります、そして1章のラストでもあります。






「ここの文脈はだな…っと次回はここからやるからちゃんと復習しておくように、テストもここら辺を中心に作る予定だぞ」


 授業終了のチャイムが鳴るとくたびれた中年の国語教師が教室から去っていった、教師が出ていくと同時に教室は生徒間に飛び交う会話。


 今後の立ち回りについてなどをぼんやりと考えているうちにもう昼休みだ。授業はいつも通り上の空だったけど…まあなんとかなるでしょ、最悪テストは徹夜でやりゃいいし。


「っと、居たか。メシ食おうぜ」


「あいよ、今日は購買じゃねえのな」


「まあな」


 手に巾着袋をぶら下げた源二がいつも通り俺の席にやってくる。そしていつも通り主人が留守の隣席に座り、バスケットボールのアップリケのついたやたら可愛らしいデザインの巾着から弁当箱を取り出した。


 弁当箱の中身は、鶏肉を中心に野菜がカラフルに散りばめられた、如何にもスポーツマンと言った感じの昼食。巨体に合わせて量もかなり多い。


「流石栄養士が母親なだけあるわ」


「ん?やらねえぞ?」


「ちげえよ、単純で純粋な感想だわ」


 勘違いしたのか源二はこちらを半目で所謂ジト目というやつでこちらを凝視しつつ、俺と弁当箱の間に距離を作る。そんな物欲しそうな目をしていたつもりはねえんだけど…


 俺も自分の机の横に引っかけてあるチープなデザインのエコバッグから、コンビニで買ったサンドイッチを取り出して包装を剥ぐ。昨晩のゴタゴタもあり、家に夕飯の残り物がなかったため今日はコンビニ飯なのだ。


「そういえば、誰かから俺について聞かれた?」


 右手で持ったサンドイッチを頬張りつつ、左手ではスマホのメモ機能を使って手早くフリック入力で文章を作成。昨日起こったことの疑問点や問題点を箇条書きにし、今後訪れるであろう土御門にどう対処するか考える。


 これぞ両利きの特権ってやつだな。


「いや誰も聞いてこなかったぞ、てかお前随分器用なことすんのな…話聞いてる?」


「聞いてるよ、話半分に」


「自分から聞いておいてそれかよ…てか聞かれてた方が都合いいのか?」


 都合がいい筈がない。なにせ浅田真の存在を意識する人間は悲しい事に非常に少ない。であるならば、自分を探っている存在はほぼ100%土御門聖に間違いはないのだ。


「んにゃ、どうせなら聞いてこない方がいいわ。下手したら命の危機になりかねないからな」


「…面倒な女ってそういう?なんだ真、お前ヤンデレか何かでも引っかけたのか?」


「人を女癖悪いやつみたいな言い方しないで貰えます??」


 とてつもなく心外なんだが…人を一体なんだと思ってんだ。


 …いや、あながち間違っていないのだろうか。少なくとも俺の命をガッツリ狙っているという点はなんらか病んでる判定でもいい気がする。


「ん〜…重湯みたいなやつ、かな?」


「重湯っておい。…まあ言わんとすることはわかってしまうのが憎い……って今心読んだ!?お前サイコメトリー的な能力者だったのか…!?」


「いやモロに顔に書いてあった、気をつけたほうがいいぞ」


 …マジで?もしかして昨日鎌鼬と正面で化かし合いした時もポーカーフェイスできてなかった感じ?


 (……勝てば官軍!)


 その後はなんだかんだと雑談で盛り上がり、授業の予鈴が鳴ったので解散した。ちなみにメモの最後には赤字でしっかり『ポーカーフェイスを意識する』、『当分居眠りは厳禁』の2点を記しといた。

 

 これで完璧だ。




—————————————————




「チャイムが鳴ったので今日の授業はここまでですね。えぇ〜っと誰にしようかなっと、じゃあ……浅田真くん、先生と一緒に今日提出のノートを社会準備室まで持ってってくれますか〜…ってあれ、浅田くん?浅田く〜ん?」


 いつも通り上の空で授業を聞いていたが、唐突に名前を呼ばれ我に帰る。社会科の木下先生は美人系の見た目に反してふわふわした美人で、男女問わず人気があるがたまの提出物を生徒に持って行かせることでも有名だ。


 ちなみに全く悪い意味ではなく、合法的に先生とデートできる権利として有名らしい。確かに先生美人だもんな…っと。


「はーい!浅田真はここです!!ここにいますよー!」


 心の中で涙を流しながら声を張り上げ、手を大きく振って存在をアピールする。悲しいことにこのくらい激しくアピールでもしないと見つけて貰えない。


 やっぱり先生も俺がどこにいるか分かんないのね…っておい。そこのやつ、俺の斜め前の西田。俺はお前を覚えているぞコラ。ボソッと誰だよって言ってんじゃねえよ、大事なクラスメイトの存在を忘れんなよ。


「あ〜、浅田くん発見。じゃあ教卓の上のノートを運んでもらえますか?」

「了解です、準備室は…2階でしたっけ?」

「そうですよ〜。心配しなくても、先生も一緒に行くので大丈夫ですよ」


教科書を机に適当に突っ込んで足早に先生の元へ駆けつけ、教卓の上のノートを持ち上げる。

以外と重いんだよな、40人近くのノートだけあってずっしりとした重みが腕を通して伝わってくる。


こりゃか弱そうな先生には酷だわ。


「行きますよ〜」

「わかりました」


 先生の後ろについて階段を登る。昨日もお世話になった二階の演劇準備室の近く、社会準備室は改装前の比較的古い部屋だった。

 木下先生が木製のこれまた古いタイプのドアの鍵を開けドアを開けてくれた。どうやら先に入れということらしい。


「どうぞどうぞ、()()()()()()()()()()()〜」


 ”おなかにお入り”とはまた随分と古典文学的な表現を使うものだ、と少し不思議に思いながらも荷物が重いのでそそくさと社会準備室の扉を開き、中へと踏み入れようとする。


「わかりました、お邪魔し————」


 まさに踏み入れた瞬間だった。



「昨日ぶりですね、ご機嫌いかがですか?」



 社会準備室の扉を開けた先。その光景を目にした瞬間に、俺の体は蛇に睨まれたカエルのように固まってしまった。40冊のノートが腕から滑り落ちるが、しかしそれを拾えるほど今の俺に余裕はない。


 もうこれっぽっちも、全くもってない。


 目の前の女子生徒は手を口元に添えて上品に嗤う。そしてその、まるで性格のいい美少女のような立ち振る舞いが()()()()()()()()()()()()産毛が逆立つ。


 目の前に綺麗な表情で微笑む土御門聖(つちみかどひじり)が立っていた。ただなぜか解らないが、底知れぬ恐怖を感じる。


 俺が固まっていると、後ろで勢いよく音を立てて扉が閉まった。振り向くといつの間にか、後ろにいたはずの先生が姿を消していた。


(……嵌められた?!)


 これ、さては木下先生がグル……?!


 割と絶体絶命。焦りと緊張で目の横がピクピクと痙攣しそうになるが、気張ってポーカーフェイスを意識し平静を保つ。


 さっきメモに書いといたことを、こんなに早く意識することになるとはって感じだ。


 この状況をどうにかする打開策を考えるが、どう考えても無理なものしか思い浮かばねえ…どうしてもこの状況を打開できるほどの一手が思い浮かんでこない。


 ……あれ、詰んだ?





————————————————






 震える手をどうにかごまかしながら、うっかり落として地面に散らばったノートを拾い集め、準備室の一角に纏めておく。

 その間にも俺のポンコツ頭脳は、フル回転で状況の打破を画策していた。


「えっと、隣のクラスの土御門さん…でしたっけ?昨日ですか…というか会いましたっけ?そもそも俺と貴女に接点なんてなかったと思うんですけど…」


 とりあえず時間稼ぎしかできないので、必死に誤魔化しながらしれっと嘘をついてみる。しかし土御門の薄らと開いた瞳がこちらを捉えて離さない。


 徐々にバクン、バクンと心音が跳ね上がっていく。


(俺だと嗅ぎつけるのがあまりにも早い…早すぎる)


 少なくとも俺について嗅ぎつけるまでに3日くらいはかかる計算だった。しかし蓋を開けてみれば昨日の今日でアッサリ特定。完全に後手に回ったことを自覚した。


 教師が出て行ったのを見計らってか、土御門は作り物みたいに精巧な笑顔から一転。昨日見せた獰猛にすら見える笑顔に切り替わる。さっきまでのやつは色んな意味で心的負担だったので、ありがたいと思いつつも心を身構える。


「シラを切って貰って大変結構…それを見越して私だって準備してきたんだから。それじゃ言い逃れできないほど完璧にその正体、暴いてあげましょう!」


 土御門は声を張り上げてこちらに向かって指をさした。若干ドヤ顔というかキメ顔を作っているような気がして少しイラっとする。


 なんだそのポーズは。法廷で異議がある人のポーズに近いけど決めポーズか?


「アンタのミスは2つよ。まず1つ目、隣のクラスに私が在籍してると言ったこと。2つ目はタイムラグなしに弦矢源二(つるやげんじ)を名乗ったこと。弦矢くんは私の隣のクラスに所属しているし、アンタは弦矢くんと親しい人間だっていう仮説が成り立つ」


…ん?そんなこと言って…言って……?


『さて、と。しばらく時間があるし質問返答タイムにしましょうか。本当は一般人に情報開示とかやっちゃいけないけど、今回は特例措置ってやつ。

まずは自己紹介ね、私は———』『知ってるよ、100人斬りで有名な土御門聖さんだろ?確か…隣のクラスの』


…あ゛っ。


「そうと決まればあとは簡単。アンタのクラスメイトにクラス名簿を見せて『知らない名前は?』って聞けばいいだけよ。どうせアンタは用意周到なヤツだから弦矢くんには口止めしてるに決まってる。

 ————で、どう?浅田真クン?」


 ………


 ………クラスメイトから、俺は認知されてなかったのか。


「…(いろんな意味で)マジで?」


「ふん、完璧でしょ?」


 腰に手を当て胸を張って御満悦な土御門、露骨なドヤ顔で表情が最早うるさい。ドヤ顔がうざいのは兎も角スタイルは悪くないので、露骨に胸が強調されるのがそれはそれでまた一層腹立たしい。


「…そんなに頭いいのにどうして昨日はあんなに馬鹿だったの?さてはアンタ、土御門の影武者か何か?」


「は?死んでくれる?」


「あっこれ本物だ、ッてあぶなッ!!?」


 あまりにうざったいのでカマを掛けつつ挑発してみると、罵詈雑言と共に昨日も出会い頭に食らった符が速攻で投擲された。俺の顔面横スレスレを勢いよく通過…というか若干頰っぺたに痺れを感じる…って、これ多分掠ってるよな!?


 ニトログリセリン、もしくは研いだ後の刃物ばりにすぐにブチ切れる様子を見て、こいつは紛れもなく本人だと確信する。


「さて、今一番殺したい奴が見つかったわね」


「こっっわ、そんな顔でこっち睨みながら言わないでもらえますかね!!?」


 さらっと恐ろしいことを言う土御門、恐ろしいのは言葉だけでなくその顔は無表情、ハイライトが完全に消えていて別ベクトルの恐怖を感じる。


 ゴゴゴゴゴという擬音が浮かび上がりそうな雰囲気すらある。目を凝らせば土御門の背後にぼんやりと鬼神のヴィジョンすら浮かんでいる気さえする。

 そばに現れ立つというところから、この現象をスタ○ドと命名しよう。


 暫くの膠着状態ののち最初に動いたのは土御門。露骨なため息を吐き出し、止めた止めたとボヤきながら乱暴にソファに座り込む。

 

 もちろんがっつり足を組んでるけど…お前スカートだぞ、それでいいのか。


 男気すら感じる佇まいの土御門は、無言のまま顎で向かいのソファを指し俺に座るよう仕向けた。

 …なんか可哀想になってきたな。熱狂的な土御門ファンの男子諸君がこの姿を見たら発狂するんじゃないだろうか。


 噂でよく聞く大和撫子然とした土御門聖とは一体…なんか頭痛くなってきたな。


 ”ブラコンの姉妹と大和撫子のような女子生徒は創作にしか出てこない”という残酷な真実を胸に刻みながら、危うく出かかった言葉を無理やり飲み込んで座る。


「というかね、驚いたって言いたいのは私のほうよ…朝起きたらアンタの顔も声も記憶からスッポリ消えかかってたんだけど、ホントにアンタ何者?」


「いや、そんなこと言われても知らんが。こちとら一般的かつ模範的な生徒なんですけど?」


 担任にも定期的に忘れられる人間の気にもなって欲しい。過剰なまでの自己主張をしないと出席が貰えないってなんだよ。

 まあ、だからこそ意地になって皆勤賞を取ろうとしてるわけだが。


「…まあそれは置いておいて、もうなんとなく察してると思うけどこの後付き合ってもらうわよ。勿論拒否権はないわ」


「…今日この後予定あるんでs「次逃げたら問答無用で『消していい』と許可は得ておいたわ。それでも構わないっていうのなら…」

 ヒエッ、行きます行きます、是非是非付いて行かせてくださいッ!!」


 言わせねえよと言わんばかりに、畳み掛けるように俺の言葉に被せて脅迫。


 問答無用。

 拒否権はないと俺の人権をゴミのように踏み躙り、満面の笑みでいつの間にやら手に持っていた束ほどの枚数の符をビラビラと見せつける土御門。こいつSっ気が強すぎるだろ…



「それじゃ行きましょうか。んんっ〜〜〜〜ッと、解除」



 意味深なコトを小声で言いながら、土御門が勢いよくソファから腰を上げて立ち上がり体を伸ばす。そしておもむろに右手を頭より高く掲げ、何となく香ばしいポーズを決めながら指を弾いた。


 変化は唐突に訪れる。


 土御門の体中に昨日も見た緑のスパークが一瞬迸ると、学校指定の黒セーラーはまるで張り付けられたテクスチャが剥がれるかのように姿を崩し、土御門が纏った衣服は昨日と全く同じスカート丈が調整された改造巫女服に変容した。


 「…すげえ」


 改めて見ても科学では説明できないような不思議現象を前にすると、本当に”魔法”が存在するんだと感嘆せざるを得ない。


 ……一々構える香ばしいポーズはともかく。”いい歳して魔法少女パロディかよ”とかは別に思ってない。思ってても言わない。ぶっ殺されるから。


「ってちょ、待て待て待て!?どこ行くかといつ帰れるかだけ聞いていいか?帰宅時間を親に連絡したいんだけど」


 あっぶねえ…大した説明もなしに今にもドアを勢い良く開き、廊下に飛び出して行きそうな土御門をギリギリで制止する。


 昨日は何とかなったが2日連続門限破りは流石にヤバい、外出禁止がチェックメイトになるのが容易に想像できる。


「ん?音楽室よ?」


 は?音楽室?なんで?


「えっ、いや組織の秘密基地的なところじゃねえの?」


「本部にはその後に行くわよ?でも昨日言ったでしょ、『七不思議』なんだってば」


 文脈がおかしい気がするが、話の流れから汲み取れる内容を精査する。『七不思議』、『昨日も言った』…。


「………あ〜。()()()()()()()()()?そんでもって俺も手伝わされる感じ?」


「元々今週中に七不思議を全部片付ける予定だったの。ちょうどいいからアンタは肉壁にでもなってなさい」


 あまりにも理解したくないことをハッキリと言われた。現実逃避として天を仰いでみる、いや仰いでも見えるのは天というか天井だけど。


 主語もなかったから何のことか解らなくて、理解に時間がかかったのもあるが。



 どうやら、今日もまたまた命懸けの妖怪退治の手伝いをやらされるっぽい。

 勘弁してくれ…『事故死』だけはしないよう背後には気をつけておこう。





色々あってしばらく忙しくなりそうなので週一ペースくらいに戻ります

モチベーションになるので評価とブックマーク登録の方、していただけると幸いです。

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