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傍観系男子

あけおめーーーーーーー!!!!!(ヤケクソ)





「あれ?聞こえなかった感じ?もう一回言ったほうがいい? ———俺ってば、実は割と正義感タイプなんだよな」


 無論、聞こえなかったから黙っていたわけではない。

 なぜ今まで現れなかったのか、どうしてそれほど飄々としているのかなど様々な憶測や疑問が鎌鼬と巫女の脳みそを処理落ちさせた為いささか空白が生まれた。


 もちろんそんな時間は長く続くわけはなく———


「馬鹿がよォ、隠れてればいいものをノコノコと出てきやがって。今殺す。動くな。」


 その数瞬後に突き刺さるのは殺意の視線と明確な意思表示。巫女を雑に放り捨て、体を真に向けて本来通り4足獣としての姿勢に移行。

 しかしいつでも命が奪えるという文字通り、その姿勢を前にしても掴み所のなく真は言葉を続けた。


「そんなに焦らなくてもいいじゃないかよ、とりあえず人質交換しない?薄々感づいてると思うけど、お前の兄弟の身柄預かってるの俺なんだよね」


 ヘラヘラと笑いながら交渉を持ちかける真に対して、殺意で爛々と輝いた鎌鼬の瞳が鋭く刺さる。しかし、真の視線はボロ雑巾のようになった電波女へと向いていた。


(吐きそう、なにあれグッロ!!?めちゃ血出てるじゃん!!?早く治療しないとマジで危ないんじゃね……?!!)


「馬鹿が、お前ぶっ殺した後に奪えばいいだろうがよォ。命乞いが終わったら今すぐ素っ首叩っ斬る、早く話を締めろや」


 正論である。この場において交渉をする必要性など鎌鼬には一切ないのだ。


 尾先の鎌が尾の動きに合わせ月の明かりを反射して怪しく揺らめいていた。

 赤い靄が立ちこめないのは自ら斬り殺すという意思なのだろうかと思うと真は震え上がりそうになるが、見えない位置で太ももを力一杯捻り必死に震えを堪えて話を続けた。


「もうちょい頭使えよ。俺がなんで今まで姿を隠してたのかとか気にならないの?———例えばお前の兄弟を絶対に見つからないところに隠してた、とかさあ」


 殺意の視線が一瞬泳ぐが、しかしすぐさま視線はまた真に突き刺さる。


「……信じるに値しねえなァ、てめえは儂をさんざ罠に貶めてきただろうがよ。そんな奴の言葉を信じるような馬鹿がどこにいるってんだ?なァ?!!」


 侮るな、と獣が絶叫する。


 それに呼応するかのように風も唸りを上げ、鎌鼬の群青色の双眸は怪しく深い輝きを光らせる。美しい色に反してそれは殺意と憎悪のみを含み、見つめるものを心底凍らせるような不快で威圧的な重圧を見るものに課した。


 しかし柳に風の如く、特に何でもないように<見える>男は淡々と反論する。


「わざわざ俺がオマエの前に出てきたってことは割と切羽詰まってるってことだと思ったりしない?安心しろよ、完全に嵌めるなら俺はお前の眼前に現れたりしねえよ。だって危ないし。そして……()()()()()()()()()、そこの電波女とお前の兄弟の居場所、交換しようぜ?」


「……おめえを拷問して吐かたって同じ事よなァ?」


 風は業風に様相を変え、その中心に構える鎌鼬は尾を大雑把に四方に振り回す。文字通り空を切る鋭い刃音と嗄れかすれた声から発せられる言葉の節々にある絵も言われぬ迫力によって感じる凄みは、明らかに冗談を口にしているとは思えない。


「おいおい…おいおいおいおい!お前…なんで俺が無策でここに立ってると思ってんだ?なんで俺はさっきまで姿を見せていなかった?準備してないとは言ってない、何とは言わないが実は時間がないんだ」


 これがブラフなのか、それとも真実なのかは鎌鼬にはわからない。しかし真から発せられた『時間がない』という一言は、少なくとも嵌められ続けた鎌鼬に警戒を抱かせるには十分すぎるものだった。


 それに反応するように、窓と木々を軋ませる程にまで吹き荒んでいた暴風は鳴りを潜める。悪感情のみを含んでいた視線は明確に思索の色を浮かべるが、しかし獣本来の4足による強襲攻撃態勢は崩さない。


 この空白によって一旦事態は完全な膠着状態を迎えた。


 捉えどころのない男の顔には胡散臭い笑顔が張り付き、ポケットに両手を突っ込み猫背気味で佇んでいた。

しかしその不遜にすら思える態度の裏では———


(やっべええええええ!!!?マジで綱渡り、心臓煩い足震える声震える喉乾く!!……ダメだ、ダメだダメだ。

冷静冷静冷静、冷静。焦りを悟られないように…落ち着け、落ち着け。)


 この男、内心とんでもなく焦っていた。


 誤魔化してはいるが手汗が酷いのでポケットに手を半ば突っ込みながら話しているし、足の震えを誤魔化すために突っ込んだ手でズボンの裏地ごと太ももに爪を立ている。

 悲しいことに痛みで震えを相殺している状況だった。


 『オタクは全員自分を策士タイプだと思い込んでいる』と誰かが言ったが、サブカルチャーに片足浸かったこの男も例外ではない。

 だからこそ巫女のサポートがあったものの、影の薄さという本人曰く有難くもなんともない個性を人生で初めて有効に利用し、鎌鼬相手に考えうる限りの策略を張り巡らせ、綱渡りながら何とか状況を5分まで戻したのはかなり驚異的だと言っていいだろう。


 しかし残念ながら真は諸葛孔でも陳宮でも司馬懿でもなく、ましてや血なんて擦り傷程度しか見たことのないドの付くほどの一般人。

 ただ若干の正義感と驕りによって、ノコノコとそこらの殺人鬼より醜悪な化け物の前に出てきてしまった唯のバカである。


 無論ここまで()()()()()()

 当然のように堂々とのたまったこと()()()()()()()()


(胃が煮えてるみたいに痛いっッ!! あ゛〜〜!!!なんで俺が命懸けの賭けに出なきゃいけねえんだよ??!!)


 ある場所から一部始終を見ていた真は、この状況でわずかに残された勝ち筋が残り一投しかない巫女の符であることを確信している。

 

 では、この馬鹿者がそもそもどこに隠れていたのか。それは暫く時を遡る。




————————————


心に大きな孔がぽっかりと空いたような気分で真は学校から逃げるように坂道を下っていた。

 どうにもモヤモヤが収まらない。だが、少なくとも自分の存在が電波女にとっても都合が悪いのは事実だった。


 (でもバケモノ相手にそこそこの大立ち回りしてこうやって生き延びてる。世界で一番有名な配管工みたいに囚われの女の子も救った。

 …でも、後は全部ボロボロの女子に任せて尻尾巻いて逃げるというのが…俺の中で許せない)


 誰かに頼りっきりになりたくない。最後に最も危険な部分を誰かに委ねてしまうこと自体が真的にタブーだった。


(スマホも放送室に置きっぱだし…。というか、こんな時間に帰って親になんて言い訳すりゃいいんだよ。2階の窓からこっそり入って、疲れてたから家帰ってソッコー部屋で寝たとか言って誤魔化すか?)


 紛失する可能性のあるスマホ、帰宅後の親への言い訳、そもそも電波女が鎌鼬に負ける可能性。色々な心配事が頭を過ぎる。

 同時に今日1日を振り返ってみると、唯の一学生にしてはあまりにも不可思議な物事が多すぎて、頭がクラクラし始めた。


「って、待てよ…ッ?!……あ〜、やっぱりだ。返してない…」


 不意に真はポケットを漁ると、見覚えのある赤いキューブを取り出す。



 中に収まるは()()()()、そのうちの一匹。

 話の流れで電波女へと返し忘れた封印匣がそこにあった。



 「あれ…?まずくないか…?」


 百歩譲って符はまだいいだろう。神社でも御利益のあるものとして売っているものもある。一般人が持っていても辛うじて違和感のないものだ。


 しかし、封印匣は違う。


 鎌鼬が言っていたように正真正銘妖怪が封じられたモノ。そして、術者が手順を踏めば中の妖怪を取り出すこともできてしまう未知の物体。


 嫌な予感とともに嫌な想像が真の脳裏を過る。


(電波女がキューブがないことに気付く→流石に見逃せないと“処理”される→”DEAD END”。……どうしよう、割とありえそうだぞ、その展開は…ッ!)


 それによく考えれば、電波女が勝つところ確認しなければ真は安心して明日から通学できない。万一負けていた場合、うっかり登校して殺される可能性だって大いにある。


 …ついでにスマホを回収しなかった場合、そこから足がついて放送室をぐちゃぐちゃにした犯人として吊し上げられる可能性だってあるのだ。


 安心安全のスクールライフのために、そして返すものを返すためにも。

 真にはこの選択肢を選ぶしかなさそうだった。


「……よし、学校に戻るか!」

 

 証拠隠滅のため、そして保身のために。先ほどまで下っていた道に踵を返し、坂道を小走りで駆け上る。坂道を下っていたさっきよりも心なしか足が軽そうなのは…まあ気のせいではないだろう。





—————————————





 数分後、鎌鼬との戦闘音をBGMに真は学校へと戻ってきていた。


 (さてと、じゃあさっきと同じように窓から侵入されて貰いますかね、っと)


 真は若干勢いをつけて窓枠をよじ登る。校舎の高さの関係上、窓枠がちょうど胸のあたりの高さになってしまう。

 窓から侵入しずらくしているのも不審者対策なのだろうか、そんな脳天気なことを考えつつ、疲れた体に鞭打ちよじ登った。


「…流石に疲れたな。体だけじゃなくて心もしんどいや」


 真は今日という日が、今までの人生において一番濃い時間を過ごしている自信があった。

 そりゃ非科学の象徴みたいな存在である妖怪と、それに対峙するサイキック巫女の超次元バトルに巻き込まれたのだ。いっそここまでくると突き抜けて清々しくすらあるだろう。


 遠方からかすかに届久野は聞き慣れつつある老人のような嗄れた声。つまり鎌鼬と電波女は今まさに戦闘中なんだろう、匣を返すタイミングを図るためにも真は放送室へと急いだ。


 既に習慣と化しそうな動作で上履きを脱ごうとするも、一瞬冷静になった真は脱ぐのをやめた。とはいえ汚いので持ち帰りは確定だろう。


「…てか靴も回収するの忘れてたわ、後で取ってこよ」


 思っていた以上に忘れ物が多かったことに気づきつつも、階段を1段飛ばしで駆け登り夜の2階廊下を爆走する。普段できないことをする背徳感が真をワクワクさせていた。


 お世話になった演劇準備室を横目に放送室手前で足を止めた。無論、ここら一帯には大量のワックスが散乱しているため、迂闊に走ろうものなら鎌鼬の二の舞である。


 廊下の端のあまりワックスが散布されていない箇所をつま先で移動しつつ放送室の金属扉の前にたどり着いた。気分はさながら橋の端を渡った一休さんである。


 そして放送室の扉に視線を向けると、物の見事に陥没していた。


(そりゃ大型犬サイズの物体が新幹線みたいなスピードで金属扉に追突したらこうなるよな)


 真は割とエグいことをしてしまったことを反省抜きに自覚しつつ扉へ手をかける。

 若干面が凹んではいるものの致命的にフレームが歪んでいることはなかったため、普通に押したらすんなり重量感のある金属扉は開いた。


「うへぇ…」



 開けた先、放送室一面に広がるのは見るも無残な光景だった。



 暗がりとはいえはっきりとわかるのは、至る所に積もるように置いてあった台本や原稿の山がシュレッダーにかけられたかのようにビリビリにされ散乱している光景。

 同様に選曲用のCDも粉々に破砕され、床に散らばるそれはそのかけらに僅かに差す光で薄っすら七色に乱反射する。


 

 真が書き置きした紙はどこにも見えない。多分真っ先に細切れにされたんだろう。一歩間違えていたら自分がこうなっていたと思うと、血の気が引いて体の底から寒気がした。


 気を紛らせるためにスマホを探しつつ放送の機材の様子を確認すると、傷こそ付いているものの致命的な故障はないように見えた。しかし、床に無数に走っていた配線がかなりの数斬り飛んでるような気もするが、真は見ないことにした。


(…知らない知らない僕はなんも知らない。)


 仮に機材ぶっ壊れていた場合損害額はウン百万、それに比べれば配線などまだ優しい方だろう。


 別の意味でも怖くなってきた真は意識をスマホへ戻す。

 適当に地面に積もった台本原稿CDの成れの果て、その端材の山を気を付けながら足でちらして払い退けると、見覚えしかない安物のプラスチック製のケースを発掘することに成功した。


 かろうじて無事だったスマホを掘り起こし、多角的に注意深く傷や損傷の有無を調べる。


「…うん、画面に傷もないし電源も問題なく入る」


 スマホを定位置のポケットに戻した瞬間、突如窓が大きな音を立てて軋み始める。


(これはさっきから度々あった鎌鼬の突風…っ!?)


 真は窓に飛び付くような勢いで外の様子を確認する。


 しかしそこにあったのは赤く輝く光の華の大輪。赤い電流を走らせた幾千の風の刃の群生が中心でのけぞった鎌鼬をめがけ一斉に射出された。


「すっげ…大迫力だ…」


 思わず感嘆の声が漏れる。嵐の花が散りきった後にはボロ雑巾のように地に伏せた鎌鼬。


 赤い輝きが落ち着いたのでよく見ると電波女は想像以上に満身創痍。余裕綽々な態度は見栄だったのだろうかと疑いたくなるような状態に、真は少しだけ顔が引きつった。


(…まあ、これで俺の灰色の青春も変な化け物にビクビクしなくてい、ッッ!?)


 ゆらりと、地に伏せていた鎌鼬が立ち上がる。

 足に力が入っていないのか、今にも倒れそうに見えるがしかし、先ほどと確実に何かが違う。


 その様子を見た電波女がどこか苦しそうな表情で符を取り出した。おそらくあれが正真正銘最後の一枚、それを察するにあまりあるほどの表情。


(……すげえ嫌な予感がする)


 そして、その瞬間は訪れた。

 満身創痍だったはずの鎌鼬が何かを叫んだ後、突如後方に飛んだ。


 月光と炉の光に照らされて見える景色には赤黒いオーラを纏った鎌鼬、そして明らかに傷だらけになっている電波女。突然鎌鼬が2階くらいまでの高度まで大ジャンプ。


 そのまま空中で回転しながら地面に尻尾の鎌を叩きつけ━━━


 (はあッッ??!)


 真は目を丸く見開き、思わず荒げそうになった声を心のうちに潜める。


 防音加工の窓越しからでも聞こえるコンクリートが粉みじんに破砕される怪音。鈍い破砕音を残しながら、コンクリートの切断痕が線を引きながら電波女に直進していく。


(ってこれ、漫画とかでよくある風の刃かっ?!)


 不可視の刃が地面を抉る姿は、漫画では一般的な、しかし現実ではおおよそありえない光景だ。そのコンクリを裂砕する風の刃が満身創痍の電波女に迫る。


 後推定2メートル、1メートル…真はその先を見る覚悟がなく、思わず目を閉じた。僅かながらの祈りを心の内で唱える。


(横に飛んでくれッッ!!!)


 その願いは無事届いたのだろうか。薄らとだけ開いた視界、目の前の窓に反射した景色には泣きそうな表情で必死に祈る自分が映る。


(魚は兎も角、()()()()()なんて俺は見たくねえっての…っ!!)


 それは多分誰でもそうだと思われる。少なくともカニバリズム性癖でもない限りは誰だって人間の開きは見たくないだろう。

 

 複雑に混ざり合った多様な感情がこねくり回され、もうよくわからない感情が真の内心を侵食する。

 

 目を開いた先の光景を見たくない。できれば目を逸らしていたい。見開いた先にあるのは最悪人間の開き、そしてその先にあるのは自分の絶望でもある。


(…でも見なければ逃げるどころか次の一手も取れねえっ…!)


 食いしばる目をゆっくりと開いていくと、呼応して心臓がハイペースにビートを刻む。掠れた視界を学ランの裾で強く擦ると、ぼやけていた風景は明確なものとなる。


 祈りは通じた。

 横一文字に荒く削れた黒色のコンクリート舗装の地面、そこに人の惨殺死体は無い…が、ただ明らかに電波女は重症の傷を負っている。


最悪ではないが、準最悪と言った様子に真は肝を冷やした。


(脚が明らかにおかしい…ッ、ここからは遠すぎてちゃんと見えないが、足が…抉れてる?!)


 いつの間にか赤いオーラは霧散しているが鎌鼬の笑い声が聞こえた。老人のような掠れた声は上機嫌で、薄暗い校舎に響き渡るほど大きく盛大だった。


 明らかに勝ちを確信した声に真は気付かなかった方が幸せである真実を理解した。

 

(…この状況でなんとかできるやつ俺しかいないじゃん)



 俺が助けないとアイツは死ぬ。

 しかも、今すぐ行かないと絶対に間に合わない。



 真は頭の中で電波女が惨殺される景色を幻視し著しく気分を悪くした。そんな最悪の未来を想定し頭が真っ白になった。

 

 ——————だが、気付くと無意識のうちに机に置いてあったスマホと学生鞄を素早く手に取っていた。体は既に金属扉に向かって動いている。

 

 見殺しにしろ、と心の中で悪魔が嘯く。しかし真の体は重い扉を突き飛ばすように強引に開き廊下をまっすぐ駆けていく。


(馬鹿かよ馬鹿かよ馬鹿かよ!!!?死にたいのか??!俺は!!)


 勢いがついた真は幅跳びの要領でワックスを飛び越える、若干転びそうになるも、それすら勢いに変えて直走る。


 所詮、出会って1日足らずの人間である。そんな者など見捨てろと、脳内会議は忙しなく警鐘を鳴らす。


(倫理はともかく、それが正しいのは俺だってわかってる。俺が戦ったところで鎌鼬は倒せない。

……でも、ダメなんだ。ここで見捨てるのだけは絶対ダメなんだ!それをしたら俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッッ!!)


 極度のプレッシャーからか、視界がぐにゃりと歪んでいるかのような錯覚。足は竦み有酸素運動と緊張のダブルパンチで心拍数が乱れに乱れる。


 しかし、足は動き続けている。


(種も仕掛けも…後1つしかない、もうアドリブでやる以外の選択肢なしッ!)


 勝ち筋など見えなくとも、真は自分に残された手札を考えながら作戦を構築する。最悪に最悪を想定した、それこそ絶対あり得ないと思っていた“作戦”。それを思い出しながら真は腹を据える。


(準備に手を抜かなくて本当に良かった。手を抜いていたら…仮に焼却炉を稼働させていなかったら完全に勝ち目はなくなってた)


 一切確証がない上に使用用途が限られすぎており、一切使う機会がなかった最後の仕掛け。真はそれにそれに全てを賭ける事にした


 階段を1段飛ばしで飛び降りるように抜けていく。足が縺れて転びそうになるのを堪えながら、いつもお世話になってる自分の教室の、さっきからずっと非正規の用途で利用しているその窓から外へ飛び出る。


(…地に足ついてるけど浮いてるような、なんか不思議な感覚だ。これが高揚感ってやつか?脳が気を使ってアドレナリンが噴き出してるのかもしれない)


 真は凄まじく肌寒い気がした。体の震えはそれが原因なのだろうと真実を誤魔化して決め付ける。生まれたての動物みたいに脚が震え、奥歯がガタガタ音を立てている。


これは、只管に寒いから震えてるだけだ。初夏だけど寒いのだ。


 両足太ももを痛みを感じるほど小突く。息を吸い込んで深く吐き出してから、足の震えを誤魔化して南校舎へ、ただただ無心で焼却炉に向かって走る走る走る走る…ッ!!!!!


 無心。



(————!!!!)


 暖光。


 いつの間にか狭まっていた視界が開けた。視線の先には首筋に刃を添えられた電波女と、煩いほどに嗤っている鎌鼬。

 

 ドクン。心臓の高鳴りはドクン。聞こえない。ドクン。ドクン。ドクン。


 一切の震fffえもmない。

 

 一周回って愉快になってきた。(ンな訳ねえだろ)嘘でもいいからそう思う事にする。


 (この状況、もう一秒だって余裕なんてない。こっからアドリブッ!!!)


 真は乾ききった喉をほとんど底がついた唾で潤し、いつもよりも緊張を感じ取られないようになるべく軽い口調で━━━━。



 そして冒頭へと時は戻る。





前の後書きに書き足す形ですが、力ないものが力あるもののフリをしていい、例外がたった一つだけあります。それは蛮勇です。

全てを投げうって起こした行動を否定していい人間は誰もいないので、自分もてる全てを使い切るのなら誰かの道に介入してもいいんじゃないですかね。


なにせ全てを尽くした結果なら、自己満足でもそこそこの結果が出るでしょう。


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よろしくお願い致します。

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