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ヒロイン系女子とモブ系男子

追加分の最後です。結局2話ほど増えましたね…




「とりあえず状況を確認しようぜ、こっちの下準備を含めて説明するんで、そっちが使える手札を教えてくれ」


「そういえばさっき煽り散らしてたわね。何?ヘイト買ってるあなたがバラバラにされている間に私が鎌鼬を封印すればいいの?」


「唐突にバイオレンス!?」


 この女、どうやら背中からズバッと切られてたせいで頭に血が足りてないらしい。思考が猟奇的な電波女にドン引きした真は思わず若干後ろへ後退する。


「…冗談よ、()()はね。残りの符は結界と封印用が2枚、攻撃用が1枚、私のロッカーまで行けば予備があるけど…この状況じゃ無理そうね」


「7割本気なのも冗談だと言ってくれ…。にしても攻撃用が1枚か、俺にさっき渡したやつ含めて2枚かな?というか、自分のロッカーがあるって事はお前やっぱりうちの生徒か」


 教室で簀巻きにしやがった時にキョンシーの如くご丁寧に顔面に貼り付けていただいた札…じゃなくて符だったか、はしっかり手元に残している。


 このまま順調に行けば、確実に正面から対峙する機会が発生するはずなので、そこで使ってもらおう。考えを整理し、前に座る電波女に目を向けるとなんかアワアワしていた。


「……チガウワヨ。ワタシ、この学校初めてキタわ。」


「いや、誤魔化し方下手すぎるだろ!?」


 あまりの大根役者っぷりに真としてもツッコミを入れざるを得なかった。というか初対面の時点でこの学校の生徒だと宣言しているため、本当に意味がない誤魔化しである。


(まあ、顔を認識できないようにしていた辺り、足がつきそうな身分を明かしてしまったのは本来ダメなんだろうなって)


 なんとなくそれを察しているのにも関わらず痛いところを突くあたり、真の性格の“良さ”が窺い知れる。

 とはいえ、いきなり人を釣り餌扱いする電波女も電波女なのだが。


「わかったよ、俺はお前が誰かなんて知らないし、今日は学校から家に直帰して飯を食って寝た。それでいいんだろ?」


「…さてはアンタ、わかった上で言ってたわね? …まあいいわ。で、私が鎖巻きにされてる間アンタは何をしてたってワケ?さっきの罠の話も含めて洗いざらい教えなさいな」


「わかったよ、まあ手短に説明する。それが終わったらまた移動するぞ」

 

 電波女が気絶していた間、真が一体どこで何をしていたのか。真の準備した仕掛けの内容も含めて語り始めた。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━






「とまあ、だいたいこんなもんかな?」


 真が時系列に沿って、今までに何をしたのかを全て話し終えたのはおよそ3分後。その間、電波女は眉に皺を寄せながら話を黙って聞いていた。


「…アンタ相当性格悪いわよ」


 ド辛辣。第一声がこれな方も相当性格に問題があるのではないだろうか。


 とはいえ心にくる一言である。たいして付き合いもない奴を命がけで助けようと思った男子学生に対して、放つ言葉がこれなのかと真は若干恨めしい表情で電波女を見つめる。


「とはいえ、これで仕掛けはあとひとつだけかな。さてと、話も終わったし次の場所に移動するか」


 真はオンボロのパイプ椅子から立ち上がり尻を払いつつ軽く背を伸ばす。年季が入って中のスポンジがダメになっているのだろう、真は尻がかなり痛かった。


「っと、立てるか?」


 気が強い上に魔術を行使する常識外の存在と言っても一応けが人かつ女子。真はいらない配慮かもしれないと思いつつも、座っている電波女に手を差し出す。

 お小言の一つくらいかけてくると思いきや、電波女は意外なことにすんなりと真の手を握った。


「じゃあいくぞ…って?!」


 ——————この瞬間における真のミスはない。


 疲労や怪我などのせいで電波女が足をふらつかせたこと。想像よりもずっと彼女の体が軽かったこと。これらの要因が重なってしまったが故に起こった出来事である。


 「……おっと」


 しかし、これらの不運が重なった結果がこれ。

 

 バランスを崩した電波女は、真の胸元に飛び込んだような姿勢になってしまった。

 端から見たら完全にお熱なカップルもかくやと言った体勢、真の鼻腔を擽るのは女子の甘い香りに混じった微かな血の匂い。加えて腹部に若干の柔らかい感触。

 

 ラッキースケベとはいえ感触を堪能しているあたり変態チックである。


 慌てて電波女を引き剥がし、両手を上げて他意はないと暗に示す、が電波女は俯きこちらと目が合わない。


「……何か、言い残すことはある?」


 事実上の死刑宣告である。真は頬が引き攣った。

 電波女の口からは蚊の羽音のようにか細い声。しかしその声には確かに憤怒と殺意が並々篭っていた。


「えと、あの〜〜……ちょっと血生臭かった、です?」


 あちゃあ…。


 我ながら流石に言葉選びが下手すぎると真が後悔するももう手遅れである。電波女は俯いていた顔を勢い良く上げた。朱に染めた頬と涙ぐんだ鋭い瞳が真の瞳と交錯した。


 涙付きなれば、流石に数え役満だろう。


(あ、案の定ダメっぽい)


 そう思った数秒後、パーーンと乾いた音が教室に反響、左頰に針で刺されたような鋭い痛み。


 真は苦痛で声が出そうになるのを必死に堪える。ジンジンとした痛みは次第に頬に沁みていき、時間経過で余計に痛みが響いていく。


「…ごめん、普通に力加減間違えた」


 最初に言うべきだった謝罪、時すでに遅しとはまさにこのことだろう。電波女の殺意の篭ったあっつい視線は、もはや物理的干渉をしているかの如く真へとブッ刺さっている。


 潤みながらも鋭さを保つ切れ長の瞳と頬は真っ赤に染まり、やはり相当恥ずかしかったのだろうか、息も若干上がっていた。


「危なかったわね、普段だったらぶっ殺してたわ」


「さりげなく命の危機!?…いや、ほんとごめんなさい。でも今は怒りは抑えていただけると…」


 凄まじく気まずい状況に真は思わず点を仰ぎたくなった。


 真が罪悪感でオロオロしていると電波女は深くため息をつき、ゆっくりと右手を持ち上げると、真の目の前で大きく手を広げる。


「…わかったわよ、今回限り許してあげる。でも次は……潰すわ」


「ヒェッ!!…イエスマム!!」


 先ほどとは打って変わって、満開の笑顔と共にナニかを勢いよく握りつぶすジェスチャー。真は薄ら寒いものを覚え、下腹部を抑えながらも拙く敬礼をした。

 どうやら電波女は相当なサドであるらしい。


「じゃ、これで話は終わり。で、どこに移動するの?」


「学校裏手の焼却炉だよ。鎌鼬は絶対にそこに来る」


「…なんで焼却炉?」


 電波女が首を傾げた。

 これには真の悪意が爆発した等の複数の要因があるが、一番の理由は戦うにしても逃げるにしても、最も都合がいいからである。


「お前が逃げるにしても戦うにしても校舎裏ってのは都合がいいと思ったからだよ。逃げるなら校庭から最も遠い場所に誘い出す方がいいし、戦うにしてもお前は目立つ痕跡とか残したくないんだろ?」


 加えて鎌鼬がどのルートを通るかがかなり絞れている今の状況ならば、曲がり角などでの不意のエンカウントはかなり避けられるというのも大きな理由だった。


 と、これらを真は大まかに説明したが、どうしてか電波女はイマイチ釈然としない顔をしていた。


「え、いや余計なお世話よ?校庭の方がむしろ鎌鼬の速度を殺せるし、狭いよりかは広い場所の方が何かと都合がいいわ」


「え、ええ…」


 この配慮は普通に無駄な努力だったらしいと真はがっくしと肩を落とした。

 

 とはいえ、そろそろ移動しなければ鎌鼬と鉢合わせる可能性がある。

 若干の悲しみを抱きながら真は扉を音を立てないように慎重に開けた後、廊下を軽く索敵し2人は部屋を後にした。



 今、2人がいるのは校舎2階。焼却炉は学校の南側の外にある。



「鎌鼬の移動ルートはこっちで誘導してある。だから必ず俺の後ろをついてきてくれ」


 しかし移動の際に鎌鼬と鉢合わせない安全なルートは1ルートのみ。必ず自分の後をついてくるようにと真は電波女に釘を刺した。


 廊下を歩けば、やはり“しいん“と静まりかえっていてどこか気味の悪さを覚える。真の中には拭いきれない不安が巣食っていた。


(…勝ってくれるよな)


 階段を静かに下り、何度も出入りしたお馴染みの部屋へ向かい急ぎつつも走る。

 本来であれば、ここで声を出すなどリスクしかない。しかし真は不安を拭うためにも聞かずにはいられなかった。


「…なあ、勝てるんだよな?」


 仮にここで電波女が負けた場合、真はおそらくまともな学生生活を望むことはできない。


 電波女は少しだけしか触れていないが、獣の形を象る妖怪は獲物に対する執着が凄まじい。ここで電波女が殺された場合、仮に真がこの学校を去ったとしても鎌鼬は真の命を狙って襲って来る。


 もちろん真はここまでのことを知りはしていないが、所々で聞かされた不穏な内容や、現状の電波女の体調などを鑑みればどうしても不安が残っていた。

 

 しかし、真に対する電波女の回答は想像よりも厳しいものだった。


「誰に物を言ってるのよ。そもそもアンタというイレギュラーが介在しなければこんな事態になってないの。そこんところわかってる?」



(——————は…?)


 唖然。遅れて驚愕。


 確かに自分が足を引っ張った場面も多い。しかしここまで辛辣な言葉を吐かれる謂れはないだろう。真の中で今まで腹に溜め込んでいた不平不満が沸々と煮えくりかえり始めた。


「…っなんだよそれッ!助けてやったとまでは言わない…だとしても、そこまで言わなくたっていいだろ!?」


 言い返されるとは思っていなかったのだろうか。電波女は怪訝げだった表情が呆けた表情へと変わり、最後には目つきが鋭くなり額には青筋が浮かんだ。


「…あのね、これでも私はアンタに配慮してるの。私がなんで顔を隠してやったかわかる?アンタが私という存在をすぐに忘れられるようによ。

━━━冷静に考えてみなさい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私たちのような魔術師が露見してないのか」


 真剣な眼差しが、激怒を孕んだ眼差しが真を貫いた。噴火のような激情が淡々と告げられる言葉からも伝わる。

 目を逸らそうにも、それを電波女は赦さない。


「…っ!」


「別に私はね、アンタを殺したっていいのよ?それが許されるだけの力もルールもある…でも私はアンタを生かしている、生かしてあげている。それは、私なりにアンタに()()を感じてるからよ」


 真というイレギュラーが介入しなければ、電波女が手傷を負う事はなかった。これは完全なるIFでしかない、だからこそ検証しようがない事である。


 しかし、事実として電波女が負った傷は真を庇ったが故にできたもの。


 そして何よりも。少なくとも途中までは真はその傷に報いるために動いていた。しかし、途中からは自分を苦しめる障害である鎌鼬へのヘイトと自己保身が彼を動かす原動力へすげ替わっていた。


 そして、この瞬間。


「…あ。」


 真はそれを自覚した。自分がこの場にいることが彼女にとっても不都合でしかないと。そして自分がここに立つ意味が既にないと。


「そう、だからアンタが悪いの。だから……さっさと家に帰りなさい。アンタは邪魔なの」


 その真剣な眼差しが嫌という程真に現実を理解させた。そして電波女の真意を真はようやく理解できた。


(ああ、()()()()()()かよ。巫山戯てるだろ)


 それは電波女なりの不器用な優しさであった。

 これ以上戦う力のない一般人を戦場へ置かないための脅しであった。

 

 真にとっては電波女の主張の1から10までのどこまでが真実かを確かめる術はないが、だとしても事実として妖怪や魔術師の存在が露見していないのは、なんらかの処理がされているからなのだろう。



 だとしても、電波女は見逃すといった。



「…んだよ、俺、馬鹿みたいじゃんか」


 この状況では確実に鎌鼬は焼却炉に現れるだろう。最愛の家族を人質に取ったこの作戦の成功率に2人ともなんの疑いもない。それは作戦を全て語った真も電波女もそれを十全に理解している。


 だからこそ逃げるならこのタイミングこそ絶好の機会。そう、ここまで盤面が整った今なら真が逃げても何の問題もない。


「お前…やっぱ優しいんだな」


「はあ?んなわけないでしょ。私はアンタが邪魔なだけよ!」


「…わかったよ。一般人はお言葉に甘えて尻尾巻いて家に逃げ帰るよ」


 声を荒げる電波女の頬はしかし少し赤みがかっている。照れ隠しなのは一瞬で見破ることができた。やはりこの少女は嘘が下手なのだろう。


 そして、それが余計に真の心を蝕んだ。お膳立てだけして、しかし結局最後は人任せになってしまう非力さがどうにも憎かった。


 現実はやはり残酷だ。

 真は誰かに頼らなければ生きられない自分を呪うしかなかった。今日ほど力ないことに嘆いた日はないだろう。誰かの負担になりたくないと願う彼にとって、逃げるも残るも負担にしかならない今の状況は最悪だ。


(でも、ここに残る方が負担になる。素直に帰った方がこいつにとっても都合がいいに決まっている)


 真はポケットから二つ折りにした符を取り出し電波女に返す。それは簀巻きにされた時に顔に貼られていた攻撃用の符。

 残り少ない符の足しにしてくれという思いで突き出した符は、しかし即座に電波女は首を横に振って突き返された。


「その符じゃせいぜい1、2m鎌鼬を吹っ飛ばすのが関の山。御守り程度にしかならない符よ。アンタ、危なっかしいから持ってなさい」


 御守りとしては十分。

 しかし、電波女が鎌鼬を確実に倒せるのだとしたらこれを持たせる意味はなんなのだろうか。この不可思議な符を預ける意味はなんなのだろうか。


 少しだけ感じてしまった()()に、思わず口が動いてしまった。改めて真剣な表情で真は電波女へと問い質す。


「…勝算は?」


「……馬鹿ね、私は勝てない勝負はしない主義。そういうことよ」


 電波女は綺麗な笑みを作り、そう言った。その笑みは真が人生で見た笑みの中でも、特に美しい()()()()だった。




————————————————





 お互い終始無言で1階の教室に着いた。

 教室端に隠しておいた上履きと通学カバンを回収し、真は窓枠に足をかけ外に飛び出た。


 ふと、部屋の中の電波女に体を向ける。地面と校舎でお互いの目線の高さは変わり、真は少し見上げるようにして電波女を見つめる。

 悲しいほどに目が合わない。その視線は既に炎が輝っている方向━━焼却炉の方角に向いていた。何か言おうとしても、大したことが思いつかない。


「…じゃ、また明日学校で」


「ん」


 結局しょうもない紋切り型の決まり文句しか口から出てこない。その無愛想な返答が耳に入ると同時に振り向き真は校門へと駆ける。


 情けなさと申し訳なさと、残念ながら感じてしまう逃げられる喜び。気持ち悪いほど感情が濁流していて、しかし足が止められずに真は校門へと走る。


「は、へ、へへへっ…」


 口元が綻ぶ。

 引き攣った笑い声が出る。


 情けなくてどうしようもなくて、意味わからない。

 次第に目が霞んでいく。目元が熱を持ち視界が歪むが夏だからだ、情けなさすぎて泣いてるなんてことはないと強引に誤魔化した。



 後ろはもう振り返れない。




結局のところ、力を持つものがヒーローなんです。心根が強かろうと悪や理不尽を排除するすべを持たない以上、どこかのラインから傍観者として振る舞うこと以外許されません。

仮に傍観者を辞めたとしても、力がなければそれは誰かが正義を成すための道を妨害しているだけになるかもしれません。


まあ早い話が、『いじめの主犯格をぶっ飛ばせるだけの腕っ節がないといじめられっ子は助けられんよ』って話です。


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よろしくお願い致します。

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