【限界】少女と聖女と中年【来てみた】
「……この街でしなければならないことは、既に概ね達成しましたわ。本当はあの聖女様のことをもっと知りたかったけれど、仕方ありませんわね。今回はわたくしの負けということにしておいてあげます」
「負け惜しみか?」
「まさか」
ミアが立ち上がる。
そして、一歩ずつ屋根の端の方へ歩き出した。
「おい、てめえ、何する気だ?」
「言ったでしょう? 今回はわたくしの負けですわ」
そう言い残し、ミアは屋根から飛び降りた。
「よせ!」
俺は慌てて屋根のふちに駆け寄った。
それから、地面を見下ろした。
だが、そこにはミアの姿はなかった。
「……消えた!?」
ふいに体の力が入らなくなる。
屋根の上に倒れこみ、微塵も動けなくなる。
限界か。
あとはフィアを探して連れて帰るだけだってのに。
意識さえ遠のいていく。
そして俺は、あることに気が付いてしまった。
まさかこれ、最悪の事態なんじゃないか?
【桁を操るスキル】を使えば使うほど俺は老化が進んでいく。
ということは、もし使いすぎれば、老化を進ませすぎればどうなるかなんて、分かり切ったことだ。
当然寿命が来る。
死ぬのか、俺は?
思い返してみれば、フィアと初めて出会ったのは昨日の話だ。
短い間だったけど、俺の人生の中で一番濃密な時間だったように感じる。
すまん、フィア。お前を天界に帰してやる約束は、守れそうにない……。
俺が重くなった体に目を閉じかけたとき。
「レル! 何やってんの、こんなところで!」
「……クソガキ、か?」
「クソガキじゃない、エニルだよっ!」
ますます最悪だ。
最後の最後で見たのが、このクソガキの幻覚とは。
「レル、寝ちゃだめだよ! フィアがもうすぐ来るからね!」
エニルが俺の傍に屈み、俺の手を握る。
「フィアが……?」
「そう。パパたちが助けてくれたんだ。レルがあのミア・ザナギ・ハルフォードを足止めしていてくれたおかげだよっ!」
「そうか……」
フィアは無事か。
なら、少しは満足だ。
「レル、駄目だよ! 目を開けて!」
エニルが俺の体を揺する。
だけど、どうしようもなく体が重たかった。
そうか、これが死ぬことか……。
「いいえ、違いますです。レルさんはまだまだずっと死にませんです」
突然、俺の体から痛みが消えた。
恐る恐る目を開けると、俺の体は温かい光に包まれていた。
この光は知っている。回復魔法の光だ。
顔を上げる。
「……フィア」
「信じてましたですよ、レルさん!」
フィアが俺の胸の中に飛び込んできて、俺は頬に柔らかいものが触れるのを感じた。
フィアの唇だ。
体中が軽くなる。




