【重力】悪役令嬢も血を流す【操ってみた】
今やるべきことは一つ。あの女を殴ること。
余計なことは覚えていなくていい。
「うおおっ!」
俺は再びミアへ向かって突撃した。
ミアは顔色一つ変えないで、俺の攻撃を止めようと右手を挙げる。
だが、それを待ってたんだ。
「!」
ミアの右手が不自然に曲がる。
まるで何か強力が加えられたように。
そう、確かに強い力だ。
重力というの名の。
「100倍の重さはどうだ!?」
「庶民ッ……」
「レル・アンジェだ!」
俺の右こぶしが、今度こそミアの顔面にクリーンヒットした。
令嬢の体が吹っ飛ぶ。
屋根の上を跳ね、そして無理やり着地したミアは、屋根から落ちるギリギリのところで踏みとどまった。
「庶民が! わたくしに触れるなどと!」
その表情にさっきまでの余裕はなく、鼻からは血が出ていた。
「庶民舐めるなっつーことだよ」
「わたくしの邪魔なのですわ!」
次は、ミアが仕掛けてくる番だった。
ミアは瞬時に俺の眼前へ迫ると、俺の顎を蹴り上げた。
脳が揺れる。
「勝手な言い分だ!」
俺はミアの空いた脇腹に右ひじを叩きこんだ。
即座にミアの反撃が来る。
そこから先は、無我夢中だった。
戦略とか、武術とかそんなものの存在しない、ただ相手を倒すための殴り合いだ。
しかし。
気づけば俺は押されていた。
敵のステータスが俺を上回っているのだから、当然といえば当然だ。
正面から殴り合えば俺に勝ち目はない。
さらに俺は、能力を使えば使うほど体が老化していく。
反応速度は鈍り、ますます不利になる。
加えて、左手もまともに動かせない。
俺が劣勢なのは最初から分かり切っていた。
「その程度ではわたくしを倒せなくってよ、庶民!」
「庶民って呼ぶんじゃねえ!」
俺の大ぶりの蹴りを、ミアはわざとらしく後ろに跳んで躱した。
くそ、余裕を取り戻しやがったな。
俺とミアの間に、静かな時間が流れる。
息も切れてきた。体も限界が近い。
全力で殴れるのはあと一発がやっとだろう。
だったら、その一発で決めるしかない。
しかし、どうする? あの女が大人しく殴られてくれるとは限らない。
一瞬でもいい。相手に隙を作らなければ。
敵の能力は相手のステータスを上回る能力。
俺がどんなにステータスを上げてもそれを上回ってくる。
必ず。
……必ず?
待てよ、もしそうなら。
もし本当にそうなら、それは逆にチャンスだ。
俺はズタズタになりかけた右手を、もう一度握りなおした。
ふいに、フィアの両手の感覚が蘇る。
待ってろよフィア。このクソ女を倒して、絶対にお前を連れて帰るからな。




