【刺客と】戦いに勝って勝負に負ける【戦ってみた】
だが、うかつに動いては相手に気付かれる。
俺は気配を消して、フィアとエニルの頭の下から、そっと腕を外した。
あ、その気になれば外せたんだ……。
いや、今はそんなことに構ってる場合じゃない。
敵は何人だ? エニルやフィアが起きないうちに処理しておきたい。
「……レル、さん?」
俺の願いもむなしく、フィアが目を覚ます。
俺は慌ててその口に手を当てた。
「!」
「すまん、エニルと一緒に裏口から逃げてくれ。質問はするな」
フィアに聞こえるギリギリくらいの音で、俺は言った。
フィアも何も言わずに頷いてくれて、それからエニルを毛布にくるんで抱えた。
エニルの体が軽いのか、それともフィアの力が強いのか。多分前者だろう。
敵の数はおよそ3。
向こうも気づかれたことに気付いてるだろうな。
さて。
とりあえずステータスを10倍ずつ増やしておく。
急激に聞こえる音や見える物が増え、脳がくらくらする。
そうか、目や耳が10倍よくなれば、それだけ脳の処理が大変になるってことだな。
殺気すらも10倍強く感じる。
敵の数は3。フィアたちを追う気配もなし。
相手は俺だけを殺す気だな。
狙われる心あたりと言えば、やっぱりあのクソ女だ。大方昼間の憂さ晴らしだろう。
殺気の一つが俺に接近してくる。
だが、俺の視力は通常の10倍。そんな動きは丸見えだった。
敵の小型ナイフをしゃがんで躱し、立ち上がる勢いで鳩尾に拳を叩きこむ。
何も言わず、暗殺者は倒れこんだ。
すかさずもう一人の敵が俺の頭上から襲い掛かってくる。
敵は右左にナイフを振り回し、的確に俺の首筋を狙ってきた。
しかしそれだけに、動きは単調だ。
ナイフを放って伸びた腕めがけて、思い切り手刀を振り下ろす。
10倍の手刀なら、薪だって割れるだろう。
案の定、相手の腕が変な方向に曲がった。
その隙に、相手の側頭部へ蹴りを入れる。
何かが砕ける音がして、敵は床に倒れこんだ。
さて、残すはあと一人……。
いや、待てよ。
妙だ。
三人目の気配がない。
その瞬間、俺は遠くでフィアの悲鳴を聞いたような気がした。
いや、多分本当に聞いた。
クソ、俺のバカめ。
戦いに集中しすぎて足止めに失敗するとは。
だけど、まだ間に合う。
俺は家を飛び出して、悲鳴の聞こえたほうへ走った。
夜の闇でも目は効く。
俺の視界には、どこからそんなものを連れてきたのか、翼竜に乗って飛び立とうとする黒装束の男と、ぐったりした様子のフィアの姿が飛び込んできた。
「フィア!」
思わず俺は叫んでいた。




