【元市長と】ハルフォード家【話してみた】
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「……ええ、確かに私は数年前、この街の市長をやっていました」
家の中は案外清潔で、しかし薄暗かった。陰気と言ってもいい。
俺とスニード市長はテーブルを挟んで向かい合っていた。
「どうして市長の職を降りてこんなところに? あなたの市政は悪くなかったはずだ」
市長は、いや、元市長はため息をつく。
「ハルフォード家にしてやられたのです。ミナ・ザナギ・ハルフォードという娘を知っていますか?」
「そりゃもう」
俺の頭に、あの女のむかつく顔が思い浮かぶ。
「市議会が彼女に掌握され、ありもしない汚職とともに私は市長の座を引きずり降ろされたのです。新たな市長にはミナの配下の者が。そして私はそれ以来、ずっとここに」
「街を出ようとは思わなかったのですか?」
「思わなかったと言えばうそになります。しかし、私が病気をしてしまいましてね。長い距離を移動できないのです」
「そうでしたか……」
廊下の向こうからエニルとフィアの笑い声がする。
それを聞いたスニード市長は、悲しげな顔をした。
「ああして娘が笑う声を聞くのも、数年ぶりです」
「ハルフォード家とは何者なんですか?」
「近年勃興した新興貴族です。令嬢のミナを筆頭に各地で勢力を広げています」
「何が目的なんでしょう?」
「……私も詳しくは知りません。しかし……」
市長が言葉を切る。
「しかし?」
「これから話すことは冗談ではありません。そのつもりで聞いてください」
「分かりました」
俺が返事をすると、市長は声を潜め、言った。
「彼らの目的は、魔導王国グラヌスの転覆。そして新たな秩序の設立だと聞いています」
「……本気でしょうか?」
「現に、王国の元老院にも接近しているという話もあります」
元老院……魔導王国の最高権力。
俺は思ってたよりヤバいものに首を突っ込んでいるのかもしれない。
「ところで、レルさん……でしたか?」
「は、はい」
「見たところずいぶんお若いようですが、よく私のことを知っていましたね? 年の割には落ち着きがある」
「ああ、ええ、いろいろわけがあって。ところで市長、もう一つ質問させてもらいます」
「なんでしょう」
「そのミナという女は今、どこにいるんです?」
「街の中心部に一軒の豪邸があります。それが彼女の屋敷です」
「なるほど、分かりました」
もう十分に情報は得た。
あとは俺のやるべきことをやるだけだ。
俺は椅子を立った。
「お帰りですか?」
「いつまでもお邪魔するわけにはいかないんでね。それと市長」
「……なんです?」
「自分の娘に泥棒の真似事をさせるのは駄目だ。お嬢さんにはくれぐれもよく言い聞かせてやってください」
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