【聖女】自称神様【拾ってみた】
「ああ、どうも、おはようございます」
女の子は俺の目なんか気にしていないふうに、平然と答える。
年はまだ十代だろうか。肌は若々しく、銀色をした腰まである長い髪の毛もみずみずしかった。胸周りも張りがある。
くりくりした大きな瞳の色は金色。このあたりでは珍しい色だ。色白の、けっこうな美少女。
それが裸で目の前に立っている。
「ヒュー!」
「?」
「あ、すまん。つい口笛を」
美人を見ると口笛を吹くっていう仕草は、俺がまだ若いころ流行ったものだ。その時以来癖になってしまっている。
というか、あれだな。綺麗すぎるものは、見ても興奮しないな。
それとも年をとりすぎて俺のそういう欲求が消えてしまったんだろうか。
「あの、質問いいですか?」
少女がおずおずと手を挙げる。
「いいぜ」
「ここはどこですか?」
「俺の家。魔導王国グラヌスの端っこだ」
「ということは、人間界ですか?」
「人間界? 何が言いたいのかい?」
「韻踏みましたですね、今?」
「うん」
少女はうーん、と考え込む。それから、
「私堕ちてきた上から、あなたどうしたそれから?」
「え? 俺はあんたを連れてきて、寝かせただけだ」
「む……」
不満げな顔をする少女。
「どうした?」
「いえ、なんでもないです。普通に喋りましょうです」
「そうしてくれ」
「ところであなた、お名前はなんです?」
「俺かい? 俺はレル・アンジェ。元冒険者で、今はこの家で隠居生活だ。つっても、まだそう長いこと暮らしてるわけじゃないけど」
「そうですか。私はリエッタ・フォン・フィルルフィア。フィアと呼んでくださいです」
「呼ぶのは構わねえけど、あんた、どこから来たんだ? 家の人は心配してないのか?」
「そこが問題です!」
びしっ、と少女が俺を指さす。
「な、なんだよ」
「私も、元の場所に帰りたいです。なのですが、それが難しいのです」
「どうしてさ。近くなら送っていくぜ? 魔列車賃くらいなら出してやれる」
「そんな距離じゃないのですよ」
「それじゃああれか、都の辺りか? それともグラヌスの外か? ノスキア帝国とか」
「違いますです」
フィアは困ったような顔をする。
「じゃあどこだよ? まさか空の上とか言わねえよな?」
「……そのまさかなのです」
「はあ? いやいや、お嬢さん。冗談はよせよ。空の上といえば天界だ。神話の世界だ。あんた、神様かなにかかい?」
「はい。神様かなにかなのです」
「は?」
「私は、天界に住む聖女なのです」
……いかん、俺はちょっとヤバい子を拾ってしまったかもしれない。