【右手】聖女と魔導書【痛めてみた】
その時、右手に激痛が走った。
「いってえなこのガキ!」
「なんだよ! あんたがあたしにやらせてるんだろ! 文句言うなよ!」
そう、俺はあのひったくり少女に包帯を巻いてもらっていた。
こいつが包帯を強く巻きすぎたせいでさっきの激痛に襲われたらしい。
「つーか、お前、名前なんて言うんだ?」
「あたしかい? あたしはエニル・スニード。あんたは?」
「俺はレル・アンジェ。元冒険者で、ここに引っ越してきたのは余生を静かに暮らすためだ」
「ふーん……」
それにしてもスニードだって? どこかで聞いたような名前だけど。
どこだったかな……。
うーん。
思い出せん。
俺が考え事をしているのが面白いのか、エニルが俺の顔をじろじろ眺めまわす。
「な、なんだよてめー。静かに考え事させろ」
「ねえお兄さん」
「なんだっつってんだよ」
「ちょっと老けた?」
「あ?」
いやいや、そんなはずはない。
俺は聖女パワーでかつての若さを取り戻し……。
「ちょっと鏡見てみなよ」
エニルはどこからか手鏡を持ってきて、俺の顔に向けた。
そこには、三十代手前の疲れたおっさんの顔があった。
俺は思わず椅子から転がり落ちていた。
「な、なんでだあああ!?」
「あ、あたしは知らないよ!」
うわー、大変だ。このまま元通りになってしまうんだろうか。
一瞬だったが、さらば若いころの俺。
「ところでフィアはどこなんだ?」
「あのお姉さんなら、魔導書を探すって言って向こうの部屋に行ったけど」
エニルが指さしたのは、俺が書斎に使っている部屋だった。
確かに、退職したときに数冊の魔導書を貰った気がする。老後の暇つぶしくらいにはなるだろうと思って貰ったものだ。
こんなふうに役立つ日が来るなんて考えてもみなかった。
「で、お兄さん」
「レルって呼んでくれ」
「じゃあ、レル」
「なんだクソガキ」
「む……」
不満げに頬を膨らませるエニル。
「分かった。どうしたんだ、エニル」
「この右手、どこで怪我してきたの? すごいことになってるよ」
「ちょっと調子に乗りすぎてな」
筋力を千倍にしたのは確かにやりすぎた。フィアの言っていた通り、右腕は動かせないくらいにズタズタになって、体中も筋肉痛で涙が出そうなくらい痛む。
フィアが魔法で治してくれるなら、それが一番いいんだけど。
そんな俺の心の声が聞こえたのか、ちょうどそのタイミングでリビングにフィアが戻ってきた。
「レルさん! 魔導書、見つけましたですよ!」
「おおそうか! で、魔法は使えそうなのか?」
「モチのロンです! 全部聖女たる私にお任せあれです!」
フィアが胸を張る。
あ、ちょっと揺れたな、胸。




