【回想】消えない怒り、残った痛み【してみた】
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俺があの任務を受けたのは、今から十数年前。
俺はまだ、今住んでいるところよりもずっと北の、ガルエという町のギルドに所属していた。
あの任務は、ただ森の奥にいるフェンリルの爪を採取してくればいいというだけの任務だった。
おかしな点と言えば、武器に妙なアクセサリーをつけることが条件だった点くらいで、他には何もなかった。簡単な任務だった。
いや、そのはずだった。
俺は任務通り森の奥に赴き、フェンリルと対峙した。
そして、武器を抜いた瞬間、敵の様子が変わった。
フェンリルの全身に呪詛のようなものが現れ、純白だった毛並みがどす黒く染まった。
それだけじゃない。フェンリルは何かに取り憑かれたように凶暴になり、本来ならあり得ない速度で俺を攻撃していた。
この左手の怪我は、その時の攻撃を防いだときにつけられたものだ。
フェンリル一頭倒すだけの任務に重装備でいくような奴はいない。俺もその一人だった。
何かがおかしいってことに、死を目前にしてようやく俺は気付いた。
俺は死に物狂いで戦い、意識が戻ったときにはベッドの上だった。
左手は動かなくなっていた。
話によると、俺はフェンリルの爪を片手に、ギルドの前に血まみれで倒れていたらしい。
そして、数日後。
アクセサリーとフェンリルの爪を引き取るため、あの女がギルドへやってきた。
その時にはもうギルドで事務をやっていた俺は、あの女の応対をしなければいけなかった。
窓口であの女が言ったことを、俺は今でも覚えている。
「フェンリルはあなたが思っていたより手強かったでしょう? 生きて帰れる人間がいるとは思いませんでしたわ。せっかくですからご忠告。あの土地にはもう立ち寄らないことをおすすめしますわ」
さらに後日のことだが、俺がフェンリルと戦ったあたりの地域が不浄の大地と化し、生き物の住めない土地となっていたことを聞いた。
おそらくあの女は、すべてを知ったうえであの任務をギルドに依頼したのだ。
フェンリルが凶暴化することも、土地が汚染されることも知らなかった俺たちは、あろうことか通常通りに任務を引き受けてしまった。
言いようのない怒りが、俺を満たした。
だが、動かない左手ではどうしようもなかった……。
「ねえお兄さん、ボケっとしちゃってどうしたのさ?」
「あ?」
ふと辺りを見渡すと、俺は俺の家にいた。
俺は椅子に座っていて、傍らにはあのひったくり少女が立っている。
ようやく俺は街から帰ってきていたことを思い出した。
……十年前のあの時はどうしようもなかった。
しかし、今なら。
あの時の怒りを、無念を晴らせるかもしれない。




