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【悪役令嬢】過去の因縁、個人的な怨念【殴ってみた】


 俺の胸の奥から、どす黒い感情が湧いてくるを感じる。


「……【ステータスオープン】」

「なんだ、貴様?」


 従者の一人が無理やり俺を立たせようとする。だが俺は、その時には既に筋力を上昇させていた。ちょうど三ケタ分。

 3ケタ――つまり、1000倍に。


「!?」


 俺は一瞬で従者たちを弾き飛ばし、立ち上がった。

 従者たちは裏路地の壁にめりこむような形で動かなくなった。

 ミアに問う。


「俺の顔を覚えているか?」

「庶民の顔など、いちいち覚えていませんわ」


 目の前で従者が弾け飛んだにもかかわらず、ミナは平然としていた。


「だったら、覚えさせてやるよ!」


 ミナへ右腕を振り下ろす。

 通常の千倍パンチだ。

 一撃で勝負はつく、はずだった。


 だが。


 ビシィッ!


「……なっ!?」

「庶民がわたくしの前で立ち上がるなど、許されませんわ」


 俺の右手は、ミナの人差し指一本で止められていた。


「ど、どういうことだ!?」


 言いつつ、俺はミナの口元に浮かぶ薄い笑いに気が付いた。

 背筋に悪寒が走る。


「あなたも妙な力を持っているようですが、それでもわたくしには敵いませんのよ」


 元冒険者の勘が、最大級の警告を鳴らす。

 こいつはヤバい。

 俺は反射的にミナから飛びのき、別の路地へ駈け込んだ。

 そしてそのまま先ほどの裏路地から逃げるように走る。


 俺の筋力は確かに千倍になったはずだ。吹っ飛ばされた従者たちがそれを証明している。

 なのに、なぜあの女に止められた!?

 見かけによらず鍛えてるタイプなのか? いや、俺の筋力は通常の千倍だ。鍛えていてどうにかなるような、そんな次元じゃない。

 じゃあ、何だ?

 考えられる可能性は一つしかない。

 あいつも、俺と同じレベルのスキルを持っているということだ。


 振り返り、追っ手の気配がないのを確認する。

 立ち止まり、深呼吸する。

 運よく食料の包みだけは左手に引っかけていた。

 左手に。

 力の入らない左手に。


 俺の脳裏に、この左手を傷つけられたときの光景が思い浮かぶ。

 凶暴化し、魔力を増幅させたフェンリル。そんなものが、あの森にいるはずはなかった。

 なのに、あの時はそれがいた。

 そして、いるはずのないモンスターがいることを、あの女は知っていた。知っていてなお、簡単な任務と偽って依頼したのだ。


 そう。あの依頼の依頼主こそが、あの女だった。


 左手の痛みが増す。


「ミナ・ザナギ・ハルフォード……!」


 奇妙な偶然だ。

 だが、あのひったくり少女の言うことを聞いてやる理由ができてしまった。悔しいけど。




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