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【空】…わすれもの、わすれもの【飛んでみた】


 ひったくり少女の目には涙らしきものが浮かんでいた。

 ウソは言ってないらしい。

 だが、俺はスローライフを送るためにこの地へやってきた身。

 今更余計なもめごとには首を突っ込みたくない。


「悪いが、俺には荷が重そうだ。この街の冒険者ギルドに依頼してみたらどうだ?」

「ダメなんだ。ギルドもミアの支配下だ。この街の権力はみんなミアが握ってる。あの女は、あたしたち貧民から巻き上げた金でこの街を支配してるんだ!」

「だからって、俺にねえ……」

「ねえ、お兄さん、お願いだよ。本当に困ってるんだ」


 ひったくりが駆け寄ってきて、俺の手を取る。

 俺は咄嗟に身を引いた。


「ぬ、抜け目ねえガキだ!」

「な、何さ!」

「今俺の財布を盗もうとしただろ!」

「し、してないよ!」

「嘘だ!」

「嘘じゃないもん!」


 俺を睨みつけながらそう言ったかと思うと、ひったくりはぺたんと地面にしゃがみこみ、次の瞬間大声をあげて泣き始めた。


「うわあああん!」

「え、ええ!?」

「あーあ、やっちまいましたですね、レルさん」


 フィアまで俺に軽蔑のまなざしを向けてくる。


「で、でも俺ら冒険者界隈では泥棒が近づいてきたらとりあえず離れろって鉄則が……」


 少女の泣き声を聞き付けてか、複数の足音が裏路地に近づいて来る。

 う、マズい。他人から見れば俺は小さい子どもを泣かせる悪人だ。しかも地面は俺が殴ったせいでボコボコになっている。

 見つかるのは避けたい!


「仕方ねえ! お前ら、俺から離れるなよ!」


 俺はフィアとひったくりを両脇に抱え、上空との距離を二ケタ減らした。

 空間が削られ、俺たちは一瞬で街を見下ろせる位置まで上昇した。

 上空というだけあって風が強い。俺は力の入らない両腕で二人をしっかり掴んだ。


「な、ななななな何これっ!? お兄さん、あんた、魔法使いなの!?」


 俺の腕にしがみつきながら喚く少女。


「似たようなもんだ!」


 今度は俺の家のある方向へ空間を縮める。街へ来た時と同じように、距離の桁を減らす。

 まるで瞬間移動みたいに、一瞬で俺の家の上空まで到着。

 あとは俺たちが落下する前に地面との距離を縮めれば、落下ダメージなしで着地できるというわけだ。


 どさっ、と俺たちが着地したのは、ちょうど俺の家の扉の前だった。

 屋根に穴が開いているのが見える。雨が降らなくてよかった。

 まずは俺の右手を手当てして、それから屋根の修理だな。

 その時俺は、重大なことに気付いてしまった。


「あ」

「どうしましたです、レルさん?」

「あのさ……買ったもの全部、街に忘れてきちゃった」



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