【ひったくり】真の敵は。【捕まえてみた】
動揺で俺の拳が目標を逸れる。
俺の拳は、ひったくりの頬をかすめ、その背後の地面に突き刺さった。
ごっ。
鈍い音がした瞬間、俺の拳を中心に地面がめくりあがり、路地一帯に大規模な亀裂が入る。
やべー、ちょっとやりすぎた。
右手は折れたかもしれないひどい痛みだ。けっこう大量に血も出ている。最悪。
ここが裏路地の、人目につかないところで本当に良かった。
「………!?」
ひったくりは、恐怖からか目を見開き、歯をがたがた鳴らしていた。
俺はそいつのステータスを元に戻し、立ち上がらせた。
腰が抜けたのか、ふらつくひったくり。
「ま、これに懲りたら二度とひったくりなんてやらねえことだな」
ひったくりはよく見ると小柄で、顔つきもまだ幼かった。
細い両腕が、こいつがあまり環境のよくないところで生活していることを物語っている。
こんな、まだ十五にもなってないような子どもが……。
で、こんな子どもを本気で殴ろうとした俺。
敵の実力を見抜くのは得意だったはずだけど、やっぱ勘が鈍ってるってことか。
体も若返ったことだし、少し訓練をし直した方がいいかもしれない。
「レルさん、大丈夫です……どわわっ! どうしちゃったんです、これ!?」
裏路地へ駈け込んできたフィアが、大げさに驚く。
「ちょっと調子に乗っちまってな。おかげで右腕がおじゃんだ。聖女の力でなんとかならねえか?」
「うーん、回復魔法なら使えるかもしれないです。お家に帰って試してみましょうです!」
俺はひったくりの腕から小包を取り返し、フィアの方へ体を向けた。
だが、ちょっと思いなおして、もう一度ひったくりの方を振り返った。
「……これで今の生活をやめろ。いいな?」
【桁を操るスキル】で紙幣を増やし、ひったくりに握らせる。
偽善かもしれないが、この際構わねえだろ。
「帰るぜ、フィア」
「あ、は、はいです」
突っ立ったままのひったくりを心配そうに見つめるフィア。そんな彼女の背を押し、俺が裏路地を出ようとしたとき、
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
子どもの高い声がした。
「なんだ、ガキ。俺は家に帰って屋根の修理をしなきゃならねえんだ」
俺は立ち止まり、顔だけをひったくりに向けた。
ひったくりは続ける。
「あんたに頼みたいことがあるんだ。あんたにしかできないことだ」
「俺にしかできないこと?」
頷くひったくり。
「侯爵令嬢のミア・ザナギ・ハルフォードを倒してほしい。あの女があたしたちの生活をめちゃくちゃにしてるんだ!」




