5.無理だって言ったら無理なんですって!!
短編書いてて遅くなりましたぁ……
誰か僕の小説のイラスト描いてくださいよぉ
ーーーーーーガタンゴトン。
揺れる電車は街を駆けるように進み続ける。
隣の窓から見える景色はごく普通かつ見慣れた光景だ。
だが、明らかに成瀬にとっていつもと違う光景だ。
彼は電車通学ではないし、第一電車の乗り方など知らない。
経験がない故に、震えながら手すりにしがみつく成瀬を不安げに見守る女子生徒の姿が多数あり。
「………………なんでこんなことに。」
目を瞑りながら、静かに呟く成瀬。
「ーーー作戦はこうだ。」
彼女の声が脳を横切る。
あの忌ま忌ましい少女の顔を思い出すと、成瀬を奥歯をぐっと噛み締めた。
「私たちが電車ん中で立ってると痴漢野郎が標的をこっちに変えかねないからな。だから女子は全員座席に待機、成瀬がその痴漢野郎を捕らえろ。」
どれほど自分の容姿に自信があるのか、彼女たちの表情からは一切の恥じらいと迷いがない。たしかに彼女たちはそこら辺の女子より愛らしく美しい容姿だと思うが、成瀬には気持ち悪いとしか思えない。
「………………」
赤髪の少女の無慈悲な言葉には、その部屋の誰もが目を剥いた。
この大きな仕事を彼に大役を任せることがどれほどの『賭け』か、部員達にはわかりきっていることだった。
「ちょっと待ってください!」
怒号と共にバン、と大きな音を鳴らしながら、成瀬は右手をテーブルの上に叩きつけた。
その予想外かつ好戦的な態度に女子全員は目を丸くしていたが、部長は怯むことなく成瀬の青白くなっている顔を睨み付ける。
「なんだ成瀬。文句でもあんのか?あ?」
「文句…しかありませんよ。逆にっ……文句がないとでも……思ってるんですか!?」
怯えながらも無理に強気に振る舞う成瀬を横目に、部長は呆れたように吐息をつく。チワワのように身体を震わせ、必死に相手を威嚇するのは大変勇ましい。
「今日、僕がここに来たのは、あなたに言いたいことがあるからです!!」
「なんだよ?」
「…………僕は、もともと……この部に入るつもりはありません!助けてもらったことには恩を感じてますが…………部に入るかは別の問題です。この病気だって…………自力で治してみせます。」
成瀬の真剣な雰囲気に周囲は息を呑む。
彼の威勢には迫力が欠けるが、気持ちだけは伝わってくる。
「治すってどうやってだ?お前のそのご病気はちょっとやそっとで治るなんて思えねぇけどな。私らが手を貸すほうが手っ取り早いんじゃねーの?」
「余計なお世話ってやつですよ、それは。…………自分の尻は自分で拭きます」
「内心怯えいるはずだが、強気な言葉で自身を奮い立たせる…………その心意気は称賛に値するけど君の女性恐怖症は、自力で治すには少々、難易度が高すぎると思うよ。」
的確な指摘に気圧され、言葉に詰まった成瀬は肩を震わせ、呼吸を荒く乱す。その様子に、いまいち状況が飲み込めない依頼人の奥田は、目を泳がせている。
「人を頼るのも大事ダヨ?ここの部は助け合いがモットー!」
「………………」
「あの、私はこのあとどうしたら………」
忘れられた奥田は気まずそうに手をあげ、自分の存在を主張する。それに気付いた顧問は、慌てて彼女の記載名簿を確認した。
「あら、ごめんなさい!連絡は今日の夜に行うので、あなたはもう帰っていいのよ。」
「え?あ、はぃ…………。」
用を終えた依頼人は、不安そうに扉を開けて部室から出ていった。「邪魔が消えたな」と、悪態をつく彼女は、姿勢を崩し、楽な格好に着くずす。そのあからさまな態度に成瀬は腹を立てたが、すぐに落ち着きを取り戻した。自分の置かれている立場を理解し、成瀬は覚悟を決めて言葉を言い放つ。
「…………わかりました。貴女方のご意見、参考にさせていただきます。でも…………」
「でも?」
「このまま、何の部活かもわからないまま入部するのは嫌です。なので、この依頼…………僕に見届けさせてください!」
ーーーー自分の偉そうに言い放った言葉が背中に刺さる。
何故あれだけの虚勢を張ってしまったのか、今になって後悔の渦が腹から込み上げてくる。
「なんであんなこと言っちゃったんだろ~………」
成瀬は電車の座席で震えながらぶつぶつと呟き、車内では異様な存在感を放っていた。
周りの視線が痛いが、成瀬は心を無にして座席に待機しながら『目標』が来るまで耐える。
『ザザ……ザ……あー、こちら応答する。こちら部長ー。』
「あひゃぃ!」
イヤホンの奥から聴こえてくる部長の声。
成瀬はその声に反応するように肩が跳ね、思わず声が裏返ってしまう。
その結果、周りからの視線を多く集めることとなった。ただでさえ成瀬の挙動不審の態度は目立つ。それに重ねて変な声を漏らしてしまっては、駅員を呼ばれるという最悪の事態を招き兼ねない。1~2m離れた所で監視を続けている部員たちは肝を冷やしながら、引き続き部活動を続行する。
『あー、奥田さんは今どうしてる?』
『……あそこで立ってもらってルよー♪』
『あぁなるほど、了解………………あそこってどこだ?』
若干噛み合わない会話だが、奥田から少し遠めに離れている部長にとって異国系少女の言葉は理解出来ない。だが連絡を取っている時間も一瞬で終わり、目標の痴漢野郎が入ってくるのも、そう短くはなかった。
Twitterでサツテンと帝王学部のイラスト載せてます……神崎緋色です…………はぁ。