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3.入浴中のスマートフォン



ーーーーー帰宅してから1時間後、午後6時。


成瀬は入浴を済ますべく衣服を脱ぐ。薄着の長袖をぬくぬくと遅めのスピードで脱ぎ、だぼだぼの大きめのズボンも一緒に籠に入れる。



「ふぅ……」


狭めの浴槽。

細い足をゆっくり湯に浸けてゆき、熱めのお湯に身体を慣れさせる。入るとお湯が溢れ出し、代わりに成瀬の細い身体が浴槽に収まっていく。


湯気で眼鏡が曇るといけないので、大事なチャームポイント兼シンボルは着替えの服の上に置いておいた。眼鏡を外すとだいぶ印象が変わるという件についてはまた別のお話で。



本題は、なぜ彼がこんなにも疲れた顔で入浴しているのか、ということだ。



「ーーーーあぁ、どうしよう」


湯面に浮かぶアヒルを指でつつきながら、まるでオモチャのアヒルに語りかけるように喋り出す成瀬。彼の奇行の件についても、また別のお話で。


成瀬は放課後、彼女に言われたことを思い出し、ため息をつく。


『明日、一つ依頼が入ってる。放課後はこの部室で待ってるから、絶対来いよ!』


赤い髪の少女にそう言われ、一旦は帰してもらえたが、またあの部室に行かなければならないと思うと憂鬱で仕方ない。正直言うとあそこの連中とは関わりたくないし、近づきたくない。つまりあの部室にはもう行きたくない。かといって、行かなかったら行かなかったで後が怖いのが問題点だ。同じ学校のため、あまり怨み事は作りたくない。



「………帝王学部、ねぇ」



彼女たちが口にしていた『帝王学部』。

たしかに、隣の女子たちが口にしていた記憶があるが、緊張と吐き気でそれどころではなかった。というか、隣に女子がいるだけで失神しそうなのに会話を聞いていたなんてかなり凄いんじゃないか?


………いや、まぁ凄くはないんだが。

というか、これって盗み聞きじゃないか?キモくないか?ほとんど犯罪者じゃないかな?



「誰か……『帝王学部』について知ってる人いないのかな?」



成瀬は浴槽の桶に置いておいたスマートフォン(防水)を取り出し、LINEを

開く。そして、誰か知ってそうな人物に当たろうと画面をタップし続けるが

…………誰もいない。というか、LINEの番号を交換してる人なんて一人もいない。



あ、いたな。

父と母、そして兄と妹。つまり、家族以外の人間と連絡先など交換などしていない。

なにせ、ぼっちなもので。


「……あ」


いや、前言撤回。一人だけいた。

家族ではなく、クラスメイトで唯一連絡先を交換した人物ーーーーー柏木桃菜。



僕の天敵である女子にして、学級委員長の秀才少女。

しかも、けっこうぐいぐい来るタイプで、僕が苦手とする部類の女子だ。

なぜ僕がその女子の連絡先を持っているかというと………色々あったのだ。

これもまたまた、別のお話で。



「彼女に聞いてみるのも……いや、それはハードル高すぎる………」



女子と会話?考えただけで手が震えてきた。

それにメッセージのやり取りだから会話では……いや、会話とは声を発するだけじゃない。

会話というのは意志疎通、ジェスチャーや手話、絵や文字で意志を共有出来ればそれは

会話になる。………いや、そういうことじゃなくて!!


成瀬は指で画面をびしびし叩いた。精神を落ち着かせるため深呼吸を繰り返し

雑念を絶つ。これもいい機会だ。女子にLINEでメッセージを送れないと将来

苦労しそうだ。そう成瀬は心に言い聞かせ、堅い決心をする。



『ピロリン~ピロリン~♪』



見知らぬ音が鳴る。お風呂の中だとその音もかなりの音量で響き反響する。

いきなりの音に呆気にとられ、少し冷静さを見失っていた成瀬。

音の元凶はスマホだと気付き、その液晶画面に視線を落とすと…………、


『柏木桃菜』


その名前が映し出され、下の方には電話のマークが動いていた。

そして数秒後、今自分は通話をかけているのだと状況を理解した。

急ぎ切ろうとしたが、いつもLINEなど使用しないため、その通話

の切り方もわからない。どうしたらいいのか……一人慌てふためいていた

成瀬のことなどお構い無しに、スマホから女性の声が聞こえてきた。


『あれ成瀬くん?びっくりしたよ、急に通話かけてくるんだもん』

「ぬるうあぁぅぅぇぇぇぇぁあぁぁぁぉぉぉぉぉぉおおッッ!?」

「お兄ちゃん!ちょっと変な声出さないでよ!!」


脱衣場から聞こえてくる妹の怒鳴り声。なぜ妹がいま脱衣場に居るのか

わからないが、今の成瀬にとっては些細な問題だ。


『……わー、ビックリしたぁ。どうしたの成瀬くん?奇声なんかあげて……』

「あ、いや……ごめん。ま…間違って……通話…おし、押しちゃって………」

『あー、あるある!なんか間違って押しちゃうと、すっごい焦るよねー!』


なんとか平常心を保ち、成瀬は声帯を正常に活動させる。

女子と話すだけで、心臓が圧迫されて過呼吸になりそうなのに、自分でも

良くやれた方だと感心する。


『あれ?そういえば成瀬くん、女子と話しても大丈夫なの?』

「え、あ、いや、通話……だからかな。緊張は…するけど…喋れなくは……ない…」

『そうなの!?よかったぁ!これで成瀬くんといっぱい話せるね!』

「え?」

『いやぁ、成瀬くんってその…女性恐怖症……でしょ?だから、入学式での一件も

 あるし…話しかけるのは迷惑かなぁって……でも、これからはいっぱいお話できるね!』


ーーーーーーーーー正直怖い。

普通の男子なら恋心を植え付けられるところだろうが、女性恐怖症の僕にとって

その発言は恐怖そのものだ。分かりやすく例えるなら、全身黒ずくめの男に

「怖くないよ~アメちゃんあげるよ~」と言われているようなものである。

女子の優しい言葉、思わせ振りな発言など成瀬にとって不愉快でしかない。


「あ、でも間違って通話したちゃったってことは、ラインを開いてたって

ことだよね?つまり、私に何か伝えたいことがあったんだよね?」


流石に状況整理と頭の回転が早い。

学級委員長を任せられるだけのことはある。


「えっと……柏木さん『帝王学部』って知ってる?」

『………え!?帝王学部って……もしかしてあの『帝王学部』!?』

「いや、どの『帝王学部』かなんて知らないけど………」


彼女の予想外の反応に成瀬は少し肝を冷やす。

湯船に浸かった状態で通話というのもなかなか疲れる。


『『帝王学部』って言ったら、生徒会と同等の特権を持つ超エリートだよ!?』

「………部活にエリートとかあるの?」

『ま、それもそうだけどー……なんで成瀬くんがそんなこと聞くの?』

「いや、あ、その、面白そうな部活って聞いたから……」

『え、誰に聞いたの?成瀬くん友達いないでしょ?』

「…………おぅ」


ぐうの音も出ないとはまさにこの事だ。

友達もいない人間がどうやって学校内部の情報を聞けるだろうか。

成瀬は試行錯誤を繰り返し、何かイイ言い訳がないか考える。


「い……妹に聞いたんだ。僕の妹、同じ一年生なんだ……」

『へー、双子?』

「いや、双子ではないな。僕は2月14日、妹が2月25日だよ」

『へー、ふーん……2月14日ね……』

「?」


何だかよくわからないが、とりあえず『帝王学部』の情報を聞き出さないと……。

何の情報も無しにあんな獣の巣窟みたいな場所に行ったら……精神がおかしくなって

しまう。


『えっとね……たしか部長がねー…』

「なるほど……」


僕と柏木さんは、しばらく話し込んだ。

僕は入浴中だったため、長時間話してしまいのぼせてしまったのは言うまでもない。



早めに書きました。感想お待ちしてます。

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