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1, 気絶しちゃった





「…………あれ?」

 

目を覚ますと、そこは見知らぬ教室だった。

身体をゆっくり起こすと、頭痛が後頭部から感じとり、顔を固くする。


「…………」


教室というには、少し、いやかなり自由な内装で、至るところに奇抜な家具が置かれている。そして広い。おそらくここはどこかの部室だろう。

 

「僕……なんでここに……?」



ことは数時間前にさかのぼる。

 

 



◆     ◆       ◆      ◆

  



キーンコーンカーンコーン。



聴き慣れたチャイムが生徒達に放課後の訪れを知らせる。

この音を聴いた途端、生徒達は揃い登下校を開始する。

皆が帰っているのを2階の教室から見下ろすのは、少し新鮮な気持ちだ。




「ーーーーーーーーー」



成瀬は同級生の下校を見物するのを止め、黒板消しを片手に日直の仕事を一人で始める。黒板を消すとき擦る振動でチョークの粉が落ち、ズボンに付着する。



成瀬は空いた左手で粉を払い、全て拭き終えたあとには日誌を書かなければならない。固くなった身体を軽くほぐし、吐息を漏らしながらも自分の席に着く。




「あー……今日は物理のときちょっとうるさかったかな……」




脳裏に浮かぶ物理の授業風景。


物理は教科の中でもわりと好きなほうで勉強の手もサクサク進む。

周囲の雑音が少しばかりうるさかったが集中するのは得意なので

別に苦ではなかった。



「……………よし、おしまい!」



日誌を書き終えると僕は席から立ち上がり、再び身体をほぐす。



仕事を終えたあとはどうも甘いものを摂取したくなるが

コンビニに行くまで我慢しておこう。



「~♪」



机に入っていた今日使った教科書をカバンに入れ、支度を終えた成瀬は教室から出た。


妙に機嫌が良いのは今日、好きな本の発売日だからだ。

ゆえに、廊下を歩く足取りも自然と早くなる。




「あー、我慢出来ない………」



抑えきれない本への欲求。歩みを止めることなく、成瀬はカバンの中に閉まっておいた仕舞っておいた本を取り出す。




『虚構の硝子-鏡の中の嘘-』



人気ベストセラー小説『虚構シリーズ』。鬼才のミステリー作家

『真田秋丸』先生の代表作。この本を買ったあの日から、成瀬はこの作品の虜だ。




「ーーーーーーー」




廊下を進みながら1ページ、また1ページと、無言のままどんどんめくっていく。

あまり行儀の良いことではないが、本の魔力に勝てるほど成瀬は辛抱強くないのだ。




だが本を読みながら歩いていると、どうにも足元が疎かになる。

故に危険が隣り合わせという………、



「ーーーーわっ!」




ーーーそこに足場はなかった。

さっきまであった廊下はどこにも無く、成瀬の右足は行き場を失い、そのまま足枷となって僕の身体を道連れにした。





ーードサッ。



強い衝撃が後頭部を刺激する。


揺れる脳が、僕の意識を連れ去ろうとしている。


何が起きたのか、理解するには短すぎる一瞬。


僕の意識は、ゆっくり。ゆっくり。ゆっくり。ゆっくり。消えていく。



◇     ◇     ◇     ◇     ◇



記憶を整理すると、僕は本を読みながら歩いたせいで階段を踏み外し

そのまま転落。頭を強く打って気を失った僕を誰かがこの部室まで

連れてきて介抱してくれた…………というわけだ。



「…………」



だが周りを見渡しても誰もいない。

席を外しているのか、今はまずは待つしかない。




ガチャ 



ドアノブを捻る音。

誰かが来たと確信するやいなや僕は扉の方向に振り返る。



「おややや?起きたっすか少年?」

「どっか痛いとこナイかな?」



4人の少女が入って来た。



一人はカタコトの異国系金髪のグラマー少女。

短過ぎるスカートと白くて綺麗な太ももが妙に色っぽい。



二人目の少女はクマの被り物を被ったブカブカの緑色のジャージを

着た妙な口調の少女。ぴょんぴょんと跳ね、落ち着きのない印象だ。



三人目の少女は綺麗な黒髪に長身。分厚い本を脇に抱えた知的な印象の少女。

黒いストッキングに白い肌が良く目立つ。



四人目の少女は紅葉色のボブカットに、赤いマフラー。

赤いカーディガンを身に付け、小柄な体型ながら豊満な胸の持ち主だ。

その四人の少女が……少女が……少女が…少女ががががががががが……




「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーーーッッッ!!」




少年は絶叫した。

全身を震わせ、涙を流しながら部屋の隅に逃げ込む。


「ど、どうした…コイツ!?」

「取り乱しているな……そこのキミ、少し落ち着きたまえ」

「ここ………こないでくださぁぁぁい!!」


泣き出し、号泣する少年の奇行に驚く少女たち。

彼の異常ともいえる怯えように逆に心配になってしまう。



「あぁ…な…んで……じょ…女子が……」

「?」



彼の震える声から発せられた意味深な単語に、少女たちは頭の上に

?マークを浮かべる。少年は床に這いつくばるような姿勢をとり

荒い呼吸を整えようと深呼吸を始める。



「はぁ…はぁ………すいません…少し落ち着きました」

「お…おぉ、あんま無理すんなよ?お前頭打ってんだし…」



あぁ、そうだ。僕は彼女たちに助けてもらったんだ。

なのに僕は仮がある彼女たちに対して悲鳴をあげたり、逃げたり……

とても失礼なことをしているのではないだろうか。

彼女たちは不振がり、少し不安な顔を浮かべている。



「…あの、ありがとうございます。階段から落ちた僕を助けてくれたんですよね」

「まーな、皆でジュースを買いに行く途中でお前が倒れてんだもんよー

 ちょっとビックリしたぞ。死んでんじゃねーかなーとか。運ぶのも男一人

 だと皆で運ばなきゃいけないから、ジュース買えなかったし…」




震える視線を彼女たちの手元を移すと、大量のジュースが詰められている

紙袋を全員が持っていた。全部みんなで飲むのだろうか?


一人の紙袋には10本以上は詰められおり、全員合わせると50本以上はありそうだ。


最近、学校の自動販売機という自動販売機からジュースが完売するという

ミニ事件が起きていると噂で聞いたが、それら全て彼女たちのせいかもしれない。



「保健室に連れてってくれれば、僕みたいな面倒なやつと会話しなくて済んだのに…」

「あ、自分でも自覚あっタンスね」


……ちょっと傷ついた。


「私タチも保健室に連れてイコートシタケド、あそこの階段からケッコー

 離れてたカラネー。一番近いブシツに連れてキタんダヨー」

「まぁ、彼女なら殿方一人くらい余裕で保健室まで運べるのだけど……」

「男が女に"お姫さまだっこ"されるのなんて見たくねーからな。

 気をつかってやったんだよ。感謝しろよ一年坊主!」



一人だろうが、四人だろうが、女の子に運んでもらうのは恥ずかしい。



それに彼女……小柄でわからなかったが、少年のことを"一年坊主"と呼んだ。

つまりそれは、彼女たちが僕の先輩だということの可能性に繋がる。



「……あらっ…改めて、ありがとうござっいましたっ!僕の……の……名前は…

 ななななな………成瀬…堅太郎です…1年4組……A-9番……です…」

「……そうか成瀬くん、よろしく頼むよ。ところでキミはさっきから

 何に怯えているのかな?私たちはキミに何も危害を加えるつもりは……」

「じょ……女性恐怖症なん……です」




少年ーーーーーーーーー成瀬堅太郎は自分の名を名乗った。


彼女たちの視線が成瀬の神経を刺激し、全身から流れる汗が止まらない。


緊張がピークに達し、彼の小さな心臓を圧迫する。

女性恐怖症であることを打ち明け、一気に心臓の鼓動が早くなる。




ーーーーーーーバタッ。



「またかぁ!?」

「よく倒れるね……この子は」

「スゴーイ!ホントに気絶してるミタイだね!」

「いやいや、マジで気ぃ失ってんスよ」



成瀬堅太郎は二度目の気絶を再開する。





成瀬クン……どうなっちゃうんだろ?

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