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9話 Biddy

「お話が、したいんです」

 いつになくはっきりと、話しかけて来た姪っ子。

「俺はいいけど、どうしたの」

 南野さんと2人で話して、とりあえずここで一泊した。昨日は、特に変わった様子もなかったが。

 ……なにか吹き込まれたか。

「えっと、っとその……」

「焦んなくてもいいし、無理に話さなくてもいいよ?」

「……ごめんなさい」

 しゅんとしてしまい、ものすごく悪いことをした気分にされた。

「言いたいことがあったら、いつでも言って。無理にとは言わないから」

 できるだけ優しい声でなだめているつもりなんだけどな。

「あ、の……」

 なにか言いたそうなのは分かる。

「私、その……あ、あの」

 俺が拒絶されているのか、単純に話すのが苦手なのか。周りに人がいるのが、余計にダメなのか。

「外、でる?」

「あ……はい……」

 話が進まないんじゃどうしようもない。聞かないのもダメな気がするし。

「落ち着いて、ゆっくり話そうか」

 優しく、優しくだ。

「その、えっと……」

 泣きそうな表情で、必死に言葉を紡ごうとする幼い少女。俺は、この命を背負っているのかと改めて思う。

 ――重いな。

 あの時、自分すら軽く思えたのに。

「ありがとう、ございましたっ!」

 精一杯の勇気で、言葉を絞り出した少女の命は。

「……ありがとう」

 とてつもなく重く、優しく、自分を赦してくれるような気がした。

「……え?」

「俺も、どうすればいいのか分かんなくなってた」

 冷静に受け止めていたつもりでも、どこかで焦って、怖がっていた。

「……俺の目的は、あのメモの真相が知りたい。でも、君を守ることも外せない」

「わ、私が……じゃ、邪魔なら」

「邪魔なんかじゃない」

 確かに、リスクは増えるし、責任だって生じる。

 それでも、こんな世界を1人で歩くよりは――。

「むしろ出来ることなら、ついて来てほしい」

 無責任なワガママだと、自分でも思う。それでも。

「……はい」

 行き場もないから、というのが本音であり、現実なことは百も承知。

 それを分かった上で、俺は話している。卑怯と呼ばれても、何も言えない。

「危ないこともある。行った先が、ここより良いとも限らない」

「……分かってます」

 両親から離れ、いつまで生きていられるかも分からない現状で、この子は立ち直っていた。

「それでも、来てくれるって言うなら」

「……はい」

 居場所を失った少女。

 2年前のあの日、命に疑問を持ってしまった自分。

「……ありがとう」

 依存しているのは、どっちなんだろう。




「今後のプランを、話しておこうと思う」

 こくん、と頷く見慣れた仕草が、いつになく愛おしい。

「浜名湖が、当面の目的地になるけど、出来る限り人の集まっていそうなところには寄って行きたい」

 情報収集も兼ねて。あわよくば同行者を見つけたい。

「……もし、君のお父さんから連絡が来れば、もちろんそっちを優先する」

 真っ直ぐな瞳と目を合わせるのは辛いが……今はこうとしか言えない。

「約束は出来ない。ただ、ここにいても何も分からないから」

 他の場所なら、何か知っている人がいるかもしれない。

 か細い希望でも、ないよりマシだ。

「……大丈夫、です」

「……無理しなくていい」

「大丈夫、ですから。私は」

 俺の背中で、眠っていた少女と同じ人物とはおもえないほど、強さを含む声で言った。

「今の私には、何も……」

 10歳の少女が、無理をしている。そのことは分かる。目に浮かんだ涙を必死に堪えてるのも分かっている。

「……信じます」

「分かった。最善を尽くすよ」

 このぐらいの事しか、今の俺には言えない。

「T市。とりあえずここなら、誰もいないってことはないはず。直線ルートからもあんまり外れないし」

「分かりました。明日にも、でますか?」

「……そうだね。食料を浪費したくない」

 長い道を、歩かせることになる。

「早めに寝ておいた方がいい。俺はちょっと、やることがあるから」

「……はい!」

 素直な子で、助かるよ。





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