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5話 Irresponsibility

 人に頭を踏まれて起きるってのは、特殊な性癖でもなきゃ気持ちのいいもんじゃない。

「あなた!寝てる場合じゃないですよ!」

 謝れよ。

「中で感染者が出たんです!早く逃げないと!」

 だから人の頭を踏んづけたことを謝れ。

「ああもう!私は知らない!」

 あ、逃げやがった。

 寝起きはダルいんだ。感染者がなんだって……感染者?

「おい、中でって……」

 時すでに遅し。

「ああもう、まだ眠いのに」

 隣ですやすや寝てるし。この子過眠症とかじゃないんだろうか。

「起きて、ここから出ないと」

「ん……いや、ここに……いるの」

 引きこもり体質かよ。

「そういう訳にもいかないの」

 起きなさいよまったく。なんでパンデミックの中姪っ子の朝のお世話をしなきゃいけないのよ。

「逃げるよ。危ないんだから」

「ん……ん」

 置いてく訳にもいかん。また背負っていくのか。人生とは重い荷物を背負って向かい風の中なんたらかんたら。

「君、そう慌てる必要はないよ」

「……昨日のお巡りさんですか。感染者が出たってのは?」

「事実だが、慌てて逃げ出す必要はない……と、思う」

 無責任な。

「もう始末したと?」

「言葉が悪いな」

 申し訳ない。お巡りさんには良い思い出がなくって。

 ――あの時も、このくらいの年齢の人だったか。

「感染者と言っても、まだ人間だ」

 まだ、ね。

「有志の人たちが手を尽くしてはいるが……」

「どんな状況で?」

「説明は難しいが、未成年に見せたいモノでもないな」

「はぁ……」

 那槻ちゃんに見せちゃダメということは分かった。

「簡単に言えば、アレになる前段階……といった所だろうか」

「前段階、ですか」

「昨夜から苦しみ始めたらしくてな。噛まれた形跡は見つかってないんだが」

 ……噛まれなくても感染か、もう何が何だか。

「何人か警官が立ち会っているから、仮に変異してしまっても危害は及ばないようになるはずだ」

 フラグかな。殉職が目に見えるようだ。

「ところで、昨日いた俺の友人、知りませんか?」

「すまんが、わからないな。部屋を見回ってはいるんだが……」

「パニックの抑止ってとこですか」

「そんなところだ。さっきの人のように、慌てて逃げ出してしまう人も多いがね」

 逃げると言っても、どこへ行けばいいのやら。兄貴からも音沙汰なし。

「国の対策とかは、どうなっているんです?自衛隊とか」

「どうだか。感染はここだけではないようだしな」

「自衛官が感染していないことを望みますね」

 銃でも持ち出された日には、とても生きていられない。

「そうだな。まぁ、落ち着いて行動してくれるだけで我々としては助かるよ。パニックになった人間ほど恐ろしいものはない」

「心がけておきます」

 まぁ、出ていく準備はするんですけどね。



 昼過ぎまで探し回ったが、圭はなぜか見つからない。嫌な予感がするが、どうしようもない。

 代わりと言ってはなんだけど、那槻ちゃんは起きてくれた。大分恐縮してるけど、かわいいので許した。それよりも、早く兄夫婦(両親)を見つけてやらないと。

「お父さんたちとは連絡が取れないから。しばらく探すことになると思う」

「……はい」

「ごめん。きっとなんとかするから」

 こくん、とうなずく動作は心なしか前よりも小さい。そりゃ怖いよな。ほとんど他人の俺と2人。両親の安否も分からない。

「大丈夫。きっと会えるから」

 無責任な言葉だ。俺も大人になったな。

「あの……」

「ん、どーした?」

「あの、今はいったい、何が……」

 混乱するのも仕方ない。俺も正直わけわからん。圭には冷静だって言われたけど、実感がないだけなのかも。

「ごめん。俺にもよくは分からないけど……」

 とてつもなく不安そうな、ふたつの瞳に見つめられる。

「お父さんとお母さんに会うまでは、危ない目にはあわせないさ」

 そっと頭を撫でると、俯いてしまった。この子のケアは、俺にとって1番難しい問題かもしれない。

「大丈夫、大丈夫……」

 今の俺には、嘘を重ねることしか――。







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