4話 Night road
「それにしても、お前ちょっと冷静すぎないか?」
「焦ったっていい結果は生まれない」
「いや……なんでそんなに落ち着いていられるのかが気になるんだけど」
なんで……と言われても分からない。人と違う経験の賜物だろうか。
「ゾンビ映画とか好きなん?」
「まぁ、それなりに」
関係あるんだろうか。
「せっかく、青春のロマンである転校生が来たと思ったら……こういう奴だった俺たちの気持ちを考えたことあるか?」
「興味ないな」
変な期待を抱かないで欲しい。
「しかも故郷は華の東京!期待の1つもしますよってんだ」
「あんまりうるさくするな」
「喋ってないとやってられないんだ」
連れて来たのは間違いだったかも。
「その子、起こさないん?」
「……かわいそうだし」
「重いだろ、代わってやろうか」
「かわいそうだからいいよ」
「どういう意味だ」
そのまんまの意味だよ。
「兄貴の子供だっけ。小学生か」
「そ。この子になんかあったら、兄貴に顔向けできない」
那槻を連れて逃げろ、だからな。
「苦労人だねぇ」
「お前こそ、家族に連絡は」
「……つかねぇ。けど、今んとこ思ったより小規模みたいじゃん?」
確かに、感染者の姿はほとんど見当たらない。悪質なデマだったのかとでも思いたくなるほどに。
「マァ、無事でいるでしょって」
「……楽観的だな」
そうでもしなきゃ、やってられないか。
「もうちょいだろ。急ごうぜ」
「そうだな」
市役所なら、人がゼロではない……と思いたい。
「ゆっくり寝てえよ」
「倉庫で寝てた癖に、よく言う」
「……ゆっくりじゃなかったから」
寝たいのは俺も一緒だ。
「なぁ……もし、もし市役所にも誰もいなかったら……」
「考えない方がいい」
「そんなこと分かってるけどさ。もし仮に、そんなことがあったらどうすんだよ」
「それから考えるしかない」
先のことを考えたって、分からないものは分からない。
「……お前、なんかやっぱりすげぇな」
俺がすごいなら、もっと幸福でありたかった。
圭の不安は、ありがたいことに外れてくれた。
市役所で人影を探すと、すぐに1人の警官に会えたからだ。
「建物の中は、簡易的だが避難所になっている。我々警官も何人か揃っているから、安心して大丈夫だ」
「ありがとうございます」
「ゆっくり休むといい。すぐにきっと、自衛隊でも来てくれるさ」
警官の言葉と、屋根と壁に囲まれた空間で一息つけるのが、たまらなくありがたい。
「俺は兄貴を探す。また後で会おう」
「おい。流石に今日は寝ようぞ」
「そんな場合じゃない。この子の世話は、荷が重い」
「いいじゃん、ぐっすり寝てるし。兄貴らだって寝てるかもしれないし、結構な数の人がいるんだ。そうすぐに見つからねえって」
……悔しいが、正論だ。
「……お前も、十分冷静な奴じゃないか」
「とりあえず安全そうなとこにこれたし。落ち着け落ち着け」
「分かったよ……」
背中の眠り姫は、まだグッスリだ。人の苦労も知らないで、なんて言いたくなるくらいに。
「多分、学校の奴も何人かいるんじゃね?」
「ああ……」
「そんなどうでもよさそうな顔するなよ」
正直、どーでもいい。
「寝床の確保は任せた。俺はちろちろっと見てくる」
「落ち着けって言ったのは誰だよ」
「一瞬だ、一瞬」
しれっと、人ごみに紛れていきやがった。
「2人分の寝床、探しますか」
眠り姫のおんぶも、ラクではないのだ。